PARTⅣの4(28) スライはそう言ってニヤリと
「いいよね、チュウ?」ミュウはチュウに確認した。
「もちろんだよ。ぼくはジャックポットがきらいじゃないしね」
それはウソのない言葉だった。ジャックポットは思わず涙ぐんだ。
ミュウはジャックポットに質問した。
「ところで、あなたは十一か月前までテフネト傘下のオルトアーミーの社員だったんでしょ?」
「そうだよ」
「栃木の女子刑務所でウィルス製造と人体実験が行われているという情報は、
あなたがオルタアーミーの人とのコネクションを利用して手に入れて、
それを
「ああ。
俺はおふくろのことで六千万円ほど
オルトアーミーの中にも金を必要としていたり、弱みを持っていたりする人間はたくさんいるから」
「栃木の女子刑務所にも情報提供者がいたんでしょ?」
「まあね。俺が支部長の指示でそういう人間を作ったから。
肺炎で死んだはずの女囚が霊柩車で運ばれる途中に棺桶の蓋と車のうしろのドアを突き破って逃げたという情報を得た時はまさかと思ったけどね」
岩田の運転するバンがやってきた。彼は注射器も持ってきた。
ジャックポットは母親に注射した。
母親はすぐに目を覚まし、ぽか~んと口をあけながら、自分を覗き込んでいるジャックポットこと我が息子、田中総一郎に気付いた。
「ああ、宋ちゃん、ここは?」
「マンションの外の車の中だよ」
「ほんとに?」
「うん。かあさん、詳しくは時間のある時に話すけど、ここにいるのは日本政府の人なんだ」
「ほんとに?」
「ああ。俺は日本政府に協力するんだけど、そのためにかあさんがさらわれそうになった」
「ああ。さっき、恐い人たちがいきなり現れて私に注射して。それで、気がついたら、宋ちゃんがいたから、
わけがわからなかったんだけど、そういうことだったんだね?」
「ああ。かあさんの部屋に行った俺も拉致されたんだけど、この人たちが助けてくれた」
「そうだったの。みなさん、本当にありがとう」
「かあさん、ここにいるとまた奴らが来るから、しばらくこの人たちが用意してくれた安全な場所に行っていて。
ちゃんと面倒も見てもらえて快適に暮らせる場所だそうだから。
俺も一段落したらかあさんに会いに行くから」
「でも、そんなことしたら、宋ちゃんが稼いで払ってくれたお金が無駄になるんじゃ・・・」
「大丈夫。預けたお金は、別のところに移ったりする場合は清算して残金を返してもらう契約になってるから。
入居のために払ったお金は返ってこないけど、身の安全の方が大事だから。お金はまた稼げばいいし」
「わかった、宋ちゃんがそう言うならそうするよ。みなさん、どうぞよろしくお願いします。宋ちゃん、あんたは?」
「俺はこの人たちに協力することがあるから」
バンはその場を離れ、園田洋子と別の場所で合流した。
ジャックポットの母親はそこで園田洋子の車に乗り換え、安全な場所へと送られた。
母親と別れたジャックポットは体を傷つけさせ自白剤を注射させて約束を果たした。
次の晩、ミュウとチュウはキャットガールと鼠小僧になって、
監禁場所のEM研究所とは別の研究所から恵美音と親友の菜々美を、チームで奪還した。
できれば科学者の浜村も連れて帰りたかったのだが、そこには浜村の姿はなかった。
「
ミュウは恵美音に質問した。
「ええ。ゾンビ戦闘員を作るために。
私の体からそれを取り出して分析した浜村は、私に、
『君はもしかして何か【トキソイドワクチン】のようなものを投与されたことはなかったか?』
と聞いてきた。私は、
『ええ。私は奄美大島にいた時に、ハブ毒に対する免疫をつけるためのハブトキソイドを定期的に投与されていました』
と答えたの。
私をこんな体にしたあのマッドサイエンティストとは口を聞きたくはなかったけど、
でも原因がわからないと元の体に戻れる薬もできないと思って、答えたんだよね。
浜村は、
『なるほど、それが原因でウィルスが変異して、君は死なずに知性と意識があり筋力と人並み以上の筋力と運動能力のあるゾンビになったようだな』
って言っていた。
『君のゾンビウィルスを培養すればゾンビ戦闘員を作れるよ。ありがとう』
とかも言われた」
そう恵美音は答えた。
「ゾンビウィルスをやっつけて元の人間に戻せるワクチンみたいなものも、浜村は作ることができたの?」
「『作ったら、君にまず実験台になってもらうよ。君だって元の人間に戻りたいだろう?』
と言ってはいたけど、私はまだ実験台にはなっていないから・・・」
「そう」
「ミュウたちに助けてもらっていなかったらそのうち実験台にさせられて人間の体に戻れたかもしれないけど、
そのあとは、私はもう用済みだといことで殺される運命だったんじゃないかと思うから。
菜々美だって、監禁されたままだったら結局は殺される運命だったんじゃないかと思う」と恵美音は答えた。
「私が必ず、元の人間の体に戻れるようにしてあげるからね」
ミュウはそう約束した。
顔や体のあちこちに傷やアザのついたジャックポットは
彼は、ミュウやチュウと打ち合わせたようなことを支部長のスライに報告した。
スライは組織の医師にジャックポットの体を確認させた。
「血液中に自白剤の残留物がありました」
医師はそう報告した。スライはジャックポットに言った。
「君は嘘は言っていないようだな。
しかし、ゾンビ少女たちを
「わかってます」
「別に命を取ろうとか、そういうんじゃない。
新しい仕事を引き受けてもらいたいんだ。引き受けてくれれば、前貸しした分の残はチャラにして、その上にボーナスも出すから」
スライはそう言ってニヤリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます