PARTⅣの7(31) 浅間神社の二人の巫女さん

 闇の結社ダーク・ソサエティは当然ゾンビ戦闘員を作る計画を進めているだろう。


 ミュウもチュウも正見もそう考えていた。


 ミュウと正見はチュウから、彼とジャックポットとのかかわりについて詳しく聞いていた。


 その時にチュウはこんなことも言っていた。


「ジャックポットが金庫から持ち出したのはUSBメモリーだった。


 脱税しているIT企業の社長の金庫にあったものだから、その会社の開発しているものに関する情報が入っていたんだろうね」


 正見がさっそく調べると、


 その最先端機器開発企業が開発中のものの中に医療用のシリコン製の極小チップがあったので、そのことをミュウに伝えた。


 正見が電話で、


「富士山麓でサバイバル訓練中の自衛隊特殊部隊員七人と教官一人が姿を消した」


 と伝えてきた時、ミュウは推測した。


「その人たちの頭に極小チップを埋め込んで操れる状態にしておいてから、恵美音の体から取り出したゾンビウィルスを感染させるんじゃ?」


「ああ。そうやって、好きに操れるゾンビ戦闘員にするにちがいない。いや、もう既にされてしまってるかも」


「筋力や運動能力は相当高いんでしょうね」


「そうだろうね。君とチュウが彼らと対戦したらどうなるんだろうか?」


「恵美音に協力してもらって、私やチュウのそれらとどっちが高いか推測してみるというのはどうですかね?」


 その夜中。ミュウ、チュウ、恵美音の三人は正見の用意した無人の体育館に行って、実地で筋力や運動能力の比較を試みた。


 その結果推測されたことは、闇の結社ダーク・ソサエティがゾンビ戦闘員を作ったと仮定して、


 彼らの筋力や運動能力はミュウやチュウのそれらと基本的には大差ないだろう、ということだった。


 相手は少なくとも七人いるはずで、


 二人で彼らと戦うと大変不利な戦いになることが予想された。


「正之助さん、彼らに勝つための手段として考えられるのは、


 浜村を探し出して身柄を確保し、ワクチンを作らせて相手の体に注入することだと思う」


 ミュウは正見に言った。


「そうだね」正見は頷いた。


「もう一つ、準備しておいた方がいいものがあると思う」とチュウは言った。


「頭に埋め込むチップには何らかの自殺装置もついている可能性がある。


 取り外してあげる前にそれを使われたら、


 自衛隊の特殊部隊の人たちは命を失いことになる」


「そうだね。そうならないためには、どうしたらいいだろう?」

 正見はチュウに尋ねた。


「それは、とうさんにも相談して考えてみますよ」  

 とチュウは答えた。

 

 ワクチンは恵美音をもとに戻すためにも必要だった。


 だが、浜村の行方については何の手掛かりもなかった。


 ミュウは恵美音に、


「浜村のことでまだ話していないことがあったら、なんでもいいから教えて」と頼んだ。


「そうね。あのマッドサイエンティスト、最後に私に話した時、私に、


『済まんね。こっちにもいろいろあって。これから別の場所へ行く。もう、君に会うことはないだろう』


 とか言って。


 それが顔を見た最後で。


 あたし、菜々美を人質に取られていなかったら首を絞めてやったと思うよ」


 それ以外の情報は、恵美音からも菜々美からも出てこなかった。


――こうなったら最後の頼みの綱は富士子さんだ。


 ミュウは富士子に連絡を取って、事情を説明した。


「なんのアイテムもないのにそういうことを見たことはなくて、


 自信はないけど、でもやってみましょう。


 本家に連絡を取って相談して、折り返し連絡するから」


 いったん電話を切って待っていると、富士子から電話が来た。


「正ちゃんに案内してもらって、


 あなたと恵美音ちゃんと正ちゃんの三人であしたの午後一時に、富士吉田の浅間神社せんげんじんじゃ宮永宮司みやながぐうじのに来て。


 私は今から先に行って、みそぎして待っているから。


 正ちゃんにはもう電話で頼んでおいたわ。


 鼠小僧さんも一緒に連れてきて」


 ミュウは正見に電話して尋ねた。


「浅間神社の宮永宮司さんが富士子さんの本家なの?」


「そう。そしてぼくの本家でもね」


 翌日、正見の運転する車でミュウと恵美音は富士宮の浅間神社の広い敷地の中にある宮永家に時間通りに着いた。


 建物は古くて大きな古民家の内部を快適に暮らせるようにリフォームしたもので、広い和風の庭はよく手入れが行き届いていた。


 玄関に迎え出た浅間神社宮司の宮永源一郎みやながげんいちろうの妻の久代ひさよは彼らを応接間に案内し、


「富士子ももうすぐ来ると思いますから、ここで待っててくださいね。今、お茶を入れますから」と言って姿を消した。


「久代おばちゃんは富士子おばちゃんのねえさんなんだ」

 と正見は説明した。


 チュウも時間に少し遅れて宮永家に着き、応接間でお茶を飲んでいるミュウたちに合流した。


 ややあって、赤い巫女みこ装束をつけた富士子が、


 もう一人の三十代前半の巫女姿の女性と一緒に姿を現した。


「やあ、しばらく」

 正見は富士子と一緒に姿を現した女性に声をかけた。


「ほんと、久しぶりね。元気だった?」

 彼女もにこやかに挨拶を返した。


「彼女はいとこの宮永雪乃ゆきのちゃん」

 正見がミュウたちに紹介した。


 切れ長の目。腰まである、ストレートの長い黒髪。名前の通り、雪のような白い肌。そういったものが印象的な女性だった、


「私一人じゃ自信ないけど、雪乃ちゃんが力を貸してくれればなんとかなると思う。この先は雪乃ちゃんに仕切ってもらうから」

 

 富士子はそう言った。

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