第6話 クイーンとの対決 2/2


「王の帰還である」

「将くん、指どうだった」

「全治四カ月だ」

「ウソつくな。七日だって先生は言ってた」

「やっぱりそうだよな。明日の試合、欠席するか?」太一が残念そうな声を滲ませた。

「問題ない。俺はレフティーだ」

「え、そうなの?」凛子が驚く。

「足が」

「意味ないだろうが! あんた、ほんとに真面目に考えてるの?」

「よく考えろ。俺は槍使いだが、右手に槍、左手に盾を持って戦う。つまり盾だけなら持てる」

「なるほど。防衛専心って訳か」太一が頷く。

「加えて高校程度のオウカポジションなら全てやれると言っていい。安心しろ、槍が使えない分は魔法でカバーする」

「えっ、回復もできるの」テルは本当に期待通りのリアクションをしてくれる。

「言っただろう。俺が最初に覚えた魔法はホイミだと。当然指揮もとれるしクイーンやナイトの基本精霊魔法も習得している」

「ちょ、ちょっと待ってよ。精霊魔法って、これから習っていく魔法じゃないか」

「なんだ。と言う事は明日は使ってはいかんのか?」

「明日は、簡単に言えばこの一カ月で、新設のオウカがどれくらい連携が取れるのかを見る意味合いが強い。恐らくエーテル制限もこの前の模擬戦と同じようなものだと思う」

「俺の真の実力を発揮できるのはいつになるのだ」

「まあまあ。凄いのは認めてるんだから」

「テルよ。お前は本当に良いやつだな。お前が美人のフェアリーに転生したら愛人にしてやるからな」

「ぜんぜん嬉しくないんだけど」


 そして翌日。やっと来たオリエンテーの日だ。

 担任の単調な説明が続く。簡単に言うとこうだ。オウカ同士の模擬戦をやれ。組み合わせは実力の近いオウカ同士で。試合は二試合。そして最後にこう言った。「おやつは300円までよ」初老のババアを殺害したくなった。

 演舞場に向かう。それぞれの装備に合わせた練習用の武器の調整を行う。練習用とは言え、エーテルの障壁でコーティングすればなかなかの破壊力が出る。

 俺は盾。凛子が短刀二振り。太一が大剣。テルが狙撃銃だ。

 一応はオリエンテーという名目なので他のオウカの模擬戦を見せられる。ちなみにクラスは全員で36名で、柴田鏡花がブッチしているので、35名。つまり本来ならオウカが六組できる計算だが、六人のオウカが五組、俺たち四人、そして碓氷氷雨一人の計七組が出来上がっている。

 つまらん試合が続く。連携はバラバラ。個で突出したやつもいない。つまらんのに、だらだら続く。誰かビールとポップコーンを持ってきてくれと言いたい。

 やっと目当ての対戦が始まる。我らが碓氷氷雨嬢と、クラスでゴミ虫と呼ばれている最弱オウカだ。

 勝敗は一瞬だった。開始のかけ声と同時に氷雨のリボルバーが六回銃声を鳴らすと、六人が地に伏せた。

 クラスの連中が静まり返る。氷雨の実力は相当なものだ。あいつとまともにやれるのは俺と太一くらいだろう。悪いが雷撃加速のない凛子とテルではまだ敵わないと思う。

 戻ってきた氷雨に声をかける。

「やるな、氷雨」

「それはどうも」

「だが、俺の方が強い」

「それは結果で示すんだな」

 そして、次は俺たちの番だ。心が躍る。太一は連携力を見ると言っていたな。よかろう、俺たち四人はまだ知り合って間もないが、ハートは義兄弟くらい固く結ばれている。凛子に至っては婚約関係ですらある。負けるはずがない。

「次、セイントクルセイダーズ対、将くんと愉快な下僕たち。何なの、これ?」担任が首を傾げている。

「おい、あの呼び名はなんなんだ」太一が俺に迫る。

「ああ。敵ながらなかなかクールなチーム名だな」

「どこがクールだ! 完全に中二病じゃないか。俺が言ってるのはうちの話だよ」

みやびだろ?」

「張り切って『エントリーシートは俺が出す』って言ってたから何かと思ったら。将くんらしいや」

「お喋りはそこまで。始まるよ」

 ブザーが鳴り試合が始まる。開始が告げられると同時に、基本通り、一心して障壁を纏う。俺の目の前にはルークの女。最初が肝心だ。

「きええええええええええっ!」

 俺は奇声を上げて突っ込む。女は俺の迫力にビビッて立ちすくむ。容赦なく胸を打つ。

「盾で、殴ったあ?」モブが声を上げる。

 まだだ。

 顔がいまいちなので、左手の盾でボッコボコにしてから、両肩に担ぎあげてアルゼンチン・バックブリーカーをかける。女が泡を吹く。

「エーステっ!」ドイツ語で「一匹目」と言う意味だ。分かる人には分かる。

 次はどいつだ? 見ると凛子は敵ポーンと交戦中で、テルと太一が狙撃と魔法で敵ナイトを釘づけにしている。

 意外かもしれないが、戦力的優位に立った状態で、戦場で一瞬足を止めるのは効果的だ。敵は止まった俺を狙おうとする、これが一種の行動誘導になる。そして当然仲間がそれをカバーしてくれる。俺は冷静に脅威度格付けができる。これをストップトラップと言う。

 敵のクイーンがまさにそれにかかった。ちなみに男だ。エーテルを溜めて俺に向かい魔法を撃とうとした正にその瞬間、テルが狙撃した。こめかみで魔法弾が炸裂して光と音で制圧する。スタングレネードというやつだ。

 ならば俺の狙いはキングとビショップだ。幸い足は問題ない。小刻みなステップでキングとビショップの牽制を避けながら二人の上空に風雲魔法で小さな竜巻を作る。奴らの顔に疑問が浮かぶ。何故、そんな場所に、そういう顔だ。

 気付いた時にはもう遅い。二人の足は氷で地面に縫い付けられている。

「おおおおぉ!」

 宙を舞い、左足を振り抜く! 二人まとめてぶっ飛ばした。

 顔を上げると、ちょうど凛子がポーンの顎に膝蹴りしてノックアウトしたところだった。

 残りはナイト一人。

「おい、俺にもカッコつけさせてくれよ」

 太一が突撃する。下から擦り上げる大剣の一刀でナイトのボーガンを破壊し、その剣をピタッと顔の前に突き付けた。

「そこまで」

 ビーーー。

 担任がブザーを鳴らす。

 これで、一戦目が終わる。担任が壁に張り出していた対戦表をはがし、二戦目のものと取り換える。

「おい、見ろ」太一が顎で指す。

「次は碓氷だ」

 血が沸き立つのを感じた。

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