最後の一手
「おい、
「ハ? 何を言い出すんだ、キミは!」
ガラにもなく弱気な
「逃げ切れたらの話だ。オレじゃ、もう逃げる方法も思いつかねぇけどよ」
「だから、それがなんで女になるって話に繋がるんだよっ」
「ここで逃げ切れても、
「一矢報いて? それで、キミはどうする」
「そうだな。やっぱオレは男でいたいからよ。卵子だけ提供したら性を消してもらって、さっさと死ぬことにするかな」
自虐的な笑みを浮かべる宿梨に、巧厳は苛立ちをぶつける。
「バカなのか、キミは! ボクたちはもちろん逃げ切るし、どっちも女にならなくて済む方法を見つけて、普通の生活に戻るんだよ!」
「普通か。テメェは結構、普通ぢゃねぇけどな」
「何を言う。ボクほど普通なやつなんて、滅多にいないからな」
そこへ、赤の槍と青の剣を持った死神が近寄る。
「何やら、戯れ言を申しておるようだが――、死ぬ覚悟は決まったか?」
「ボクたちは死ぬつもりなんてない。っていうか、
「――余の心の弱さゆえに、覚悟がなかなか決まらなくてな」
そう言って、鳴は太陽の槍を振り上げた。
(考えろ、考えろ、巧厳
巧厳は恐怖の中、裏返った声を上げる。
「ぜ、全人類をミライトにするっていう話も、本心じゃないんだろ? 石動さんの本当の目的は別のところに――に、日本にある。日本。いや、政府だ。日本政府の注目を浴びるようなことばかりして――、まるで、そう、自分の言うことを聞かせ――、じゃなくて」
鳴は声を上ずらせながら滔々と語る巧厳に呆れた目を向けた。
「戯れ言はしまいか?」
そう言って、鳴は巧厳の喉元に槍の穂先を当てる。
「巧厳。テメェは大したやつだよ。オレとの喧嘩も引き分けやがったしな」
宿梨が感慨深げにつぶやいた。
「ちょっ、いいから黙ってくれ、宿梨。そ、そうだよ。石動さん、あんたは政府に何かを求めてるんだ。思い通りにさせることに快感を感じて――違う違う」
鳴が槍を強く押したので、巧厳は慌てて発言を撤回する。
「よく口が回るこった」
宿梨が笑った。
「キ、キミのほうこそ、女の子を口説くときはあれだけよく口がペラペラ回るんだから、石動さんを口説き落として、この場を収めてみろよ」
もはや本人の前だということを忘れて巧厳が催促する。
だが、宿梨はまったく別のことを言い出した。
「口説くと言やぁ、巧厳。テメェ、
「な、ななな、な、何を言うんだ、いきなり! そんなわけないだろ!」
「本人は気づいてねぇのか? 隠してるつもりならもうバレてんぞ。オレが真壁ちゃんを口説いてたときもすげぇ面でにらんできたしよ。オレとの一騎打ちを受けたのも、あれは真壁ちゃんにいいところを見せたかったからだろ?」
「ば! バカを言うな! そりゃ、ボクをフっておきながら、アルビオンやらキミやらに良い顔をしてるのを見たら腹も立ちはしたけど、それは単にムカついただけで……」
「興味がねぇなら、なんでムカつく必要がある?」
「そ、それは……」
そのとき、鳴が剣と槍を振り上げて言った。
「もう、終わりにさせてもらうぞ」
巧厳が声を上げる。
「宿梨、キミは喧嘩しか能がないんだから何とかしろよ!」
宿梨も声を荒げた。
「巧厳、テメェこそ、得意の口八丁で何とかしろよ!」
鳴の振り上げた刃がまさに振り下ろされようとした、瞬間――、
反射的に、巧厳と宿梨は同じ行動を取った。
鳴の細い腹に目がけてタックルし、そのままフェンスに突っ込んだのだ。
(屋内もダメ、ドアもダメ。だったら、ここだ!)
飛び降りて無事でいられる確率などまるで考えず、二人は鳴もろとも屋上のフェンスを乗り越えて、下へと飛び出して行った。
地面に激突するまで、わずか数秒。
そのとき、巧厳の前方の空間がにわかに発光を始めた。
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