体育館裏(3)
すると、それまで黙っていた
「……あのよォ。思ったんだけどさぁ」
「なんだよ、"やどなし"。ボクは今集中してるんだ。ちょっと黙っててくれるか」
だが、邪険な扱われ方にも構わず、宿梨は続けた。
「
枯恋が、暗記した内容を思い出すように虚空を見上げて答える。
「んーっとねぇ。実は、ミライト計画が発表される前から、もう隠せないぐらい増えてたんだよね。数にしたら、数百人はいるんじゃないかな? 血液検査の結果を見て、能力に目覚める確率の高い人には政府が声をかけてるみたいだし」
始まりのミライトは、存在自体が人類に能力を目覚めさせる触媒となる。政府がミライト計画を推し進めているのも、超能力者が増えるのを止められない以上、一人でも多く管理下に置きたいという思惑があるからだと言われていたが……。
宿梨がさらに訊く。
「超能力って、具体的にはどんな能力があるわけ? 性別を変えるみたいな、直接、体に作用する能力もあるみたいぢゃんか。もしかして、何でもありなのか?」
「何でもありではないけど、かなり種類があるのは確かかな。基本、現実を否定するって考えると分かりやすいかも。
さぞかし、無念だったろうと、
「
話の腰を折る巧厳をを無視して、宿梨が尋ねた。
「んぢゃさぁ、枯恋ちゃん。ミライトの中に、どっちも女にならなくても大丈夫っていう能力者とかいねぇの? 例えば、分身とか、合体とかさせる能力者とかさ。結構、無理が通るみたいだし、探してみたら、いるかも知れないだろ」
「それだっ!!」
巧厳が振り返って、宿梨の肩を叩く。
「よくやったぞ、"やどなし"! それですべて解決だ!」
「おう、こら。"やどなし"って呼ぶんぢゃねぇって、何度言ったらわかる?!」
顔をめいいっぱい歪め、宿梨はわざわざ下から巧厳をねめあげた。
枯恋が口に手をあてて笑顔を見せる。
「さっき言ってた、もう一つの解決法っていうのも、能力を使うよ?」
「そ、それは死ぬんだろ? そうじゃなくて、どちらも死なないし、女にならないで済む能力者を、全国から探し出せば……」
巧厳の言葉に、枯恋は困ったような顔をした。
「う~ん、研究所のおじさんたちは、なるべく早く二人に子供を作ってもらいたいみたいだからなぁ。ミライト計画を発表しちゃったせいで、あちこちの国から目をつけられてるらしいんだ。公式・非公式に、計画の全容を探られまくってるらしいし」
「あぁ……、一か月って言ってたもんな」
「クリスチャンの多い国は、特に反発が強いみたいだね。アメリカじゃ、メガチャーチが一斉に日本を非難してるし。もうすでに日本の輸出は大打撃を受けてるって。バチカンは沈黙を守ってるけど、もし公式声明を出したら、どうなっちゃうことか……」
「まったく! なんで政府は公式発表なんかしちゃったんだ。もう少し、騙し騙し時間を引き延ばしていれば、能力に頼らない解決方法を見つけられたかも知れないのに。まるで理に適ってない……!」
巧厳が愚痴ると、枯恋はおかしそうに笑う。
「あはははははは! 巧厳くんって頭良さそうなのに、分かってないんだね。政府が理に適ったことなんて、するはずないじゃない」
「そ、それは……」
ひどい言いようだが、何も言い返せない巧厳である。
「あたしのお腹に移せれば、ひとまずは安心なんだけどなぁ」
「万骨さん。せめて、ボクたちも始まりのミライトに会わせてもらったり出来ないのか? もしかしたら、ボクたちも異能に目覚めさせてもらえるかもしれないし……」
現状を打破することのできる何らかの異能に目覚めることができれば――。かすかな希望を込めた、最後の願いだった。
「あー、それがねぇ……」
そう枯恋がつぶやいた、その時――、
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