放課後のデッドゲーム

第33話 放課後のデッドゲーム 1/2


「麗美ちゃん。写真撮ってくれないかな、ブヒー」

 おお、チャレンジャーだな。越前トーマが平野麗美に話しかけている。

 芸能人という事でみんなどっかしら遠慮している雰囲気があるのにブタはお構いなしだ。あのメンタルの強さは見習いたい。

「オッケーだもん。いくよっ、3、2、1、キモウザクソムシ!」

 麗美がトーマのスマホでトーマ単体を撮る。古典的だがダメージはデカいな。

「ありがとうブヒー。すっごく可愛く撮れてるぞー」

「でしょ、もう私に話しかけちゃダメだぞ、ブタウンコ! きゅるるん!」

「麗美、ツッパるなよ。女は愛嬌だぞ」

「あいつすげーな」太一が感嘆する。

 いつまでもトーマネタを引っ張ってる場合ではない。メインは席替えドッジボールだ。

 前回にも確認したが一応おさらいだ。

 αチーム、俺、太一、めぐ美、正人、凛子、モブ。

 βチーム、テル、和子、プラス、モブ×4、と言う編成だ。

 ここにαチームに口の悪いアイドル、平野麗美。βチームに非常勤教師で兄貴の同級生でもある武藤慎二が加わる。

 戦力的に見れば圧倒的にうちらが有利だ。円陣を組んでそれぞれのチームに分かれ打ち合わせする。

「最初の外野には俺が行く。今回は、外野は当てても中に入れないルールだ。つまりバックできるのは最初に外野にいる俺だけだ」

 太一、麗美の前で格好をつけるつもりか。いかにも俺強いから最初は温存、みたいな雰囲気を演出してやがる。

「ちょっと待て。そういう事なら巨大な戦力である俺を外野にするべきではないか? お前のような頭でっかちは『いかん、避けろっ!』とか言ってる実況要員として端っこの方に居ろ」

「えー、将くん。将くんも一緒に内野に居ようよお~」麗美言う。

「うむ。当然俺は内野だ。内野になるために生まれてきた俺に外野に行くと言う選択肢はない」

「男ってバカだけどあんたはケタ違いだな」凛子が呆れる。

「それから一応注意だ。山寺先生は野球部の顧問、テルも中学でバレーボールをやっていたらしい。二人とも肩はそこそこあると思っていた方がいいな」太一、ここぞとばかりに仕切ってくるな。だが、何故かは分からんが麗美は俺に夢中だ。今回も太一は噛ませ犬だな。

「あと注意するのはやっぱ武藤先生かな」正人言う。

「ね、でも一年生の授業は受け持ってないからどんな人か分かんないよね」めぐ美言う。

「あんな奴恐れるに足りん。どうせ見かけ倒しだ。ボッコボコにして赤っ恥かかせてやろうぜ」

「うーん、憎んでるなあ」一人名前のないモブの男子が言う。

「おいモブ、許可なく喋るな。目立ちたかったらまずトーマを超える個性を身につけろ」

「こんなところだな。良しみんな、勝ってバラ色スクールライフだ! 将、気合いの入るかけ声頼む」

「ああ。では行くぞ。有吉、マツコ、坂上忍はもういいっ!」

『有吉、マツコ、坂上忍はもういいっ!』

「しゃあ、行くぞっ!」


「えー、これより、山寺和子プレゼンツ、1-Cバトルロワイアルドッジボールの開催を宣言します。実況はわたくし、草原に咲く一輪の月見草、碓氷氷雨。解説は1-Dの淫獣、西脇・M・エリザベスさんでお送りします。それでは、選手宣誓!」

 氷雨、あいつどこを目指してるんだ? 覚えているか、あいつ最初クールビューティーキャラだったんだぞ。何故こうなった?

「宣誓、私たちは、スポーツマンヒップにフル勃起…」

 太一が宣誓をして、俺たちはコートに分かれる。なるほど、向こうの初期外野はテルか。和子がコート奥正面で構え、ジャンプボールに慎二が出てくる。

「あれ? きみがジャンプボール? あのノッポくんは外野か」

「考えてみろ。試合が始まってジャンプボール。わぁぁ、きゃぁぁってなってる時にジャンプボールするの、なんかバスケっぽくてカッコいいだろ」

「へえ。でも僕相手だったらノッポくんじゃないと勝負にならないだろ? いきなり当てちゃうよ」

「おい、これ終わったらちょっと校舎裏に来い」

「おおっとぉ。早速両チームのエースが火花を散らします。でもやってる事は口ゲンカ。どうですか解説の西脇さん?」

「将は渡さなくってよスペースコロニー」

「ふざけんな。私がカノジョだ」

「そっちこそ」

「おい、マイク通してケンカすんな」

 ピーーー!

 笛が吹かれ、ボールトス!

「よっ!」

「おらっ!」

 慎二が手首でボールを捕える。さすがに空中戦は慎二の方が高いな。だが甘い! かき出したボールが相手コートに流れる一拍前、最高到達点で下からボールを叩く。

「わああぁ!」沸き上がる歓声。

 オッケ、マイボール!

 ボールの落下点に凛子が滑り込み、ジャンプボールで体勢を崩した慎二の顔面を狙う。

「うわっ、あぶね」

 慎二が顔をひねって避ける。バトルロワイアルドッジボールと言うだけの事はある。ジャンパーへの攻撃も顔面狙いもオッケーだ。そしてそこはやはり凛子。ナイス判断だ。

 ボールは外野まで飛び、太一がキャッチする。

「まず一人っ!」

 太一がモブの男子を狙う。受け止めようとしたモブの肩にボールが当たる。

「おしっ」太一が声を出す。

 だが、そのボールが落下する前に和子がフォローしてルーズボールを空中でキャッチする。和子の体操服がちょっとめくれ、意識が遠のいた。

 和子がそのまま攻めてくる。左利きか。大きく振りかぶって、シュート!

 球は弧を描き、凛子に襲いかかる。

「捕れるぞ、遅い」

 外野から太一が声をかける。

 凛子は捕球態勢。だが、シュートは凛子の腹の前でアウトサイドに変化し、足元、膝の付け根に当たる。

「しまった!」

 当たり、こぼれる球を、めぐ美がワンハンドレシーブ! 浮いた球を正人がキャッチする。

「いきなり魅せましたね。教諭のクセ球。華麗なレシーブ。開始早々好プレーの連発です」

 正人が構える。そしてシュート。なかなかの快速球だ。モブの女子に当たり、今度は拾われる事なくボールが地に落ちる。

 モブが外野に移動する。セカンドボールは相手チーム。シューターはまたも和子だ。

 緩い変化球。難なく麗美がキャッチして速攻!

 もう一人、今度はモブの男子に命中する。

「やったあ、当たったあ。ラブ・リー・キュン!」

『ラブ・リー・キュン!』

 自チーム、相手チーム、観客の全員が振り付けありのラブ・リー・キュン!

 老いも若きも麗美のブリッキング(ぶりっ子)には敵わない!

 そして次のプレイ。ボール保持者は慎二。

「麻生くん、おいでおいで」

 ナメやがって、俺は自コートの中央で構える。

「そらよっと」

 速い、そして、無回転!

「くっ」

 胸で受け、ファンブルしかけたボールを両手で抑え込む。やられたら、やり返す。

 俺は助走から地を蹴ってジャンプシュート! 慎二の股間を狙う。奴がジャンプして避ける。うむ、確かにな。ドッジボールだから何も全部取らなくてもいい。難しい球は避ければいいのだ。

 バウンドしたボールは自チーム外野。太一が山なりのボールを投げる。正人がキャッチしてまたパス。外野内野でパス交換して相手を揺さぶる。

 太一がひと際長い縦パスを入れた。正人が捕り、投球態勢。相手がコート奥に下がる。

 その時、太一がコート脇に走り込む! 正人からの横へのパス。敵は虚を突かれ、捕球した太一が投げる! 決まった! これで三人目。

「審判、コート入ります」

 ここで初期外野のテルが内野バック。これで相手外野はモブ三人で奥と両側面を囲む事になる。

 勝負はここからだ。

 相手は横も使ってボールを回し出す。陣形がかき乱される。まずい、めぐ美が足を滑らせた。目の前に相手外野っ!

「めぐ美っ!」

 正人が突っ込んだ。庇うように前に出た正人の頭部側面にボールが当たり、ふわっとボールが浮く。あれなら、捕れる。

「凛子っ!」

「任せろっ!」

 凛子がフライを追う。が、そこに。

 テルが突っ込んできた。身体を斜めにしながら助走してジャンプ!

「あれは、ジャンプトスっ!」

 速く低いトスに慎二が合わせる。空中でタメを作り、そのままダイレクト。凛子の背に当たる。

「くっそ。やられた」凛子が床を蹴る。

 テル、やるじゃないか。さっきの俺のジャンプシュートと同じだ。相手コート内でも、空中ならセーフだ。

「ここに来て大原、りんりんアウト! これで内野は四対四。しかしダーリンチームはまだ井上のバック権が残っています。それにしても湯本が魅せましたね。いかかですか、西脇さん」

「そうですね、どうでもいいです」

 テル、不憫だ。

 まあいい。ボールはまたも慎二。

「さあ、人数減らそうか」

 この発言。狙いはモブ男子か! フォローしようとモブに寄った時、慎二が身体の向きを変える。狙いは、めぐ美。ぽっちゃりした腹に当たり、しかもバウンドボールはまたしても相手コート。

「タイム。バック権使います」

 正人、凛子に続き、外野に移動するめぐ美と入れ違いに太一が入ってくる。その時慎二が口を開く。

「山寺先生。そろそろいいんじゃないですか?」

「そうね。じゃあ始めましょうか」

 和子が言った瞬間、体育館はどよめきと歓声に包まれる。

 なんだ、どういう意味だ?

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