第18話 地震のあと(佐神 悠人の場合)

佐神 悠人Side


地震直後 津波避難タワー


(くそ!!)


 みんなで俺を馬鹿にした視線で見やがって。急に現れた陸地をアメリカだと思っても仕方ないだろう。太平洋の反対側にアメリカがあるのは間違い無いんだからな。大体こいつらより俺のが頭は良いんだ。何か言い返してやろうと考えているとガヤガヤと人が集まってくる気配がした。ここに上ってくる人の中にある人物を見つけた。

(やべっ、監督だ。サボってたのがバレてしまう)


「おー、お前らも来てたのか早かったな。他の連中はどうした。」

「あ、監督。えーっと」

(利久の馬鹿野郎、そんなに挙動不審だとサボってたのばれるだろう)

「あー監督俺らみんなとはぐれちゃって地震が起きたとき丁度この下に居たので」


(おー、靖ナイスフォロー)


「そうか。他の連中もすぐにくるだろう」

「そんな事より監督あっち見て下さいよ!!アメリカが見えてるんですよ!!」

「悠人・・・まだアメリカって言い張るのか・・・」

「はぁ、アメリカ?またお前は馬鹿な事を言って・・・・な、なんだあれ」

 利久の馬鹿がとかなんか言ってる気がするが気の所為だ。利久も俺と同じくらい馬鹿だしな。監督が俺の指さす先にある陸地を見て固まった。その様子にここに集まってきた人達も視線を向けて騒ぎ出して居る。

写メを撮り出したりしてる人もいる。


 次々に避難してくる人たちも陸地を眼にして驚いている。そんな事をしている間にまじめにランニングしていたヤツらも来ていた。


「キャプテン部員全員いるか確認しろ~津波の心配は無いみたいだから一度学校もどるぞ」

 監督がそう言ってキャプテンに指示をだし、俺達は学校に戻る事になった。




地震発生から3日後


「悠人ー、なんかやることないか~暇だぞ~」

「あー暇だな~」

「そういえばもうすぐテレビで総理から重大発表があるとか言ってたな」

「政治家のじーさんの話なんてわかんないからいいよ」

「そうだなぁ」


 俺達は家族と一緒に学校に避難生活をしている。まあ、家族と言ってもウチは母ちゃんだけだけどな。ウチのボロアパートはヒビとか入ってて倒壊の危険があるとかで立ち入り禁止になってる。元々ボロかったしヒビもあったから平気だと思うんだけど家の方は電気も水道も通ってないし役所とかの調査が終わるまでは帰れないらしい。まあ、利久や他の友達も避難してるしキャンプみたいで楽しいから良いんだけどな。しかも学校も休みだから勉強もしなくていい。


「ほら、あんた達こんなとこでグータラしてないでテレビ見に行くわよ」

「あ、母ちゃん。俺はいいよ。面倒くさいし」

「悠人、あんたもう中二なんだから少しはちゃんとしないさいよ。利久君は見に行くわよね?」

「はい、もちろんです」

(利久のやつ裏切りやがって」

「ほら見なさい。馬鹿な事言ってるのは悠人だけじゃない。少しは利久君を見習いなさい。ほら、いくわよ」

「はい」

「はーい」

 仕方が無いので母ちゃんに付いていく事にする。


 避難場所になっている体育館に入るとテレビの前には結構な人が集まっていた。みんなが静かに食い入るように見ている画面にはどこかで見たことのあるおっさんが映って何か話してる。


「・・・という事です。誠に信じたいことではありますがこれら数々の証拠が示している通り我々日本国はどこか知らない世界に飛ばされました。みなさんご存じの様に我が国は今まで食料やエネルギーを始め様々な物を輸入に頼っておりました。それが無くなった我々は非常に苦しい状況に置かれております事をご理解ください」


(うーん、よくわからん。そもそも自給率ってなんだ?)


「誠に遺憾ではありますが」

 しばらく総理は沈痛な表情で沈黙が続く。

「日本国内閣総理大臣の名において、ここに国家非常事態宣言を発令いたします」

「国民のみなさんには国家一丸となりこの苦難を乗り越えるためにご理解ご協力をお願いいたします」


 そう言って画面が切り替わる。非常事態宣言にともなって色々な事が行われることが紹介されている。


 停止中の原子炉の再稼働や自衛隊や警察などの強化とか言って色々説明されているが良くわからない。唯一なんとなく解ったのが燃料や食料の配給制度が実施されるらしい。でも配給ってことは食い物タダで貰えるんだろ。ラッキーだと思うんだけどなあ。なんで苦難なんだろう。みんな深刻そうな顔でテレビを見ている。ここで変な事言うとまた馬鹿にされそうなので俺も深刻そうな表情を作って見ておく。


 一通り説明が終わったあと政府広報のCMが流れたけど、初めて見るヤツでこれも意味がわからんな。


「欲しがりません勝つまでは!!」

「贅沢は敵だ!!」


 なんの事かさっぱりだ。まあ、政府広報のCMっていつもこんな感じで意味不明だから良いか。




地震発生から二週間


「腹減ったなぁ。利久なんか食い物もってないか」

「んー煮干しならあるぞ」

「俺は猫じゃねえ!!。肉とか菓子とか食わせろ!!」

「んなもんあるかよ~」

「だよなぁ家に帰れたのは良いけどよ~配給始まってから固い米と魚くらいしか配られてないじゃん。せめて量がもう少しあればなぁ」

「量だけなら漁師のおっちゃん達に頼めば貰えるじゃん」

「ああ。おっちゃん達いまなでに無い空前の大漁って言ってたもんな。でも魚じゃないんだよ。俺元々魚苦手だからなぁ。毎日、刺身とか焼き魚とか辛すぎる」

「だよなぁ。肉とか甘いもん食いたいな・・・」

「そのうちエラとかヒレとか生えてくるかもな」

「だなぁ」


「贅沢は敵だ!!かぁ・・・はぁ」

いい加減見飽きてきたポスターを眺めながら溜息をつく。

「こんな状態いつまで続くんだろうな」


「お、馬鹿二人そろってこんなとこで何してるんだ」

「靖、てめ上等だ。その喧嘩かった」

「悠人、余計に腹減るぞ」

「腹減ったら魚食う」

「いいのかよ。さっき嫌いとか言ってただろ」

「相変わらず二人で良い漫才するな」

「靖も参加してトリオでも組むか」

「いや、それどころじゃないんだよ」

「ん?なんだよ」

「監督や先生達が反逆罪で公安に逮捕されたらしいんだよ」

「とっこう?」

「反逆罪?」

「ああ、監督達が中心になって非常事態宣言に対する抗議でもとかをしてたらしいんだよ。そこで捕まったらしい」

「へえ、そなのか監督も大変だなぁ」

「そんなのんきに言ってる場合じゃないっての」

「別に俺らに関係無いじゃん」

「悠人おまえネットとか見てないのかよ」

「ネット掲示板とかならたまに見るぞ」

「ふふ、俺は悠人と違うからな。掲示板のアニメスレなら毎日欠かさず見てる」

「ちげーよ。時事ネタ関連のスレとかだよ」

「そんなのおっさんが見るもんだろ」

「まあ、見てないのは解ったからいいよ。とにかく誰に聞かれても政府の批判とかするなよ」

「はあ、ますます意味がわかんないんだが」

「ネットでは政府批判とかすると公安に捕まって洗脳されるって、もっぱらの噂なんだよ」

「丁度いいじゃないか、ずっと風呂入ってないから頭洗いたい」

「なるほど、刑務所ならシャワーも使えそうだもんな」

「悠人それは洗髪だ・・・。誰がそんなベタなボケしろと言った。利久お前もさらに乗っかってくるな」

「え、洗髪じゃないの?」

「天然かよ。洗脳だよ洗脳。別人みたいに変えられたってことだよ」

「洗脳かよ。それなら最初からそう言えよ」

「洗脳か!!もちろん知ってるよ洗脳ね。洗脳いいよね!!美味しいよね!!」

「もうツッコミ入れるのも疲れたよ。もう理由とかどうでもいいから政府批判とかするとヤバイって事だけ覚えとけ」

「お、おう解った」

「ヤバイってのだけ解った!!」




地震発生から二ヶ月が過ぎた。


 なんとかライフラインや交通網は回復したが未だに配給制度は続いている。相変わらず魚ばっかりで野菜も殆ど無い。肉に至ってはここ最近は全く見ていない。育ち盛りの俺にはかなりキツい。


 それから靖がなんか色々ヤバイとは言って居たが監督達も一月ほどで無事に戻ってきた。ただ戻ってきた監督達が妙にオドオドしてる気がする。それ以外は変わった点はないように見える。前は自信過剰な感じだったんだけどな。戻ってきてから口癖のように「政府は偉大だ」「お国のためにみんなも尽くすんだぞ」とか言う様になったのが少し気になるくらいだな。そんな事いままで言った事なかったので不思議だ。


「おーい、悠人これ見たか?」

 利久が何かビラを持って来た。そこには「来たれ勇気ある若者たち」と大きく書かれて居る。

「なんだこれ?新しい詐欺とかか?」

 ビラを詳しく見てみると何かの募集広告らしい。

「冒険者募集って書いてあるな」

「学費は無料で全寮制みたいだな。うお寮では肉食べ放題ってのも書いてるぞ」

「在学中も給料ありで学校出てから冒険者になったらさらに良い収入になるって書いてあるな」

「話がうますぎないか?やっぱり新手の詐欺か怪しい焼き肉屋宣伝とかじゃないか?

「いや、このビラは学校で配ってたし先生達も知ってるみたいだった。それにこのビラ政府発行らしい。詐欺とかの心配は無いみたいだぞ」

「募集年齢14才からってなってるから俺達でも行けるんだな」


「おー利久に悠人偶然だな。お前らこんなとこで何騒いでるの?」

「靖、丁度良い所に来たな、これ知ってるか!!」

「悠人おまえそれ俺が見つけてきたんだからな」

「ん?あーなんだ冒険者のビラか」

「お前もう知ってたのか、さすが情報はえーな」

「ああ、俺はもう応募したぞ今はその帰りだ」

「「ええええ」」

「そんな驚く事ないだろう」

「もし詐欺とかだったらどうすんだよ」

「それは無いよ。政府の保証付きだし。この状況で俺達みたいなガキ騙しても全く金にならんだろ。 第一そんな怪しい物を学校とか役所で配るわけないだろ。聞いた話だけどこのビラ交番にも置いてあるそうだぞ」

「交番にまであるのかよ!!」


「それにこんな状況だ。俺んちは親父も仕事出来ない状況だから金がいる」

「うちの親父も同じなんだよな。悠人のとこはどうなんだ?」

「うちは母ちゃんだけだからもっと状況悪いぞ」

「なら俺達も行くか」

「そだな。どうもここは異世界みたいだしアニメみたいに冒険者になって俺TUEEEするしかないな!!」

「悠人やっぱりお前バカだな・・・」

「陸、お前はいっつも俺達をバカバカ言いやがって。少し位成績良いからって偉そうなんだよお前だってバカじゃないか」

「いや、バカって言われたの悠人お前だけだろ一緒にするな」

「利久お前まで裏切るのか・・・」

「まあ、俺TUEEEとかないからな。ラノベとかで出てくるのは一人だけ異世界に転移するから俺TUEEEなんだよ。冒険者になるのみんな俺達と一緒で転移してんだからな」

「確かに・・・お前頭良いな!!」

「さっき言った事と正反対じゃ無いか」

「そんな古い話すると老けるぜ」



 その後俺と利久も冒険者学校に申し込んだ。結局3人そろって冒険者に成ることにした。申し込んだ翌日に早速学校からの呼び出しがかかった。試験も何も無いようでそのまま俺達は入学することになった。今は3人で大阪の梅田に来ている。このまま寮に入ることになるらしいが、準備期間が殆ど無かった為数日分の着替え程度しか荷物は持ってきていない。


「ほえーでっけえビルだな」

「悠人止めろよ。田舎者だと思われるだろ!!」

「だって俺大阪なんて初めて来たし。利久はあるのかよ」

「俺だって初めてだけど恥ずかしいだろ」

「ふふ、俺は親父と2回来たことあるぜ」

「「おお、すげー」」

「あ、ここが目的地みたいだな」

「なんか小せえビルだな」

「それになんか怪しい雰囲気だな」

「そうだけど梅田募集案内所って書いてあるし間違い無いはずだ」

「アニメポスターがいっぱい貼ってあるな」

「アニメショップでもあるのか?」

「お前ら相変わらずだな・・・自衛官募集って書いてあるだろ」

「へ?自衛隊がなんで関係あるんだよ」

「自衛隊がアニメ見るのか?」

「お前ら募集広告ちゃんと見てなかったのかよ俺達の目的地は自衛隊の事務所だよ」

「ん?なんで俺達冒険者になるんだろ」

「そんなの俺も知らねーよ。とりあえず中に入るぞ」


 古い事務所のドアを開け恐る恐る中に入っていく。


「失礼しまーす」


 中に入ると白髪交じりのおっさんが笑顔で出て来た。筋肉質で体格が良いので自衛官かも知れない。

「はいはい。君たち何か用かい?」

「あのー俺達冒険者学校に・・・」

「あーはいはい、冒険者学校の入学希望者ね。君たちは中学生かな?」

「あ、はい」

「そうすると鈴木君たちかな?」

「はい、僕が鈴木 靖です」

「はいはい。聞いてるよ。あとは佐神君と志藤君だね」

「「はい」」

「中学生なのに偉いねー。じゃあこっちに来て座ってコーヒーで良いかな?ジュースもあるよ」

「あ、コーヒーで」

「俺も」

「俺も」

 案内されたのは事務所の隅にある応接コーナーだ古いソファーと机が置いてある。俺はジュースの方が良かったけど二人がコーヒーって言ったので言い出せなかった・・・


 その後冒険者学校の説明をされて入学申し込みやそのほか色々なサイン書類にサインをさせられた。よく読むようにとは言われたけど漢字が多くて途中で諦めた。きっと靖が読んでくれてるだろう。


 全員のサインを確認したあと車に乗せられて空港に来た。


「なんだ関空じゃなくて伊丹かよ」

「俺飛行機初めてだから緊張する」

「悠人もかよ。まあ俺もおんなじだけどよ」

「なんだ利久もかよ。靖は乗ったことあるのか?」

「ああ、一回だけだけどジャンボに乗ったぜ」

「「いいなぁ」」

「あれ?これが俺達の乗る飛行機みたいだけど小せえな」

「え、十分デカいじゃん」

「あっちに停まってる大きい飛行機あるだろ」

「あーデカいな・・・」

「なんか不安になってきた」


 改めてみると俺達の乗る飛行機はバスに羽が生えた程度の大きさだった。とりあえず飛行機に乗り込み目的地にはすぐに着いた。飛行機には俺達と同じ冒険者学校に行く人なのか大学生くらいの人が多かった。高校生とかも居た様だが俺達みたいな中学生は居なかった。


「結局CAも居なかったな・・・」

「結構、揺れて怖かった・・・」

「悠人も利久もいい加減にしとけよ、そんな事よりここなんだ?」

「「なんだここ?」」

 飛行機から降りると目の前は森だった。

「おい、あっちに戦車とかあるぞ」

「ヘリまであるじゃん」

「自衛隊の基地なのかな。でも飛行機の窓から見たら和歌山の上飛んでたんだけどな」

「え、それなら俺達戻ってきたの?」

「でも和歌山に飛行場がある基地なんてないよな」

「ああ、それに和歌山は通り過ぎてたんだよな」

「ということは南大新島か?」

「バカ言うなよ。島見つかってまだ2ヶ月だぞ。そんな短期間で基地とか出来るかよ」

「そうだよなぁ」

「おい、悠人、靖みんなあっちの建物の方行ってるぞ。俺達も行こう」

「そだな」

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