【日常】真神はずき【クリスマスの話:準備編 壱】
◇
十二月も半分が過ぎ去ると、町のあちこちにちらほらと、聖夜の予兆が見えてくる。
下校途中にある派手な家がイルミネーションの灯を入れたり、庭のあるお家がツリーを並べて飾ったり、お菓子屋さんが今年の特別ケーキの予約をチラシに出して宣伝したり。
日常の空気は洋風に。イメージカラーは赤と緑に。
何故だかわくわくしてくるような、そんな不思議な感覚が、今年もこの国にやってくる。
「……えっと後はー、お茶とー、お菓子とー、ハチミツとー」
そして私が今いるデパートの、食材売り場の一角も、とても綺麗にクリスマスムード。
壁紙の模様は赤地にツリー模様をあしらったクリスマスカラー。
流れてくる店内音楽は陽気に響くクリスマス・キャロル。
ブッシュ・ド・ノエルや赤ワイン、聖夜の祭りに供するものが、目立つ形で売られてる。
「クリスマスパーテイ、かぁ……」
呟く。実はそういうイベントごとは、結構憧れだったりする。
同じケーキを一緒に食べて、プレゼントを持ち寄り交換して、それは友情の一ページ。
サンタクロースの仮装をしてる友達と笑ったり、そのおひげを引っ張って困らせてみたり、ホイップクリームで口元みんな白く染めたり、きゃっきゃわいわい騒ぎながら楽しく過ごす至福の時間。
……まあ、そんな経験したことは、私は一度も無いんですけど。
パーティに招いてもらうには、当たり前ですが友達が必須。ですけど万年委員長の運命を背負ったこの私は、そういう存在はいなかった訳で。毎年家の片隅で、自分で買ったコンビニのケーキをもぐもぐ口に運んで過ごす、一人っきりのクリスマス・イヴ。寂しさトッピングのクリームの味は、何故だかちょっぴりしょっぱくて。
ですが今年は大丈夫! 私には鮎川くんという大事な人ができました。
聖夜当日が来た時には、クリスマスケーキを持って行って、二人で一緒に食べるのです。
ショートケーキを切り分けて、綺麗なお皿に乗せちゃって。
そして鮎川くんはそれを私に差し出して、きっとこう言ってくれるに違いないのです。
――そんな物欲しそうな顔して。いやらしいね、委員長。
なんて、なんて、なんて、きゃー。
「何キャピキャピしてるんすか委員長?」
見られてました。
◇
かけられた声に振り向くと、そこにいたのは飛倉さんでした。
飛倉ちぎり。クラスメイトの
黒のショートヘアに赤色のメッシュを入れていて、首や腕には十字架アクセ。学校の外で見かける私服は、今日もこの前と同じように、赤黒基調に英語や髑髏のマークがついてるパンクでロックなファッションスタイル。
「いやー、奇遇っすね。委員長も買い出しっすか? お菓子? 夕飯?」
「両方ですねー、今日はカレーにするつもりで。飛倉さんは?」
「ん、これを買いに来たんすよ」
ジャケットの胸ポケットから飛倉さんが取り出したのは、紅いフレームのサングラス。
「いやー、前々から思ってたんすよね。吸血鬼である私には太陽は眩しすぎるって。だからどうにかできないかと考えてたんすけど、ふふふこれで日光恐るるに足りず」
そう言って怪しげそうに笑う飛倉さん。
飛倉さんはこうやって、吸血鬼アピールすることが多い人です。
この病の時代、人間で無い人たちは数多く、個々に合わせた対応してもらうためには自分の種族を相手に知ってもらわないといけません。
私は理由あって隠していますが、そんな例外でもない限り、自己アピールは大切で。
特に吸血鬼とか私の人狼同様に見た目からは解らない部類の変異なので、なおさら自己主張は大事なのかと思ってみたり。飛倉さんには牙も翼も生えてないですし。
「あとまあついでに欲しかった曲もまとめ買いで」
右手に提げた袋の中には上の階で買っていたのか、音楽CDが何枚か。
飛倉さんの趣味は自称・音楽鑑賞であるらしい。パンクな見た目通りにロックから、流行の邦楽にクラシックまで色々聞いてるっすよ、とは彼女曰く。
――でもこの前ボレロがなんだか知らなくてしどろもどろになってたような。
『あ、ああ、ポルトガル語でケーキのことっすよね』って、それはボーロです。ええ。
「しっかし今の時期どっこもかしこもクリスマスムードっすよねえ」
なんだか不機嫌そうな顔をしながら飛倉さんは呟く。
彼女がいない男の人は聖夜が近づくとそんな雰囲気になるとは噂で聞いてはいるけれど、
飛倉さんは女の子ですし、ついでに彼女もいるはずなんですが。
「なんてゆーか、あんまり喜んじゃいけない気がするんすよね。ヴァンパイア的に」
「あー……」
十字架だとかヒイラギだとか、そういった魔除けの数々は吸血鬼にとっては弱点で。
そういうのが町中に溢れかえるクリスマスの周辺は、確かに居心地悪い時期かもしれず。
――でも飛倉さん、今日も十字架のアクセサリをつけて歩いているような。
「これはファッションだからいいんすよ、ファッション」
「そういうものですか」
「そういうものっす」
そういうものらしいです。
「ついでに言うと、私の誕生日でもあるんすよね。十二月二十五日」
そう言って、飛倉さんは重そうなため息を吐きだした。
「あら、おめでたいことじゃないですか」
「普通の日ならそう言えるんすけどねー……なんていうか、お前の誕生日とかクリスマスに比べたらドちっぽけで大したこと無いんだぞーって世界中から言われてる気持ちに。
相手は二千年祝われ続けてる聖者でこっちは二十年も生きてない美少女っすよ!? 比べものにならなさでは月とスッポンすよ!? ところで月と鍋の形を比較するって昔の人も食い意地張ってるっすよね! 花より団子!」
「いえすっぽんは鍋の呼び名じゃなくてその具の方です。カメさんの一種」
「そそそそれぐらい知ってたっすよワザとボケたんすよむきゃー!」
慌てながら取り繕うように叫ぶ飛倉さん。
「ついでに言うと誕生日とクリスマスのプレゼントもまとめて一緒にされるんすよ!? ドケチっす怠慢っす差別の一種と言っていいと思うんだけどどうっすか!」
「え、クリスマスプレゼントって家族からもらえるものだったんですか?」
「……あんま追求しないほうがいい気がするので触れないっすよ」
私の疑問に、何故か青い顔になる飛倉さん。
まあ、聞いて面白い話でも無いですしね。
「ところでプレゼントといえば、贈る側になったりはしないんです?」
「……?」
私の尋ねに飛倉さんは盲点を突かれたような顔をして。
「去年までは相手いなくても、今年は剣月さんがいますよね?
恋人同士はそういうことをするものだ、って私の知識には」
漫画や雑誌に載っている恋人同士の関係は、とにかく何か理由をつけてプレゼントを贈り合うものでした。付き合い始めた日から一ヶ月記念日だとか、昨日のご飯が美味しかったからだとか。そんな些細な事柄さえも理由にして、お互いのために何かをするのが物語の中の恋愛関係。それこそきっと理想的で、だからこそ現実に真似したい幻想風景。
「プレゼント、贈り物、愛の証、か――」
飛倉さんはどこか遠くを見るように、そう小さく呟いて。
その口元はほんの少しだけ綻んでいて、なんだかとても幸せそうに見えました。
「それにしてもなんかロボ娘みたいなことを言うっすね委員長。私の知識にはって」
「失礼な。人間ですよ。今のところは」
「……そうっすね。いつ人間じゃなくなるかわからない時代っすからねー」
そしてお互いに笑いあう。
それが冗談にならない病の時代で、だけど私たちにとっては今更の話。
「ところで選ぶの付き合ってくれないっすか? なにぶん初めてのことっすから自信が」
「いいですけど、その前に」
「ん?」
「お会計。させてください」
◇
「ところで気になるんですけど、普段の剣月さんってどんな感じなんです?」
お会計を済ませてデパートの二階。
アクセサリ売り場でシルバー系を物色しながら、私は飛倉さんに聞く。
「んー、まおりがどんな感じって別にそこまで学校と変わんないっすよ?」
骸骨型のネックレスをなんか違うなと弄りながら、彼女は軽く答えました。
剣月まおり。この前の春に転校してきたクラスメイトの吸血鬼。
なびく金髪、細目の笑顔、底知れない雰囲気の不思議な人。
何でも知ってるような雰囲気を漂わせ神出鬼没に現れる姿は、まるで童話の魔女のよう。
実はあの細目を見開いた時未来が見えるだとか、実はクウェンディ症候群関係ない本物であるだとか、彼女についての噂は絶えなく、だからその正体については私もなんとなく気になってたりしたのですが。
「強いて言うなら普段着はドレスであることぐらいっすかねー、普段と違うとこ」
「ドレス?」
「そう真っ赤な。すごく綺麗っすよ? 一目で人間では無いって解るぐらいに」
想像してみる。
金髪小柄の剣月さんの東洋人離れした外見は、確かにとても童話的で。
ガラスの靴のシンデレラ。
小人に囲まれるスノウホワイト。
イメージの中では踊りも歌も、華麗にこなして違和感無い。
「なんかお嬢様みたいですね」
「実際まおりん家ってかなりの豪邸っすからねー」
豪邸――!
まさか現実で聞くことがあるとは思っていなかった単語がここに。
「本物のメイドさんとかこの国にいるとは思わなかったっすよ」
メイド――!
もっと現実で聞くことがあるとは思っていなかった単語がここに。
なんでしょう、ちょっと宮雨くんみたいなドキドキをしてます、私。
想像する。白いお屋敷で色とりどりの薔薇に囲まれて、優雅にお茶会をする剣月さん。
細い指が掴む白磁のカップからは、花の香りが漂って。
喉を鳴らして紅茶を嚥下。空になったカップはカタリと小さく音立てて受け皿に置かれ、その中にメイドさんが静かに暖かいお代わりを注いでく。
とても絵になる光景で、まるで絵本の一頁。
「わふぅ……」
「ふっふふーん、どうっすか深層の令嬢みたいなまおりのイメージは」
「すっ、すっごく素敵だと思いますっ」
「ふっふふーん、どうっすかそんな素敵な相手を彼女にしてる私については」
「ごめんなさい、それについてはよくわかりません」
「えー」
だって愛し合う人たちがどういうことをするのか、私は知識以上には知らなくて。
普通の恋愛ですらそうなのだから、特殊なタイプなら尚更で。
「飛倉さんって剣月さん相手するために、一体どんなことしてるんです?」
だから問う。それを疑問に思ったのなら、聞いてみたなら解るだろう。
「参考にしたいわけっすか。鮎川くんとの性生活のために」
「せっ……違います違います私と鮎川くんはそういう関係じゃなくて――!」
「ふっふふーん、恥ずかしがらなくてもいいんすよ? この私でもラブオーラっぽいものをきちんと感じ取れてるっすから最近の委員長からは。いいっすよね、愛! ラブ! イチャコラ!」
ああああああ……なんだか勘違いされてしまいました……。
私と鮎川くんとの関係は本当の本当の本当に、そういうものじゃないっていうのに……!
そんな私の恥ずかしさに気づかないように、飛倉さんは照れた顔して、
「んー、一言で表すなら料理っすかね」
「作るんですか? 愛情弁当」
「んにゃ、される側」
「……?」
よくわからないことを言われ疑問符を浮かべる私に対し、飛倉さんは片手を振って、
「私とまおり、ヴァンパイアじゃないっすか。だから、まあ、そういうことっすよ」
「あー……」
吸血鬼。文字どおりの血を吸う鬼。
何の血液を摂取するかと聞いたなら、それは勿論人間で。
ある意味では人間を食料としなければ生きていけないクリーチャー。
「具体的に言うとまおりんとこのメイドさんにマッサージとかしてもらってるっすね。香料とか擦り込んでもらっておいしくなーれ、って感じに」
ほら、私の体いい匂いするでしょ? と摺り寄ってくる飛倉さん。
意識する。甘い香りがとてもとても濃く漂ってきて。
鼻が効いちゃう私には、少しくらりとするぐらいで。
「まおりはね、時々ハチミツとか使ってくれるんすよ。
あまぁくて、とろりとしてて、その上からぺろりと舌で撫でてくるの。気持ちいいっすよ……?」
アダルティー――!
あわわわわわわわ……恋人同士って、すごいことをするんですね……!
イメージする。
シャンデリアの明かりに照らされた部屋。
天蓋付きのベッドの中で、半裸になって絡み合う二人。
白磁のように綺麗な肌には、糖蜜と汗と血の雫が、真珠のように浮かんでいて。
とても背徳的なシチュエーション。
どこまでも二人きりだけのクローズワールド。
想像するだにとてもえっちで、アタマの処理が追いつかなくって、
「わふぅ……」
「ふふ、ちょっと刺激強すぎたっすかね?」
同じことをされてる自分を想像しようとしてみるけれど、毛にべたべたと絡んじゃいそうで断念を。こういうときに人狼はちょっぴり不便です。
「他にもなるべく鉄分多いもの食べるようにしたり、血糖値とかコレステロールとか気にしたり、脂肪や筋肉がつきすぎないよう適度に運動心がけたり……」
食材としての気遣いを、飛倉さんは指折り数え。
「見た目とか健康とか清潔とかに気を使ってる、と言い換えたら普通のことっすけどね」
そしてなんだか照れくさそうに笑う。
……すごいなあ、飛倉さんは。
思う。私がまだ妄想しているだけの位置に、彼女は既に着いていて。
何時か私もその場所にまで、辿り着くことは出来るんだろうか。
「まおりは凄いっすから。本物だから。本物を輝かせ続けるためには何でもしなきゃと思うんすよ」
「……どんな気持ちなんです? 誰かを好きになるっていうことは」
飛倉さんはうっとりとした顔をして。
「素敵な気持ちっすよ。退屈だった毎日に差し込んだ光っす。人生における唯一最大の価値がそれっす。
相手のために素晴らしい自分でいたいと思うことは、克己と努力につながるし、そしていつかは――」
血だけでなく、私の全てを捧げたいと。
飛倉さんは、恍惚の顔でそう言った。
◇
「ところで、結局何を贈るか決まりました?」
「うーん、なかなかビビッとくるものが思いつかないんすよねー」
こめかみに指を当てながら、首を傾げる飛倉さん。
「これとかどうです? コウモリのネックレス」
「うーん、似合うとは思うんすけどなんかベタベタすぎるんすよねー……。
そもそもまおりに似合わないアクセとか何があるんだって感じっすけど。贔屓目で」
「いいじゃないですかベタでも。吸血鬼といえばコウモリってイメージは鉄板ですし」
「鉄板すぎるからこそ外してみたくなるんじゃないっすか。わかって欲しいこのオトメゴコロ!」
「それ乙女心でいいんでしょうか……」
むしろ少年心とかそっちの方が近いものな気がします。うん。
「ぴったりだと思うんですけどねえ、コウモリ。血を吸いますし、黒いですし。昔から吸血鬼のモデルとして有名ですし」
「いや、そうでもなかったりするよ?」
聞き覚えのある声。
背後から突然かけられたそれに、私は即座に振り向いた。
「――鮎川くん?」
「ん、久しぶりだね委員長」
軽く片手を揺らしながら、クラスメイト、大事な人、鮎川羽龍はウインクをした。
「また奇遇っすね。鮎川くんは何の買い物に?」
「いや、買い物じゃなくて知り合いとちょっと待ち合わせ。その時間潰しに適当にぶらぶらしてようかなーと思ってたら、見知った顔が伝承トークの話しようとしてたから」
「待ち合わせ? 鮎川くん友達とかいたんすか?」
「幾ら何でもその言い方酷く無いかな? 俺だってそれなりに学校の外の交友関係とかあったりするんだぜ……けどね」
友達いない認定を食らったのがショックだったのか、ちょっと口調がおかしくなりながら頭を掻く鮎川くん。何でしょうね、恥ずかしいことでは決して無いはずなのにそういう扱いされると心がしくしく痛むのは――。
「とりあえず飛倉さんや委員長の知り合いで無いのは確かだし、ちょっと面倒くさい相手だからあんま会わせたくない感じではあるかなー、その相手。だから詮索しないでね」
「はぁ」
どうも鮎川くんの表情からして、相当難しい人のようです。
一体どんな人なのかとっても気になったりするのですが、詮索するなと言うからにはそれなりの理由があるんでしょう、多分。秘密を抱えてもらっている身だけに、亀裂入れるようなことはしない方がいいのもありますし、ここはこらえて我慢です。
「それはそうとして、豆知識の続きと行こうか。
吸血するコウモリは珍しい部類でね。殆どのコウモリは果実や虫を食べてるんだ。
血を吸うものは、チスイコウモリと呼ばれる種類だけ」
だけどそもそも、
「チスイコウモリが生息するのは主に新大陸の方でね。欧州が主体の吸血鬼伝承とはあんまり関係がなかったりするんだよね。吸血鬼がコウモリに変身するというのは単純に身近で不気味な動物だったから、という線が濃厚だ」
ついでに言うと、
「吸血鬼といえば黒い燕尾服ってイメージ自体もブラム・ストーカー以後だしね」
まあほっといても飛倉さんが先に解説しちゃってたかな、と、鮎川くんは照れ臭そうに。
「し、知ってたっすよ!? それがわかってるからこそ他のがいいなって思ったんすし!」
本当っすよー! と叫ぶ飛倉さんに、私と鮎川くんはニヤニヤニヤニヤ。
「む、むう……なんかこのままだとシャクっすし、私からも一つ吸血鬼トリビアを」
「へぇ」
「吸血鬼が変身する動物としてはコウモリが代表的っすが、それだけじゃないんすよ」
「そーだね。犬や猫、フクロウに豚、珍しいところでは疫病や飢餓の媒介者としてイナゴに変身するという話もあったりするね」
「ぐう、先に言わないで欲しいっすね。でも大本命に触れられてないだけ助かった……」
うぎぎぎ、と悔しがりつつも、しかしすぐに表情を戻し、
「て訳で本命っすが。変わったところで、こういうのになる吸血鬼もいるそうっす」
飛倉さんは得意顔で、あるものを模したアクセサリを取り上げて。
「……蝶?」
「そ、バタフライ」
とても意外なお話でした。
春の日差しを浴びながら、のどかに舞い飛ぶバタフライ。
闇夜の月光を浴びながら、隠れ蠢めくヴァンパイア。
それら二つの印象は、とても結びついたりしなくって。
だから私は目をぱちくり。
「意外そうな顔してるっすね。でも蝶って結構神秘的な存在扱いされてるっすよ?
古くから世界各国で蝶は霊魂のシンボルと扱われることが多かったり」
「現代だと馴染みないだろうけど、日本でも蝶を死霊や人の魂の化身とする伝承はあるね」
「そもそも昔の吸血鬼って
伝承トークを楽しそうに語り合う二人。
それを隣で見せつけられてる私の抱いた感情は、
「そ、そんな、飛倉さんがまともに知識を語るとこが見れるなんて……!」
衝撃でした。
普段は格好つけようとして自爆してる姿を見ることの方が多いのに……!
「……委員長、私をそんな目で見てたんすか?」
鮎川くんと私、二人一緒に目を逸らす。
人には真実を言ってはいけないタイミングというのがあるのです。ええ。
真実から遠ざけられた飛倉さんは少しむっとした顏をしてたが、程なく表情を元に戻し、
「問い詰めるのは後にしとくとして、これにしてみるっすかねえ」
「プレゼント?」
「ん。コレ付けてるまおり想像したら似合ってそうに感じたもので」
幸せそうな顏をして、蝶のペンダントを見つめる飛倉さん。
――いいなあ。
羨ましく思って鮎川くんの方を見つめてみる。
けども彼は、私の視線に込められた気持ちには、どうも気付いてくれないようで。
「ん、どうしたの委員長?」
「……なんでもないです」
「あ、このプレゼントのこと、ちゃんとクリスマス当日まで黙っといてくださいっすよ?
最近の鮎川くん、妙にデリカシー無いこと多いっすから」
「それはまた随分と人でなし事情だね」
「そんな他人事みたいな……」
呆れる飛倉さんに気付いているのかいないのか、鮎川くんは時計の方へ目をやって、
「それじゃ、ぼくはそろそろ待ち合わせの時間だから」
学校でのぼくによろしくね、と、手を振りながら去っていった。
◇
【NeXT】
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