第10話 フィールドワーク

奥田 健一side


南大新島6日目


 今は朝の8時目の前には広大な森が広がっている。俺は迷彩服に身を包んで小銃を持たされている。しかもご丁寧に銃の先にはナイフまで装備されている。ここは基地から装甲車で30分程の場所だ。何故普通の車ではなく装甲車なんだよ。それはつまり普通の車だと危険って事なんだよな・・・。俺は安全な基地から出るつもりは無かったのに俺は何故こんな場所にいるんだろう・・・。


「良いお天気になりましたね~お出かけ日和です~」

3尉がのんびりお散歩に来ている様な事を言って居るが俺と同じ様な迷彩服を着て小銃を持っているのでのんびりとした雰囲気はない。

「なんでそんな余裕なんだよ!!」

「え~、お外は気持ち良いじゃないですか~。基地に籠もってばっかりだと身体に悪いですよ~」


 そんな会話をしていると次は木のそばでハイテンションで大きな声があがった。

「おお、これは食べられそうだ!!」

「西田さんは元気ですね・・・」

 声を上げたのは植物学の西田准教授だ。

「そりゃそうでしょ。ここは見たこともない植物がいっぱいですよ。少し歩くだけで 新種発見するんですから学者ならテンションが上がって当たり前ですよ。もちろん奥田さんも興奮しますよね?」

「い、いや。植物の新種とか解りませんし、どれも同じ様にしか見えないですよ」

「なんて勿体ない」

「それにこの島は魔物もいるし危険なんですよ。それに危険な植物だってあるかもしれないじゃないですか」

「なにを馬鹿な事を言ってるんですか。危険な植物なんてあって当たり前じゃないですか」

「へっ?」

「毒をもった植物も多いですし触っただけで被れる物もありますよ。漆とかなら奥田さんもご存じでしょ?」

「あー、そういうのもありますね・・・でも俺が言ってるのはそう言うのじゃなくてですね。食虫植物を大きくしたような人を襲ってくる植物とかもいるかもしれないって事ですよ」

「おお、それは夢が膨らみますね。研究しがいがありそうだ」

 だめだ、この人も研究の事しか頭にないタイプの様だ。この島に送られた人って本当に変人ばかりだよな。俺はこの人達の様にはならないぞ。


「それにしてもなんで俺までフィールドワークに出ないといけなんだ?俺は現地で確かめないといけない様な研究はないぞ」

「それは~研究はもちろん大事ですが実戦訓練も兼ねてますからね~」

「俺達は銃を持たされて一週間も経ってないんだぞ。それなのにもう実戦かよ」

「確かに~自衛隊の訓練では最低でも三ヶ月くらいはみっちり訓練するのですけどね~」

「専門家の訓練より短いとかおかしいだろ」

「本当はもう少し先の予定だったんですけどね~みなさんが予想外に上達が早くて元気なんで前倒しになったみたいですね~」

「そこは安全マージンとって計画通り行かないのかよ」

「この島の研究はスピード重視ですからね~。研究者の替えはまだまだ居ますし~少々の被害くらいは想定内ですし~」

「少々の被害って俺らの命が少々かよ。そこは安全重視で行こうよ。しかも今さらっと替えが居るとか言ったな!!」

「只の言葉の綾じゃないですか~そんな細かい事気にしてたらハゲちゃいますよ~」

「流さないぞ。俺らは消耗品か!!」

「非常時ですし~」

「また、それで終わるのか・・・」

なんかドッと疲れた・・・。

「まあ、そんなに悲観しないで元気だして下さい~。本来は学者さんだけでも良いのに私を含めて3人も護衛がついてるんですよ~室長達が大事にされてるって事ですよ~」

「3尉も護衛の数に入ってるのか・・・不安しかないな・・・」

「失礼な~。私を含めて基地勤務の自衛隊員は精鋭ばかりなんですよ~」

「そ、そうなのか・・・3尉が精鋭とか大丈夫か自衛隊・・・」


 のんびりと話していたら突然3尉が一方向をみて「動くな」サインを出した。視線の先を見ると辺りを警戒していた自衛隊員が「敵発見」の合図を送っている。植物の観察に夢中になっていた西田さんにも知らせ全員で周辺の警戒を行う。


 どうやら最初に発見した敵しか居ないようだ。発見したのはゴブリン1匹で100m位の先で何かをしているようだ。ゴブリンは何かに夢中な様子でこちらには気がついて居ない。近くに仲間の気配もないようだ。


 ゴブリンに気づかれないように小さな声で三尉が話しかけてくる。

「周りに仲間も居ないようですし丁度いいですね~奥田室長と西田さんのお二人であのゴブリンを仕留めてください~」

「え、いや無理だよ。俺は狩猟とか経験無いし」

「そうですよ。射撃訓練はしていますが私たちは素人ですから」

「大丈夫ですよ~何かあれば我々がフォローしますので~それにコレは訓練も兼ねていますので~これくらい出来ないとあとで困りますよ~。私が合図したら撃ってくださいね~。あ、それと~最初ですから狙いの正確な単発で狙って下さいね~」


 いやいやながらも仕方なく指示にしたがい二人で狙いを定める。

「今!!」


パン・パン


 3尉の合図に2つの銃声が響く。上手く二発ともゴブリンの身体に命中した。しかしゴブリンは倒れる事はなく真っ直ぐこちらに向かってくる。

「gugyaaaa」

 怒りに奇声を上げながら向かって来る。撃たれた傷から血を流しながら向かって来る姿にに恐怖する。近づかれる前に慌てて撃とうとするが焦って狙いが定まらない。ゴブリンは手にした棍棒を振り上げどんどん距離を詰めてくる。


パン


 銃声が響いたと思った瞬間ゴブリンの頭がはじけ飛び倒れた。横を見ると3尉が放った銃声だった様だ。


「ん~、惜しかったですね~二人とも身体には当たってたみたいですけど~。命中した後にパニックになっちゃったのは減点ですね~。やっぱり頭とかの急所じゃないと一発で死なないみたいですね~」


 倒れたゴブリンに近づき息絶えたのを確認すると吐き気がこみ上げてくる。思えば生き物が目の前で死んだのを見たのは初めてだ。しかも頭が吹き飛ばされている醜悪なものだ。トドメを指したのは自分ではないとは言え都会育ちの俺はこれまで生き物を殺した経験など殆どない。精々蚊やゴキブリ等の害虫くらいだ。


「あらあら~二人ともしょうが無いですね~まあ、初めての実戦で動かない的とはいえ当てられたのだから良しとしましょう~」


 横をみると西田さんも俺と同じ様に嘔吐いているようだ。留めを指したはずの3尉が平気そうなのがなんか悔しい。普段の残念な言動からはとても同じ人物には見えない。流石に自衛官と言うところか。ゴブリンは既に息絶えていると思われるがみんなで周囲を警戒しつつゴブリンに近づいていく。


「ん?なんだこれ?」

 先に死体に近寄っていた自衛官が急に飛び退く。飛び退いた自衛官の視線の先を追うと緑色で半透明のゼリーみたいな物がゴブリンの足からから離れ先程の自衛官に向かってズルズルと移動している。速度は遅いので自衛官は余裕をもって距離をとっている。


「スライム?」


 アメーバー状の蠢くものを見て思わず俺が呟いた。その間にもズルズルとスライムは自衛官の後を追いかけ何か液体を吐き出した。自衛官は上手く避けたがが足下に落ちた液体からジュっと言う音がして落ちていた石を溶かした。


「ヤバイ。こいつ酸を吐くぞ。離れろ」

 自衛官の声にみんなが距離を取る。

「倒した方がいいわね」

「了解」

 3尉の言葉に自衛官が頷き発砲する。


パン


 スライムに銃弾は命中したがスライムは何事も無かった様に前進を続けている。


ダダダダダ


 自衛官が銃を連射に切り替えて撃つが反応は変わらない。


「くそっ銃が全く効いてないじゃないか」

「奥田さん何か手はないですか」

「そ、そんな事言われても俺だって初めて見るんだ・・・」

「ん~いざというとき頼りにならないんですから~」

「あ、もしかすると火に弱いかもしれない。火炎放射器とかないか?」

あまり役に立つとは思えないがファンタジーの知識を引っ張り出す。

「そんな特殊な装備持って来てませんよ!!」

「火炎手榴弾とかこの際火炎瓶でも」

「そんな物もっとないです」

 俺の言葉に自衛官が応える。


「あ、これならもしかして~だれかオイルライターを持ってませんか~」

そう言って3尉が虫除けスプレーを取り出すし蓋を開ける。

「俺はたばこ吸わないし・・・」

「これを!!」


 自衛官の一人がオイルライターを3尉に渡す。3尉はライターを受け取り虫除けスプレーをスライムに投げつけた。投げつけられた容器は上手くスライムに命中した。スライムはその容器を取り込むように蠢いている。容器からは薬液がこぼれ落ちておりそこにオイルラーターを投げ込むと薬液に引火し一気に燃え上がった。さらにプラスチックのケースにも火は燃え移る。溶けたプラスチックがスライムに絡みつき火から離れられない。辺りにプラスチックの焼けた嫌な臭いが漂う。そのまましばらく見ているとスライムは動かなくなった。


「ふ~、なんとか倒せたみたいですね~」

「さすが奥田さんだ」

 そういって西田さんが褒めてくれるがまたもやファンタジー知識の活躍に納得いかない。

「でも、虫除けスプレーの薬液ってあんなに燃える物なんですかね。エタノールくらいは入ってるでしょうが火の勢いがありすぎたような」

「助かったのでいいじゃないですか~。細かい事気にしていると女の子にもてませんよ~」

「ん?3尉また何かごまかそうとしてないか?」

「え~やだな~室長~細かい事気にしていると老けちゃいますよ~」


「3尉この酸とんでもないですよ。対処を間違えると大変な事になりそうです」

 そう言って先程スライムが吐きだした酸を調べて居た自衛官がナイフを見せてくる。さっき石にかかり残って居た酸をナイフで突いた様でナイフの先が少し溶けている。

「金属まで溶かす酸か・・・」

「このナイフはステンレス製なので少しは酸に強いはずなんですけどね」

「ゴブリンの足もあの一瞬で骨まで溶かされてる様ですね~」

そう言って3尉がゴブリンの足を指さす。

「スライムがどの程度いるかにもよりますが対策は必要ですね」

「火炎放射器なりなんなりの武器は必要ですね」

「あと酸に対する防御策も必要ですね~」

「しかしゴブリンと言いスライムと言い強すぎるだろ。ファンタジーの常識が通用するのに序盤の雑魚モンスターの代表格の二種類がこうも危険だとは。まるでゲームバランスの悪いクソゲーじゃないか」

「ゲームじゃなく現実ですからね~」

「仰る通りで・・・」


 なんかこの騒動で吐き気も吹っ飛んでしまった。頭を吹き飛ばされ足の肉が溶かされて骨がむき出しになった悲惨な状態のゴブリンの死体を見ても平気になっている。人間は慣れる生き物だというがこんなに早くスプラッター耐性がつくものだろうか。我ながら順応するのが余りにも早い気がする。


「うーん、このスライムと言うのは植物なんでしょうか、動物なんでしょうか」

「どうでしょうね」

「緑色と言うのが葉緑体を含んでいるようにも見えますし」


 西田さんが変な食いつき方をしている・・・。研究しか興味は無いのか。いそいそと焼け残ったスライムの残骸からネバネバした身体の一部をサンプルとして採取している。同じ様に自衛隊員も先程の酸を集めているようだ。容器はガラス製っぽいけど溶けないのかな?

 もう一人の自衛官はゴブリンの死体を死体袋にいれ回収している。解剖などの研究に回すのだろう。ゴブリンは不味いから食べないよな?死体は装甲車の屋根に固定するようだ。中に運び込まれるかと思っていたので一安心だ。


「とりあえず~少し早いですが目的の訓練も採取も出来ましたし戻りましょうか~」

そう言った3尉の指示にしたがって俺達は装甲車に乗り込み基地に戻ることになった。




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