PARTⅢの6(20) スライは「ずるがしこい」という意味で

 盗聴を録音していたのは鼠小僧の兄、小笠原芳希だった。


 そして、盗聴器を仕掛けたのは小笠原和希つまり鼠小僧だった。


 両親を人質に取られているために、二人とも闇の結社ダーク・ソサエティ日本支部のために仕事をせざるを得なかった。


 闇の結社ダーク・ソサエティ日本支部は鼠小僧に仕事をさせる時は、ジャックポットの率いるチームのイレギュラーメンバーとして仕事をさせた。


「潜入にかけてはお前の方が上だな。


 こっちは楽をさせてもらって、給料は変わらないし、


 お前が任務を成功させればチーム全員が成功報酬をもらえるから、ありがたいと思ってるよ」


 ジャックポットはそんな風に言って喜んでいた。


 刑務所の地下の秘密のラボからウィルスのサンプルを持ち出して爆破したのも、ジャックポットのチームと鼠小僧たちのコラボだった。


 その時、


 鼠小僧は芳希をバックアップバディにしてほしいとジャックポットに依頼し、


 ジャックポットは支部長に話を通し、和希がバックアップバディを務めた。


 刑務所の医務室で鉢合わせしたキャットガール=ミュウとの会話も、


 芳希はジャックポットと一緒に聴いていた。


 刑務所を爆破した翌日、


 ジャックポットは支部長のスライから呼び出された。


 スライは「ずるがしこい」という意味で。


 彼はいつもにこやかな表情をしているロマンスグレーのイケメン中年男性だった。


 五年前までは日本の警察庁の優秀なキャリア官僚だった。


 将来の警察庁長官とも目されていた。


 だが、女性関係にはだらしなく、


 A国の女性スパイのハニートラップに引っかかって弱みを握られて情報提供者にならざるを得なかった。


 やがてそれが露見しそうになって海外に姿をくらまし、


 闇の結社ダーク・ソサエティにリクルートされてその日本支部長となった。


 スライには愛人兼女性秘書がいた。


 鼠小僧がリクルート用の電話をかけた時に出たリクルート担当は彼女だった。


 スライはジャックポットに尋ねた。


「鼠小僧はどうだった?」


「しっかり任務をこなしてくれましたよ。


 小笠原芳希とは、兄弟だし、義賊としての仕事を一緒に組んでやってきただけあって、呼吸はぴったり合っているという感じでした」


「そうか。もうしばらく、君のチームと組んでテストも兼ねて仕事をさせて、


 大丈夫だと判断した時は、彼と芳希を中心に新しいチームを作ることを考えようと思う。


 当面、君のチームと一緒に仕事をさせることになるが、


 そういう場合は和希と組ませるようにした方が、鼠小僧も仕事しやすいだろう」


「そうでしょうね。そのようにしましょう」


「鼠小僧のリクルートについては元々は君のアイディアだった。


 何かあったらすべて君に責任を取ってもらうことになる。そのことはくれぐれも忘れないように」


 確かに元々はそうだったが、


 家族を拉致して言うことを聞かせる形で強制リクルートしようと言い出したのはスライだった。


 にもかかわらず、


「何かあったらすべて君の責任だ」


 と言い放つところはいかにも元キャリア官僚のスライらしいと思った。


 しかしジャックポットは「わかりました」と答えないわけには行かなかった。


「それで、また一つ、君の責任で、次のテストも兼ねて鼠小僧に仕事をさせてほしいことがあるんだ」


「どんな仕事ですか?」


「内閣府にいる情報提供者から定期的に政府の情報を買っているんだが、


 きのう提供された一連の情報の中に、


『内閣府内に、闇の結社ダーク・ソサエティという世界規模の秘密結社の日本での動きを調査するチームができた。


 チームのリーダーは正見正之助という調査官だ。


 世界の政府が闇の結社ダーク・ソサエティを脅威とみなしており、それに関する情報交換や共同捜査のネットワークも構築されつつある』


 というのがあったんだよ」


「そうでしたか?」


「ああ。


 もちろんその情報提供者は私が相変わらずどこかの国のスパイをしていると思っている。


 実は、その男は私より前からA国に弱みを握られてそのスパイをしていて、


 私にハニートラップを仕掛けた女を紹介したのもその男だった。


 彼は自分がA国へのある情報の提供者だということがバレそうになった時に、


 それをごまかすために私がその情報を流したように偽装したんじゃないかと私はにらんでいる。


 証拠はないけど、


 彼を私のための情報提供者にするために待ち伏せしていきなり姿を現した時の私を見た彼のひどく脅えた表情を見てそう思った」


「復讐するんですか?」


「いや。少なくとも当面はしないで、情報提供者として利用しようと考えている。 

 なんせ、


 モラルは今イチだが頭脳は私と同じくらい優秀で、


 今は官僚機構の頂点にいる男だから、使い勝手はとてもいいからな。


 それで、鼠小僧にさせたい仕事なんだが」


「はい」


「鼠小僧に、内閣府の正見正之助の部屋に盗聴マイクを仕掛けさせて欲しい」


「了解です」


 ジャックポットはスライからの指示内容を鼠小僧と和希に伝えた。


「内閣府に闇の結社ダーク・ソサエティの調査チームがある。


 そのチームを仕切っている正見正之助という調査官の部屋に君が盗聴マイクを仕掛けるようにと、支部長から指示があった」


「内閣府に闇の結社ダーク・ソサエティのスパイがいるということですね?」


「ああ。支部長はそう言っていた」


「わかりました」


 和希は内閣府のコンピューターに侵入して、建物の見取り図を入手した。


 それに基づき、鼠小僧と芳希は相談の上、段取りを決め、


 鼠小僧は正見の部屋に盗聴マイクを仕掛けることに成功したのだった。


 盗聴マイクを無事に仕掛けて秘密基地に戻ってきた鼠小僧は、


 駐車場に停まっている黒いベンツを指さしながら、ジャックポットに、


「あれ、誰の?」と尋ねた。


「支部長のだよ」

 とジャックポットは答えた。


 そして盗聴は実行され、正見チームのミーティングの盗聴の内容についてのレポートを読んだスライはニヤリと笑った。

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