二次元妹・色(2)
数分後――、
「これ、画鋲とか刺しても大丈夫なの?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
巧厳が
「ってか、破れたりしないの?」
「紙って言っても、水も弾くし簡単に破れない特殊なやつなんで、安心して下さい」
「ふぅん。ちょっと、画鋲探してくるわ」
「ノリの残らないテープを持って来てますよ。すぐはがせるやつ」
「おい、インキャ。ウチのことを"これ"とか言うなよな」
「分かった、分かった。とりあえず、ここに貼るから。大人しくしてろ」
巧厳は
それから彰子を食卓に座らせ、巧厳も対面の椅子に座る。
「――それで? 色々聞きたいことはあるけど、まず、色に何をしたんだ?」
「ああ、はい。ご説明します。その前に、あのっ、キャンセラーの説明は、
「あぁ、現実を否定するってやつだろ」
「そうです、そうです。わたしの能力はディメンション・キャンセラーっていう、次元の壁を否定する能力なんですけど」
「やっぱりか。じゃ、キミが
巧厳がそう言うと、彰子は驚いたように両手をほほにあてた。
「え! どどど、どうしよう。いきなり初対面の人にオタバレしてるし! 枯恋ちゃんも何でそんなこと言っちゃうかな? そりゃ、わたしも初めて能力を使ったときは、自分でも失笑したけど……」
急に口数が多くなった彰子を見て、巧厳はぽかんと口を開ける。
「あああ、ごめんなさい。わたし一人で騒いじゃって……」
「い、いや、大丈夫だけど」
ぺこぺこと頭を下げる彰子に、気を取り直して気になっていたことを聞いた。
「それで、人質っていうのは……」
「あの、その、言葉の通りの意味っていうか。巧厳さんたちが
「エニア?」
巧厳はその言葉に聞き覚えがあった。確か、枯恋が
「あ、はい。能力の分類っていうか、評価っていうか。三段階あるんですよ」
「へぇ……。せっかくだから、教えてよ」
ミライトについては巧厳も詳しく知らない。どうせだから、知っておきたかった。
「いいですよ。……えとですね。キャンセラーの能力は、能力が影響を及ぼせる範囲や、能力の汎用性なんかで、三段階に分類されるんです」
「ふんふん」
「一番狭い範囲に力を及ぼすのが、
性別を否定する、と聞いて巧厳が苦い顔をする。
「次は、
「月二お爺ちゃん?」
「泰山月二さんって言って。今は石動さんと一緒にいるはずですけど、ご存知ありませんでしたか?」
「あぁ、あのエキセントリックな爺さんか……」
「
巧厳は、校舎をぶん投げた泰山の姿を思い出した。
「ううっ」
震える肩を自分で抱き、続きを促す。
「……それで? 万骨さんは、そのどちらでもないんだろ?」
「そうです。枯恋ちゃんの能力はある意味で最強の、エニア領域に属します」
「そのエニアってのは?」
「えと、ギリシア語で"概念"って言う意味です。
巧厳は思わずうなった。
「それじゃ、何でもありじゃんか」
「ですねぇ。上位の分類に属する能力者は、下位の能力を近似的に再現することが出来る場合もありますし。枯恋ちゃんの能力なら、例え負傷しても、
「だから、"領域"なのか」
より高位の能力者は下位の能力を含有することがあるために、領域という言葉を使って表すのだろう。
「そうです。ただし、傷を否定する能力――スカー・キャンセラーって言いますけど――なんかでも、領域としてはソーマですけど、骨折は果たして傷に入るのかとか、そういうところまで考えると、割と本人の認識や概念に縛られていたりするんですよね」
「結構、複雑だな……」
「はい。ですので、基本的には能力が否定する範囲で分類するみたいです。肉体だけならソーマ、物理法則ならフィジー、能力を及ぼす対象が特殊な場合はエニアっていうぐあいに」
「……まぁ、能力については分かった。それで、人質って話だけど」
「うっ。……ええとその、ごめんなさいっ! えと、あの、怒ってますよ、ね?」
彰子が巧厳の機嫌を伺うように上目づかいで尋ねる。
「家族を拘束されて、怒らないやつはいないと思うけど……。その前にさ、さっきキミは上からの指示でって言ったよね? 上って、一体どこ?」
「あ、はい。ええとですね、一応、書類上は国交省の大臣官房付の命令ってことになってますけど……」
「けど?」
「わたしにここに来るように命令したのは、その、お父さんです」
「お父さんだって?」
「あぁ、はい。あの、国交省で働いてるんですけど……」
「……って、もしかして国土交通副大臣の真壁
東大在学中に弁護士資格を取り、企業同士の訴訟で活躍した後、四十代で鳴り物入りで政界入りしたという剛の者である。
彰子は恥ずかしそうに頷いた。
「うわぁ、マジかぁ。日本の中枢にいる人って初めて見たかも」
巧厳が感嘆の溜め息をもらす。
彰子は「わたしは偉くないですけど」と前置きし、次のように説明した。
「枯恋ちゃんから聞いてませんか? 石動さんが政府を脅したときに、議員や官僚のご子息ご令嬢を片っ端からミライトに変えちゃったんですよ。それで偉い人たちが泡吹いちゃって、ミライトを公に認めざるを得なくなって。枯恋ちゃんのお父さんも、高級官僚のはずですよ」
単なるサラリーマンの息子である巧厳には縁遠い世界の話だった。
「――それで、色はいつになったら出してくれるんだ?」
巧厳が問うと、彰子は困ったように机と巧厳の顔を交互に見る。
「ええとォ……」
「出してくれなきゃ困るだろ。ご飯だって食べなきゃいけないし、トイレだって……」
「あっ、それは大丈夫です! 二次元はトイレしないんですよ!」
彰子が嬉しそうに胸を張った。
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