第4話

箱庭2105380外門・内壁。コミュニティ“サウザンドアイズ”支店


「着いたのでございますよ。」

そう言って黒ウサギが連れてきたのは、一軒のお店だった。商店には、青い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記された旗が飾ってある。

黒ウサギは店内に入って行き、店員を呼んだ。

「ごめんください。蛟劉さんはいらっしゃいますでしょうか?」

「失礼ですがお客様、何処のコミュニティ出身でしょうか?」

「ああ、店員が変わったのでしたね。

…コミュニティ“ノーネーム”なのですよ。」

「大変申し訳ない無いのですが、“サウザンドアイズ”では“ノーネーム”は受付けて無く…もしかして春日部耀かすかべよう率いる“ノーネーム”でしょうか?」

「ええ、そうなのですよ。」

「大変失礼いたしました。今蛟劉さんを呼んで参ります。」

そう言って店員は店の奥に向かった。

「なぁ、黒ウサギ。」

「何でしょう、陽さん」

「“ノーネーム”ってのは黒ウサギのコミュニティの名前なのか?あと、店員の言い方だと、“ノーネーム”は複数ある事になってるぞ?」

「そうですね。この際説明しときましょう。まず、箱庭のコミュニティにはすべて、名と旗印とがあります。と言うか、名と旗印を決めてから、コミュニティの申請をします。ですが、この名と旗印はギフトゲームのチップにする事が出来るのです。ここで、名または旗印を賭けたゲームに負けた場合、負けたコミュニティは名と旗印を奪われるのです。そうして名を奪われたコミュニティの事を、箱庭では“ノーネーム”と称して言います。これによる弊害は身元を保証出来ない、相手から軽く見られる…等々多岐に渡ります。そして、黒ウサギのコミュニティには、名も旗印もないのです。」

「そんな大事な物なら、なんでチップに出すんだ?双方が納得しない限り、ギフトゲームは始まらないんだろ?」

「基本的には名と旗印はギフトゲームのチップにはなりません。ですが、人質を取るなどとした例外は存在します。ですがこれでノーネームとなるのは少数派です。大多数のコミュニティは、“魔王”によって奪われるのです。」

「魔王?」

「魔王というのは箱庭では“主催者権限ホストマスター”を悪用する者たちの総称を指します。“主催者権限ホストマスター”というのは、一部の神霊などが持つ、相手を強制的に自分のギフトゲームに参加させる事が出来る能力なのです。」

「それはかなりチートなんじゃ…」

横を見ると、織も練花を頬をひきつらせている。

「YES。その上魔王は基本的には神霊なので、強力な恩恵ギフトを保持している事が多く、箱庭では天災のようなものとされているのが一般的です。」

「じゃあさ、黒ウサギのコミュニティはかなりピンチな状態じゃないの?」

「少し前まではそうでした。ですが、陽さん達の前に召喚された三人のおかげで、黒ウサギのコミュニティは復興しつつあるのです!こうして、基本的に“ノーネーム”はお断りの“サウザンドアイズ”の顧客名簿に特例として載せて頂いているのも、ひとえにあの三人のおかげなのです!」

「へぇ、そんなに凄いのか。」

「ええ、北は“煌焰の都”、南は“アンダーウッド”まで所狭しと駆けに駆け、獅子奮迅の、大迷惑を振り撒いていたのですよ!あの三人に少しでも堅実さがあれば黒ウサギもあそこまでッ‼︎あそこまで苦労しなくて済んだのですよ……‼︎」

ヨヨヨ、と泣き崩れる黒ウサギ。

「ご愁傷さま。」

「ドンマイ。」

「とりあえず…なんかゴメンな?同じ異世界人として。」

前の三人-陽達からすれば先輩にあたる方々は、いろいろやらかしたらしい。

そんな話をしていると、店員が一人の男性を連れてやって来た。男性は眼帯で長身、着物の様な服を着崩していて、煙管を口に咥えている。だが、男性の立ち方や動きからは自信が感じられ、伊達に東側の“階層支配者”をやっているわけではなさそうだ。

「久しぶりやな。十六夜との冒険を楽しんどるか?」

「久しぶりなのです。蛟劉さん。十六夜さんは黒ウサギとグリーさんがいるときは(黒ウサギ達が抑えるから)比較的大人しいのですが、黒ウサギがいなくなった途端に、大騒ぎを起こすので、今もどこかで騒ぎを起こして無いか心配なのですよ。」

「そうかいそうかい。で、今日はどんな用事で来たんか?」

「今日は新しく三人が外界から召喚されたので、蛟劉さんに挨拶を、あと、ギフトの鑑定を報酬としたギフトゲームのプレゼンテーションを行ってもらおうかと思いまして…」

「ほぉ、そちらが例の三人なんか?」

「YES、左から瀬丹田陽さん、二折織さん、内土練花さんです。」

黒ウサギの紹介されて、陽たちは蛟劉さんに挨拶をした。

「瀬丹田陽です。よろしくお願いします。」

「内土練花だ。よろしく。」

「二折織です。ところで蛟劉さん–蛟魔王はあの“覆海大聖ふっかいたいせい”ですか?」

「そうやな、僕が覆海大聖やけど、どうかしたん?」

「僕はこの箱庭に幻獣などの研究に来ました。蛟劉さんは元は蛇ですよね。出来れば皮膚とか毛とか、髪の毛でもいいんで、下さいませんか?」

蛟劉さんは、しばらく口をぽかんと開けていたが、やがて笑い出した。

「…っハハハ。ふう。なんや、今度もまた面白いのが来たやんか。ええよ。髪の毛でよかなら、あげたる。」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし、今からするギフトゲームに勝ったらや。どうせギフト鑑定の為にするんやったら、それの追加景品にしちゃる。」

「分かりました。それで、どんなゲームをするんですか?」

「そやなぁ、あんさんらは最初やし、単純なやつがよかろ。」

そう言って蛟劉さんは手を二回叩いた。すると、陽たちの目の前に、一枚の羊紙皮が現れた。

『ギフトゲーム名、プレゼンテーション』

・プレイヤー一覧

瀬丹田陽、内土練花、二折織、三名

・プレイヤー敗北条件、

意識の喪失、又はプレイヤーの死亡

・プレイヤー側禁止事項、

なし

・プレイヤー側勝利条件。

敗北条件以外の状態で居続けること

・ホストマスター側勝利条件

直接的に触れない攻撃で、プレイヤーの意識を奪う、又は殺害

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

印』

一通り目を通したあと、練花が言った。

「おお、いいじゃん単純で、要するにお前の攻撃を受けて、立ってれば勝ち、そうじゃなければ負けなんだろ?ただ、それをする場所はどうするんだ?店を破壊しない為の、広い土地がいるんじゃないのか?」

それに対し、蛟劉は先ほどまでと変わらぬ胡散臭い笑顔で言った。

「んじゃ、ゲーム盤に移ろうかね。」

「えっ!」

「なっ!」

「はぁ⁉︎」

三者三様の声で驚く、だが仕方ないだろう。蛟劉の言葉がいい終わるまでに、陽たちは別の場所に移動していたからだ。

陽たちの正面には果てしない海が広がっており、後ろには森に覆われている山がある。海の水と山の木と快晴の空が群青世界を作り出してして、壮大な風景である。

「驚いたんか?これが僕の持つゲーム盤の一つや。ここなら、人目を気にせず暴れられるやろ。」

それに対し、練花が答える。

「ああ、その通りだ。んで、一体どんな攻撃を仕掛けて来るってんだ?魔王様は。」

「じゃあいくで、っても、この一発で立っとったらそんでゲームクリアでいいよ、最初やしな。」

そう言って蛟劉は片手を上げた。

だが、何も、起きてない。

「どうした?不具合か?だったらすっげえ格好わりいぞ。」

「まぁまぁ、もう少し待っときんさい。」

それと同時ぐらいに、蛟劉の後ろで、音がした。

ゴゴ、

ゴゴゴ、

ゴゴゴゴゴゴゴゴ…ッ‼︎

それは、巨大な津波だった。高さは50Mもあるだろうか、巻き込まれたらひとたまりも無いのは、誰が見ても明らかだろう。

「織、逃げるぞ。」

「もちろん。」

陽たちが逃げようとする中、練花だけは前に歩く。

「おい、練花!山の方に逃げるぞ!」

「ん?ああ。心配すんな。こんくらい問題ない。」

一歩、

二歩、

三歩、

「ふぅ、よっこらせッ‼」

練花が右足を地面に叩きつけた。

次の瞬間、練花の前に、巨大な土壁が現れた。否、近くの土が隆起して、巨大な土壁を作ったのだ。証拠に、練花の周りの土がなく、クレーターを作っている。

土壁と津波が激突する。

轟音、激動。

だが、土壁は壊れない、どころか、あれだけ大きかった津波を、完全に遮断した。

「すっげぇ…」

「おい。」

「ひゃぁい?」

陽は練花が自分の事を読んだのかと思ったが、違うようだ。

「おい魔王様。なんだ、この津波は、お前はこの辺りじゃ最強なんだろうが。オレらは試されてやってるんだよ。だったら、でこい。それが道義だろうが。」

練花は相当キレていた。

「練花、お前はそれでいいが、俺らはあれ以上のをどうこうできないぞ。」

「あ?わかった、じゃあお前らも守ってやるよ。これで文句ねぇだろ。」

そうじゃなくて…とは練花が怖くて言えない。

「クックックックッ…アッハハハハハ…いや、これは失礼した。あんたらの霊格が余りにも、つい手加減してもたわ。お詫びに、もう一度、試してみるさかい、これをクリアしたなら、追加の報酬をだすで。」

「そうこなくっちゃな、来い!」

「じゃあ、いくで。これが、今出せる中で最高のただの津波や‼」

蛟劉が何かの武術だと思われる構えをとる。すると、瞬時に彼から発せられる空気が変わった。

蛟劉が右手を挙げる。すると、もう一度、津波が来た。だが、それは明らかにさっきのとは違う。その高さは天を覆い、その横幅は、水平線まで拡がっていて、見た限り途切れていない。

陽は大丈夫かと思い、練花の方を見る。

「やっべ、オレこれ止められねぇわ。流石は魔王様だな。」

「え?じゃあどうすんのさ?」

「はぁ、オレはあんまりしたくないんだけどな、陽、織、こっち来い。」

陽達が練花の元に来たのを見計らって、練花が、手を、地面に叩きつけた。

陽の視界が暗転する。

「なんだ⁉︎なにが起こった⁉︎」

「ああ、ここはさっき立ってた場所の真下、つまり地下だ。ここなら、どんな津波だろうと、影響はない。」

気が動転していて気づかなかったが、真上で、津波が通り過ぎてるだろうと思われる音が聞こえる。

音が完全に通り過ぎてから、練花はもう一度、今度は土壁を叩く。すると、陽たちは地上に戻った。

地上は酷い有り様だった。

地面はえぐれ、木々はなぎ倒され、川は逆流する。

そんな地獄の様な光景を見て、陽たちは改めて、自分たちが喧嘩を売った相手の格を思い知った。

「あぶね、あと1m上に潜ってたら、今頃あの世だったな。まあ、不本意たが、ゲームクリアだ、魔王様。報酬は期待していいんだろうな?」

「もちろん、どんな形であれゲームクリアはゲームクリアや。ちゃんと追加報酬もわたしたる。」

そう言って蛟劉は2回手を叩く。

すると、陽たちは元の店の中まで、戻って来ていた。

「ゲームクリアおめでとうございます♪陽さん、織さん、練花さん。」

「ありがとう黒ウサギ、ただ、今回のゲームは練花以外なにもしていけどな。」

「それでも、クリアはクリアですよ。ギフトゲームは智武勇を競うゲームなのです。武で劣っているなら智で勝てばいいだけのこと。その点、機転を利かせて回避したのは、見事でしたよ。練花さん。」

「ん、ああ。確かにそうなんだが…オレとしては正面から受け止める予定だったからな。試合に勝って勝負に負けたぜ。」

「それで蛟劉さん。報酬の髪の毛と…あとできれば皮膚を少し下さい。」

「ああ、そういう約束をしとうたな。」

蛟劉は髪の毛をちぎり、皮膚を少し剥がし織に渡した。

「ありがとうございます。」

「まあこれはいいとして、ほな、本来の報酬を渡したる。追加分合わせてこれでいいやろ。」

蛟劉が渡したのは、3枚のカードだった。


作者コメ

更新遅くなりました。すいません。

これからはもう少し早く更新していきたいと思います。

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