PARTⅢの9(23) チュウが和希になったワケ
バンに入ると家族は全員無事だった。
キャットガールははマスクを脱いでミュウに戻っていた。
鼠小僧もほっかむりをとって、小笠原和希に戻り、頭を下げてお礼を言った。
バンは走り出した。
和希は三角チーズをかじりはじめ、そういう自分を見ているミュウの目線に気付いた。
「ぼく、仕事のあとにこれを食べると疲れが取れるんだよね。仕事の前にも、食べるとパワーがアップするし」
「あら、私は煮干しを食べるとパワーがアップするよ」
二人のやり取りを聞いた正見が、
「なんか君達、ほんとに鼠と猫って感じ」
と笑い、
ミューと和希が「ミャーオ~」「チュ~チュ~」と鳴いて答えたので、車内は爆笑の渦となった。
「お礼が遅れましたが、みなさん、ありがとう。ぼくも皆さんの仲間にして下さい」
和希は正見のチームにお礼を言った。正見は笑顔で頷いた。
「もちろん。大歓迎だよ。
しかし、キャットガールと鼠小僧、いいコンビだと思ったよ。
君たち家族を拉致したのはやはり
正見は鼠小僧の顔を見ながら確認した。
「そうです。
お父さんのような科学者も何人も確保しているようですよ。
お父さんの発明はラボごとミュウに爆破してもらったから、奴らは悪用できないけど」
「君は刑務所の爆破と、ぼくの部屋の盗聴器のほかにも仕事をさせられたのかな?」
「ええ。刑務所でウィルスの人体実験をされたけど死なずにゾンビになった女の子とその友達の拉致とか」
「そのゾンビの女の子、恵美音という名前で、私の友達なんだよ。
親友と一緒に行方知れずになったんで探してたんだけど、あなたが拉致したの?」
「結果としてはそうだけど、その前にワンクッションあったんだよね」
「ワンクッションって?」
「ゾンビになって逃げだしたその子を親友と一緒に最初に拉致したのは別の、
T製薬の筋から依頼を受けた連中だったんだよ」
「そうだったんだ?」
「うん。それで、その連中から、
ぼくがジャックポットという
T製薬に潜入しているスパイからの情報を得た
「そのゾンビの子、友達なんだ。戻って助けなきゃ」
「あそこにはいないよ。
ぼくたちは彼女たちをあそこに連れていったけど、
すぐに別の場所に移送したって、
ジャックポットは言っていた。
別のチームが拉致した、君の友達に使われたウィルスを作った浜村という科学者のいる別の場所に」
「その場所、どこ?」
「それはわからない」
和希は済まなそうな顔をしながら答えた。
「そうか。でも、必ず助けてあげなきゃ。チュウ、あなたも手を貸して」
「もちろんいいけど。
ねえ、チュウって、前に会った時も、ぼくのことをそう呼んでたよね?
それってやっぱり、記憶を失う前のぼくの名前なのかな?」
「記憶を失う前って、いつ失ったの?」
「東日本大震災のあと、津波に呑まれて流されて、頭に流木がぶつかって、それで」
「そうだったんだ。あなた、首の後ろに傷跡あるでしょ?」
「え、あるけど?」
「私も同じ場所に傷があるんだよ。ほら」
ミュウは首を横に向けて自分の傷を見せた。
「ほんとだ、同じ傷だ」
和希は叫んだ。彼の家族もびっくりした。
「でしょ。
首のGPSを取り合った時の傷なんだよ。
あなたは間違いなく、私と同じように遺伝子操作で生まれて一緒に育ったチュウなのよ」
ミュウは物心ついてから東日本大震災のあとにお互いに首のGPSを取り合って別々に逃げるまでの自分とチュウのことをかいつまんで話した。
「おかあさん、どう思う?」
和希は冴子に意見を求めた。
「ミュウさんの言う通り、
あなたは和希になる前はチュウちゃんだったんじゃないかしら?
あなたの人間離れした能力も、そういうことだったら説明がつくし。
でも、あなたの生まれ方や育ち方がどうであれ、
私たちと出会う前はチュウちゃんだったとしても、
あなたは私の大事な子供の和希だから。ね、おとうさん?」
冴子は正則の顔を見た。正則は微笑みながらうなずいた。
「もちろん、和希はぼくたちの大事な息子だ。な、芳希?」
「そうだよ、超クールな弟さ」
「あ、ありがとう。芳希、とうさん、かあさん」
和希は涙をぽろぽろと流して喜んだ。
冴子は和希が和希になるに至ったいきさつをミュウに話した。
「私が実家に行って津波にあって溺れそうになった時、助けてくれたのがこの子だったんです」
「そうだったんですか?」
「ええ。私とこの子が担ぎ込まれた病院の看護師さんが、私たちを助けた救助隊の人から聞いたといって教えてくれたんだけど。
この子は私を助けて、流木が頭のうしろにぶつかったんですって」
「ああ。それで記憶をなくしたんですね?」
「それが原因だろうって、看護師さんも言っていたし、私もそうだと思っいました」
「わかりました。やっぱりチュウだったんだ。でも、これからはチュウじゃなくて、和希って呼ぶことにしますね」
正則はニコニコしながら首を横に振った。
「いいや、ミュウちゃんはチュウって呼べばいいよ。ミュウとチュウなんて語呂が合ってて、いかにもいいコンビって感じだし」
「それでいいわよ」
「俺もそれでいいと思うよ」
冴子と芳希もニコニコしながら頷いた。
「そうだね。じゃ、ミュウ、ぼくのことを君はチュウって呼んで」
「オッケー」
ミュウとチュウは走る車の中でハイタッチを交わした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます