第5話

蛟劉が渡したのは三枚のカードだった。カードは中央は白く、縁は三枚別々の色で塗られていた。

「これはギフトカードってやつや。」

「ギフトカード?」

「ギフトカードってのは自分のギフトを物質なら自由に収納、取り出し出来るシロモンなんや。また、このカードは正式名称を“ラプラスの紙片”ってな、所有者のギフトの名称を正確に教えてくれるものや。」

いまいち、よくわからない。

「つまり四次元ポケットって事だよ。陽くん、練花さん。」

「あ、うん。今完璧に理解した。」

「ギフトカードというのは本来駆け出しのプレイヤーが手に入るものじゃないのですよ。」

「へぇ、そんなにすごいのか。じゃあ貰っときます。ありがとうございます。蛟劉さん。」

そう言って陽たちは蛟劉からカードを受け取った。

カードにはそれぞれの名前と、体に宿るギフトを表すネームが記されていた。


緑青色ろくしょういろのカードには瀬丹田せたんだよう・ギフトネーム“禁忌ゲッシュ


紅緋色べにひいろのカードには内土うちづち練花れんか・ギフトネーム“変質させる鎚ドウェルグ・ハンマー


瑠璃色るりいろのカードには二折ふたおりしき・ギフトネーム“遠視” “分割者スプリット


「おお、すげぇ。なんか浮かび上がってきた。」

「ギフトカードの表面には所有者の名前とギフトネームが、裏面には所属するコミュニティの名と旗印が表示されるんで。まぁ、あんたらはまだ無所属だからちょいとさびしな。」

「それで、どんなギフトだったんですか?練花さんは土、もしくは物質全体に何らかの作用を加える関連のギフトだというのは予測できますが。」

「黒ウサギの予測で正解。オレのギフト-“変質する鎚”は触っている物の形を好きな様に変える事のできるっていうギフトだと思うぜ。それでお前らはどうなんだ?」

「企業秘密。」

「上に同じ。」

「おい、オレだけ晒すとか不公平だぞ。」

「でも、陽さんのギフトは身体能力の上昇関係ですよね。黒ウサギの素敵耳を引き抜きに行く際、普通の人の何倍かは速かったですし。」

「そういや陽は魔術使えるんだったよな。その類かもしれないぞ。」

「あっ……」

自己紹介の際に黙っときゃよかった…と思うが、既に遅い。

「はぁ…ああそうだよ、俺のギフト-“禁忌”は身体能力の上昇だよ。魔術は別。で、織、お前のギフトは何だ。嘘つかずにちゃんと答えろよ。」

「僕一人だけ黙っとくってのもなんか嫌だしね。いいよ。僕のギフトは二つあったよ。“遠視”と“分割者”。遠視の方はそのままだけど、僕はかなり遠くまで見る事が出来るんだ。でももう一つの方の“分割者”のギフトは…」

織は口を濁した。

「ギフトは?なんなんだ?」

「わからない。」

「「はぁ?」」

「ですが織さん。織さんの一つ目のギフト“遠視”は箱庭のギフトとしては正直に申し上げますと最底辺にあたります。すると、織さんが来れたのは“分割者”のギフトに由来するものが大きいかと…。なのに、そんなギフトをまだ使ってないのですか?」

「それでもさっぱり。本当に心当たりがない。」

「まあ、それならしょうがないですね。ではそれは保留という事にしといて、これからはどうしましょうか?」

次、か。陽たちはこれから一から異世界生活を始めなければならない。当面の課題は金稼ぎとどこのコミュニティに所属するかだろう。たが、今したい事は別だ。

「黒ウサギ、」

「はい、なんでしょう。」

「腹が減った。俺たちはまだ金を持ってないから何か奢ってくれ。」

「そうだね。もうそろそろ昼時だもんね。」

「オレも腹が減った。オススメの店で頼むぞ、黒ウサギ。」

黒ウサギは一瞬、肩透かしを食らったような表情をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻ってから言った。

「そうですね。ではお昼ご飯と致しましょうか。」

ゆっくり昼飯を食べながら、これからの事を話し合えばいいだろう。


「着いたのですよ。」

そう言って黒ウサギが連れてきてくれてのは“六本傷”というコミュニティの名前と旗印が書かれてあるカフェだった。

「おお、洒落た店じゃんか。」

「ええ、このお店は料理も美味しいので、期待してくださいな。」

「そう言うのは後でいいから、さっさと店入ろうぜ。早く飯食いたいんだよ、オレは。」

「では、入りましょうか。」

陽たちが店の中に入ると、「いらっしゃいませ〜」と元気のいい声が聞こえる。店員に案内され席に座ろうとしていたら、黒ウサギと一人の女性客-少女の目が合った。

少女は茶色の髪に白い髪留めをしていて、愛嬌のある顔立ちをしている。また、小柄な事と相まってすごく可愛く見えるのだが、テーブルの上には皿が何枚も積み重ねられていて、口がハムスターみたいになっている。その結果、陽が感じた第一印象は、『残念な人だなぁ』だった。

黒ウサギがそんな少女と目を合わせてから三秒後、先に動いたのは少女だった。

「げ、」

少女の行動は迅速だった。口の中の食べ物を一瞬で飲み込み、食事代の硬貨を店員に投げつけ、椅子から立ったのと同時には、もう外へと飛び出していた。出入り口の側に黒ウサギはいるので、近くの窓ガラスを割って。

「え、まさか耀さん⁉︎なんでここに⁉︎というか仕事は⁉︎まさか放り出してきているのでは⁉︎御三方様、適当にくつろいどいて下さい。黒ウサギはあの問題児様をとっ捕まえてから戻りますので。」

言うが速いか、黒ウサギは髪をピンク色し、出て行った少女を追いかけていった。もちろん、少女が割って行った窓ガラスから。

一連の騒動が終わって、店内の注目の視線を浴びたのは陽たちだった。他の客からすれば、陽たちは残っている関係者なのだから、仕方ないだろう。ただの好奇心な驚きの目もあれば、ティータイムを邪魔されたという険悪な視線まで含まれている。

「あの…お客様…」

「はい。」

「お客様は先程出て行かれたあの方達とは…」

「ムカンケイデス。」

「サッキハジメテシリアイマシタ。」

「オレタチハナニモシリマセン。」

その後、流石に多少の責任を感じ、割れた窓ガラスの後片付けを手伝った。

窓ガラスの片付けが終わって十分後ぐらい、頼んだ料理が届き、ようやく食べれると思ったところで、黒ウサギが、片腕に先程逃げたと思われる少女を抱えてやって来た。

「ふぅ、やっと着きました。すいません御三方様。待ったでしょうか?」

「ああ、待った待った。スッゲー待ったよ。」

「ほんとだぜ、窓ガラス代はツケてるぞ。」

「他の客から視線を向けられるわ、窓ガラスの掃除をさせられるわ、ほんといい迷惑だね、全く。」

「あわわ、それはすみませんでした御三方様、お詫びに何かしたいのですが、どうしたらいいでしょうか?」

陽たちが怒っていると思って、黒ウサギは体を縮こませる。が、それは次の陽の発言までだった。

「おっしゃ!言質げんちは取ったぞ

黒ウサギ。」

「へ?」

「いや、俺らそんなに怒ってないぞ。だから、黒ウサギが戻ってくる前に一計案じてたんだ。」

「な、なら、さっき約束事は無し、無しでございますよ御三方様。」

「でもオレらが窓ガラスの掃除したのにな〜」

「他の客の視線に晒されたのは僕たちなんだけどな〜」

黒ウサギの反論に対し、織と練花が、とどめをさす。掃除をにしたとか、客の大半はの視線だったとかは言ってないが、黒ウサギは気づかずに、約束事を受け入れた。

「わかったのですよ。で、どんな事を頼むのですか?」

「それはもちろん、俺たちがどこのコミュニティに所属するか決めるまでの間、黒ウサギのコミュニティで雇って貰えるように計らってくれ。住み込みでな。黒ウサギんとこはそれ位の余裕あるっぽいし、ブラックなコミュニティじゃないだろ。」

「それは…ちょうど良かったのですね。」

そう言って黒ウサギは抱えている少女を床に降ろした。

「では耀さん。自己紹介をお願いします。」

黒ウサギの発言に陽は『あれ?』となったが、少女が口を開いたのが先だった。

「えぇと…初めまして。私の名前は春日部かすかべ耀よう。この黒ウサギが所属しているコミュニティ“ノーネーム”のリーダーです。よろしく。」


作者コメ

5話で更新スピード上げると言っておいてのこの体たらくをどうぞお許し下さい。

誠に申し訳御座いませんでしたッ‼

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