第3話

「その質問は私がお答えさせていただくのですよ。」

そう言って話に入ってきた第三者の姿に、陽たちは驚く。話しかけてきたのは美少女だ–と言っても、その少女の顔立ちは愛くるしさに満ち溢れていて、胸も大きい。だが何と言っても、その少女の特筆すべき点は、青く長い髪から出ているウサギ耳にあるだろう。その上、ガーター服を着ていので、一種の男の理想を詰め込んだような存在になっているのだ。

「ここは“箱庭”の世界、つまり、貴方がたは待ち望んだ異世界にこうして、無事に、来られたのですよ。まあ、質問したい事も沢山あるの思いますので、これより、この世界について、お話しさせていただきます。」

無事に?と陽は内心でツッコミを入れる。

続きを促そうとした陽だが、織がそれを遮った。

「ね、ねぇ。ウサギの人。僕は二折織って言うんだ。君の名前は?」

「へ?私の名前は黒ウサギでございます。愛称ともいえますし、本名とも言えるのです。」

「じゃあ、黒ウサギさん。その耳は本物?」

「ええ、本物ですとも。毎日欠かさずお手入れしている自慢のウサ耳ですとも。」

ピコーン!とウサ耳を立てる黒ウサギ、本当に自慢らしい。

「お願いします。その耳に触らせて下さい!!」

それは初対面の女性に失礼だろ、と思ったが、なぜか黒ウサギは感激しているようだった。

「ま、まさか、その言葉を聞く事が出来る日が来ようとは‼今までの問題児たちと違って今回のはとても優等生で黒ウサギは感動しました。ええ、いいですとも!どうぞ御自由に触っちゃって下さいな!」

「オレは内土練花っていうんだ。オレも、触っていいか?」

「俺は瀬丹田陽だ。俺もいいか?」

思わず俺たちも確認を取る。せっかくだし触れるものは触っておきたい。

「ええ、もちろんでございます。」

黒ウサギに確認を取ったところで、ウサ耳を触る。黒ウサギのウサ耳は、フサフサとしていて、だが毛深くなく、触り心地が良かった。

そうしてウサ耳を堪能していると、織が突然、を取り出し、黒ウサギの毛を切ろうとした。

瞬間、黒ウサギの髪がピンクに変わり、3mほど離れてから言った。

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るだけなので黙って受け入れていましたが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳に切りかかるとは、どういう了見ですか⁉︎」

「好奇心の為せる業。」

「既視感有り余るフリーダム発言禁止‼︎」

そう言って黒ウサギはどこからともなく取り出したハリセンで織の頭を叩く。

スパァァン!という子気味良い音がしてから、織が答えた。

「黒ウサギのウサ耳ってさ、?人に近い?それとも兎?というかさっき髪の色が変わったよね。それは、?髪の毛の主成分はタンパク質だけど、化学構造の変化で起こるものかな?それともホルモン関係かな?ああ、知りたい!もっと知りたい‼︎」

その様子をみて、陽は織の本性に触れた気がした。こいつの本分はおそらく、圧倒的な知的好奇心にあるだろう。

「ねぇ、黒ウサギさん。その髪の毛、ついでに皮膚の皮を少しくれませんか?ちゃんとプレパラートにして大事に保存するから、お願い‼︎」

「それならいい…ってなる訳ないじゃないですか‼︎これは黒ウサギの自慢のウサ耳なんです。渡さないのですよ!」

「陽くん、練花さん、黒ウサギを捕まえよう。手伝って‼︎」

「陽さん、練花さん。貴方たちは箱庭に遂に来た優等生だと信じているのですよ‼︎」

2人から同時に協力を要請される。どうしようかと思っていると、

「悪いな黒ウサギ。さっきの織のご高説のお陰で、オレも興味が湧いちまった。ということで、その毛よこせ黒ウサギ!」

と言って、練花が織サイドにつく。

「陽さん。貴方だけは信じているのですよ‼︎」

「陽くん、一体どっちにつくんだい?」

さあ、どうしよう。そう思って黒ウサギと織を見る。

黒ウサギは純粋な瞳で見つめて来た。

織はぎらぎらとした目つきで、今にも涎を垂らさんとばかりの表情をしている。

……スッ

「陽さぁぁぁん‼︎」

黒ウサギのような女の子?に「信じています」と言われるのは初めてで嬉しかったのだが…

「ゴメン黒ウサギ、織が怖すぎてちょっと…」

そう、人間誰しも安全な方につくのである。ぶっちゃけいつか寝込みを襲われてバラされそうで怖い。

そういう事で黒ウサギを取り囲む。状況は3対1と有利だが、先の動きを見るに、基本性能が陽たちより高い。まだ陽たちの能力がわからないため、動かないが、その気になったらいつでも抜け出せるのだろう。

故に陽は先手を打つ。

織に一回目線を送り、これをフェイントとして、黒ウサギに接近する。黒ウサギはフェイントかからなかったが、この接近にはポイントがある。

それは縮地。

身体をかがめ、黒ウサギの死角となる様に左下側に潜り、伸び上がってウサ耳を取ろうとする。

黒ウサギはこれに反応が遅れるが、身体をひねってこれを躱し、体勢を整え、陽が動いて崩した陣形を抜け出す。

「チッ!」

陽は黒ウサギに追撃しようとしたが、途中でやめた。

「すまんな、織、練花。俺が陣形を崩したせいで、チャンスを逃してしまった。おそらく、黒ウサギがそこから全力で逃げたら、誰も追いつけない、髪の毛の収集はこれにてしまいだ。」

「まあ、そうなるのかな。残念だけど、それはまた今度という事で。」

「ドンマイ。まぁ、オレならもうちょい上手くやれたな。」

「中々良い接近なのです。陽さん。ただし、黒ウサギを捕らえるのなら、あと数倍の速度が必要なのですよ。」

そう言ったあと、4人に静寂が訪れる。まぁ、話す話題がないだけだが、

唐突に黒ウサギが口を開いた。

「では御三方様、もういたずらは済んだ様なので、この世界–“箱庭の世界”について説明させて頂いても宜しいでしょうか?」

陽たちは首を縦に振った。

「それではいいですか、御三方様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は御三方様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格ををプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」

「ギフトゲーム?」

「そうです!すでに気づいていらっしゃるでしょうが、御三方様は皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々は修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いてい競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのです。」

「“我々”と言うのは黒ウサギと釈天さんなのかい?」

「今回の場合はそうです。が、もちろん違う人に呼び出される可能性もあるのです!また、異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます。」

「僕たちにそれを選ぶ権利はあるの?また、選べる場合の制限時間は?」

「今回の場合ですと、自由に選ぶことができます。時間は一応一ヶ月と決まっていますが、早めに属していただくことをお勧めします。また、『ギフトゲーム』と言うのは、勝者がゲームの“主催者ホスト”が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております。」

「“主催者”とは?」

「様々なのです。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームをあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループを存在します。特徴として、前者は自由参加ですが、修羅神仏だけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険がありますが、見返りは大きいです。“主催者”によりますが、新たな“恩恵ギフト”をてにすることも、夢ではありません。

後者には賭るもの−金品・土地・名誉・人間…また、ギフトを賭けあうことも可能ですが、負けたら自分の才能をも失われる危険性ございます。どうかお気をつけて。」

「ゲームのはじめ方は?」

「期日内に登録するか、両者の合意をです。」

「この世界には法はあるの?全部ギフトゲーム?」

「人を殺さないなどの最低限の法はありますが、残りはギフトゲームです。例えば店の賞品をただで手に入れることも可能なのですし、両者合意で殺し合いですら可能なのですよ。」

「序列系の仕組みはどうなってるんだ?こんなゲームするんだから、何かしらあるんだろ?」

「中々鋭いですね。この箱庭は外門–箱庭の階層を示す外壁にある門のことです。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な証なのです。最高位は1桁、最低位は7桁でございます。1桁から3桁までを上層、4桁のことを中層、5桁以下を下層と呼び、また、それぞれが、東西南北に分かれているのですよ。また、東西南北それぞれに、“階層支配者フロアマスター”というその地区最強の主催者ホストの元、“地域支配者レギオンマスター”達がその地域ごとにいるのですよ。という事で、大体の説明は終わりましたが、その他の質問はありませんか?」

「俺はないぞ。」

「オレはない。」

「僕もないよ。」

「残りの説明については随時その時にするということにしましょう。では、ここは東側21055380外門の近郊なので…東側の“階層支配者”–蛟魔王こうまおう様にご挨拶に行きましょう。」


作者コメ

少し長いですが、説明なので、そんなに時間はかからなかったと思います。

次回、初めてのギフトゲーム。

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