PARTⅢの10(24) この際、小笠原家の秘密を

バンの中で、正見は鼠小僧の父、小笠原正則に質問した。


「ところで、小笠原さんはあそこで闇の結社ダーク・ソサエティに何を作らされていたんですか?」


「物質転送機です」

「え、本当ですか?」


「はい。拉致された晩に家で試作品の実験をしたんです。


 家族に見せようと思ってね。


 家には監視カメラが仕掛けられていて、彼らの知るところとなり、拉致されて、


『作らないと家族をひどい目に合わせる』


 と脅されてやむなく作っていました」


「当然、闇の結社ダーク・ソサエティよこしまな目的のために使うつもりだったんでしょうね?」


「そうだと思います。でも、私は、和希に使わせたくて作ったんです」


「義賊、鼠小僧のために? 」


「そうです。正見さん、あなたは鼠小僧をどう思います?


 悪い連中の貯め込んだ表に出せないようなお金を奪って困っている人たちに配る鼠小僧を?」


 正則の質問に、正見は笑いながら答えた。


「本来は政府がやらなければならないことをやってくれているのが鼠小僧だと思いますね」


「そうでしょ? 


 あなたのような役人もいるけど、


 そうでない、


 表に出せないようなお金を貯め込むような手合いとつるんでいる政治家や役人もいっぱいいて、


 そういう連中の方が権力を握っている。


 その結果、困っている人たちを助けるどころか切り捨てるような政治や行政がまかり通っている。


 そういう政治家や役人たちも、


 表には出せないようなお金のおこぼれにあずかっている。


 集めた税金も、


 困っている人たちのためによりは自分たちの仲間のために使っている。


 そういう連中は自分たちで法律を作り、警察や裁判所をコントロールできるからめったなことでは捕まらない」


「そういう政治家や役人が大きな権力を持っているのは事実です。


 彼らは『みんなのため』ではなく『自分たちの仲間』のために税金を使い、


 政治や行政を動かし、


 警察や裁判所もコントロールします。


 おてんとさまとか富士山とから見たら、そういう連中に正義はない」


「『おてんとさまとか富士山とから見たら』、ですか? 面白いことをいいますね?」


「ええ。おてんとさまや富士山は鼠小僧とかワンピースのモンキー・D・ルフィーとかを応援することはあっても、


 決して罰するようなことはしませんよ」


「ありがとうございます。


 の鼠小僧の子孫なんです」


「そうだったんですか?」


「ええ。それだけじゃありません。


 親族の医者に和希の遺伝子を調べてもらったら、


 私たちの遺伝子と一パーセント一致したんです」


「ということは?」


「五代前の先祖を共有する者同士は遺伝子が一パーセント一致するそうです。


 遠い親戚というか、


 和希も江戸時代の鼠小僧の血を引いているということなんだと思います」


「そうだったんですか。縁というのは、本当に不思議なものですね」


「ええ、全く。縁は遺伝子が引き寄せるものかもしれませんね」


「かもしれませんね。


 ところで、その物質転送機は人間も転送できるんですね?」


「そうです。


 だから、それを完全に完成させれば、


 鼠小僧はどんな場所へも瞬時に潜入して、目的のものを手に入れて戻ってこられるんです。


 行くべき場所の座標がわかればの話ですがね。


 まあ、そういうものを使うのは面白くはないから、


 和希はあまり使いたがらないんじゃないかとは思うんですが。


 でも、どうしてもそれを使わなければならない時もあるかもしれないし」


「すごい発明ですね。私も使ってみたいな。


 あ、楽するとか、そういうんじゃないんですけど、他に方法がない時には是非」


 ミュウは目を輝かせた。


「そうだよね。


 ぼくも、どうしても使わなきゃならない時だけ使うようにしたいな」


 和希=チュウはそう言った。


「それでいいと思うよ。でも、使わなきゃならない時って必ずあると思うよ。使った方がいい時だって・・・」


 正見は正則に質問を続けた。


「どこまで完成していたんですか?」


「インターネットを利用して人間や物質を転送するシステムの完成直前まで行っていました。


 ミュウちゃんがラボごと爆破してくれたので、とりあえずこの世からは消えて、利用できません。


 でも、ここにちゃんと入っていますからね」


 小笠原正則は自分の頭を指さした。


「どこかに身を隠して研究を続けたいんですよね?」

 正見は尋ねた。


「ええ。和希やミュウちゃんに使ってもらうためにも」


「でしたら、いい場所を提供できるかもしれません」


「本当ですか?」

「ええ」


 ちょっと待ってよ、と口をはさんだのは和希=チュウだった。


「正見さん。


 実は内閣府には、闇の結社ダーク・ソサエティのスパイがいて、


 そのスパイからの情報で、ぼくはきのうの晩、正見さんの部屋に盗聴マイクを仕掛けたんですよ」


「本当に?」

「はい」


「誰がスパイか知ってる?」


「それは全くわからないんです。


 盗聴マイクはテーブルの下にあるから壊せばいいけど。


 でも、スパイがいることは確かだから、内閣府とは無関係の場所を用意してもらえないと」


「大丈夫。ぼくが考えているのは、内閣府とは全く関係のない場所だから。ぼくたちさえ黙っていれば、スパイに知れることはない」


「そうなんですか?」


「ああ。今ここにはいないけど、チームにはメンバーがもう一人いてね。


 園田洋子というリサーチのプロで。


 彼女にはすごいおばさんがいるんだけど、その園田洋子に、


『おばさんに、君たちの家族の隠れ場所を提供してほしいと頼んでくれないか』


 と依頼してもらおうかと思っている」


「そうですか。そのおばさんというのは?」


「園田みさきという大物の政治家で、信頼できる、まともな政治家だよ。


 男勝りの女性で、実業家としても活躍していて、いくつもの先端技術の会社や研究所のオーナーでもあるんだ。


 情報通だから、闇の結社ダーク・ソサエティ)のことも聞いていると思うし」


「その政治家の人ならぼくも知っています。テレビや新聞にも出てくるから。


 その人がオーケーしてくれれば家族で身を隠しながら、


 とうさんの研究も進められるんじゃないかということなんですね?」


「その通り。小笠原さん、どうでしょう? 


 よければあしたの朝に、園田からおばさんに連絡してもらって手筈を整えますが?」


 正見は正則に同意を求めた。


「お願いします、是非。な、冴子、芳希、和希? お願いしていいよね?」


「ええ、そうしてもらいましょう。お願いします」


 冴子は正見に頭を下げた。芳希と和希=チュウも頷いた。


――とりあえずはよかった。でも、恵美音は今、どこでどうしているんだろう?


 ミュウは窓の外の星のまたたく夜空を眺めながら恵美音のことを考えた。

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