一人じゃない

第7話 一人じゃない 1/2


 二戦目の前に、お昼休憩があった。歌舞伎の観覧かとツッコみたい。

「おい、凛子。俺は名誉の負傷で右手が使えない。あーんして食べさせてくれ」

「何で私が。足がレフティーなんだろ。頑張って足で食べろ」

「無茶を言うな。良く考えろ。俺が太一やテルに食べさせてもらったら完全にメンタルをデストロイされてしまう。お前は女だ。しかもいい女だ。俺はお前じゃなきゃ嫌だ。お前が嫌だと言うなら、俺は氷雨に食べさせてもらう」

「あんた極度の健忘症かっ! 今私じゃなきゃ嫌だって言ったばっかだろ! はあ、もういいよ。ほら、口空けな」

「テル、太一、見たか! 愛の勝利だ」

「どうでもいいよ」二人とも最近まともに構ってくれない。

「まあいい。凛子、あ~ん」

「もう」

 卵焼きが口に放り込まれる。うむ。旨い。いつもの学校の弁当が倍旨く感じられる。もぐもぐしてごっくんする。そこで「次はまだか」と言おうと思ったら、凛子が頬を赤らめてこっちを向いていた。

「おい。何を赤くなっている」

「な、なってない」

「いや、俺にウソは通じないぞ。お前、俺ののどチンコみて興奮したんだろ」

「お前はアホか!」さすがに太一がツッコむ。うむ、友とは宝だ。

 しばらくして弁当を食い終わる。

 よし。腹は膨れた。次はデザートだ。

「誰か甘いものを持っていないか?」

「あ、僕イチゴ持ってきたよ。うちのばあちゃんの家が農家やっててさ、学校のみんなに持ってきなさいって…」

「いや、チョコレート的なものが良い」

「あんたに心はないのかっ!」


 午後の対戦も引き続き退屈なので早送りする。つまり、寝る。揺り起こされる。

「おい、試合は次だぞ」

「そうか。ではリーダー確認を始める。まず凛子。お前は開幕後すぐに雷撃加速だ」

「分かってる。私のあれは三分しかもたない。再度使うにはインターバルが必要だ」

「インターバルの間は俺と太一でひたすら攻撃だ。凛子を休ませて、なおかつ氷雨にテルを撃たせる隙を与えない」

「了解」

「テル。相手にお前の狙撃があると常に意識させろ。俺たちが回り込んだら狙撃の合図だと思え」

「分かった」

「まあ、戦闘の前にあれこれ策をろうしても意味はない。あとは個々の差配でなんとかしろ」

「最後に、一言いいかな?」太一がみなを見回す。

「碓氷は一人だから、エーテル制御の腕輪が中級模擬戦用だ。気を抜いてると大怪我するぞ」

「ああ。良し、行こう!」

 円陣を組んで手のひらを差し出す。

『せーの、勝つ!』

 士気は申し分ない。俺がいて、負ける事は許されない。

 戦うからには必ず勝つ。決意して、腕輪を嵌めながら畳の上へ一歩を踏み出した。


 三人が配置に着く。氷雨が演舞場を横切り中央で銃を片手で構え目を閉じた。手にしているのはニューナンブ。旧時代の日本で警察官などが使用した拳銃だ。俺はマニアだから知っている。装弾数は五発だが、エーテル弾に制限はない。実弾を使うのは切り札だろう。補足だが、射撃系の武器はテルも含め、実際の兵装だ。代わりに弾が模擬戦用となる。

 まずはとにかく凛子の速攻だ。エーテルを練る間は俺が稼ぐ。

「ハジメっ!」

 盾に障壁を纏い、同時にピザポテトを発動する。火炎の剛球を氷雨に向かって撃ち込む。

 リボルバーが鳴った。数秒で半数のピザポテトが撃ち落される。氷雨が一心したのが見える。

「テル、威嚇射撃だ」太一が言いながら風雲系のかまいたちを放つ。

 氷雨は動かない。氷雨の正面でかまいたちがかき消されテルが構える。だがその時氷雨を包むエーテル量が爆発的に増えた。

「来るぞ、面制圧だっ!」

 太一が叫んだ直後、爆炎がフィールドを駆け抜ける。炎以外なにもみえなくなる。

 面制圧でこの威力か。しかも、視界がとれない。

 ならばエーテル探知。炎の奥に、氷雨のエーテルを感じた。立ち位置はほぼ変わっていない。しかし銃にエーテルを送るのが分かった。

「射撃、来るぞっ!」

 誰狙いだ? 煙幕が薄れる中、桃色に近い赤色の光線が俺に迫る。これはエーテルでコーティングした実体弾だな。まず一発目。

「オレオっ!」

 物質系の円形の盾を無数に展開する。オレオと盾の二段構えの防御。抜けるものなら抜いてみろ。

 オレオを打ち砕き、光線が迫り来る。その光線が、目の前で突如曲がった。

「うわっ」

 撃たれたのは、テルか? 確認するヒマはない。

「おおおおっ」

 それとほぼ同時に凛子が雄たけびを上げながら構えた。三戦サンチーで構え、落雷のように氷雨との距離を詰めると、砕破サイファーの型で短刀を閃かせ切り結ぶ。なるほど、模擬戦の時は分からなかったが、凛子のあの速さは空手と短刀術をミックスさせた物だったのだな。俺も詳しい訳ではないが、素人目にも凛子の型は早く、美しい。

 氷雨は身体ではなく、張り出した障壁の面防御で対応している。身体では反応しきれないのだろう。畳みかけるなら今だ。そう考え、俺は一心をする。

 だがエーテルを溜め始めたと同時に射撃が来る。すかさず防御するが攻撃の機は逃す。視野が広いな。良いクイーンだ。

「太一、テルの傷は?」

「今、回復魔法で止血している。利き腕を撃たれてる」

 あの視界不良の中、カーブをかけて、なおかつ利き腕にドンピシャか。

「どれくらいかかる?」

「二分くれ」

「分かった」

 確認をして、氷雨たちを見る。凛子が押している。ならば俺は援護だ。

「ジャガビー」

 氷の杭に雷撃を付加して近づきながら撃ち込んでいく。凛子が意図に気づいて、氷雨の奥に、奥に身体を入れようとする。ついにその機会が来た。射撃を躱し、奥に入った凛子が短刀で切り付ける。氷雨が空いた左手で受ける。転瞬、もう一本の小太刀が氷雨の銃身を抑え込んだ。

「将おぉーーー」

 凛子が吠える。

 俺は風雲魔法で加速しながら盾の先に氷の刃を形成する。左手での、槍攻撃。

「カプリコ!」

 盾の先についた氷の刃が氷雨を襲う。刹那、銃声が響く。

 パン、パパン。

 なんだとっ! 見ると氷雨が後ろ手に構えた左手から硝煙が立ち込めている。シングルカラムマガジンのベレッタが三発盾に命中する。盾にひびが入る。だが槍はまだ健在だ。

「くらえっ」

 氷槍を叩き込む。凛子を障壁で弾き返した氷雨が銃を持った両腕を交差させてそれを受ける。そんなもので、止まるものか!

 槍の先から水平方向の、水の竜巻が発せられ、それが氷雨の胸を捕えた。

「くっ」

 氷雨が呻き、次の瞬間水流と共に後方へ吹き飛ぶ。

「凛子」

「すまん、将。抑えきれなかった。雷撃加速がもう切れる」

「一旦下がれ。あとは俺がやる」

 見ると氷雨はフィールドにぶつかって止まったようだ。走り寄ると、氷雨の制服の胸から腹にかけてが破れている。ブラジャーは、薄い青だ。モブから歓声が上がる。

「見くびっていた。まさか二挺目を抜く事になるとはな」氷雨がベレッタをひらひらと振る。

「涼しい顔も今のうちだ。次はおパンティーも衆目に晒させてやる」

「ふん。変わった男だ」

「いくぞ」

「来い」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る