第19話 冒険者育成学校

佐神 悠人Side


 やはり俺達は南大新島に来ていた。基地の横に冒険者学校が併設されている。これから三ヶ月かけて訓練が行われ卒業すると冒険者になれるそうだ。


 学校についての簡単なオリエンテーションが行われた。スマホが没収されたのは納得がいかない。暇なとき何をすればいいのか。オリエンテーションの後は俺たちがこれから寝泊りする寮に案内された。案内されたのは4人部屋だったが他の二人とも一緒なので気が楽だ。俺達3人の他にもう小柄で眼鏡をかけた一人中学生がいた。


「やあ、佐神君たち偶然だね」

「は?お前誰だよ」

 いかにもオタクっぽいヤツが俺に声をかけて来た。俺達と同室になるもう一人の中学生だ。だが俺はこいつを知らない。

「へ、悠人お前何言ってんだよ明石じゃないかよ」

「利久お前知ってるのかよ」

「知ってるも何も悠人お前のクラスメートじゃないか」

「え?こんなヤツいたっけか?でもなんで俺より利久のが知ってるんだよ」

「佐神君酷いなぁ。1年の時から同じクラスなのに、1年の時は志藤君も同じクラスだったよね。僕は明石 雫雲あかし だうんだよ。改めてよろしくね」

「ぶははははは。なんだそのキラキラネーム・・・ダウンだって・・・はははは」

「おい、悠人名前を笑ってやるな・・・ぷっ」

「なんだよ靖も笑ってるじゃねえかよ。まあ、悪い悪い明石だったなつい笑っちまった。これからよろしくな」

「ああ、俺は悠人と違ってちゃんと覚えてたからな。これからもよろしくな」

「ああ、俺は鈴木 すずき やすしだ。こいつらと同じ野球部だった。よろしく」

「うん、こちらこそよろしく」

「しかし明石小柄で細いけど大丈夫か?何か運動とかしてなかったのか?」

「うん、帰宅部だったから何もしてない」

「それでよく冒険者になろうと思ったな」

「うん。異世界に来たっぽいし冒険者になるのは鉄板かなと思って」

「俺達はバカだけど体力だけは自身ある。でもお前は大丈夫か?」

「うーん、あまり体力はないし勉強も苦手だけど異世界だから秘められた力がぶわーとかあるかもしれないし」

「あー気持ちは解るけどよー。そういうのは一人だけ転移したとかだからじゃね?」

「うん、そのネタもうやったしな。まさか悠人と同じレベルのバカがここにも居たとは・・・」

「利久ばらすな!!」

良かった俺TUEEEが有ると思ったの俺だけじゃなかった。

「とりあえずこの4人で三中固定パーティ結成だな!!」

「靖が何でまとめてんだよ!!」

「この面子だとどう見ても俺がパーティリーダーだろう」

「冒険者と言えばパーティは定番だけどよ。ここでパーティ登録とかあるのか?」

「知らん」

「「「・・・」」」


 この後4人で領内を見学した。寮には食堂や風呂場それに洗濯室まであった。あと談話室や娯楽室まで完備している。まあ、娯楽室と言ってもBDとテレビがある位だったが。予めBDソフトもあったが本数は少ない。やたらファンタジー系のアニメや映画の比重が多かった気がする。


 寮の見学が終わり夕食の時間になったのでみんなでそろって食堂に行く。

「待望の飯だ!!」

「おい、見ろよ入学案内に会った通り肉だ!!」

 俺は食堂の献立を見て思わず叫んでしまった。

「うわーめっちゃ久しぶりの肉だなぁ」

 利久も同じような感想みたいだ。

「なんだこの肉めっちゃうめえ」

「あ、靖も利久もずるい俺も食う」

「豚トロだな。それにしてもこんなに美味いの生まれて初めてくった」

「ああ、靖の言う通りだ。俺もこんなに美味いの初めてだわ」

「俺とんトロ自体初めてだわ。豚トロうめー」

 そう言った俺をみんなが哀れそうな眼差しを送ってくる。ほっといてくれ母子家庭に贅沢は敵なんだよ。




 翌朝今日は入学式だ。冒険者学校の入学者は200人程になる。俺達がこの学校の一期生らしい。その中で40人づつの5クラスに別れる事になった。中学生は俺達の他に後4人だけらしい。俺達は体育館に全員が集められて入学式が行われた。なんか良くわからないが政府の偉い人が何人も挨拶していた。おっさんの話がやたら長かった。しかも挨拶する人数が多かった。余りにも長い話が退屈だったのでどんな生徒がいるか見渡してみる。生徒は大半が20前後の大人で何かスポーツをやっていそうな体格の良い大きな人ばかりだった。俺達を含めた中学生や高校生は新入生全体の三分の一も居ないようだ。


 無駄に長かった入学式がやっと終わり俺達4人で教室に向かおうとしたら後ろから声を掛けられた。


「おまえら中学生かよ」

 振り向くと如何にもヤンキーって感じの4人組がいた。みんなグラサンをかけて金髪だ。中には借り上げて稲妻型のそり込みを入れているのも居た。リーゼントっぽいのまでいる。いつの時代のヤンキーだよって感じだ。ちなみに俺達は野球部なので丸刈りだ。明石だけは野球部じゃないので丸刈りではないが短めのぼさぼさ頭だ。


「ああ、だからなんだよ」

「お前らどこ中だよ」

「はあ、おまえらこそどこ中だよ」

「なんだとこのやろ。聞いてビビんなよ俺らは大田原第一中だ!!」

「そんなの聞いた事もねえよ。そもそも大田原ってどこだよ聞いた事ねえよ!!」

「北関東にあんだよ。お前はどこなんだよ!!」


 関東と聞いてちょっとビビるが負けてられない。


「俺らは和歌山三中だ。お前らこそなめんなよ」

「なんだ和歌山って田舎じゃねえかよ!!どこに有るかも知らねえよ」

「北関東って言って誤魔化してるけどお前らだって栃木だろ。自分で言えないほど田舎じゃないか」

 さすが靖ナイスフォローだ。

「なんだと栃木をバカにすんな!!」


 口論がエスカレートしていき俺達が今にも殴り合いを始めそうな瞬間、横から声がかかった。

「中坊のガキ共がうっせいんだよ。大人しくしねえとおめえらまとめて締めんぞ」

声の方を見ると高校生くらいのヤンキー4人組がいた。さらに横から声がした。

「お前も五月蠅い。ガキ共はみんな黙れ」

低くてドスの効いた声だ。大きな声では無かったが腹に響く。最後の声の主は大学生?くらいだろうか。角刈りで如何にも柔道有段者って体つきのおっさんたちだった。


 高校生を含めて俺達全員がその声にビビり無言のまま解散した。最後のはマジで怖かった。大きな声よりも押さえた声の方が迫力あるんだな・・・。その後各教室で支給品が配られた。何故か自衛隊が来ている様な迷彩服だった。俺達本当に冒険者になるのだろうか。さらにナイフが配られる。

「わ、これM3ファイティングナイフだよ」

「明石これ知ってるのか?」

「うん、これを銃の先に付けて銃剣にしたりも出来るんだ」

「へえ、でも俺達迷彩服にナイフで冒険者やるのかな・・・」

「冒険者って言えば剣と魔法ってイメージだけどね」

「魔法は無理でも剣くらい欲しいよな。あと革鎧とかな」

「悠人おまえ本当に何も見てないな。昨日配られた資料にあっただろ」

「あんな分厚いの読めねえよ。利久だって見てないよな?」

「ああ、あれは無理だ。漢字も多かったし」

「おまえら・・・ちゃんと読んどけって言われただろ」

「靖が読んで大事なとこだけ教えてくれよ」

「全部大事だよ!!」

「そんな事より資料に何が書いてあったんだよ」

「ああ、俺達は基本銃で戦うんだよ」

「銃ってあのバンバンって撃つヤツか?」

「そうだよ」

「でもBB弾とかで戦えるのか?あ、ガス銃とかならいける?」

「ちげえよ。本物の銃だよ。火薬で鉛の弾飛ばすヤツ」

「え、俺達中学生だぞ。持てるわけねえじゃん」

「だから免許取るんだろ」

「免許?」

「そこからかよ・・・」

「冒険者になるには冒険者免許がいるんだよ!!」

「え?免許とか初めて聞いたぞ」

「全部資料に書いてあったよ!!」

「そんな事言わないで教えてくれよ。俺達親友じゃん」

「親友じゃん」

「利久まで乗っかってくるな」

「いいじゃん、いいじゃん」


「とりあえず俺達は癸種きしゅ冒険者免許ってのを取らないといけないんだよ」

「癸種?」

「そう甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の一番下のやつな」

「甲乙丙くらいは聞いた事あったけどそんなにいっぱいあるのか」

「そうだよそれが所謂冒険者ランクってのになるんだよ」

「それを取ればどうなるの」

「俺もまだ全部は読めてないから詳しくは知らないけど免許がないと冒険者にはなれないんだよ。逆に免許があれば銃も持てるんだよ」

「おお、すげー」

「ただ冒険者免許には銃の実技試験もあるらしいからな。その前に仮免許を取らないといけないらしい」

「仮免って車かよ」

「仮免は一週間後に試験があるらしいぞ」

「試験って何やるの?」

「もちろん筆記試験だよ!!」

「えー筆記とか俺無理だわー」

「そんなの知らねえよ。それも無理なら冒険者諦めるしかないな」

「えーなんの無理ゲーだよー試験とか聞いてないし~」

「それは一番最初にサインした入学申し込みにも書類に書いてたぞ」

「そんなの見てないしー」

「見て無くてもサインしたんだから逃げられないと思うぞ。訓練中も安いけど給料でるみたいだしな」

「靖くーん、勉強おしえてー」

「知るか。俺だって許容量オーバーでいっぱいいっぱいなんだよ」

「ちっ、友達がいの無い奴だな。いいよいいよ。俺には心の友の明石君がいるんだ!!」

「え?」

 途中から隅っこで俺たちのやり取りを無言で見ていた明石に頼ることにした。見た目からして運動はダメだろうけど勉強は俺よりはマシだろう。なんと言っても眼鏡かけてるしな。マシなはずだ。そう信じたい。



 翌日。今日から本格的に訓練だ。午前は体力作りだ。まあ俺達は野球部だったので楽勝だろう。と舐めていた・・・いきなり30㎞走らされることになった。脱落者も結構いたが、みんな身動き出来なっても無理矢理最後まで走らされた。それが3日間も続いた。不思議な事に俺達は翌日から普通に走れるようになっていた。驚く事に明石が一番速い。初日だけは途中でへばって引きずられていたのだが翌日には平気な顔をしていた。逆に大学生以上の筋肉隆々のおっさん達がへばっている。


 4日目いつもの様に体力作りだ。初めは野球部の時みたいにサボるつもりで居たが少しでもサボると容赦なく竹刀やげんこつが飛んでくるのでサボるにサボれなかった。それに今はそんなに苦ではなくなってしまった。


「こんな事やってられるか!!」

 最初に絡んで来たヤンキーが4人で突然暴れ出した。講師が四人を次々に投げ飛ばしあっと言う間に鎮圧してしまった。講師は現役自衛官らしいからな。逆らう方がバカだ。しかも思いっきり殴られてる。ざまあー見ろ俺は大人なので声にはださず内心で叫んでおく。


 殴られたヤンキーは口から血を吐き出している。歯が折れたようだ。自衛官こえー


「くそーこんな事してただで済むと思うなよ」

「ほう、ならどうすると言うんだ」

 挑発するような自衛官にヤンキーが勝ち誇った顔で言い返す。

「親父に言ってやる。俺の親父は大田原市の市会議員だぞ。体罰で訴えればおまえなんか首だ」

「お前バカか」

「はあ?」

「かまわんさ言ってみると良い」

「ああ、言ってやるさ覚悟して置けよ」

「さてはお前入学申請ちゃんと読んで無かっただろ」

「はぁ?だから何だって言うんだよ」

「この島全体が国家機密になっているのは知ってるか?」

「それくらいは知ってる。バカにすんな」

「申請には万一機密漏洩があった場合極刑が適用される。その範囲は秘密を知らされたものにも適用されるって書いて有ったのは?」

「は?なんだそれ」

「おまえはそれにサインしてるんだよ。極刑ってのは平たく言えば死刑だ。もしそんなことすれば親父共々政府に始末されるんだよ。それ解って言ってるんだよな?」

「え?」

 ヤンキーが周りを見回すと何人かが頷いている。自衛官が言ってるのは本当の事らしい。ヤンキーは表情を失い怒りで真っ赤だった顔がドンドン顔色が青ざめていく。マジカ・・・俺も知らなかった。他にも知らなかったヤツらも居たみたいでヤンキーと同じ様に顔色を青くしている。その中に利久も居たので安心する。うんうん利久お前も仲間だよな。俺は信じていたぜ!!


 その日の午後急に体育館に全員が集められた。校長が出て来た。校長は基地の司令官を兼任しているらしい山下陸将とか言っていたな。


 そんな事を考えながらぼけーっと話を聞いている。


「本日は悲しいお知らせをしなければなりません。当校で初めての脱走者が出てしまいました。みなさんにも何度もお知らせしておりますがこの島の森は凶暴な野生生物が生息しています。決して森に入らないようにと注意していますよね。その森に脱走した生徒が入ってしまいました。その結果がこれです」


 プロジェクターに脱走した生徒の写真が映し出された。

「「うげー」」

 体育館のあちこちで何人もが吐いている。俺も例外では無い・・・

当たり前だ脱走したのはヤンキー達に絡まれた時にドスの効いた声でその場を押さえた人だった。その人が無残な死体になった姿が映っていたのだ。知り合いが死んだってだけでもショックなのに死体がまともじゃ無かった。腹から内臓が飛び出ており身体中が囓られたようにボロボロになっていた。


 皆の吐き気が一段落するのを待って校長が話を続ける。


「皆さんにはショックな映像でしょう。しかし、これでも発見が早くマシな状態だったのです。皆さんは冒険者になるのです。遅かれ早かれこう言う光景を目にすることになるでしょう。だから敢えてこの写真をお見せする事にしました」

さらに校長の話が続く。

「一部の生徒の中にはこの学校の状況を不満に思っている方もいると聞いています。しかし今の日本はそんな事を言って居られる状況ではないのです。貴方たちは既に冒険者になるしかないのです。逃げ道はありません。そしてこの冒険者の制度が成功しなければ日本国民が飢えていく事になるのです」


 中学生には荷が重すぎる話なのだが・・・どうやっても逃げられないらしい・・・



 そしてあっと言う間に一週間が過ぎた。冒険者仮免試験も無事に終わった。俺と利久意外は・・・。靖のヤツも受かっていた。裏切り者め。さらに驚くことに明石がとんでもない事になっている。勉強は苦手とか言っていたくせに仮免試験はもちろんとしてテストは常に満点だ。実技も常にトップだ。身長も生徒の中で一番小さくガリガリのもやしみたいなヤツなのに高校生や大学生よりも力があって足も速いとは反則すぎるだろ。訳が分からない。


 それなのに俺と利久は居残りで補修だ。マンツーマンどころか講師の他に俺と利久の後ろに厳つい自衛官が竹刀を持って後ろに立っている。


ビシッ


「痛っ」

「ほら、そこ間違えてる」


 利久が竹刀で殴られている・・・。


ビシッ


「痛っ」

「ほらよそ見するな!!」

 今度は俺に竹刀が飛んできた。もう、帰りたい・・・。


「まだ解ってないのか?仮免試験に落ちたのはお前達だけだぞ。今夜中になんとしても合格してもらうからな。何度も言うが仮免がないとこの後のカリキュラムに影響がでるんだ。夜が明けようが日付が変わろうが合格するまでこの部屋からは出られないからな!!」


 地獄の方がマシなんじゃないだろうか・・・俺はなんでこんな所に来てしまったのか・・・


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