第32話 真相
「後堂さん!」
「先生っ。どうしてこんなところに」
「よお。夕方までに帰るつもりだったんだが、いろいろあってな。でもまあいいタイミングでの登場じゃね俺」
朝から行方知らずだった後堂の登場に虎太郎と碧は驚いた。
脇腹をおさえて壁に寄りかかっている後堂は、へへへと笑って大型の銃を持ち上げた。
「多分だが、数分間は動けないはずだ。しかしまあ、まさかこんなことになってるとは驚いたぜ」
「なんで生きてんのよ後堂……!」
「んなこえー顔すんじゃねーよ藤田。実は俺が認める美人さんが台無しだぜ?」
「ふざけないで。一番があんたの死亡を確認したはずだわ。なのにどうして」
「俺もマジで殺されたと思ったんだけどな。片山がうまく誤魔化してくれたらしい」
「なん……ですって?」
後堂は入り口付近で血を流し人形のように倒れている片山を見て悲しそうに目を細めた。そして近づき半分開いた片山の目をそっと閉じた。
「奇跡に近い。なんたってこいつが俺を撃ったのは、危険動物保管の為に一時的に冷凍睡眠状態にする銃、つまりは人には使ってはいけない特殊な銃だった。まったくこのバカは……俺のことなんだと思ってやがる」
「冷凍睡眠?」
「そもそもAZはどうやって人の死を知る? 実際バイタルをチェックするくらいしかできないだろ。第四世代の機能を一番知っているのは片山だ。〝AZ〟をごまかすことくらいできるさ」
「一時的にあんたを仮死状態にしたってこと?」
「そうだ。だから麻酔銃じゃだめだった。当たり所が悪ければ俺は今頃死んでいただろうな。いいようにかすってくれたおかげで、数時間ぶっ倒れてただけで済んだのさ。それにまさかこいつがアンドロイドに効くとは俺も知らなかったぜ」
雫は眉間に力を入れ舌打ちした。
雫は片山に、後堂の殺し方は任せると言っていた。片山はこれを利用し、クリスに銃を生成してもらっていたのだ。見た目はなんの変哲もない、少し大きな銃。だからクリスはそれを不信に思うこともなく型番だけを頼りに銃を造り出してしまった。そして後堂は撃たれた直後体の熱が冷め、心肺も停止した。
人間ではないクリスにはそれが人の死だったのだ。
「お前に俺を死んだと思わせることができたのは片山のおかげだ。そのおかげで俺は今ここにいる」
「しかしなぜだ雫? 先生は大学で〝AZ〟のことを教えてくれた恩人だろう。なぜ殺そうとしたんだ」
不思議に思った碧は雫に問う。
「このあたりは正直憂さ晴らしに過ぎないんだけど。でも大事な意味はあるわ。なぜならそいつは――〝AZ〟の開発者だから」
「な……先生が?」
「わたしがあの大学に入ったのはそれが理由。アースヴィレッジに入るなら、〝AZ〟を造った張本人から話を聞いたほうがいいもの」
〝AZ〟の初期ロットを持っていた雫であるからそれはわかった。あの事件の後、保管していたパッケージを見て当時の開発者の名前を知った。後堂大介――そして。
「もう一人の開発者は片山郷剣。二人で〝AZ〟を造ったのよ」
虎太郎と碧は驚きを隠せなかった。こんなにも身近に〝AZ〟を造った人がいたのだから。
「確かに俺は〝AZ〟を生み出した。高校時代からの親友片山とな」
虎太郎はある疑問を口にする。
「それが本当なら、後堂さんも……あの事件に関わったのか?」
後堂はゆっくりとかぶりを振った。
「いや、信じて欲しいが俺はあとで知った。もともと第二世代アンドロイドの流通販売をしていた片山グループで、俺たちが造った第三世代を売ることになったのが始まりだった。開発して数年――あの会社はアースヴィレッジに名を変え〝AZ〟を販売し始めた。そしてその後俺の知らないところで密かに軍事用の〝AZ〟を造れないかとの話を持ち出された社長は、提示された金額に目がくらみ、その話を受けたらしい」
雫は唇を強く噛みながらその話を黙って聞いている。
「人を攻撃するアンドロイド。簡単のようで難しいことだ。技術的なことを聞くなら俺に聞いたほうが早いが、俺は確実に反対するだろうと思ったんだろう。俺に知られないよう、社長は息子の郷剣を使ってその開発と実験を行っていた。七年前のロボット博物館で不自然な火災、そして人がアンドロイドに襲われたなんていう噂を聞いて、俺は片山に問いただした。すると片山は泣きながら全てを話してくれたよ」
いつの間にか後堂の声には震えが混じっていた。
「あいつもいやいやではありながら結局は社長に協力していた。自分の罪を認めていたのにあいつはそれを世間に公表しなかった。社長である父親を止められなかったあいつのことを俺は許せなかった。それから俺は社長に立ち向かった。だが証拠がなにもなかったんだ。どれだけ探しても、被害にあった人の名前もわからなくされていた。俺がアースヴィレッジを去り何年か経ってから美島からその話を聞いたとき、俺はあの時諦めた自分をぶん殴ってやりたかった。こんなにも苦しんでた奴がいるのに、なにもできなかった自分をな。悪かったな、美島。そして美島弟――いや虎太郎。そして藤田。お前には俺を殺してもいい理由が十分にある。本当に、本当にすまなかった」
後堂は膝をつき、地に頭をぐっと押し付けながら謝罪をした。
「なら……なら死になさいよ! どいつもこいつも謝るだけ、同情するだけじゃない! わたしの気持ちはそんなんじゃ――」
すると突然アルメリアがギギギと不快な音を立て動くのを再開させた。だがまだ完全に動けない。
「悪いが俺を殺すのはこのあとにしてくれ。これじゃあ誰もあいつを止められない。ここから逃げられれば無差別に人を殺していくだろう」
雫は無差別という言葉に反応し口を閉じた。
「安心しろ。俺はこいつがこうなった時の対処方法を知っている」
「ホントですか?」
「片山が俺を撃ったあとに投げ捨てていった、この銃に貼り付けてあったメモリーカード。それに第四世代〝AZ〟、そしてA106――アルメリアのことがすべてが入っていた」
「アルメリアの……すべて……」
「そうだ。それでわかったことがある。今こいつは苦しんでるだけなんだ。それを解放させてやれば、きっともとに戻るはずだ。だが正直これは賭けだ」
後堂は片山に撃たれた腹部を押さえながらゆっくりと虎太郎たちのもとへ歩いていく。しかし足がもつれ転倒してしまう。碧がすぐに駆け寄り起こそうとしたが、体に限界が来たのか、立ち上ることはできなかった。
「はぁ、はぁ。畜生、見栄張って我慢してたけど思ったよりヤベーなこりゃ……虎太郎頼む。俺はそっちに行けそうにない。そいつにかかっているパスを解除して、昔の記憶を呼び戻してやれ。これはお前だけが解除できる。パスは――」
「だ、黙ってよ! もうわたしはここでおしまいにするって決めたのよ! わたしが望む人が死ねばそれでいいの!」
言いながら雫は後堂に向かって発砲した。当たることはなかったが、これ以上雫を興奮させると本当に危険だ。それほど雫の体は震え、呼吸が乱れていた。
「昔の……記憶?」
パス、そして記憶とはなんのことだ。虎太郎は頭を悩ませる。
雫は虎太郎へと銃の向きを変えた。いつ撃たれてもおかしくはない。
小さく後堂はある言葉を碧に耳打ちする。雫はそれに気づいていない。雫はその言葉に驚きを隠すのに必死だったが、虎太郎にその言葉を伝える方法は一つある。
碧はゆっくり「ふうーっ」と深呼吸し、
「――――――――♪」
「? なに碧、鼻歌なんて歌って。ついにあんたも壊れた?」
「――――――――♪」
碧は返答することなくメロディを奏でた。
「この歌……まさか、でもなんで?」
虎太郎はこの歌を知っていた。
「叫べ虎太郎! その歌を歌っていた人の名前を!」
「碧! なにを!」
「虎太郎早く!」
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