第31話 混乱

 十分すぎるほど痛めつけたあと、アルメリアはクリスの襟首を掴み、壁に空いた穴――つまり先程までいた虎太郎たちの方へ投げ飛ばした。


 クリスが背中から受身も取れず落下するのを見て、虎太郎たちは思わず息を呑む。雫も同様だ。


「オー……なー」


「なんなの……? 一体あの〝AZ〟はなんだって言うの!?」


「アルメリアやめろ!」


 すでにボロボロになっているクリスにトドメをさすつもりなのか、アルメリアはゆっくりと歩いてくる。虎太郎の呼びかけなど聞こえていないのだろう。恐怖すら覚える無表情でただ敵を見つめていた。


 ちょうど雫の目の前に転がっているクリスのもとへアルメリアが近づく。クリスは起き上がろうとするが、今まで受けたダメージの影響で体をうまく動かせず、右脚については付け根のモーターが空回りし立ち上がれなくなっていた。


「ちょっと、近づかないで!」


 雫は銃の照準をアルメリアに合わせ、何発も発砲した。最初の二発は焦りからか天井や地面に当たる。残り三発は連続で肩や腹部に当たったが、少しその部分が焦げただけで、なんのダメージも受けていないようだった。

 雫の発砲に目もくれず、アルメリアは横たわるクリスのほうへ視線を落とし、剣を振り上げる。 


 思わず虎太郎は飛び出した。近くで呼びかければきっと聞いてくれると信じて。


「止まれアルメリア! もういい。こいつはもう戦えない。戦う理由はないんだ!」


「虎太郎! 危ない下がれ!」


「嫌だね! 俺はこいつに殺しなんて絶対にさせない。たとえそれが〝AZ〟だったとしてもな。俺はもう、二度とアンドロイドに〝あいつ〟のような真似はしてほしくない!」


 碧の命令に逆らい、虎太郎はとうとうアルメリアの正面に立った。危険は承知だが、このままでは碧や雫にも手を出しかねない。アルメリアを止められるのは、オーナーである自分しかいない。


「止まってくれアルメリア。お願いだ」


 両手を広げ虎太郎は願う。


「ピピ――ピィィ――。ターゲット、変更」


「アルメリア!」


 クリスを見つめていた瞳が虎太郎の方へと移る。虎太郎を敵と認識しているようだ。

 アルメリアは剣を振り下ろす動作にかかる。虎太郎が目を瞑ったその時――


 一発の銃声がこの空間に響いた。

 虎太郎は今の銃声と、自分が斬られていないことに驚きながらゆっくりと目を開けた。


「な……」 


 目の前にいるアルメリアの体全体からひんやりとした冷気が発生し、剣を振り上げた状態で静止していた。


 虎太郎と碧は銃を持っている雫を見たが、どうやら雫が撃ったわけではないらしい。雫は部屋全体を見回し、最後に入口を見て目を見開いた。


「あっぶねー。間に合ってよかったぜ」


「なんで、なんであんたが……」



 雫にとってここにいるはずのない人物がそこにはいた。

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