王との面会

 騎鈴きりん州を治めるクシュウイン王は、着任当初から厳格な人柄で知られていた。しかし、その統治は公正で的確な判断によるものであったので、信頼は厚かった。少年の時から騎士の修練のため王の比較的身近にいたミジンコは、王のその厳しい表情の下には優しさが含まれていることを知っていた。言動にしてもそうだった。今はその王の表情が変わったことに、ミジンコはいささか戸惑っていた。表情はかつての豊かさが失われ、表面の厳しさだけが残ったように思われた。窪んでしまった頬は、奥に潜んでいた優しさが流れ去ったことを示しているように見えた。王はしばらくミジンコを見てから、「よく戻った。首尾はどうじゃ」と乾いた声で聞いた。

「私に与えられた任務はほぼ終えた、と申してよいと思います。いえ完了したと言って差し支えないでしょう」

「だとすればよくやった。それをすぐわしに渡せるか。見せられるか」

「いえ……まずただちに戻れとのことでしたので。報告を受けた時、それは私の信頼できる者に故あって預けてあり、王の使者にそちらをお願い致しました。間もなく着くでしょう」

「ではまだ終わっておらんではないか。わしの直々の使者は心配ないが、確実にその者の手元にあり、そして手渡されるのであろうなあ?」王の表情が険しくなった。幾分痩せた王の見せるその険しさは、初めてのものだった。ただ感情の動きが何故か感じられなかった。

「は……! それは確実と申し上げます。とにかくまず、私は潔白を示そうと思いました故……。王、ヨグルトは……」

「わかった、まあよい。ヨグルトな。ではその本題に入ろうか。……いや最後に一つ。姫の遺物を探し出している時のお前の心情は、手ごたえは、どのようであったか」

「私のやるべきまさにそのことであった、と確信致しております」

 王は一呼吸おいて再び話し出した。その時、王の視線が遠い空にでも向けられるように一瞬傾いたが、表情はどうも読み取れなかった。

「ヨグルトの謀反、伝わっておろうな」

「はっ」

「何も言わん。討ちに行け。厄介なことにならんうちにな。ヨワリスとマコも着き次第遣らせる」

「王。マコは……」

「マコはまだ戻っておらんのだ」

「いえ、そのマコのことですが」

「誰でもいいが、残るお前達三人のうち誰かが、あやつの任を次いでこい。わかるな? 姫の血だ。厄介なことになる前に、まずヨグルトを始末し、姫の血を持ち帰るのだ」それから王は付け加えた、「……ヨグルトの首は、どっちでもかまわん」と。もう表情はなかった。

「今度も内部の人間を兵として付けさせることはできん」

「しかし王! ……あからさまに反旗をひるがえしたというからには、ヨグルトは南で軍勢を指揮しているのでしょう? どう戦えと」

「お前も、兵がりようなら国を出てからの土地で義勇兵を募れ。……ただし、お前の世話係の騎士を連れて行くことは認める」

 ミジンコの表情はこれを聞くと明るくなった。

「明日のうち発て。……ミジンコよ、戻って来るのだぞ」王の表情の奥に、最後になって切実さのようなものが見て取れた。

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