第7話

 解せない、と大蔵茂は思っている。

自分たちが目指しているのは『伯爵の宴事務局』とう大層な名前のついた場所である筈なのに、同僚の刑事江上達也が「ここです」と言って指差した建物は、酷く古ぼけた安アパートに過ぎなかった。

 「おい、こんなところに、本当にそんなもんがあるのか」

 さっさと二階に通じる階段を上って行く同僚の背中に、大蔵が尋ねる。江上に名称と実態の齟齬を気にしている様子はまったくない。

 「二〇二号室です」

 そう言って、若い同僚はどんどん先に進んでゆく。

 プロファイリングとやらを研究している江上は、今度の猟奇事件を吸血鬼の真似事をしている頭のおかしな奴の仕業だと推理し、そういう輩が出入りしそうな場所に『伯爵の宴』なる団体があるので、そこを調べてみたいと言い出した。捜査の糸口が特に見出せないでいた大蔵は、ダメで元々とその話に乗った。しかし、今は、後悔している。こんなのは、時間の無駄に決まっている。ダメ元にも程度というものがある。昨夜は、二人の制服警官の惨殺事件もあって、署はてんてこ舞の忙しさだというのに。

 そもそも大蔵は、プロファイリングという方法論が信用ならない。正直、どういうものなのかがいま一つよくわからないので、江上に説明を求めたことがある。その時、大雑把な説明に過ぎませんが、という注釈つきで江上が応えたのが、「情報による犯人像の特定です」だった。何だ、そりゃ、という気分である。どこが新しいのか、大蔵にはさっぱり見当がつかない。足を棒にして情報をかき集め、犯人になりうる人物を絞り込み、当たりをつけた人物が犯人であることを示す確かな証拠を見つけ出す、それが大蔵の『捜査』というもののイメージである。情報によって犯人像を特定するなどということは、いわば事々しく言うまでもない捜査のイロハだ。

 「これを捜査に取り入れれば、捜査時間は大幅に短縮され、早期解決が望めます。あらかじめ犯人像が判明していれば、目撃証言や被害者の人間関係などと総合して、短時間で犯人を絞り込むことが可能ですから」

 嘘くさい新製品の説明書を、棒読みされている気分である。

 どうやら「情報」や「犯人像」という言葉に込めている意味が自分と江上とでは違うらしいのだが、江上のやっていることがプロファイリングなら、それは「情報による犯人像の特定」などではなく単なる決め付けだと思えてならない。

 大蔵にとって「情報」とは、聞き込み情報であり、目撃情報である。いずれにしてもそれは、足を棒にしなければ手に入らないものだ。ところが、江上にとって「情報」とは、本の中に書かれており、コンピュータで検索できるものなのだ。大蔵がコツコツと裏を取りながら築き上げる「犯人像」も、江上なら、カタログ化された人間類型の中から選び出せば、それで足りるらしい。

 大体、捜査というのは、推理と修正の連続である。ある推理の下に捜査を行い、それが正しかったとわかれば突き進むし、間違っていたとなればやり直す。初期の段階で犯人像に特定のバイアスがかかれば、捜査の方向性そのものが大きく狂い、場合によっては冤罪という悲劇をも起こしかねない。

 「ここですね」

 江上が、二〇二と書かれた扉の前に立って、囁く。

 どこが『伯爵の宴事務局』だ、と大蔵は思う。ただの薄汚いアパートの一室である。

 「入りますよ」

 江上が言う。大蔵は諦め顔で、頷く。

 江上が扉をノックした。返事はない。もう一度、少し長くノックした。やはり、返事はない。

 「いないんだ、帰ろう」

 大蔵が言う。

 「いや、います」

 江上は、一層強く扉を叩く。

 ガチャ、とノブが回転した。

 僅かに開いた隙間から、男の半顔が覗き、ねっとりとした視線を刑事二人に向けた。

 「何?」

 暗闇を背に男が尋ねる。

 「杉浦武雄さんですね。警察の者です」

 江上が言う。

 「警察が、何?」

 「お知恵を拝借したいんです。杉浦さんはヴァンパイアの専門家でいらっしゃいますよね」

 しばらく間があった。やがて、扉が大きく開かれる。中に、髪の長い太った中背の男が立っていた。部屋は、昼だというのに真っ暗である。カーテンが締め切られているせいばかりではない。四方の壁が全て、積み上げられたビデオテープや書籍で覆われていた。そして、暗い部屋の奥で、コンピュータのモニタだけが青白く光っていた。

 これが『伯爵の宴事務局』であり、そこに立つ不潔な男が事務局長杉浦武雄だった。

 二人の刑事は、杉浦に促されて部屋に上がった。ひどく男臭い。杉浦が照明の紐を引っ張る。明るくなった部屋には、湿気を大量に含んだ布団が敷きっぱなしになっていた。黒ずんでいて、汚い。

 「で、何?」

 その薄汚れた万年床に座り込むと、聳やかした体の重さを後ろについた二本の腕で支える姿勢になって、杉浦が訊いた。

 江上は、その前に腰を下ろした。大蔵は座らない。

 「実はある事件を捜査しておりまして、その犯人が吸血鬼を模倣していると思われる節があるんですよ。で、杉浦さんに、専門家としての意見を伺おうかと思いまして」

 「どんな事件?」

 「まあ、捜査上の秘密というものもあるので、余り詳しいことはお話できないんですが、被害者は十六歳の女性です。惨殺死体で発見されました」

 「なんでヴァンパイア?」

 「死体から、血液が抜き取られていたんです」

 興味なさげに俯いていた杉浦が、徐に顔を上げた。眼に好奇の光が灯している。

 「で?」

 「遺体は、腹を割かれ、性器を切り取られ、眼を潰され、舌を噛み切られていました。そして、首筋の肉も切り取られていたんです。何かこのやり方に、心当たりがありますか」

 おい、と制止した大蔵を無視して、江上は一般人には知らせる必要のない情報まで口にした。

 益々興味を持った様子で、杉浦が身を乗り出し、

 「アンドレイ・チカティロ」

 どこか楽しげに言った。

 「え? アンドレイ・・・何と、言いました?」

 「チカティロ。アンドレイ・チカティロだよ。知らない?」

 「はあ」

 江上は大蔵を振り返る。大蔵は首を振った。

 二人の無言の遣り取りを見て、

 「基本だと思うけどなあ」

 杉浦が語り始めた。

 「そもそもヴァンパイアの起源は、古代ギリシャ。例えば、子どもの生き血を吸ったラミアなんてのが、その例。でも、ヴァンパイアが明確な定義を与えられるのは、四世紀頃のスラブの民話において。血を飲み、銀を恐れ、心臓に木の杭を打ち込めば滅ぼすことができるというのも、この頃からの伝承。

 ヴァンパイアに血を吸われた者もヴァンパイアとして復活し、何らかの手段で滅ぼされるまでは新たな仲間を増殖させ続ける、という今では当たり前のヴァンパイア像が形成されるのが、古代ルーマニア。ただ、この段階ではヴァンパイアは完全な悪魔で、どちらかと言えば獣に近い怪物。永遠の若さを持ち、様々の超能力を発揮するという一種のヒーローの面影を持ち始めるのは、ビクトリア朝時代に入ってから。

 現在のヴァンパイアのイメージは、ベラ・ルゴシのドラキュラが原型で、つまりユニヴァーサル映画が作ったわけ。尤も、僕らの世代はハマーのクリストファ・リーに絶大な影響を受けてるけど。でも、まあ、あの正装にマント翻すイメージは、ルゴシが作ったわけ。偉大だよね。尤も、僕が好きなのは、マックス・シュレックだけど。

 今定着しているヴァンパイア像は、不老不死で知性的、他人の意志を操作するような不思議な力を持ち、霧、狼、蝙蝠等に変身できる魔人で、魂を持たないため鏡に映らず、太陽光線、十字架、大蒜を嫌い、木の杭を心臓に打ち込めば滅びる、とまあこんなところ。

 でもさ、これって伝説でしょ。本物のヴァンパイアってのが、こういうものかどうかはわからないわけ。で、僕の意見では、ヴァンパイアは、ほとんど人間と変わらない。まあ、誰でもヴァンパイアにはなれる。実はヴァンパイアはそこら中にいるのよ。僕もそうかもしれないわけ。例えばね・・・」

 杉浦は、急に早口になって、

 「アルバート・ヘンリー・デサルヴォ、エドワード・セオドワ・ゲイン、ペーター・キュルテン、シアダー・ロバート・バンディ、リチャード・ラミレス、ジョン・ジョージ・ヘイ、エドマンド・エミール・ケンパー三世、チャールズ・マンソン、ウィリアム・J・ハイレンズ、ジョン・ウエイン・ゲイシー、ジェフリー・ダーマー、ディヴィット・リチャード・バーコウィッツ、アーサー・シャウクロス、ゴードン・カミンズ、ピーター・サトクリフ、ヘンリー・リー・ルーカス、ゲーリー・L・リッWウェイ、アルバート・ハワード・フィッシュ、リチャード・チェイス」

 人名らしきものを一気に捲くし立てた。中には、大蔵や江上に聞き覚えのある名前もある。

 「こいつら、みんな、ヴァンパイアだよね。

で、アンドレイ・チカティロも、そういうヴァンパイアの一人ね。九歳の女子から始めて、五二人の男女を殺したロシアの殺人鬼。ま、見た目はまんまシュレックのノスフェラトゥだからねえ、こいつは絶対ヴァンパイア」

 大蔵にはとても事件と関連性があるとは思えない話を、杉浦は滔々と語っている。江上は盛んに頷きながら、熱心にメモを取っている。全く何て無駄な時間を過ごしているんだ、と大蔵は思う。自分たちは殺人事件の捜査に来ている筈なのに、やっていることは変人の妄想を聞いてあげるボランティア活動だ。

 「見てみる?」

 コンピュータのモニターを指差しながら、杉浦が江上に尋ねる。

 「ええ、是非」

 止めとけ、と思わず口を衝いて出そうになった言葉を、大蔵は辛うじて飲み込んだ。

 「チカティロについてなら、この人のサイト。他では見られないような写真も見られる」

 杉浦がいそいそとコンピュータのマウスを操作する。そして、キーボードからカチャカチャと何事か打ち込むと、モニターに一枚の写真が立ち上がった。禿頭の凶悪な人相をした男の顔写真だった。

 「これが、チカティロ。いい顔でしょ」

 吊り上った薄い眉の下の、狂気の光を放つ落ち窪んだ眼が、写真の中からこちらを凝視している。邪悪に見えるように念入りなメーキャップを施したかのような顔だった。

 「これが犠牲者」

そう言って、杉浦がモニターに映し出された画面をスクロールする。チカティロの手にかかった被害者たちの惨殺死体が、次々に映し出されてゆく。腹部を切り裂かれた者、内臓を引き摺り出された者、眼を抉られた者。

 「どう?」

 コンピュータの画面を見入っていた杉浦が、薄ら笑いを浮かべて振り返る。コンピュータの画面から放射される青白い光が、脂肪だらけの杉浦の白い顔の上でちらちらと踊った。

 「もう結構です」

 江上は応え、

 「で、このチカティロなる人物の犯行方法と、先程お話しした犯人のやり方とは類似しているわけですね」

 杉浦に問い返す。

 「舌を噛み切ってたんでしょ。似てるね。後、眼を抉ったりとか」

 「首筋の肉が切断されていたことについては、どうお考えになります」

 「そりゃあ、食べたんでしょ。多分」

 「吸血鬼を象徴しているとはお思いになりませんか」

 「なんで?」

 「吸血鬼は首筋に噛みつきますよね」

 「それなら、本当に噛むよ。首筋に切り傷つけても、仕方ないでしょ。そんなことじゃ、不満足。ヴァンパイアなら、噛まなければ意味がない。重要なのは、牙を肉に挿入すること。犯人が、ヴァンパイアらしく振舞っているなら、絶対自分の歯で噛む。仮令証拠を残すことになっても、そうする。じゃないと、完結しない」

 江上の推理が否定された形である。

 「では、この事件は吸血鬼とは関連がないと判断されますか?」

 「無くなってたんでしょ、血?」

 「ええ」

 「じゃあ、首の傷は偽装」

 「どういう意味ですか」

 「噛み跡を切り落としたんだよ、ヴァンパイアの仕業だとわからないように。つまり、犯人は、本物」

 そう言って、杉浦武雄は、コンピュータのモニターに映った禿頭の殺人鬼を指差し、

 「一九九四年に死刑になってる筈なんだけどね。でも、手口は似てる」

 陰気な笑みを浮かべた。


 「なんか役に立ったのか」

 署に帰る車の中で、大蔵は、ハンドルを握る江上に訊いた。勿論皮肉のつもりである。

 吸血鬼かぶれの変人の話の中に、今度の事件を解決に導く糸口など全くなかった。江口は、脂肪の塊の中に燻っていた妄想に捌け口を与えてやったに過ぎない。

 ―この失敗で、江口も捜査の難しさを知った筈だ。机上の空論では、事は運ばない。将来の警察幹部に、これは悪い経験ではなかったろう―

 大蔵は、煙草の煙をくゆらしながら、そんなことを考えていた。

 しかし、

 「なかなかの収穫でしたね」

 軽く咳をして、煙草を吸わない江上が言った。

 大蔵は、開いた口が塞がらない。

 「ちょっと待て。あの話のどこに収穫があったてえんだ?」

 「アンドレイ・チカティロ。調べてみる必要があると思いませんか?」

 杉浦は、今度の事件の遣り口がロシアの殺人鬼のそれと似通っていると言い、あろうことか既にこの世にいないその殺人鬼をこの事件の犯人だと推理して見せた。

 「馬鹿言え。あいつも言ってたじゃねえか。その何とかって奴は、もう死刑になっちまってるんだぜ。そんな奴を調べてどうする。閻魔様のところに、身柄を引き渡せと交渉にでも行くつもりか」

 「やだなあ。僕だってチカティロが犯人だなんて思ってませんよ。でも、チカティロの模倣犯の可能性は十分にあります」

 「あいつは、思いつきを口にしただけだろう。現場を見ているわけでもねえ。チカティロって奴についても、大して知っちゃいねえんじゃねえか」

 「そりゃそうかもしれません。しかし、彼らの直感は馬鹿になりません。僕らノーマルな人間に比べると、彼らは精神的にずっとチカティロたちに近いところにいるんですよ。僕らが計り知れない犯人の動機を、論理的な回路を介在させることなく、彼らは見破ってしまうことがある。言わば、ノーマルな我々とチカティロのようなサイコパスの間で、杉浦のような人間が仲介者の役割を果たしてくれるわけです」

 理屈はわからないことはない。しかし、

 「それなら、あいつらに刑事をやらせりゃいいってことになるじゃねえか」

 大蔵は不機嫌に煙を吐き出す。

 「それは、一理あると思いますよ。しかし、彼らには捜査能力がありません。だから、僕たちみたいな当たり前の刑事は必要なんですよ」

 江上はそう言って、また一つ咳をした。

 大蔵は反論しようとした。しかし、それを抑えるように、

 「だったら彼らに捜査技術のトレーニングを施せばいい、という発想も取れません。彼らが捜査技術を身につけ警察に勤務するようになれば、彼らの生活習慣は変わってしまいます。まあ、簡単に言えば、まともになってしまう訳です。彼らが仲介者でいるためには、あの暗いじめじめとした部屋でコンピュータだけを話し相手に寝起きしているという生活が、絶対必要なんです。定期を持って警察署に通うような生活を始めたら、仲介者としての彼らの利用価値はなくなります。だから、大事なことは、我々のような立場の人間が、行動科学的知識に基づいて、現に存在する彼ら仲介者をうまく利用することなんです」

 江上が、断じる。

 大学出のキャリアだけあって、確かに江上は弁が立つ。しかし、筋は通っているように聞こえるが、大蔵にはその話が納得いかない。筋は通っているのだがただ通っているだけ、という感じがする。だが、有効な反論も見つからず、大蔵は黙ってただ煙草をふかしていた。

 「それに、今日杉浦を訪ねたことが、もう一つ収穫を生むかもしれません」

 江上が続ける。

 「ひょっとしたら、もう動き出してるかなあ。署に帰ったら、早速コンピュータを覗いてみましょうよ」

 ふん、またコンピュータか、と大蔵は益々不機嫌に煙草の煙を吐いた。


 「大蔵さん。やっぱり早速書き込んでますよ」

 署に戻るなり自分の机の上のノートパソコンをいじっていた江上が、大声で大蔵に呼びかけ手招きした。茶を淹れていた大蔵は、注ぎすぎた茶が湯飲から零れないように用心しながら、江上の机に歩み寄った。

 「見てください」

 江上がパソコンのモニターを指差す。大蔵は、茶を啜りながら覗き込んだ。


926 名前■ブラド伯爵 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    やっほー。今日、日本のハンニバル・レクターなった伯爵で~す。

927 名前■ヴァーニー 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    え? なんで、なんで? どういう意味?

928 名前■ブラド伯爵 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    警察の捜査に協力してしまったのさ。がはは。

929 名前■蒼ざめた貴公子 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    すごいっ! でも、なんで?

930 名前■レスタト 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    まさか、犯人?w

931 名前■ブラド伯爵 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    >930

     ぶぁかっもん! 犯人のわけないしょ。

     眼玉くり抜いて、舌噛み切って、性器切り取るリョーキ殺人があった

     のよ。その犯人のプロファイリングやらされた~。ふふふ。

932 名前■ヴァーニー 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    マジすか?

933 名前■レスタト 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    すごい!伯爵様。でも、なんで伯爵のところに警察が?

934 名前■ブラド伯爵 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    警察の話では、犯人はヴァンパイアらしい。w

     で、ヴァンパイアのことはヴァンパイアに訊けってことで・・・

935 名前■ヴァーニー 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    日本の警察も進歩したねえ。w

936 名前■髑髏検校 投稿日□07/12(土) 16:19:56

    事件についての詳細希望。

937 名前■マグナス伯爵 投稿日□07/12(土) 16:19:56

     そっれて、渋谷の事件じゃね。


 「なんだ、こりゃ?」

 大蔵が首を捻る。

 「BBS。いわゆる掲示板ってやつです。誰でも自由に書き込みが出来るんですよ。これが、『伯爵の宴』の実質的な活動拠点です。このブラド伯爵というのが、杉浦ですね」

 「随分キャラクターが違うじゃねえか」

 江上は、ええ、と頷き、

 「面白いものがありますよ」

 マウスを握って、モニターに映る画面を変えた。

 「見てください。杉浦の自己紹介です」


【管理人のプロフィール】

■ハンドルネーム・・・ブラド伯爵

■性別・・・・・・・・ ♀

■年齢・・・・・・・・3028歳

■血液型・・・・・・・いろいろ混ざってますね(笑)

■星座・・・・・・・・乙女座

■出身地・・・・・・・ルーマニア

■職業・・・・・・・・夜のお仕事(ホストじゃないよ)

■外見・・・・・・・・中肉中背。よく大場隼に似ていると言われる(自覚なし)。

■性格・・・・・・・・少し我がまま。感情の起伏が激しい。でも、基本的には陽気。話し上手だとよく言われる(自覚なし)。

■趣味・・・・・・・・音楽(筋肉少女帯)・映画(今のベストは『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』)・マンガ(『ヘルシング』かなあ)・本に囲まれた部屋に閉じこもって過ごすことなどなど。


 「大場隼て、あの痩せ型の二枚目俳優か? 似ても似つかねーぞ」

 大蔵が呆れて言った。

 「これが、彼にとってはリアルなんですよ。彼が生きる世界はこの中にあるんです」

 そう言って江上は、コンピュータを指差す。

 「この中にいる限り、彼はこの自画像を本気で信じていられる。だから彼は、あの暗いじめじめした部屋を出られないんです」

 「まともな人付き合いもせず、働きもせず、にか。なんだか、憂鬱な話だ。この国は随分おかしくなっちまってるんだなあ」

 「まあ、そうですね。でも、これが現実です。いずれにしても、しばらくはこの掲示板を追跡してみる価値はあると思いますよ。ここは、この手のサイトでは一番訪問者が多いんです。あの事件の犯人も書き込んでくるかもしれません。自分が引き起こした事件が話題になっているのを見たら、黙っていられない筈ですからね」

 そう言う江上に、

 「世も末だな」

 大蔵は溜息まじりに言った。

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