第8話

 いらいらと過ごす日々が続いた。何にいらついているのか判らないことが更に舜を苛立たせた。母親に当たることは決してしなかったが、案じ顔で問いただされても、すまなさそうに目をそらすか、作り笑いでごまかした。

 部活は幽霊部員並に出席率が落ち、受験退部だとかげで囁かれた。水沢沙穂と、話す機会はなかった。廊下ですれ違いざまに気遣きづかわしげな視線を投げられても、気付かないことがほとんどだった。

 寝ても覚めても脳裏にちらつくのは同じ顔だ。ほんの一瞬、あらわになった二重ふたえの目。少年を蹂躙じゅうりんした直後とはとても思えない、冷たく冴えわたった眼差し。

 やめとけよ、と諌止かんしする声が繰り返しよみがえり、そのたびに体がこわばって動けなくなった。全身の血流が早まってどくどくと脈打ち、息苦しさのあまりうずくまることさえままあった。憎くてたまらないのに、相手のことが頭から離れない。心と体がばらばらになってしまったかのように、考えれば考えるほど鼓動こどうは乱れ、抑えが効かなくなってゆく。

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