第43話 別れみたいです

次の日、朝早く起きた俺は、荷物の準備をしてから少し散歩に出ることにした。


…この街に来てからは忙しくて、じっくりとこの街を見ることがなかったからな。


そして暫く使って街を歩いていると、果物屋のおっちゃんが話しかけてきた。


「あ、兄ちゃんにアリスちゃんから手紙預かってるぜ。」

「ん?おぉ、ありがとな!」


一応手紙の内容を確認してみる。


『ツバサへ、仲間になるって約束しちゃったけど、やっぱり私一人で出来ることはやっちゃいたいから、先に行くね。ゴメン…アリスより』



「まったく……いきなりいなくなるなんてビックリするだろ。次あったらデザートでも奢ってもらうか。」



俺がそう言うと、いつの間にか隣にいたアイラたちも静かに頷いた。


「さて、悲しいことはあったが、俺たちは元の街に戻らなきゃいけない…。もう準備は出来ているのか?」


と、俺は服に着いた土ぼこりを払いながら言った。


「…ん、もうできてる。後は街を出るだけ。」

「私も準備はすでにできているわ。」

「よし、じゃあ市場で旅をする間の食べ物を買ってから街を出ようか。」


そして俺たちは市場で果物や干物、肉などを買ってから門の前まで歩いていった。



門を潜り抜けた俺は一度門の方を振り向いて、別れの挨拶をした。


「じゃあな、秋葉原。またいつか来るかもしれないからその時はよろしくな。」



こうして次の街に行くために秋葉原を出た俺たちは、そのまま道沿いに進んでいった。




暫く歩き、日が暮れ始めた。すると、突然俺の気配察知に反応があった。


「おい、何かの気配の反応があるぞ。」


と、アイラたちに止まるように指示を出す。草村がガサガサと音を立てて、いきなり数人の男が飛び出してきた。男たちはみな、いかにも盗賊という出で立ちだった。


「…なんだお前らは?敵か?それとも通りすがりの一般人か?」


一応質問をしてみたが、男たちはニヤニヤとうすら笑いを浮かべているだけだった。


「無視か…ならば敵は排除するべし。手加減はしないからな。『絶対零度』」


俺は男たちに『絶対零度』を発動させた。…だが、攻撃が当たったはずなのに男たちは全く動じることもなくこちらを見ている。


何かおかしい…。とりあえず鑑定を行ってみるか。

『鑑定』

------------

トレント(擬態)


人に擬態を行って、人間を捕まえ、捕まえた人間の生気を吸い取って生活している魔物。生気を吸い取った相手そっくりに擬態することもできる。

火属性魔法以外は全く効果がないので、初心者キラーとして有名。

------------


なるほどな、どうりで俺の魔法が聞かないわけだ。火属性魔法しか効果がないならとびっきりの魔法を見せてやる。


「この世の全てを飲み込み、燃やし、破壊し尽せ『火竜の一撃ファイヤードラグニルバースト』」


詠唱付きで放たれた俺の新火属性魔法の『火竜の一撃』は、たった今俺が考えたアドリブの魔法で、その名前の通り本気を出せば火竜と同じ程度の火力が出るという魔法だ。

そして、俺の新火属性魔法をくらったトレントは、悲鳴すら上げることが出来ずに燃え尽きて灰になった。


…この灰って何かに使えないかな。


そう思った俺は鑑定を行ってみた。


------------

トレントの灰  高品質


トレントを高温度で一瞬のうちに焼いた灰。

この灰には、どんな植物でも3分で咲かせられる程の栄養分がある。

------------


うん、これは凄まじいレアアイテムだ。なにか貴重な植物が手に入ったら使ってみよう。


そしてその灰をアイテムボックスにしまった俺は、トレントの灰があった場所に種が落ちていることに気が付いた。


「ん?なんだこれ?」


その種が気になった俺は、その種を鑑定をしてみた。


------------

黄金の種  


トレントからごくごく稀に落ちる貴重な種。

この木の実は、持っているだけで運勢が上がると言われている。さらに、地面に植えると、実が実るまでに100年ほどかかるが、その代わりに物凄く強くなれるとも言われている。

------------


いきなり超レアアイテムキター!!しかもさっきの灰があればもう一瞬でできるじゃん!!

…っと、危ない。危うく変なテンションに流されて周りの警戒を怠るところだった。


興奮が冷めて我に返った俺は、いそいそとアイテムボックスに黄金の種をしまうと、無表情で待っているアイラと、暇そうな顔をしているイズナの傍に走って戻っていった。



「悪い、待たせたな。」

「…ツバサ、凄い戦い方だった。やっぱりツバサ、強い。」

「まったく、遅いわよ…。いったい何やってたのよ。」


そう聞かれたので、俺は自慢げにさっき拾ったアイテムを見せて、説明をした。すると


「…ツバサ、幸運。」

「凄いじゃない!流石ツバサね、化け物じみた幸運の持ち主ね。」

「化け物扱いされるのは心外だな。これは日ごろの行いの結果だぞ。」


俺がそう言うと、アイラがジト目で言った。


「…ツバサは、よく他の女のことを見てる。」


さすがアイラだ…。完全にバレていたか。


「まったく…アンタがハーレムを作りたいのは分かったけど、どうしてそんなにハーレムにこだわるの?」


イズナはそう聞いてきたが、俺にはまだその理由を話す勇気はない。


「すまない、その理由はいつか話す。だから、今は尋ねないでくれ…」

「そう…まだ言えないっていうなら聞かないでおくわ。」

「そう言ってもらえると助かる。……さて、そろそろ野宿する準備をしなきゃな。」


空気がすこし気まずくなったので、俺は話を変えて野宿の準備をすることにした。


そして食事を済ませた後は、アイラたちと夜と戦いだ。



こうして俺の色々な事があった一日は終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る