PARTⅢの4(18) 報酬の残り半分は三日以内に
翌朝。テレビも新聞も刑務所の火事を「医務室の
正見は栃木の女子刑務所に山崎フミカという若い女囚がいることを確認した。
彼女には恵美音と同様に身寄りがなかった。
彼女はまだ無事なことがわかった。
鼠小僧が施設を爆破したために、当面は人体実験のモルモットにされることなく無事でいられるだろうと考えられた。
バンの運転手をしていた中年男性は岩田哲雄という名前で、正見は彼を「岩さん」と呼んでいた。
彼は警視庁から出向して、正見のチームの一員として働いていた。
空手と柔道の達人で、同時に高い捜査能力の持ち主だった。
正見は岩田に、
「岩さん、恵美音ちゃんと山崎フミカは冤罪じゃないかと思うので、調べて下さい」と指示した。
「まず、二人の所属していた二つのアイドルグループのメンバーから当たってみましょう」
と、岩田はさっそく聞き込みを開始した。
その日のうちに次のことがわかった。
恵美音の親友は島崎菜々美という子だった。
彼女は昨晩以来音信不通になっていて、アイドルグループのリハーサルにも姿を現さなかった。
山崎フミカと同じアイドルグループに所属している永井蘭子という子が、恵美音とフミカが逮捕された時、フミカと一緒にいた。
蘭子は自分に聞き込みに来た岩田に次のように証言した。
蘭子は若い男がフミカのバッグに何かを入れているのを遠目に目撃していた。
そのことを警察に話したが、警察は取り合わず、
裁判でも証言しようと思ったが、
「裁判で証言したらお前の母親は姿を消してそれっきりになるだろう」
という匿名のメールが来て、恐くなって証言するのをやめた。
と。
岩田は蘭子に尋ねた。
「フミカさんのバッグに何かを入れた若い男の人相や特徴を覚えてるかな?」
「キツネ目で、マッシュルームカットで、割と大柄で、ちょっと小太りしてたと思います」
「写真を見たらその若い男かどうかわかりますか?」
「ええ。多分わかると思います」
岩田は「その男は覚せい剤の売人だろう」と考え、
渋谷の覚せい剤の売人にに詳しい情報提供者に協力させて、
ガリと呼ばれている背高のっぽの若い売人を割り出し、
その顔写真を隠し撮りして蘭子に見せた。
「こいつです」
と蘭子は頷いた。
岩田はさっそく正見に報告した。ミュウと佐久間も同席していた。
「岩さん。ガリって奴の携帯の番号はわかりますか?」
ミュウは尋ねた。岩田はうなずいた。
「調べてありますよ。佐久間君に、ガリの携帯の中身を抜いてもらいますかね?」
岩田は正見に提案した。
「そうですね。佐久間君、お願いできますか?」
正見は佐久間を見た。佐久間はマカダミアナッツのチョコバーをかじりながら、嬉しそうに頷いた。
佐久間はすぐにガリの携帯をハッキングし、
ガリの携帯の中にあったメールから、一通のメールをピックアップした。
そのメールには恵美音とフミカの顔写真と共に、
「この二人のバッグに、きのう渡した覚せい剤の袋を気づかれないように仕込むように。
二人は今晩、クラブJBのライブを観に来る。
報酬の残り半分は三日以内に現金で渡す」
と書いてあった。
佐久間はメールの発信者を特定する作業を開始した。
「岩さん、ガリが覚せい剤をさばいているところを逮捕して携帯を押収すれば、
恵美音ちゃんとフミカちゃんの冤罪は証明できそうですね」
正見は岩田に尋ねた。岩田は頷いた。
「そうですね。
背後にいる黒幕はバカじゃないと思うから、
メールを
とにかくあの子たちの冤罪が晴らせるなら、逮捕させましょう」
「オーケー。ぼくから警視庁に依頼しよう。佐久間君、メールの発信者は特定できたかい?」
「ガリ宛のメールは新宿のネットカフェから発信されたものでした。
その店の監視カメラの映像はもう残っていないし、
残っていたとしても該当者が映っていたかどうかはわかりませんし。
正見さん、発信したパソコンは特定できてますから、指紋を調べますか?
何人もの指紋が重なり合っていても、そういう重なり合った指紋を分離して表示できる装置を使うことは可能なんでしょ?」
「警察にはそういう装置があるから、それを使えばね。
でも、プロなら、指紋を残さないように手袋してマウスやキーボードに触るんじゃないかな?
手袋をしてなかったとしても、
メールの発信日からずいぶん時間が経っているから、
発信者の指紋は残っていたとしてもうんと下の方にあって、分離して表示できるかどうか。
ネットカフェの人が定期的に拭き掃除しているかもしれないし。
でも、可能性がゼロじゃないから、
とにかく指紋を採取して発信者を特定して欲しいと警察に依頼してみるよ」
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