第十三条「こんな秘書いらないよ」

 ――チャララーチャララーチャラチャンチャンチャン。

 授業の終わりと始まりに流れるチャイムが鳴る。

「ヤバイ」

 いつの間にか寝てしまったようだ。

 慌てて飛び起きると階段を急いで駆け下り、教室へと向かう。教室のドアは閉められている。

 しかし、何かがおかしい。物音一つしない教室、授業をやっているのなら先生の声や板書する音が聞こえてもおかしくないはずなのに、何の音も聞こえない。休み時間でもクラスメイトの騒ぎ声が聞こえるはずだ。授業中だったらどうしようかと躊躇しつつもドアをそっと開ける。スキマから教室内を覗きこむ。

 誰もいない。

 一体どういうことなのか。慌てて携帯を確認すると画面の時計は下刻時刻を回っていた。

 待受画面には新着メールのアイコンが表示されている。受信メールを確認するとメールの送り主はすみれだった。日頃から携帯は常にマナーモードにする癖があり今日もマナーモードにしていたため、すみれからのメールに全く気が付かなかったらしい。

「授業始まるよ」

「どこにいるの?」

「早く来なよ」

「サボり?」

「来なさいよ」

「サボってんじゃねーよ」

「無視すんな」

「死にたいの?」

 どんどんとメールの文面が強くなっていく。最初は付いていた絵文字が最後の方に無くなっていることからもすみれの怒り具合が見て取れる。授業中に先生に見つからないように隠れながら、肩を怒りで震わせつつメールを送っているすみれを想像すると恐怖で背筋が寒くなる。

 急いですみれに謝罪のメールを送ると自分の机に置かれたカバンを取り学校を出る。数時間の長い昼寝をしたせいで目も頭も冴えきっている。家に直帰する気にはなれず寄り道をする。

 よく遊びに来るゲームセンター。

 僕は昔からTVゲームは苦手だが、クレーンゲームだけは得意だった。お目当てのプライズを探す。店内をグルっと回るまでもなく一番手前の入り口にあった。

『にゃん仔ぶた』。

『にゃん仔』シリーズのプライズ第二弾だ。ちなみに第一弾はにゃん仔ぐま。仔猫に 様々な動物の仔どもをフュージョンし、二乗された可愛らしさで今大人気のシリーズだ。

 山積みになったにゃん子ぶたを見てすぐにお金を投入しプレイする。無理に真ん中を掴んで持ち上げるのではなく、重心をずらしたところを持ち上げる。一見失敗したように見えるが、クレーンのアームからずり落ちたにゃん子ぶたは、アームから外れた勢いで山から転げ落ちる。

『チャラララーン。プライズゲットー。おっめでとー』

 景品が穴に落ち、景品獲得の音楽と声が流れる。見事に一回でゲットできた。

 ここまでくるのに一体いくらクレーンゲームにつぎ込んだのだろう。学校や司法試験予備校帰りにちょくちょくゲームセンターに通ってはクレーンゲームを繰り返した。最初のうちは馬鹿正直に持ち上げようとして景品の重心も考えずひたすら真ん中を掴むことを狙っていた。しかし、うまく取ることができず、周りでおなじくクレーンゲームをやっている人をやり方を見て研究したり、店員の人に手伝ってもらったり、さらには指部分のない革製のグローブをした“師匠”に弟子入りしたりして『トライアングル』、『けさ取り』、『横四方取り』、『すきまフック』、『ツバメ返し』、『ちゃぶ台返し』、『ナイアガラ落とし』に『プッシュゲット』など様々な技を会得した。

 獲得した景品を袋に押しこめるとそそくさと店を出る。

 家までは、数駅。地下鉄に乗って家へと向かう。地下鉄の車両内には弁護士や司法書士の広告が掲載されている。

「借金でお困りではないですか?」

「借金問題解決します」

「支払過ぎのお金取り返せます」

 様々な宣伝文句でお客を呼びこもうと必死だ。どれもこれもいわゆる過払金を取り返せるという旨の広告だ。

 少し前に最高裁で利息制限法が定めた法定利率を超えた分の利息については無効となるので払いすぎていれば取り返せるという判決が出たのだ。

 この判決が出る前は利息制限法と出資法で別に定められた利率の間のいわゆるグレーゾーン金利と呼ばれる部分については、任意に支払った利息は返還請求出来ないとされていたが、この判決により返還請求が認められることとなった。それを受けて弁護士や一部事件で代理人を務めることができる認定司法書士の間で過払金請求ブームがやってきたのだ。過払金の請求は、利息を法定利率に引き直して計算すればいいだけなので非常に楽でほぼ確実に取り戻すことができるためこれ以上ない楽で稼げる仕事だったのだ。

 そんなこともあり、交通広告にとどまらず、テレビやラジオにまで弁護士や司法書士の広告が出稿されるようになった。しかし、弁護士の広告に疑問をていする弁護士も少なくなかった。元々、弁護士は広告をすること自体を少し前まで禁止されていた。

 “弁護士のが汚される”とか“弁護士のは依頼者に不利益になる”とか実にくだらない既得権益を守るためとしか思えない理由によって。

 どこの業界でも古参の力が強いのが常だが、ことさらに弁護士業界は定年という概念がないので経験もコネもある古参弁護士の方が権力を握っているのである。

 家に帰ると階段を登り自分の部屋へ直行する。ベッド脇に飾られたにゃんこたちの横に取ってきたばかりのにゃん仔ぶたを並べる。大の猫好きなのに猫アレルギーという悲劇の体質を持っている僕にとって唯一の癒しがこのにゃんこシリーズである。早く次のシリーズが出ないか楽しみだ。

 しばらく、にゃんこたちを眺めていると、

 ピンポーン

 玄関のチャイムが鳴る。

 誰だろう? 姉ちゃんかな? でも姉ちゃんなら鍵持ってるし、元々鍵かかってない。一体誰だろうか、疑問を持ちつつ階段を下りていく。

 出前は頼んでいないし、通販で物も買っていない。

 ドアの覗き穴から確かめてみるとどうやら女性のようだ。しかも、おばさんではなく若い女性だ。うちに用事のある女性など知らない。

 姉ちゃんの友達? 宗教勧誘? 訪問販売?

 色々な可能性を考えてみるが、答えなど開けてみなければ分からない。

 ドアを開けてみて勧誘や訪問販売ならば追い返してしまえばいい。なんたって僕は弁護士なのだから。

 意を決して、というほどのことでもないが、ドアを開けるとそこには、見知らぬ若い女性が立っていた。

 背丈は、百七十センチ弱くらい。ハイヒールを履いているから実身長は百六十五センチくらいだろう。

「お久しぶりです」

 どうやら彼女と面識があるらしい。

 髪型はショートボブ、ボーダーの服に一見スカートに見えるキュロットスカートを履いている。そこから覗く足は、か細い。

 記憶の糸を辿ってみるが、全く記憶にない。

「失礼ですが、どちら様でしょうか?」

「あの……憶えてないか? 久慈だよ久慈」

「久慈って……」

 しばらく考えこんで思い出す。

「えっ、まさか久慈玲於奈さん?」

「はい」

 満面の笑顔で頷く。

「でもその……なんで女の子みたいな格好してるの?」

「え?」

「え?」

 二人とも戸惑いを隠せず、しばし立ち尽くす。

「もしかして――」

 玲於奈が何かを理解したような顔をし、気不味い沈黙を破る。

「――私が男だと思ってる?」

「……違うんですか?」

 戸惑う僕を尻目に玲於奈は声を上げて笑い出す。文字通り腹を抱えるとその場にうずくまる。

「……」

 訳が分からず立ち尽くす僕。

「ご、ご、ごめん――」

 笑いが止まらない様だ。仕方がないので放置する。しばらくすると落ち着いたのか、再び口を開く。

「ごめんなさい……可笑しくって。男と間違われるなんて私そんな男っぽいかな?」

 疑問をこちらに投げかけ玲於奈は自分の身体を確認する。

 彼、ではなくて彼女が確認しているその身体は全体的に細いが、腰にはクビレもあり四肢もスラっと伸びている。モデル体型というやつだろう。

 初めからこの格好で出てきてくれたら男と勘違いなんてしなかったのに。あんな体型を隠すダボダボの服に七篠三郎なんていう男っぽい別名、それに玲於奈っていう名前もノーベル賞受賞者から名付けられたなんて言われたら、男だと思ってしまうのも仕方ない。うん、仕方がない。

「そ、そ、そんなことないですよ。可愛いと思います……」

「あ、やっぱり? でもねぇ、ここがもう少し大きかったらなぁ」

 服の首部分を軽く引っ張って自分の胸を覗きこむ。

「ひ、貧乳もアリだと思います」

 何を言っているんだ僕は。可愛いのは否定しがたいし、貧乳が嫌いじゃないというのも事実だが、そういう問題じゃないだろう。自分の失言に赤面し玲於奈から顔を背ける。

「マジで? 良かった。なかなか分かってんじゃん」

「あの久慈さん……ところで何のご用でしょうか?」

「ヒロインがヒーローのもとに遊びに来るのに理由がいるのかい?」

「ヒロイン? ヒーロー? 一体何の話をしているんですか?」

「いいや、もう気にしないで。今日はね、この前のお礼に来たんだよ」

 そういうと手に持っていたライオンマークの入った箱を突き出す。

「これは?」

「ケーキだよ。ケーキ」

「いやいやいや。受け取るわけにはいかないですよ。報酬はちゃんと貰ってますし」

「いーじゃん。食べてくれなきゃダメになっちゃうよ、これ。それにこれは社交儀礼の範囲内? ってやつだから大丈夫だろ?」

「別に公務員じゃないからいいんだけど……」

「ならいいじゃん! それにこれうちの人気商品だよ」

 そういえば玲於奈の親は有名お菓子メーカーの社長だった。せっかく持ってきてくれたお菓子を無下に断るのも悪いので受け取る。

「そういう事なら、ありがたくいただきます。ところで久慈さん上がっていきますか?」

「いいの? じゃあ遠慮なく。あ、久慈さんじゃなくて玲於奈でいいから」

 言葉通り遠慮もすることなくズカズカと奥へ入っていく。

 普通遠慮なくと言われても多少は遠慮するだろ、と思いながら玲於奈についていく。

 玲於奈はリビングまでくると、

「ここでいい?」

 とテーブルのイスを引きながら答える。

「ど、どうぞ」

 冷蔵庫から緑茶を取り出しグラスに注ぐ。もらった箱を開けるとバームクーヘンが入っている。

 『らいおんばうむ』と書かれたお菓子はバームクーヘンのようだ。レオーネ創業時からのお菓子で一番人気だと書いてある。もらったばかりのバームクーヘンを半分ほど切り分けるとお皿に盛りつけ、先ほどのお茶と一緒に玲於奈の前に出す。

「おっ、悪いね」

 そういうと早速バームクーヘンを一切れつまむ。

「いえ。何もないんで貰い物で申し訳ないですが」

「気にしないで、これ好きだから。好きだから持ってきたんだし。自分で言うのもなんだけどさ、これ美味いんだよね。ただ結構な値段するのが難点でね。こんな時でもなきゃ食べれないからね」

 玲於奈は、次々にバームクーヘンをつまみ上げると胃袋へと消し去っていく。あっという間に全て平らげてしまう。仕方がないので残りの半分も一口大に切り分ける。箱の中に入っていた紙によれば、『シットリ、もっちりバームクーヘンを超えたバームクーヘン、らいおんばぅむ。一口食べれば虜になること間違いなし』らしい。玲於奈がバクバクと食べてしまっているのもそのせいだろうか。

「今、書類持ってくるからちょっと待っててね」

 切り分けたバームクーヘンを玲於奈の前に出すと急いで二階の自分の部屋へと向う。弁護士の仕事用鞄から書類の入ったクリアファイルを取り出すとリビングへと向かう。

 玲於奈は見事にバームクーヘンを全て平らげていた。今考えてみると緑茶とバームクーヘンが合うのか微妙だが、緑茶も飲み干していたので問題はなかったようだ。

 玲於奈の目の前の席に座ると書類を差し出す。

「これが刑事補償請求の手続きに必要な書類です。この鉛筆で丸つけてあるところを書いてください」

「面倒くさいんだね」

「裁判所も役所だからね。本当は僕が代わりに書いてもいいんだけど……」

「クリスっち、やってくれんの?」

「クリスっちって……。代理人でも申請できるから僕が代理人になればやれることはやれるですけどね」

「じゃあお願い」

「じゃあお願いって、そんな軽くていいのか……」

「いいよ。クリスっちは信用できるし、自分を無罪にしてくれた人を信用しなくて誰を信用するのさ」

 そこまで言われると悪い気はしない。

「そうしたら、委任状を書いてもらう必要が……。えっと、こっちに名前とハンコ押してくれる……ってハンコなんて持ってないよね?」

「持ってるよ」

 なんて準備のいいことだろうか。大人でも判子をお願いしても忘れてくる人がいる中、頼んでもいないのにしっかりと持ってきている。言葉遣いはかなり軽いが、中身はしっかりとしているのかもしれない。

「ここ?」

「そこでいいよ。じゃあ、後はこっちでやっとくから――刑事補償請求とは別に国家賠償請求訴訟も一応起こしてみる?」

「任せるよ。ねぇねぇ、それよりさ、ここってクリスっちの自宅?」

「任せるって……。まぁ、そうだけど……」

「自分の事務所ないの?」

「ないよ。僕まだ高校生だし……」

「欲しくない?」

「そりゃ欲しくないわけはないけど……事務所借りるようなお金もないし」

「お礼にパパに頼んであげようか?」

「……はい?」

「だから、私を無罪にしてくれたお礼に私がパパに頼んでクリスっちの事務所を開く物件を借りてあげようかって言ってんの」

 突然のオファーに戸惑う。

 非常にありがたい提案だ。しかし、依頼人からそこまでしてもらうと問題になりかねない。それに借りてもらっても家賃を払うだけの売上もない。

「いや……いやそんなにしてもらう訳にはいかないよ。お礼ならバームクーヘンだけで十分だから」

「そう? らいおんばうむ気に入ってくれた? また持ってくるよ」

「またって――」

「もう書くもんないんでしょ? じゃあ、今日はそろそろ帰らなきゃいけないから帰るよ」

 スタスタと玄関へ向かう。ヒールを履き玄関のドアノブに手をかけようとした瞬間にドアが開く。

「クリスー、いるー?」

 唐突に開いたドアから見慣れた顔が覗く。

「げっ」

 すみれだ。

 帰ろうとドアに手をかけかけていた玲於奈と突然現れたすみれが鉢合わせする。

「あんた何?」

 不快感を一切隠さず、敵意をむき出しにしたすみれが玲於奈に食ってかかる。

「ごめんなさい」

 すみれの迫力に負けて玲於奈が訳もなく謝る。

「で、あんた誰なの?」

「え……私は久慈玲於奈」

「クリスの何なの? え?」

「いや……今日はお礼を……」

「お礼って何のお礼よ。いったいこの女は誰なの?」

 すみれは、まるで不良か何かのように詰め寄り、先ほどまで僕を圧倒していた玲於奈を言い負かすと今度は僕にその口撃の矛先を向けてくる。

「誰って……久慈玲於奈……さん?」

「だーかーらー久慈玲於奈ってあんたの何なのよ」

「何って……依頼人? 国選弁護の……」

「何で疑問形なのよ。けど依頼人ってことは仕事関係なのね。なら許してあげる」

「許してあげるってお前何様だよ」

「神様? いや、すみれ様?」

「すみれ様って……おい」

「二人とも仲いいんだね。付き合ってんの?」

 笑いながら玲於奈が問いかける。

「付き合ってない!」

「そんなわけないだろ」

 二人で同時に叫ぶ。

「やっぱ仲いいじゃん。クリスっちまた来るね」

 そういうと小走りで薄暗くなった道へ消えていく。

「クリスっちって何よ。どういう関係なのよ」

 すみれは両手で僕の胸ぐらを掴むと揺さぶってくる。

「そ……うぇ……ふぁ……れうぉぬぁが勝手い……」

「何言ってるか全然わからないんだけど」

「お、お前、俺は弁護士だぞ。今のは完全な暴行じゃあいだ……」

「は?」

「ごめんなさい。全て一から話させて頂きますので勘弁して下さい」

「最初からそういえばいいのよ。まったく弁護士は頭が硬いから嫌なのよね」

 玄関に正座までさせられ、反論したくなるが僕の生存本能が必死に止めさせる。

「えっと、弁護士には守秘義務があるので全ては話せませんが、簡単に説明させていただきますと玲於奈さ……いや久慈さんは僕の依頼人でこの間無罪にしたお礼と今度裁判所に出す書類を書いてもらっていただけです」

「それだけ?」

「はい……」

「本当に?」

「はい……」

「……なんだ。最初からそう言ってくれればいいのに!」

 最初から言ってただろ! お前も納得してただろ! というツッコミはしない方が賢明そうだ。

「はい、申し訳ありません。ところですみれ様は一体何のご用でしょうか?」

「あぁ、忘れてた。今日あんたがサボった授業の宿題プリント持ってきてあげたんだった。感謝しなさいよ」

「は、はい。ありがとうございます」

「それにしても……あの女、また来るみたいなこと言ってたわよね。あんたがたぶらかされるといけないからあんたの秘書やってあげる」

「いや、お前なんか、居ても邪魔――」

 すみれが睨んでいるのに気付き訂正する。

「すみれさんにお手数おかけする訳にはいかないので今回は非常に残念ですが、ご遠慮させて頂きます」

「何その就活のお祈りメールみたいな断り方は。そんな遠慮しなくていいから」

「遠慮って――」

 再び僕の言葉は遮られる。今度はすみれではなかった。

 ガチャ。

 という音がしてドアが開く。

「ただいま」

 という声とともに姉の姿が現れる。

「お帰り」

 正座をした状態で姉を出迎える。

「おっ、すみれちゃんいらっしゃい。珍しいわね」

「姉ちゃん、この状況に対するツッコミはなし?」

「どうせ昔みたいに仲良く遊んでるんでしょ? ちゃんと後で返してくれれば自由に使ってくれていいわよ。クリスファンクラブ第二号だし」

「はーい。ありがとうございます。ちゃんと後でお返ししますね。私、クリスの秘書することになったのでちょくちょくお邪魔しますのでよろしくお願いしますね」

「おい、ファンクラブって――」

「秘書? よかった。クリスったらいつも一人で寂しそうだったからお姉ちゃん心配してたのよ――そうだ。秘書祝いにすみれちゃん夕飯食べて行く?」

「おい、何勝手に――」

「クリス、お寿司の出前取ってくれる?」

「何で?」

「秘書祝いに決まってるでしょ」

「いや、秘書にするなんて――」

「はいこれ」

 反論をする間もなく寿司屋の出前メニューを渡される。

「特上三人前ね」

「はい、分かりました」

 姉ちゃん……二人の時と態度変わりすぎだろ……。しかし、特上寿司が食べられるなら悪くない。メニューに書かれた番号に電話し注文する。

 注文が終わりリビングへ戻ると姉ちゃんとすみれがリビングに座り談笑している。僕のファンクラブ会員とか言いながら主役のはずの僕を差し置いて。決してファンクラブなるものを認めるわけではないが、クラブ会員に無視されるのは気分がいいものではない。

 それにしても勝手にすみれが秘書になってしまった。口うるさい秘書適正の全くないすみれが秘書になって一体これからどうなってしまうのか、考えるだけで憂鬱だった。

「はぁ……、こんな秘書いらないよ……」

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