PARTⅤの6(38) そのうち、私たちラップになるかも
二台のヘリコプターは原発から五キロ少し離れた地点に降りた。
そこから先はCHー47が運んでくれたチームのバンで移動し、バンは原発の東側の地点に停車した。
キャットガール、鼠小僧、ゾンビ少女恵美音の三人はバンを降りて、原発のゲートに向かって進んだ。
キャットガールは煮干しを、鼠小僧は三角チーズを、かじりながら進んだ。
「作戦中はあなたのことをラットって呼んでいい?」
キャットガールは鼠小僧に尋ねた。「ラット」=「鼠」という意味だ。
「いいよ」
「私のことはキャットって呼んで」
「オーケー。いいね、キャットとラットって
「そのうち、私たちラップになるかも」
夜目の効くキャットガールはゲートのそばで円陣を組んでいる十二人の
何やら作戦の確認をしているような雰囲気だった。
「チュウ、あいつらが見える?」
「ああ。海から来たんじゃないかと思う」
「全部で十二人。ガスマスクも持っている」
キャットガールは正見に報告を入れ、彼の意見を求めた。
「鼠小僧が仕掛けた盗聴マイクのおかげで次のようなシナリオがあることがわかった。
その連中が原発に潜入し、コントロールルームに催眠ガスを流して踏み込む。
すると、なぜか、テロリストグループは全員死亡していて、メルトダウンの危機は回避される。
死んでいるテロリストグループには自分たちの銃弾を撃ち込み、姿を消す。
もちろん、その連中は
原発職員は催眠ガスで眠っていたので、眠っている間に何が起こったのかわからない。
日本政府・アメリカ軍・中国軍に、
『テロリストは全員死亡し、メルトダウンは回避された』
という
日本政府はただちに事実だということを確認し、
『テロリストグループは制圧されてメルトダウンは回避された』
と世界に声明を発する。
すると、アメリカ政府はこんな声明を出す。
『中国の特殊部隊がメルトダウンの危険を顧みず、原発に特殊部隊を送り込んだ。
幸いにも彼らはテロリストグループを制圧し、メルトダウンの危機は回避された。
しかし、それはメルトダウンを回避した上で日本に上陸するための危険な賭けであり、
同時に中国の日本侵略の確固たる意志を示す証拠に他ならない。
我が国はそのような危険な賭けをしてまで日本を侵略しようとしている中国の野望を阻止するために、
これより我が軍を日本に上陸させる』
とかね。
中国もこんな声明を出して対抗する。
『アメリカこそ全てを中国のせいにして日本に侵略しようとしている。
その野望を阻止するために、これより我が軍を日本に上陸させる。
日本の人民よ,共に立ちあがれ』
とかね」
「私もそういうシナリオがあるように思いました。私と鼠小僧とでこの連中をさっさと片付けてしまいますね」
「わかった。すぐにそうして、コントロールルームに向かってくれ」
「了解」
黒装束の者たちが作戦の確認を終えようとしていた時、
突如闇の中からマスクをかぶった二人の人間が彼らの前に姿を現した。
二人は無造作に彼らに向かって近づいた。
二人の黒装束が右手でナイフを抜いて、相手に向かって身構えた。
彼らは邪魔者はすべて殺せと命令されていた。
あたりはしーんと静まり返っていた。
相手は二人とも
キャットガールと鼠小僧は
鼠小僧と向かい合っている右側の黒装束はカチンと来た。
彼は猛スピードで左手を繰り出した。
その手で相手の右手を取って引き寄せながらナイフで喉を切り裂こうとしたのだ。
鼠小僧は素早く右に飛びのいた。
相手の左手はむなしく空気を切り、体は斜め前に傾いた。
鼠小僧は相手の脇腹を左足で蹴り上げた。見かけからは思いもよらない強烈な蹴りだった。
相手は蹴られたところを押さえ体を左にねじりながら倒れた。
その
キャットガールは手招きして、自分の前の相手を挑発した。
相手はその手をめがけて切りつけた。
キャットガールはその手を取って体を反転しながら肩越しに相手を投げつけた。
頭から地面に激突した相手はそのまま意識を失った。
残りの十人の黒装束達は、相手はただ者ではないと悟った。
全員でナイフを抜いて五人ずつ、キャットガールと鼠小僧ににじり寄った。
「時間がもったいないから、さっさと片付けようよ、ラット」
「そうだね、キャット」
二人は目にも止まらないスピードで左右に展開し、それぞれ一番脇にいる相手から順番に襲い掛かった。
ただでさえ暗いので、黒装束達には相手の動きは全く把握できなかった。
それに対して、キャットガールも鼠小僧も夜目が効いた。
十秒とたたないうちに残りの黒装束達は全員地面に倒れて意識を失っていた。
二人は大きなバックパックを背負っている恵美音のところに行った。
「じゃ、行こう」
三人は原発の敷地に入り、コントロールルームに向かって進んだ。
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