PARTⅢの5(19) 科学者って金の卵だから
正見正之助のチームのメンバーは正見、佐久間、岩田、新しくメンバーに加わったミュウのほかにもう一人いた。
園田洋子という三十代半ばの女性だ。
ぽっちゃり体系で、あのアニメのドラえもんの妹のドラミちゃんを大人にしたような感じの女性だった。
情報収集と分析のプロで、
以前、警察庁のテロ対策部門の情報分析官をしていた時、上司の男性分析官と不倫関係になった。
その不倫関係は、おそらくは彼女の能力を妬む同僚の誰かよって明るみに出ようだった。
そのためにその部門にいづらくなった彼女を、正見が引き抜いた。
園田と正見は遠縁の親戚同士だった。
正見は園田には、栃木の刑務所とT製薬の関係について調べてもらっていた。
刑務所の運営会社の大株主は大手のT製薬だったこと。
そのT製薬の筆頭株主はアメリカ系のファンドのテフヌトだということ。
そういったことを調べて正見に報告したのは園田だった。
「そういうファンドは武器商人ともつながっているはずだと思うんだけど、調べてもらえるかな。
あと、栃木の女子刑務所に出入りしていた科学者で、ウィルスを作ることのできる者がいないか、それも・・・」
正見に指示された園田が調べてみると、
アメリカに、テフヌトが百パーセント出資しているオルタ・アーミーという民間軍事会社があり、
オルタ・アーミーには武器開発部門もあることがわかった。
オルタ・アーミーは最近東京にも支社を作り、
日本の若者たちをリクルートしては海外のキャンプで各種の訓練を受けさせ、紛争・戦争地域に送りはじめていた。
ワーキングプアの日本人たちをそういう形で紛争・戦争地域に駆り出すことによって金を稼ぐビジネスだった。
そんなビジネスができるのは、オルタ・アーミーとそのスポンサーであるテフヌトがアメリカの国家権力や軍と深いつながりを持っているからだろう。
もちろん日本の国家権力や政財界などとも・・・。
日本の国家権力のふところの中で仕事をしてきている園田はそう考えた。
栃木の刑務所に出入りしている医師の中に、
その浜村は栃木の刑務所が爆発された晩に失踪してしまったことも、
園田の調べでわかった。
園田は浜村の経歴や家族関係についても調べてみた。
浜村は金沢の生まれで、一人っ子だった。
金沢の高校を卒業後東京の医大に進学し、基礎医学を学んでフランスのパスツール研究所に留学したこともあった。
結婚歴はなく、独身だった。
園田はそれらのことを正見のチームのミーティングでレポートした。正見は考えた。
――ウィルス製造という犯罪について、
栃木の女子木刑務所~T製薬~テフヌト~オルタアーミーというラインは見えた。
でも、刑務所の医務室地下爆破事件もあって、T製薬を告発するだけの材料は得られなかった。
テフヌト~オルタ・アーミー~T製薬~栃木女子刑務所という、
アメリカの国家権力や軍とつながっているような組織の犯罪を立証できる可能性は今のところゼロだということだ。
正見は園田に質問した。
「洋子さん、鼠小僧を使って刑務所の医務室の地下を爆破させたのは
「現在私たちが把握している情報の範囲ではほかに可能性のある組織はないので、そう推測していいように思うわ。
能力のある人間をリクルートして使うのは
アメリカの国家権力や軍とつながっているような組織からトンビが油揚げをさらうようなことをするのは、
やはり現在私たちが把握している情報の範囲では、それ以外には考えられないと思うわ」
「鼠小僧はただ爆破しただけだったのかな?」
「ウィルスのサンプルやデータなどを持ち出して、
同じウィルスを作ることができないようにするために施設は爆破したんでしょうね。
浜村秀という基礎医学者を拉致したのも、
「ぼくもそう思う。
岩さん、浜村さんが失踪した時の状況について、何かわかりましたか?」
正見は岩田を見た。
「浜村は一人暮らしで、
あの晩,なじみの赤ちょうちんで飲んでいたそうです。
一時間ほど飲んでから勘定をして外へ出て。
その後の足取りはつかめていません。
浜村のうしろに並んで勘定を済ませた客が外に出た時、店のそばからバンが発進して走り去ったそうです。
暗かったのでナンバーは見えなかったそうですが、バンの色は黒だったと思うと言っていました」
「ミュウちゃん、ここまでの話を聞いてどう思った?」
正見はミュウに意見を求めた。
「鼠小僧を操っているのが
その人間を通じて、恵美音がゾンビとして蘇って人間離れした腕力で棺をぶち破って逃げたことなどを
それで、恵美音とウィルスを作った浜村とウィルスのサンプルやデータを確保したんでしょうね」
「それで、恵美音ちゃんの体の中で変異したウィルスを取り出して浜村に解析させれば、
人間の知性とゾンビの人間離れした身体能力を併せ持つゾンビ兵士やゾンビ諜報員を作り出すためのハイブリッドゾンビウィルスの組成がわかる。
その組成がわかれば、ウィルスを量産することもできるし、もとの人間に戻すためのワクチンも作らせることができる・・・」
「そういうことだと思うよ。
彼らにとっては科学者って
でも。鼠小僧のために言わせてほしいんですけど、
あいつは家族を人質に取られていなかったら、
「ぼくもそうだと思うよ」
正見は同意し、岩田、佐久間、園田も頷いた。
「ところで、鼠小僧のおとうさんが何を研究していたかわかったかな?」
正見は佐久間に尋ねた。
「いいえ。彼の研究室のパソコンに侵入して調べたんですが、関連情報はありませんでした。
向こうのハッカーに消されたんじゃないかと思います」
「岩さん、大学の聞き込みの結果は?」
「それが、小笠原さんは誰もラボに入れずに一人で何かを研究していたようで、
研究の内容について知っている人間はいませんでした」
「秘密の研究か?」
正見は腕を組みながら目を閉じた。
「ガリの身柄の確保はいつごろになりますか?」
岩田の質問に正見は答えた。
「ああ、刑事がマークしているから、今度取引した時に現行犯で逮捕されるでしょう」
引き続き調査・捜査活動を続けながら手掛かりを探そう。
もしも相手が新たな動きを起こしたら即応して動こう。
それがミーティングの結論だった。
ミューも含めたチームの面々はミーティングの一部始終がテーブルの裏側の盗聴器を通じて盗聴されていることを知らなかった。
もちろん、
その盗聴を遠くの場所で録音していたのが誰かも、
そもそもその盗聴器を仕掛けたものが誰かも、
知る
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