vs ナルラートホテプ Ⅱ

 ユキナの一蹴が、ミーリの槍を曲げる。

 ミーリは剣を複製して射出し、ユキナに距離を取らせた。そのスキにミーリは飛び、結界に光線を浴びせようとしているナルラートホテプに後ろから槍を向ける。

 槍に気付いたナルラートホテプが振り返る。そして結界に光線を浴びせようとしていた人面が回り、ミーリの方を向いて吐き出した。

 青色の破壊光線が、ミーリを襲う。だがミーリはその光線を貫きながら、少しずつ前へ前へと進んでいた。

 その一筋をすべて切り裂いて、ミーリは突進する。だがその槍がナルラートホテプに届くまえにユキナが飛んできて、二人の間でクルリと回った。その勢いで繰り出された蹴りが、ミーリを飛ばす。

 そしてすかさずナルラートホテプも蹴り上げようとしたが、それよりも速く人面が光線を蓄えており、ユキナは回避するしかなかった。

 ユキナの回避した先に、ミーリが飛ぶ。

「そういえば、スサノオはどうしたの? あなたを止めるよう言っておいたはずなんだけど」

「今頃苦戦してんじゃない? 何せ学園の女子最強と、それに続く女の子が相手だもん」

「あらら」

 ミーリを止めに来たスサノオだったが、それは後にその場に来たリエンと空虚によって止められていた。二人が来てくれなければ、ミーリはここには来れなかっただろう。

 ならば、とユキナがミーリを蹴り飛ばす。槍で受けたものの態勢の立て直しに苦労しているスキに加速し、ナルラートホテプに肉薄した。

 意識しないようにしていたナルラートホテプも、ここまでアピールされては無視ができない。その両眼でしっかりユキナを見定めて、四つの人面を動かした。

 四つの人面が回転しながら、光線を放つ。一筋に収束した光線の規模は大きく、速さまであった。なんとか避けるが、毛先が焦げる。

 そのスキにミーリが肉薄し、数十の剣を複製した。そして一斉に射出する。それらを目で追った人面は、ナルラートホテプを中心にして囲い込み、前後左右に光線を放って回転した。彼女に向かって行った、すべての剣が撃ち落とされる。

 だが実際それは囮で、本命であるミーリの一撃は頭上からナルラートホテプを押さえつけた。そのまま地上に落下していく。

 人面が回り、一つがミーリの顔を見つめる。そしてその口元に光線を溜め、吐き出そうとした。

 が、先にミーリの槍が人面を貫く。放たれた光線をも貫いて、切り裂いて、ついに人面を砕き切った。

 ナルラートホテプが絶叫する。痛いのか、それとも何か恐れているかのような悲鳴。泣き叫ぶ彼女をミーリは押さえ、再び槍を向けた。が、貫こうとしたところでユキナが蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされて結界にぶつかったミーリは、とっさに複製した剣に捕まって落下をしのいだ。

 ユキナもまた、落下しそうになったナルラートホテプと共に飛ぶ。だが助けてくれたユキナに対しても、人面は容赦なく光線を溜めた。

「私、邪魔されるの嫌いなの」

 光線を溜めている一つを握りしめる。残りの人面からの光線を飛んで躱すと、その一つをさらに力強く握り締め、ヒビを入れ、そして握り潰した。

 ナルラートホテプが、また枯れるほどの声で絶叫する。その顔には何やら文字列のようなものが這い出していて、彼女の目に迫っていた。

 さすがにそれは遠距離過ぎて見えていない。ユキナは再び肉薄し、もう一つ砕いてやろうと手を伸ばした。

 だがその手に、剣が刺さる。細い腕を貫いた剣は、刃の熱を持って爆発した。ユキナの右腕が消し飛ぶ。

 だが神霊武装ティア・フォリマの能力を半減させる神霊武装、天の女王イナンナの力で、神霊武装によって受けた傷は回復できる。故に右腕はすぐに羽虫が群がっているような音を立てて生え、拳を作った。

 爆発による黒煙から、ミーリが出てくる。その槍の一撃をユキナに受け止めさせると、三本の剣を射出して腕と両脚を貫き、そのまま地上に叩き落した。

 そのまま振り返って飛び、光線を構えているナルラートホテプの人面二つを剣で射抜いた。二つの光線が暴発し、剣と共に人面が砕ける。

 結果、周囲を浮いていたすべての人面が砕かれたナルラートホテプはまたも絶叫し、黒い文字列がその両眼に侵入した。

 彼女の小さな左の肩から、いくつもの人間の腕が生える。それはやがて翼のようになって、その掌にそれぞれ小さな血走った眼球を宿した。

 その翼から――すべての眼球から細く鋭い光線の雨が発射される。自身の目の前に剣の列を並べて回避したミーリだったが、その剣もすぐにヒビが入り、砕け散ってしまった。

 無数の光線がミーリに当たって弾ける。その膨大な霊力でダメージこそ薄いものの、常人が喰らえばレンコンになるところであった。

 第二撃が構えられる。ミーリは即座飛び、百数十の剣を複製して射出した。剣と光線がぶつかり、弾ける。やがて爆発は爆発を誘い、吸収し、大きく膨れ上がった。

 二人の間で、大爆発が起こる。その威力と風圧に双方落下し、地上に着地した。

『ミーリ、大丈夫?』

「イテテ……? ここ、どこ――?!」

 動いている。自分が今いる場所が、ガタゴトと音を立てて動いている。

 よく自分のいる場所を見ると、そこは完全に座席シート。そして背もたれには、下げるべき安全バー。そして目の前の景色は移り変わり、目の前には人工火山と、焼けているテーマパークが広がっていた。

「まさか、ここって……!」

 一秒間停止し、そして勢いよく下る。最高時速九〇キロを誇るために一二歳以下の乗車禁止の規定がある、テーマパークきっての名物、ジェットコースターの先頭だった。

 


 

 

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