第20話 再会

 同日午後二時――後堂はとある古ぼけた研究施設にいた。


「きったね。ここまだ壊されてねーのかよ」


 建物は何十年も前からあるような古い造り。機材も一〇年前くらいの古いものばかりが並んでいた。人の気配がなく、埃が辺り一面にかぶっているところを見ると、もう使われていない研究所のようだ。


「で、こんなところに呼び出すとか趣味わりーな」


「わざわざ遠いところすまない。後堂――七年ぶりだな。変わらないようで安心した」

「お前はそんないいスーツ着るようなやつじゃなかったけどな。片山」


 研究所のとある一室。後堂――そしてアースヴィレッジにて〝AZ〟の総合開発責任者という肩書きを持つ人物――片山郷剣がそこにいた。


「たくさんの人の上に立つのは疲れるよ。なんたって世界のアースヴィレッジだからね」


「その世界のアースヴィレッジのお偉いさんが俺になんのようだ。まあ俺も聞きたいことがたくさんあるんだけどよ。行方不明リストに載ってるお前が何故こんなところにいるのか、そして……お前の後ろにいる奴のこと、とかな」


 片山は微笑み、視線を自分の後方へ移す。数メートル後方――そこには赤い目を光らせ後堂を見つめる一人の少女が立っていた。薄暗いため外見まではよく見えない。


「まさかとは思うが、そいつは第四世代の〝AZ〟じゃねーよな」


「……何故わかった。君はこの存在を知らないはず……そうか」


 片山は一人納得し頷く。


「そういえば、我が社で大成功を収めた美島虎太郎くんの姉が君に世話になっていたと聞いたことがあったな。なるほどそういうことか。いやすごい、これも運命か」


 片山は顎に手に当てると意味深な笑い顔をつくり、後堂へ視線を向け直した。


「虎太郎くんの元に第四世代の〝AZ〟が渡ったのは僕も知っている。おそらく君は現在それに関わっている、そうだね?」


「肯定したらどうなる」


「その問いは肯定したも同じだよ後堂。君は今A106〝アルメリア〟を匿っている。場所は電話した時に君がいた大学だろうけど」


 後堂は舌打ちした。


「まあお前にハッタリは効かねーってわかってたからな。まあそれはい。で、お前はなんだ。この一連の事件の糸を引いてんのはお前なのか?」


「さて、どうかな」


「はあ?」


「僕に協力するなら教えてあげるよ後堂」


 そして片山は急に真顔になると、後堂に手を差し伸べた。


「なにを言ってやがる。だれがお前なんかに……! 〝あれあだけのこと〟をやっておきながら、まだお前は!」


「……」


「俺は絶対に〝AZ〟を悪に利用するような真似はしない。絶対にだ」


「わかってもらえないか。なら仕方ない――クリス」


 クリスと呼ばれる〝AZ〟がゆっくりと頷いた。


「なんだぁ? 力ずくか?」


「違う」


 抑揚のない声で返答するクリス。そして目を閉じそのまま静止した。


「――」


「おい片山。こいつになにをさせた!」


「他の〝AZ〟を君の大学に向かわせる手配をしているのさ」


「なんだと?」


 後堂が止めさせようと一歩前に出ると、片山は隠し持っていた銃を懐から取り出し、そのまま後堂に銃口を向けた。


「お前……!」


「悪いけど、こちらも真剣なんだ。第四世代――特にA106が万が一他の者の手に渡ることがあれば、アンドロイド業界――いや世界全体を混乱に招く」


「第四世代はなんの目的で造られた! それにアルメリアは一体何者なんだ! あいつになにをさせようとしている!」


「協力の意思のない君に答える必要はない。これ以上の質問攻めも鬱陶しいんでね。ここでお開きにしよう」


「片山! てめぇ!」


「さよならだ、後堂。また会えてうれしかった」


「片山ああああああああああああああああああ!」


 人気のない研究所に一発の銃声が響き渡った。


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