第13話 いずれ来る未来


 世界が赤い夕焼けに包まれ始めた中、第一一〇プレハブ内に設置された野外テント内でそれは行われていた。集まっているのは赤犬が刺繍された黒皮のジャケットを着た面々。


 総勢二十名程ではあるが、集まっているのがハウンド・ドッグだと考えれば、大部隊とも言える壮観な眺めであった。…そんな中、明らかに異質である二人が混じっている。


 屈強な戦士然とした面々が長机に着く中、その二人は華奢な体に不釣り合いとも思える白く角張った軍服らしき服を着ている。軍服には金色の縁取りがされており、肩からは金色の飾緒が下がっている。どう見ても何処かの軍人である。…ならば何処の軍人なのか。


 現場を取り仕切る様に皆の正面に立っていたゲイボルグはそう思い、そして異質な二人の隣に並んで座る三人の顔ぶれを見て成程と納得していた。どうやら彼らがそうらしい。


「そいつらがイルフォート・シティのダストか。…ダストって性質上、そいつらの見た目が若いのは仕方ないとは思うがなぁ。都市の連中とさして変わりないヒョロヒョロの体だけでもどうにかならなかったのかねぇ。頼りなくて仕方ねぇや。でもなスオウ、雇うダストがゴールドとは聞いてねぇぞ。そいつらの左腕、そして格好。追加の予算は出来ないからな」


 前半はトウヤとマックスに、そして後半は隣に座るスオウに向けて喋る。スオウはそれを受けて、緩やかに頭を振りながらゲイボルグへと言っていった。


「…いえ。彼らと契約した当初、彼らはブロンズでしたので。追加料金が発生するとは都市から聞かされていません。…ですから、その点は問題ないかと。それに彼らの上官に当たるダストからも、特に何か発生するとは聞かされていませんし――」


 そう弱り顔でスオウが述べると、ゲイボルグは苦い顔をして二人を睨み付けていく。何故か睨まれた二人としては委縮するしかなく、そうでなくても居心地が悪い中、更に居心地が悪い状況に黙り込むばかりだ。しかしそれは、何もハウンド・ドッグの会議に同席する事になった所為だけではない。スオウ達と都市を離れる前、二人はスオウ達と共に十九階層へと向かった。自分達専用として用意された居住地を確認する為だ。…それからなのだ。二人が黙り込んでしまったのは。そしてそれは二人だけではなかった。スオウ達も同様であった。


 十九階層にあったのは想像とは懸け離れた光景だったのだ。スオウ達からすれば余りに異常な、そしてトウヤ達からすれば驚愕すべき光景がそこにはあった。


 二人に用意された居住地というのは、常識とは遠く懸け離れた大豪邸だったのだ。広大な敷地に建てられた白壁の豪邸、それを取り囲む花々が植えられた庭園。正面玄関までは車で移動して、玄関の前には噴水があり、水瓶を持った人魚の石像が印象的だった。そして屋敷の中には映画館さながらの巨大スクリーン、個人用のレトロな木製のバー、観賞用の水槽。スオウ達にとっては何もかもが異常すぎて、まるで異世界の様に思えた。ここで驚いたのは、その豪邸がトウヤとマックスに一つずつ与えられたという事だった。


 そして現在、当の二人は軍人さながらの最新式のバトル・スーツに身を包んでいる。二人の様子からして、彼らから見ても常識から懸け離れたものだったのは分かる。でもスオウ達からすれば、あの豪邸と現在の彼ら、何の遜色も無いとしか思えなかったのだ。


 もう二人は弱者では無い。もう人間達から踏み躙られるような立場では無いのだと、そう言われたような気がした。それがスオウ達には悲しくもあり、そして複雑な気分だった。


 ちらりと二人を見ると、二人の耳には滴型のピアスがそれぞれ着けられていた。ピアスは二人の眼の色に合わせたのか、トウヤはルビー、そしてマックスはアクアマリンだ。しかし二人にとっては邪魔意外の何物でも無いらしく、時たまピアスに殺意を滲ませてはそれを引き千切ろうとして、それが叶わず口惜しそうに唇を噛み締めては溜息を漏らすのを繰り返していた。…どうやらダストには、登録された装備を身に付ける義務が発生するらしい。


 そんな事をスオウは思いつつ、二人に気取られないよう心中で溜息を付きながら思った。


 食事にも手を出せず、人間の前では休む事すら出来なかった頃が嘘のようだと。おそらく良い事なのだとは思う。でも複雑な想いが残るのは何故だろう。不思議と喜べないのだ。


 彼らの地位が上がったのを証明するかのように、あのゲイボルグが真っ先に目を向けたほどだ。…そこに浮かんでいたのは蔑視では無く、期待しているとさえ思える眼差しだった。


 これほどに違うのだ。左腕がゴールドになるという事は。しかし二人は、周囲から向けられる羨望の眼差しをよくは思っていないようだ。…そしてそれを示すかのように、弱り顔をしたトウヤが顔を上げてきて、正面に立つゲイボルグを見て言っていった。


「お邪魔でしたら言って下さい。…俺達はダストです。決定事項さえ伝えて頂ければ――」


 そんなトウヤの発言にゲイボルグは頬を緩めていき、笑いながら言葉を返してくる。


「まぁそう言うな。邪魔な訳あるか。むしろきちんと会議に出席して、きちんと発言して、今回の作戦をパーフェクトに導いてくれ。目標は全員無傷! 当然お前らの損傷も無し! それが今回俺の掲げたい一番の目標だな。…何しろハウンド・ドッグは見た通り人手が足りていない。本音は猫の手だって借りたい気分だが、本当に猫の手じゃ話にならん。そんな中でゴールドのダストってのは有り難いぜ。最近の若い連中は意気込みが足りなくてな。腕を磨いて世界を変えようって意気込みがまるで無いんだ。情けないったらありゃしない。でもゴールドのダストなら何も問題は無い。お前らの噂は外でも予々聞いてるよ。今回はお前らが居るんだ。俺達ハウンド・ドッグも胡坐をかいて居られるってもんだ。有り難いぜ」


「「……」」


 そんな風に言われてしまい、トウヤとマックスは苦い顔をして座り続けるしかなかった。何もかも変わってしまった。…そう二人は思った。自分達へと向けられる人間達の眼差し。そして待遇。でも二人は思っていた。あの時指令型は「特務」と、そう言っていた。


 ――特務。一体何をさせられるのか分からないが、自分達がゴールドへと引き上げられた理由は何となく分かる様な気がした。合同清掃作戦。今年はまだ人選が発表されていない。


 そろそろの筈だ。今年の清掃作戦の人選が発表されたという話は聞いていない。そんな中で上げられた自分達のランク。…二人にとってそれは恐怖でしかなかった。


 確かに合同清掃作戦に選ばれても、腕に覚えがあれば生きて帰れる。でもそれはあくまでシルバーから聞いた話だ。作戦への参加人員が余りにも多い為か、彼らはゴールドに関しては見ていないと言い張るばかりなのだ。そして自分達は生きて帰れたと強調してくる。


 その意味を察せないほど二人は子供ではなかった。もし自分達の想像が正しいとすれば、それは自分達の最期を意味する。現実のものとなれば、おそらく彼らの元へ帰還できまい。


 自分達のランクが上げられた理由を指令型は説明しなかった。でもおそらくは、清掃作戦へと参加させる人員の調整であろうと二人は考えていた。それにと二人は苦い顔をする。


 清掃作戦での清掃対象はアゾロイド。そして今回ハウンド・ドッグが第一一〇プレハブに集まったのは、先だって発見された遺跡内に巣食うアゾロイドを掃討する為なのだ。


 あれほど大量にアゾロイドが残っていたのだ。…本来対応すべき中位・上位のダスト達が不足していると考えるべきだ。でもゲイボルグの意見は違った。単純に都市から遠いからだと、そう彼は言ってきたのだ。遺跡から一番近い都市まで優に千キロ以上はある。それだけ距離があれば都市は対処しないだろうと、そう彼は独り言のように言ったのだ。


 都市は自らに害が無ければ動かない。そして絶対数の少ない貴重なゴールドやシルバーを動かす筈も無い。そうゲイボルグは会議を始める前に呆れ顔をして漏らしたのである。


 そうして始まった会議の片隅に座る二人ではあったが、それを聞いているうちに二人は呆気に取られてしまった。作戦の内容は至ってシンプル。闘技場の出入口を爆薬で塞いで、自分達は遺跡の山頂から一気に駆け降りましょうと云うものだったのだ。…爆薬で出入口を塞いでアゾロイドを閉じ込めて、自分達は三千メートル級の山の頂から駆け降りようと言うのだ。正気を疑う作戦である。自分達が人間だという事を忘れているとしか思えない。


 トウヤとマックスは問題ない。何せダストだ。体の大半は機械なのだから気圧の変化など取るに足りない問題だろう。しかし彼らは違う。彼らは生身の人間なのだ。…それなのに、


 だが不思議とシンプル過ぎる作戦に異を唱える者は居らず、着々と進んで行く様を見て、それが可能なのだと思い知らされた瞬間だった。流石はハウンド・ドッグ。普通の人間とは一線を画している。…と言うか規格外だ。生身の人間と言うには規格外すぎる。


 そして爆薬を仕掛ける者も決まり、会議は無事終了となった。因みに山頂へは自力で登るとの事。トウヤとマックスの二人はダストの為、戦力の偏りを避ける為に東西へ分けて配置される事になった。東にはトウヤと同行者のシス、西にはマックスにスオウとジュナ。出発は夜明け前。現地へは各々のジープで向かえとの事。…やはり皆ジープなのだな。


 二人はそんな事を思いつつ席を立ち、ハウンド・ドッグの者達がテントを出るのに邪魔にならないよう隅に避けて佇んでいた。その際何度も話し掛けられてしまい、二人は愛想笑いを浮かべて対応するしかなかった。「頼りにしてるからな」「今度飲もうぜ」。そんな言葉を掛けられてしまい、ダストに対しての言葉とは思えず二人は困り顔をするしかなかった。


 彼らの誰一人、ダストである二人の事を蔑まなかったのである。…こんな事は初めてだ。ダストになって一度も覚えがない経験である。その為に二人には彼らの柔らかい眼差しが辛くて仕方なく、何故嘲笑を向けてくれないのかと困惑していた。


 そんな二人の様子を、スオウは眉根を寄せて見つめていた。そうしてテント内に自分達とゲイボルグだけになると、スオウは思い切る様に二人に向けて言っていった。


「ねぇ二人とも。今回の作戦が無事終わったら、僕達との契約を解除してもいいんだよ? 今の君達には帰る場所があるし、こんな危険な外にいつまでも居る必要は無い。帰る場所があるのなら帰るべきだ。僕達の事は気にしないで? 君達の良い様にしてよ」


 言われてトウヤとマックスは目を瞬かせていき、互いに顔を見合わせた後、反射的にシスやジュナへと視線を向けていた。だが二人の表情はスオウ同様寂しげで、何か意見しようという気は無いようだった。そんな様子を見て、マックスが慌ててスオウへと言っていく。


「…ちょ、ちょっと待てよ。突然なに言い出すんだ。…スオウ、何かあったのか?」


 だがスオウは小さく俯いていって「…だって」と、漏らして黙り込んでしまう。トウヤはここでスオウ達が考えている事に気付き、もしやと呆れ顔をしてスオウに言い返していた。


「帰る場所。…スオウ、一体何を勘違いしている。あの豪邸の事か。だとしたら筋違いだ。確かに俺達のランクは上がった。それも何の前触れも無く突然にな。…しかしな、スオウ。お前の突飛でも無い発言に答える前に言っておくぞ。今年の清掃作戦はな、まだ行われていないんだ。人選すら始まっていない筈だ。…この意味、お前だって分かるだろう?」


「…え」


 静かな声でトウヤから言われて、スオウは表情を強張らせていた。同時にシスやジュナは弾かれた様にトウヤとマックスを見て、そこにあった物寂しい顔に愕然としていく。


 そんな彼らの反応を見て、トウヤは悲しげに笑いながら話を続けていった。


「もう分かっただろう。十大都市が行う清掃作戦。…おそらくは、その作戦の中核を担っているゴールドの数が不足しているんだ。その為に引き上げられたのだと、俺達はそう考えている。ゴールドに関して下位のダストには何の情報も回って来ない。だから俺達もゴールドに関しては何も知らないんだ。でももしゴールドが定期作戦の為に在るのだとすれば、俺達は確実に一年以内に死ぬ事に…廃棄処分される事になる。何せゴールドとして定期作戦に参加するんだ。シルバーとしてなら未だしも、ゴールドとして参加するんだからな。俺達が一年以上生き延びられる確率は無に等しいだろう。それを踏まえて考えると…もう分かるだろう? あんな非常識な豪邸を与えられた意味が。俺達の装備が突然増強された意味が」


「…まさか」


 トウヤから言われて、スオウは愕然とするしかなかった。代わりにシスが前に踏み出してきて、顔色を変えながらトウヤへと言ってくる。


「どうせすぐ死ぬんだから…逃げられないよう餌で釣ったって事か? あの豪邸も装備も、何もかもその為だって言うのかよっ! 狂ってやがる。そんな事の為にお前達はっ――」


「「……」」


 それに二人は答えられず、寂しげに視線を逸らすしかなかった。しかし、そうとしか考えられなかった。それ以外に自分達がゴールドへと上げられる理由が無い。…何せ少し前まで最下位のランクEだったのだ。それが突然Bへと引き上げられて、気付けば最上位のSだ。何かある。そう考えるのが自然だった。そして今年の清掃作戦は行われていない。


 それに気付いてしまうと、成程と納得している自分達が居た。だからゴールドにされた。それ以外に無いではないかと。二人は諦めていた。どうせダストだ。拒否権など無い。


 そんな二人が発する空気を読み取ったのだろう。ジュナが憤怒を浮かべて叱ってくる。


「何もかも悟り切ったような顔をするんじゃないわよ。…生きる事を諦めるなんて、そんなの絶対に許さないからね。今あなた達はここに居て生きてるでしょうっ! 誰かに命ぜられたら従うの? 自分の意志で決めなさいっ! 誰かに命ぜられて従わず自分でっ!」


「「……」」


 それに二人は沈黙するしかなかった。自分達はダストだ。…ダストである以上、都市から見放されたら体を維持する事が出来ない。そうなると死あるのみだ。どのみち行く先は同じ。逆らうのは不可能なのだ。自分達の生殺与奪は都市にある。だから従うしかないのだ。


 でも、そんなダストの事情が人間である彼らに分かる筈も無い。ジュナとシスは憤怒の顔を浮かべており、スオウは自らの失言に気付いて唇を噛み締めている。トウヤとマックスはただ寂しげに苦笑するしかなく、近いうちに来るであろう彼らとの別れを覚悟していた。


 トウヤはそんな彼らに苦笑していき、自分はダストなのだと言い聞かせながら告げる。


「俺達の運命は変えられない。…だからスオウ、そしてジュナ、シス。…ありがとう。俺達の為に心を砕いてくれてありがとう。最期にお前達のような人間と出会えて良かった。それだけが俺達の救いだ。あのまま都市で生きて、死んで逝かなくて良かった。本当に――」


「…止めろ」


 そこへ、怒気に満ちたスオウの声が響く。それにジュナとシスは訝しげに顔を顰めていき、マックスは不思議そうに首を傾げていった。そしてトウヤが言葉の意味を問おうとした時、スオウが怒りに満ちた顔でトウヤの胸元を掴み上げながら言うのだった。


「僕は絶対に許さないぞ。そんな事で諦めさせてなるものか! 今の君達には僕達が居る。僕達が居るんだっ! だから諦めさせない。僕達が守ってみせるっ! 絶対に諦めさせてなるものかっ! 僕達はその為にハウンド・ドッグになったんだ。必ず守ってみせるっ!」


「…スオウ」


 凄まじい勢いで怒鳴られて、トウヤは思わず目を瞬かせていた。そこでスオウは我に返り、掴んでいたトウヤの胸元から手を離して「…ごめん」と小さく謝罪してくる。


 代わりにスオウはトウヤの頭を撫でていき、何故か頭を撫でられたトウヤは弾かれた様に顔を上げており、気付けば頬へと涙を伝わせて唇を噛み締めていた。


 そんなトウヤの様子を見て、スオウは慰める様に告げていく。


「…まだ時間はある。だから諦めないで。諦めちゃ駄目だ。だって君達は生きているんだ。何もかも終わった訳じゃない。生きている限り可能性はある。僕はそう信じている。だから君達も諦めないで。一緒に考えよう。そうすればきっと可能性は開けてくる。だから――」


 優しくスオウから言われて、トウヤはただ双肩を小刻みに震わせるしかない。その隣ではマックスも双眸に涙を滲ませており、それに気付いたスオウはトウヤを、続いてマックスの頭を自らの胸に抱き寄せていき、そんな二人の頭を撫でながら改めて言うのだった。


「君達は仲間だ。ダストか人間かなんて関係ない。…そんなもの、僕達には関係ないんだ。僕達はハウンド・ドッグだ。誰かを守る為に僕達は居る。その為に僕達は居るんだっ!」


 激情を吐き出す様に言われて、二人はスオウの胸に縋って涙を流すしかなかった。スオウはそんな二人の涙を受け止めていき、二人に見えないよう怒りで顔を歪めていた。


 そして無言で佇むジュナとシスを見つめていき、声を震わせながら言っていく。


「二人を生贄になんてさせるものか。僕達は都市の連中とは違うっ! 二人は仲間だ。仲間を守って何が悪い。ダストにだけ何もかも押し付ける卑怯者の集まりに渡すものかっ!」


 そう激怒して行くスオウの様を見て、ジュナとシスは静かに頷いていく。そして声も無く泣き続ける二人を見つめていき、シスは吐き気を堪える様に苦い顔をして言うのだった。


「まさかそんな遣り方でアゾロイドやキメラを片付けてたなんてな。…都市の遣り口には嫌気が差すぜ。毎年行われている清掃作戦に関して少しは知ってたが、死ぬのを前提とした作戦を行うこと自体が間違えてんだ。何時代だってってんだよっ! こんな近代で大昔と同じ戦法を取ってんじゃねぇっ! 当然俺も賛成だ。二人は都市には渡さない。絶対だ」


 シスの言葉にジュナも頷いていき、未だ泣き続けている二人を見つめて言っていった。


「政治家ってのは本当に変わらないわね。いつの時代もそう。自分達が痛みを伴わないから理解しようともしない。痛みは全部下に押し付けて、自分達は胡坐をかくばかり。最低ね。そして人命を軽視している状況を良しとしている都市の連中もおかしいのよ。私も賛成よ。二人は都市には絶対に渡さないわ。皆で考えましょう。きっと何か方法はある筈よ」


 そんな二人の意見にスオウは頷いていって、スオウは未だ泣き止まない二人の涙を受け止め続けた。…そして、そんな彼らの様子を遠目にしていたゲイボルグは、彼らの熱い決意を聞いて小さく微笑んでいき、彼らに気付かれないよう静かにその場を後にしていった。


 年寄りの遣り方に逆らい、新しい道を切り開くのは常に若者の役目。…そうゲイボルグは感じた。そうして時代は動いていくのだ。年寄りから若者へと、そして次の世代へと。


 きっと他に方法はある。そう信じる彼らの意志をゲイボルグは一人見守る。彼らは今までゲイボルグが全て聞いていた事に気付きもせず、今はとにかくと二人が泣き止むのを只管と待ち続けた。きっと何か方法がある。今はそう信じるしかない。そう信じるしか――。


 その為に自分達はハウンド・ドッグになったのだから。もう自分達は泣く事しか出来ない子供ではない。だから今度は自分達がこの子達を守る。嘗て自分達が大人達に守られていたように、今度は自分達がこの子達を守るのだ。その為に自分達はハウンド・ドッグになった。


 しかし戦うしか能の無い自分達では、彼らの涙を止める術などある筈も無く、彼らの涙を胸で受け止めてやるしかない。…それでもと、彼らは静かに決意する。


 彼らが笑って生きていけるよう、何か方法を探そう。きっと何かある。きっと何か――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る