2
赤々と燃え盛る王城を見つめ、少年は瞬き一つしなかった。特に何の感慨も浮かばないのだから、仕方あるまい。
「頼む、お前しか救えないのだ……っ。この日のため――王族を救うためだけにお前は生かされたきたんだ。見捨てようなどと思うな。救ってくれ!」
少年は男泣きしながら縋り付いてくる師を一瞥すると、踵を返した。
「お前には心がないのかっ」
師は吼えた。
少年の歩みが止まる。
二人がそんなやり取りをしている間にも、業火は王城にとぐろを巻いている。
「神の決めごとの前には、誰にも為す術がない」
少年は淡々と言葉を発した。
「何を言う。お前は神に比肩する者。その力を以てすれば業火などすぐに消し去れるはず」
少年は師を振り返ると、腕を組んで目を眇めた。
「師よ、私はまだ死ねない。それに、私の力を捧げる者は、もう決めている」
「…………王族は、このまま死ねというのか」
師の非難がましい声に対し、少年は表情を曇らせる。
「そちらこそ、力を使えば私が死ぬとわかっていて、王族を救わせようとしているじゃないか」
師の顔から見る間に血の気が引いていき、彼はその場に崩れ込んだ。啜り泣く声は炎の叫びに掻き消される。
熱風が、少年の髪を煽った。
火の粉は流星群のように降り注ぎ、王城の周辺を取り囲んでいる森まで舐め尽くす。
少年は引き結んでいた唇を緩め、小さな声で歌を口ずさんだ。
この国の誰も歌わなくなった……いや、忘れてしまった国歌。
――せめて、これが
少年は一頻り歌い終えると、絢爛豪華なマントの留め具を外す。強風に乗った紅いマントは、
「王家は滅べど、民は滅びぬ」
守りたい者を守るため、少年は祖国を棄てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます