桃髪の錬金術師

孤島の魔神

 周囲は絶海、見える陸はなし。

 半永久に霊力を自己産出し、全体に巡回、それで海上に浮く孤島。名を、弧神島こがみじま

 かつては一体の神が、沈むまで守り続けていたという伝説上の島がモチーフに作られた、人工島である。

 所有するのは、対神学園・ラグナロク。年に一度行われる、修学旅行の行き先となる。自然と相まったテーマパークもあり、毎年十億を超える来島数を誇っている。

 そんな人工島に、また来島する者が一人。ただし彼女は船ではなく、単体で飛行してきていた。おもむろに、テーマパークの中の人工火山の上に着地する。

 人々で賑わう島の様子を一望し、親指の爪を噛む。それが彼女の癖であったが、とくにイライラしているわけではなく、考え事をしているときに出てしまうものであった。

「ここ、かぁ……まぁいっか。素材は多いに越したことはないしね」

 指を鳴らして、背後に現出させる四つの陣。そこから出てきたのは、姿も形も異なる者達。基本は人の形ではあるものの、彼らが人外であることは明白だった。

 そのうちの一体――白衣をまとった紳士が、彼女の背後で片膝をつく。

「地の聖霊ノーム。召喚に応じてせ参じました。マスター、ご指示を」

「うん。とりあえずここにいる人間……五〇人くらい連れてきて。ウンディーネと一緒にさ」

「かしこまりました。して、連れてきた人間はいかように?」

「そだなぁ……とりあえず殺しておいて、全部の臓器を冷凍保存しよう。サラマンダー、どこか隠れられる場所を探しておいて?」

 サラマンダーと呼ばれた全身黒と赤の鎧に包まれた人型は口から火を噴く。そしてすぐに本物の火が燃えている火山の中へと、消えていった。

「サラマンダーが見つけた場所に保存しよう。連絡はで取ってね。密に」

 そう彼女が自分の頭を小突いて言うと、ノームとウンディーネ――ドレスから体まで全身水でできた人型の塊が飛んでいく。飛行能力のない彼らが飛んでいけたのは、もう一人の一番人として見える女性のおかげであった。

「シルフィード」

「はい、マスター」

 自分を召喚した主のまえに出て片膝をつく。その肩に手を置かれたシルフィードは、おもむろに顔を上げた。

「君は人間達に混じって、情報収集を頼む。ここが一体どんなところで、毎日どれくらいの人間が来るのか。それを調べてほしい」

「マスターは?」

「私はサラマンダーが隠れ家を見つけ出すまで隠れてるよ。術の準備もあるしね」

「かしこまりました」

 シルフィードは飛んでいく。

 残されたマスターは懐から紫の刀身を持つ短剣を取り出すと、背後の空間を切り裂いて、開いた別次元の中に入ってしまった。


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