第13話 後堂大介

「お前。誰かと思えば……」


「いろいろ聞きたいことがあるのと、修理依頼に来たでよ」


「修理ぃ? つーかお前俺も聞きたいことが山ほど――はぁ」


 男はめんどくさそうにベッドから起き上がると、床に落ちている白衣を羽織った。


「二年ぶり、か……? 久しぶりだな。全然連絡よこさねーから死んだかと思ってたぜ。それにしても相変わらずの童顔だな。つーか…………なんだよその喋り方っ! らしくねぇ気持ちわりぃ! 頭でも打っておかしくなったか? それにその格好……戦争にでも行くのかよ。そんなんじゃ男できねーだろ」


「こたろーがいるから別にそんなのはいいもの」


「こたろー? 誰だそれ」


 碧は振り返って虎太郎を男の近くに招く。


「弟のこたろー」


「どうも。弟の虎太郎です。姉がお世話になったようで」


「あー、そういや聞いたことあったな。へぇ、こっちのほうが全然お前よりモテそうだ」


「自慢の弟だもの」


 男が虎太郎に顔を近づける。先程はぼさぼさの髪と髭によって不潔そうに見えたが、近くで見ると顔の彫りが深く意外といい男だった。


「俺は後堂大介ごどうだいすけ。ここの物理学の准教授やらされてるもんだ」


「やらされてる?」


「別に物理がものすげー得意っちゅうことじゃないんだが、テキトーに書いた論文が好評でな。なんだかんだでここにいるはめになっちまったんだよ」


「はあ」


 虎太郎はため息のような適当な返事をすると、先ほどのリビングのような部屋に案内された。

 テーブル前のソファーに腰掛けた三人のもとに、先ほど後堂と寝ていた女性のうちの一人が温かい緑茶を持ってきてくれた。しかしその女性が虎太郎のすぐ脇に来た途端、虎太郎は口を抑えた。


「どうした? このお茶だめか?」


 後堂の問いに虎太郎は大きくかぶりを振った。


 この女性は〝AZ〟だったのだ。先ほどこの女性を見た時は、肌色が多く見えたため目を伏せてしまったが、近づいた瞬間正体に気づき軽い吐き気を催してしまった。


「すみません。俺、〝AZ〟がダメなんです。近くに来ると拒否反応起こしちゃって」


「あー、わりぃ。そういえば聞いたことあったわ」


 後堂はそう謝ると、近くにいる〝AZ〟を寝室に戻るよう促した。


「……落ち着いたか?」


「はい」


 やはりアルメリアなどの第四世代アンドロイドと違い、第三世代は目の前まで寄れば人間ではないことがわかる。


「で、美島よー。修理ってなんだ?」


「あずの修理」


「〝AZ〟? お前んち今のが原因で〝AZ〟ないんだろ? 知り合いのやつか?」


「ふむぅ。誰かのやつかっていうか……こたろーのっていうか」


「はあ?」


 話が矛盾していて後堂の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。


「とりあえず車まで来て欲しいんだよ。絶対興味はあると思うから」





 碧の言うまま後堂は所有している二体の〝AZ〟を運び係として引き連れ(虎太郎に近づかないように少し距離を置きながら)車までやってきた。


「そこにいるでよ」


「んー?」


 後部座席のスライド式のドアを開け、碧は後堂に二体の〝AZ〟を見せた。


「うおっ」


「驚いた?」


 碧は後堂の反応を伺う。


「なんだこのゲロ吐いてるやつは」


「すんませんそれじゃないっす」


 虎太郎は謝り、その隣に座るのが見せたいものだと説明する。


「これが〝AZぅ〟? んな馬鹿な。人間じゃねーか。ま、美少女すぎるという点は〝AZ〟っぽいけどよ」


 まるで本当に寝ているような姿で座る二体を見て、からかわれたとでも思ったのか、後堂はこれが〝AZ〟だと少しも信じようとはしていなかった。

 そこで虎太郎は、自分も疑っていた時に確信に変わった、〝AZ〟である証拠を見せた――。


「……まじかよ」


「センセの協力が必要なんだよ。これから大きなことが起こりそうなんだ」

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