第2話

其処は、極彩色の世界だった。

眼前には大空が広がり、

眼下には桜が舞い散る。

其は箱庭。

神々が人間を蹂躙し、

英雄が神々をも打倒する場所。

此処では勝利と、敗北が同居し、栄光と興廃が介在する。

少年少女が足を踏み入れ、運命は繰り返す。

瀬丹田陽は絶望していた。

当たり前である。誰だって手紙を開いたら上空4000mに投げ出されるとは思いもしないだろう。

今更ながら、御門のおっさんが、自己紹介を勧める時に、向こうに行ったらそんな暇はないと言っていたのを思い出す。

「だからって普通はこんなことしねえだろチクショウ。」

悪態を吐くがそれに応えてくれる人はいない。

取り敢えず打開策を出さないとまずいが、陽にはどうも出来ない。

それならと思い横を見る。

練花はあまりの衝撃に気を失っているようで、織は楽しそうに笑っている。

……楽しそう?

もう一度織を見てみると、まるで遠足に行く子供のような笑顔を浮かべていた。

「っておい!なんでテメエ楽しそうなんだよ。この状況わかってんのか?」

思わず叫ぶ。

「イヤッホォォォウ!」

聞こえていない。

「おい、大丈夫かお前、壊れてねえよな?」

「ん?陽くん。どうかしたの?」

「ようやく気付いたか。じゃあ今の状況は?」

「今は大絶賛落下中だね。このまま、落ちたら間違えなく即死だね。もしかしたらト■とジェリーみたいに地面に穴が空くかもよ?」

「状況をわかってるならそれでいい。で、この状況を楽しんでるってことはお前には打開策がなんかあるのか?あるんだよな?」

というかあってもらわなくては困る。

「ん?ないよ。」

「うわぁぁぁどうすんだよこれ、このままじゃ死ぬぞ⁉︎」

「うん。でも、僕も君もないんだったら結局みんな死ぬんでしょ。なら最後はいいスカイダイビングだったと思って楽しまないと。」

「ふっざけんなそんなの納得するはずねーじゃねーか。ってそうだ、練花は?あいつならなんか策があるんじゃねーかな。」

「そうかもしれないねー。ただ…もう時間切れかな。」

そう言って織は下を指さす。

そこには、さっきまであんなに離れていた地表が、すぐそこにあった。

「うわぁぁぁ!!」

「イィヤッホォォォウ!!」

死ぬ、と思って陽は目を瞑る。

……だが、想定した痛みは来ない。実際には何かに包まれた感覚がして、目を開ける。

すると、周りの空気が歪んで、クッションのようになっていた。

そのまま空気のクッションは陽たちを減速させ、地面に落とした。

「助かったぁ…。」

思わず安堵の声が漏れる。それから、周りを見渡して見る。

桜 桜 桜。周り全てに桜の花が咲いていた。風流さでは劣るかもしれないが、数なら日本の中でもかなり上位に入るのではと思うぐらいだ。どうやら陽たちは、この一帯で桜が植えられていない広場のような所に落ちたらしい。空が青々しいのと相まって爽やかな気分にさせてくれる。

「ねぇ、陽くん?」

今は凄く気分がいい。織のどんな質問にも気を悪くせず答える自信がある。

「もしかして、さっきので本当に死ぬと思ってたの?」

「は⁇」

「いや、常識的に考えたら、さっきのは良くてサプライズってとこで、こっちの安全は向こうで確保してあるでしょ。ま、確信は無かったけどね。」

陽の脳がようやく織の言葉を理解する。

「えっ……はあ⁈ じゃあお前、死なないの知ってて俺に教えなかったのか⁈」

「あったりまえじゃん。だってそっちの方が面白そうだったからね。」

前言撤回。今すぐ一発ぶん殴らないと気が済まない。

「てめぇ!」

掛け声と共に拳を一発。完全に不意打ちがったはずの一発は、「危なっ」と言う織の声と共に躱される。

「まだまだぁ!」

連続で拳を突き出すが、すべて躱される。

「はぁ…はぁ…てめぇ一発ぐらい殴らせろよ。全部躱しやがって。」

「いやだね。というか初対面の人の言葉を信用する方が悪いと思うよ。」

「おう。全くその通りだな。今後お前の言動には騙されることを前提に警戒する事にするよ。」

「ひどいなぁ。この世で僕以上に信頼できる人間はいないって言うのに。」

「ぬかせ。棒読みだろうが。」

まだ多少の苛立ちは残るが、それ以上にこいつのことを理解出来た気がするからいいかと割り切る。

「……っ…。」

「おう、ようやく気が付いたか。」

「大丈夫?」

「…ああ、そうか、オレは落下する途中で、気を失って…って、生きてる⁉︎ どうやって着地したんだ⁉︎」

「ああ、なんか空気の膜っぽい何かがさ、着地する瞬間に俺らを包んでくれて、それで助かったんだ。」

「そうか。ありがと。で、それはどっちがやったんだ?」

「俺は違うぞ。」

「僕も違うよ。ってことは、これはほんとに帝釈天さんからのサプライズってことだよね。じゃあ、ここは何処だろう?」

その質問に答えたのは、陽たちでは無かった。


作者コメ

まさか落下に1話使うとは…

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