第26話 麻生将のツイてない一日 2/2
ようやく宿舎に着く。ふむ。さすがど田舎。空気が澄んでいるな。今は昼の少し前と言ったところだが、山間から吹く風は心地よく、空気もからりと乾いている。
荷物を置き、さっそくハイキングが始まる。瀕死の凛子は宿舎に残り静養中。俺も部屋でゆっくりとしていたいが委員長を任されている手前そうもいかない。
山登りと言っても所詮は整備された山道。大方、バーベキューやキャンプファイヤーまでの時間調整だろう。モブたちも息を上げることなく、軽口を叩きながら軽快に登っていく。
やがて山頂に着く。
モブたちもスマホのカメラで景色を映している。
山頂での休息は三十分ほど。そこで配られたサンドウィッチで昼食をとる。そしてまた宿舎までの道のりを今度は逆に歩いていく。
「凛子にもこの景色見せてやりたかったな」太一が言う。
「大丈夫だ。りんりんには後で私がとった写真を見せる。それにしても気持ちが良いな。私は山が好きだ。鳥のさえずり、葉の触れ合う音。山には音が満ちている」
「俺も常にトークと言う名のメロディを奏でているがな」
「僕もおじいちゃんが山が好きだったんだ。昔の人だからサバイバルとか得意でさ。よく連れていかれたよ」
「おい、俺の発言を無視するな」
「そうか、では明日の昼食は湯本に期待だな。私は調理は苦手だが、食べられる食材を探すことならできる」
「それなら食材集めは僕と氷雨さん。調理は太一と将くん。凛子は、水汲みかな」
「別に俺は料理得意じゃないんだけどな。あんま期待すんなよ」
「太一、何言ってるの。この前の調理実習、頑張ってたじゃないか」
「おい、俺の話を…」
「聞け。ミソサザイの声だ。ミソサザイは非常に小柄な鳥だが、鳴き声はこのように強く、美しい」
「俺の生殖器は大柄で
来るぞ、爆笑が来るぞ!
「あ、あれ。見えるか? 碓氷、あの鳥は何なんだ?」
「ああ。あれは…」
「おい、俺ののぶタンがだな…」
「あー! 見て、野ギツネだ」
「どこだ?」
「氷雨さん、ほら、あそこ」
「本当だ! うわあ、子どもがいるぞ。見ろ、親ギツネが子どもを守り警戒している」
「の、のぶタンが…」
「それにしてもテル。お前さすがスナイパーだけあって目が良いな」
「たまたまだよ」
「のぶ…」
もう、もういい。俺は誰にも愛されない、愛を知らないロンリーガイだ。一人で強く生きてやるんだいっ!
「見ろ。奇人がいるぞ」
「ああ。あれは麻生将だ。チンポの短い…」
「もう許してくださいっ!」
あんまりだ。なんなのだ今日は。
待ちに待ったキャンプファイヤー。教師たちの空気の読めない長い長い説明が終わりやっとフォークダンス。女子の手を握れるウキウキエロエロイベント。次の列に看護婦が! と思ったら曲が止まり、おまけにそのあと急な雷雨。笑えるくらいの土砂降りになった。そこで宴は強制終了する。山の神を殴ろうかと思った。
もういい、風呂だ。
俺たち男三人は、クラスのモブたちと並んで脱衣所で着替える。
誰も見ていないな。よし。皮を剥いて大人スタイル。例えるなら元服を済ましたのぶタンだ。
俺は自信をもって前を隠さず、堂々たる面持ちで太一とテルを見る。
「じゃあ入ろっか」テルは前を隠している。
「何を考えている。たけくらべだ」普段のフォルムより立派なので、ちょい強気。
「たけくらべって言うな。まあ通過儀礼だしな。ほら」太一がおもむろに腰タオルを解く。
ふふっ。仮性か。勝ったな。いや、俺も今剥いているだけで勝ってはいないんだが。
「テル。何を恥ずかしがっている。男同士だぞ」
「い、いいよ。別に見せる物じゃないし」
「いいから見せろ」
「や、やだよ」
「将。テルも嫌がってるし」
「は、早く、早くしろっ!」俺は大声を出す。
リミットが、リミットが迫っているのだ! テルがイヤイヤしてる間にも徐々に亀頭が包皮の侵略を許し、浸食されていく。せっかくこの
「えいっ!」
「ああんっ!」
その時、太一が不意を突いてテルのタオルを奪う。仮性だった。
「そうか。2/3の確率で火星人が地球に降り立っていたのだな。気にするな。男は中身だ。よし、もう入ろう」
俺が歩きだそうとすると、太一が俺の手首を掴んでそれを止める。
「待て将。バンザイして三十秒数えろ」
「な、なぜだ?」
「お前、なんか怪しい。いいから、ほら」
「断る」
「テル。拘束しろ」
「ラジャー」
「は、離せ! 何をする。やめろぉー」
太一が時計を睨む。コツコツと秒針が進む。い、いかん。このままでは…。
三十秒とはこんなに長いのか。頼む! 神様、もう少しだけ…。略してかみすこだ。
「あれあれ? あれあれあれ?」
「ぎゃおおーーー」
何故だ。何故、運命はかくも残酷なのだ。
「心からー
「あんまりだ。こんな辱めは生まれて初めてだ」
「まあまあ。3/3で火星人だった。それでいいじゃない」テルが取り成す。
だが、あれ? もしかして…。
「テル。お前のそのチンポ。ちょっと見せて見ろ」
「何なの。みんな仮性。もういいじゃないか」
「いや、ちょっと待て。お前、それ真性じゃないか? ちょっと剥いてみろ」
「剥く? どういう意味?」
「さっきの俺のように亀頭を露出させろ。出来んのか?」
「えっ? それって個人差じゃないの?」
「キター! 真性の人発見しちゃいました。ニュータイプの人ここにいますっ!」
「
「か、かっけー」
何も持たぬが故の漢気。
俺にはない力を、テルは持っていた。
ああ、特に何した訳じゃないのに今日はもうへとへとだ。主にメンタルの疲労が凄まじい。大部屋でお布団を敷き、横になる。
「おい、お前たち。俺はもう眠い。一旦寝る。二時過ぎに起こしてくれ」
「何でそんな時間に起こすんだ?」
「見回りに行かねばならんのでな。注射の得意な看護婦たちに逆にお注射をせねばならん」
「テル。縛れ」
「ラジャー」
「ふ、ふざけるな。離せーーー!」
「みんな! 将を取り押さえろ!」
モブたちが俺の身体を抑え込む。多勢に無勢だ。こいつら、俺を尊敬し過ぎだろう。布団の上から縄でぐるぐる巻きにされる。
「ミノムシの完成だ。悪いがみんな。これで勘弁してやってくれ。更にリンチをかますと将が逆ギレする恐れがある」
モブたちの顔が満ち足りている。このまま、
「ははっ。ふはははっ。ふははははっ」いかん、想像したら面白いな、今の。
「なんだ、あいつ。笑ってるぞ」「さすが奇人。この程度の障害、ないも同然という事か」「もうヤルしかない。こいつは生きてちゃいけない存在だ」モブのガヤが聞こえる。
「お前たち。知っているか? 戦国時代。闇を生きる忍びの者、忍者には、縄抜けという技が存在していた」
「ま、まさか奇人はそれをマスターしているのか?」「えらいこっちゃ」「村の一大事じゃ」
「悪い事は言わん。今のうちに縄を解け。命だけは助けてやる」
「どうする?」「まだ死にたくないしな」「だが今がチャンスだ。
俺は目をつむり、待つ。モブのガヤは、俺にとっては海のさざ波。子守歌だ。
「わ、分かった。縄を解く。だから命だけは…」
「ぐおおぉー。すぴー。ぐおおおぉー」
「寝てる、だと」「早すぎるだろ。のび太くんか」「よし、殺そう」
「テル。俺ずっと、一回でいいからしたい事があったんだ」太一言う。
「うん。奇遇だね。僕もだよ」テル言う。
俺はそれを夢うつつで聞いている。
朝起きたら、何故か顔面がすごく痛かった。
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