第13話 領地視察
バル(矢島 昌治)Side
海賊退治が終わり城に戻るとお爺様は領地には居なかった。帝都で緊急の用件が発生したらしく飛竜で帝都に戻られたそうだ。飛竜であれば数時間で帝都に戻ることが出来るがお爺様程の地位がある貴族は使わない。よほど重大な案件なんだろうが子供の僕には知らされないだろう。
本来はお爺様の領地視察のお供をする予定だったのだが僕にとって領地を見ておくのは大切な事なので残って見て回るようにとの伝言が残されていた。
翌朝目が覚めるとまたもや姉様が居た・・・。ただし今日はディオ姉様ではない。
強く抱きしめられて居らず、服を着ているので昨日より状況はかなりマシだ。ベッドから起き上がる。
「カルお姉ちゃん、朝ですよ起きて下さい」
「うーん、あと五分」
またもやデジャブだ。流石母だな娘容姿だけでなく行動や仕草までそっくりだ。今度は身体を揺すりながら声をかける。
「カルお姉ちゃん、朝ですよ起きて下さい」
「うーん、あらバルちゃんおはよう。甘えん坊さんなのね。私の寝室にまで来るなんて」
そう言って抱きついてくる。
「違います。ここはカルお姉ちゃんの寝室じゃないです。僕の寝室です!!」
「ん?」
カルお姉ちゃんは寝ぼけ眼で部屋を見回す。
「あーそうだったわ」
「そうだったわじゃないですよ。なんでここに居るんですか」
「えーだってディオだけ狡いじゃないー。私だってバルちゃんと眠りたかったのよ」
「狡いって・・・」
子供か!! と小一時間ほど説教したくなったが前世の記憶があるとは言え今は自分が子供なので何とか押さえた。
「それに昨日はダーリンも居たけど1日でかえっちゃったしー」
「それはお寂しいでしょうけどお爺様もお仕事ですし」
「バルちゃんに言われなくても解って居るわよ。それに今日ダーリンが居たとしてもバルちゃんと一緒に寝るつもりだったしね」
「計画的ですか・・・」
昨日と言い今日と言い朝から酷く疲れるな・・・やはり年だろうか・・・精神的には50過ぎているんだしな。
朝食を済ませ今日は叔父上と領地内の東にある畑などを視察する予定だ。ゆっくりと進む馬車に揺られながら領地を見ているとオーレ川を中心に広大な耕作地が広がっているのが解る。オーレ川と言うのは王都にも繋がっており大陸一と長いと言われている大河だ。帝国はこの川を中心に発展していると言っても良い。
外の景色を眺めていると叔父上が話しかけてきた。
「今朝も大変だったらしいな」
「はあ、目覚めるとカルお姉ちゃんが居ました」
「まあ、我が家の伝統みたいな物だ。慣れてくれ」
「伝統ですか?」
「ああ、母上の血筋は特に母性愛が強いみたいでな。私はもちろん兄上も幼い頃には添い寝させられたからな」
「そうなんですか・・・」
父上も被害者だったのか。
「まあ私も兄上も見た目はカル様より老けてしまっているが二人とも未だに幼子扱いだからな」
「カルお姉ちゃんっておいくつなんですか?」
「確か76だったかな。時には父上も子供扱いなさる事もあるからな」
「さすがダークエルフですね。とてもその年齢には見えない」
「ディオも今年で32に成るからな」
「そうなんですか。20才くらいにしか見えないのにさすが長命種だけのことはありますね」
「あ、そうだ二人の年齢の話をしたことは内密にな。バレると危険だ」
「は、はい。それは身に染みて解って居ます」
「うむ、それなら問題無い。二人とも普段身内には甘すぎるくらい甘いのだが怒ると怖いからな」
「お二人ともお強いみたいですもんね」
「ああ、妖精種らしく魔力量も凄い。それに伴って筋力も凄いからな」
「そんなに凄いのですか?」
「ああ、剣技だけなら流石に兄上が一番だが魔法と会わせると二人とも兄上よりも強いぞ。ディオも年々強くはなっているがカル様にはまだ及ばないがな」
父様は近衛騎士団長を勤めているだけあって国でもトップクラスの実力を持っている。実際に父様が剣技で負けたと言う話は聞いたことがない。それよりも強いと言う事は実力ではカルお姉ちゃんが一番で二番はディオ姉様と言う事になるだろう。
でも第一印象が残念すぎるのか素直に尊敬出来ない・・・。昨日の海賊討伐を見ても相手との力の差がありすぎて優秀さは解らなかった。
「そういえば最近領地内に海賊が出るようになったらしいですが、魔物や山賊なんかは大丈夫なんですか?」
「うむ、全く居ないという事はないが豊かな森のお陰で帝都と比べても少ないぞ」
「森があれば魔物が増えるのでは?」
「普通はそうだな。だが我が領地の森にはエルフの里があるからな」
「なるほど、エルフ達が森を管理してくれるのですね」
「そうだ。エルフと人が協力しあって居るからな」
「知って居るか我らの血にもエルフの血が入っているのだぞ」
「え、そうなんですか?」
「何代か前になるらしいがな。そのお陰で我が一族は代々魔法に長けて居る」
「僕やアーデが全属性を持っているのもそのお陰なのか」
「そうだな。でもお前達二人の全属性については姉上の血も大きいと思うぞ。
実際私の家族は全属性持ちは居ないからな。それでも魔力量は多く複数の属性がある」
「そうだったんですね」
「エルフ族は長命だからな。その事を覚えている物も多い。エルフ族は排他的な種族ではあるがそのおかげもあって我々はエルフ族と親密なのだ」
「知りませんでした。自分の血の事も知らないなんてまだまだ勉強がたりませんね」
「はは、そんなに卑下することはない。バルは十分賢いと思うぞ」
「有難うございます」
「まあエルフと近い分、獣人族からは遠いのが難点でもあるんだがな」
「一長一短ってことですね。そういえば帝都より領地内の獣人の割合が少ないですもんね」
「帝国貴族の中には我らとは逆に獣人族に近い家もあるから帝国としてはバランスは取れているから大きな問題にはならないだろうがな」
「そうですね。どんな種族とも争うより仲良くしたほうが良いですもんね」
「多民族主義は我が帝国の国是でもあるからな。残念な事に例外もいるが」
このヴァルハルト領は精霊の森と呼ばれる広大な森に隣接している。この森は別名エルフの森とも言われ多くの部族が暮らしている。その部族はエルフはもちろんダークエルフなど様々な精霊種の部族があると言われている。
そして数多ある部族の頂点にはハイエルフが存在しておりその教えの元に精霊種達は森を守り暮らしている。ただしエルフやダークエルフから見てもハイエルフ族は神秘に包まれており伝説や信仰の対象として扱われているので真偽は定かではない。そしてこの森の一部の部族は僕らのご先祖様達と国を興したとされている。その名残で森の浅い部分は今でもヴァンハルト領となっている。
その後も叔父上と様々な雑談をしながら一週間程かけて領地を見て回った。想像以上に開けており豊かな自然を持つ領地だった。領地にある村は中世の貧しい農村を想像していたのだがそう言った悲惨な感じは全くなかった。作物が豊富であり魔法の助けもあるためか意外と文化的な生活を送っていた。
僕が案内された村々が豊かな村だけだった可能性はあるが、叔父上の話では領内の村は大体似たようなものらしい。もちろん不作やが続いたり、自然災害が起こればそうも行かないとは言っていたが近年はそういう事も起こっていない。
さらに途中には森に入り精霊族の村も見て回った。エルフの村は大木の上に家があり物語のイメージそのままの美しい村だった。その村には街道が通っており森の奥に住むエルフ達との交易の拠点になっているため領内の他の村と比べても栄えていた。視察が終わり城に戻ると案の定というか想定通りと言う展開が待って居た。
「コン兄様だけ狡い!!バルちゃんを一週間も独り占めなんて!!」
「ディオこれは代官と嫡孫の大切なお役目だ。バル君は我が侭ひとつ言わなかったぞ。叔母として恥ずかしくないのか!!」
「やー、それでも狡いの!!今日から私がバルちゃんを独り占めするの」
戻った途端にあっと言う間に捕獲されてしまった・・・
「馬鹿な事を言って居ないで離して上げなさい」
「やー」
なんなんだろうこの状況は・・・叔父上が必死で追いかけて来るがディオ姉様は華麗な身のこなしでその全てを躱していく。僕をかかえたままで…。
「ハイハイ、相変わらず二人は仲良しね。クマさんを取り合ってた幼い頃から変わってないわね。それからディオは我が侭言わないの」
ヒョイと軽い感じでカルお姉ちゃんがディオ姉様から僕を取り上げ小脇にかかえる。
「あ、母様私の方が先なのにバルちゃん取らないで」
「ダメです。これからバルちゃんには大切なお仕事があるんです」
「じゃあ、ディオもついてくー」
もうどこから突っ込んで良いのか解らないな。クマ扱いされた事もディオ姉様が幼児退行している事も些事に思えてきた。
「今日は満月の夜ですからね。バルちゃんはご先祖様にご挨拶するのよ」
「ううう」
そしてカルお姉ちゃんに抱えられたまま連れてこられたのは浴室だった。手慣れた感じであっと言う間に服を脱がされた。
「え、え、え」
「お風呂に入るんだからお洋服は要らないでしょ?」
僕が戸惑っているとそんな返事が返ってきた。聞きたいのは何でお風呂に連れてこられたのかと言う事なのだが・・・
驚きの余り再起動出来ないままに風呂場に入り頭から前進を洗われる。何人も子供を育ててきた年期だろうか非常に手際が良い。
綺麗に洗われたあと浴槽にチャプンと付けられた。
驚いた事にカルお姉ちゃんもいつの間にか裸になっており隣でお湯につかっている。
「バルちゃんは大人しいわね~ディオなんか暴れて洗うの大変だったのよ~」
「あ、いえ、あの」
「ん?どうしたの?」
「なんで僕ここに居るんでしょうか?」
「あら、説明してなかったかしら。これからご先祖様にご挨拶するからね。身を清めてるのよ」
「ご挨拶?」
「あら、ダーリンたらその説明もしてないの?」
「お爺様からは何も聞いてないです」
「はぁー、もうダーリンたら。そんなことだと私が亡くなったお父様やお母様それにエルゼお姉様にも顔向け出来ないわ」
「そんなに大事な事なんですか?」
「もちろんよ。ヴァルハルト侯爵家で一番大切と言っても良いくらい大切な事よ」
「それは何でしょうか。全く思い浮かびません」
「帝国ではあらゆる宗教が認められているでしょ?」
「はい、種族によっても信仰は違いますからね」
「でもヴァンハルト家では特定の宗教は信仰していないのも知っているわよね」
「はい、でもあらゆる物に精霊が宿り魂を持つから大切にしなさいと教わってきました」
この考え方は前世にいた時の神道というか八百万の神の考えに似ていて凄く馴染みやすい。まあ、前世ではお年寄りみたいに信心深い訳でもなく無神論者だったから話として知っている程度だったが。
「この考え方は元々エルフやドワーフ等の精霊族の精霊信仰と人間族の先祖を敬う風習が長い年月をかけて合わさって大陸全土に広まったと言われているの」
「精霊様は実在しますからね」
「そうね私もお会いしたことは少ないけど精霊様は実在するわ。歴史的にも人の力を大きく越えた力を持った精霊様が人の世界に現れた記録もあるわね」
「絵本や物語にもいっぱい出て来ますね」
「そうね。さすがに物語に登場する精霊様は空想の産物と言うか荒唐無稽な物も多いけどね」
「それほど大きな力はお持ちではないけれどエルフにとって木の
前世の見ることが出来ない神とは違いこの世界では明らかに精霊は存在する。エルフは他にも水の
「話が少し逸れてしまったけどヴァンハルト侯爵家では特定の宗教を信仰していない代わりにと言ってはなんだけど精霊様やご先祖様をとても大切にしているの」
「はい、それは僕も幼い頃から教わってきました」
「そのようね。そして特にご先祖様を大切にしてるのも知っているかしら」
「はい、初代皇帝様と共に国を興した宗主様を始め歴代のご先祖様のお話は聞いています」
「そこは大丈夫みたいね。じゃあこの城にご先祖様が祭られているのは知っている?」
「いえ、それは知りませんでした」
「やっぱり・・・。本当ダーリンってば変なところが抜けているんだから」
帝国宰相であり皇帝陛下にも意見できる程の権威があるお爺様でも奥さんには勝てないんだな・・・。これはどこでも同じなんだな。なんか安心する。
「まあその事は良いわ。兎に角ご先祖様を祭っている塔がこの城にはあるの」
「塔ですか」
「そうよ城の中央にある一番高い塔があるでしょ」
「ああ、あれですね」
城外から城を見たときに目立っていた塔を思い浮かべる。
「一族の物にとって大切な事が有るときはそのご先祖様にご報告するのが慣わしなの」
「そうなんですね」
「そうよ。子が産まれた時や家族がこの世を去った時とかはもちろんだけど人生の節目なんかでもご報告やご相談をするの」
「でも今の僕に関係ありますか?」
「もちろんよ。バルちゃんは今年12才でしょ?」
「はい」
「人足の成人は15才なのは知っているわよね」
「もちろんです」
「15才になったら大人として扱われるわ。でも15才になるまで何もしなければいきなり社会に出ても大人として行動できないでしょ?」
「そうですね」
「だから12才は将来に向けてどこかに弟子入りしたり大人になるための修行なんかを始める年になるのよ」
そうだった。そういえば騎士になりたいものは12才から騎士見習いとして誰かに弟子入りしたりするんだった。前世の感覚だと小学生だから将来とかあまり深く考えてなかったな。今生ではもう進路希望を出さないと行けなかったのか。
「それは考えた事がありませんでした」
「もう、ダーリンもリンちゃんも頼りにならないんだから」
リンちゃんと言うのはリーンハルトの愛称で父様の事だなそれにしてもリンちゃんって・・・
「いえ何も考えて居なかった僕もいけないですね」
「ううん、そんなに気にしなくていいからね。バルちゃんは侯爵家を継ぐ身だしね。家だけの事を考えるならダーリンやコンちゃんについて勉強するって事もありだし、ニコラウス様の教えを受けているのだから魔道士を目指すなら本格的に弟子入りするって手もあるからね」
「うーん」
「まだ慌てて決める必要はないのよ。それに報告ではなく悩んでいる事をご先祖様に相談しても良いのだしね」
「うーん」
悩み始めた僕を見て若干慌てた様子でカルお姉ちゃんは声を掛けてくれる。
「あまり長湯になると上せてしまうからとりあえずお風呂をでましょう」
「はい」
風呂から上がり新しい服に着替え塔に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます