第8話 自由研究
バル(矢島 昌治)Side
ヴァルハルト侯爵邸内
僕は外に出るために周りに注意し音を立てないように玄関の扉を開く。
「お兄様お出かけですか?」
突然、後ろから声を掛けられてビクッと反応してしまう。
「や、やあアーデ。あ、ああ今日は王城で勉強なんだよ」
今日も禁書庫に入る予定だからアーデを連れていく訳にはいかないんだよな。僕が禁書庫に入れるのも秘密になってるからな。もちろんアーデを信頼していない訳ではないが幼いアーデに教えて良い話ではないしな。
「それは良いですわね。私もお供しますわ」
「あーそれは・・・」
アーデをどう説得しようかと考えて居るとアーデの後ろの扉の影から小さな人影が2つこちらの様子を窺っているのが見えた。
「お兄様? 私がお供するのはダメですか?」
アーデが悲しそうな声をだしてうつむく。まずいアーデの必殺技が来る・・・
だが僕はアーデに屈しない。既に今日は僕の勝利が約束されている。
「フフフ、アーデそんな顔してもだめだよ。今日の僕はひと味違うのだよ。僕も日々成長しているのだ。いつもアーデに負けっぱなしで無い事を見せてあげよう」
「は? お兄様なにを仰っているのですか?」
「二人ともおいで今日はアーデがいっぱい遊んでくれるって!!」
僕は扉の後ろにいる小さな影に向かって大声で叫ぶと小さな影が2つ元気よく飛び出して来た。
「「わーい、ほんとー?おねーちゃまーあそんでー」」
「ねね、クリスねクリスね。アーデおねえちゃまと剣のおけいこがしたいー」
「おねぇちゃまーぼくにご本よんでー」
先を争うように飛び出して来たのは見た目がそっくりな双子の姉弟だ。左右から二人でアーデの手をひっぱりながらアーデにおねだりしている。この双子は僕やアーデの下にいる姉弟だ。この二人は対アーデ用最終兵器なのだ。二人ともお父様譲りの赤毛を肩ぐらいまで伸ばしている。そしてお母様譲りの碧眼をしていて性別が違うのにも関わらず二人とも見分けが付かないくらいそっくりの容姿をしている。
元気が良く木剣を握っているのが姉のクリスタ。クマのぬいぐるみを抱いていて大人しいのが弟のクルトだ。二人ともアーデによく懐いてる。アーデも双子を誰よりも可愛がっており相思相愛の関係だ。
「では、みんないつもの様に仲良くね。それでは行ってきます」
そういって僕は素早くこの場を立ち去る。
「「おにいちゃま、いってらっちゃーい」」
双子の二人揃って小さく可愛いらしい手を一生懸命振って見送ってくれる。手を振る反対の手はアーデをさも逃がさない様にスカートの裾をギュっと握っている。
手を振る動作さえもシンクロしているのは流石双子だな。
「お、お兄様ちょ、ちょっとお待ちを・・・」
「「おねえちゃまもお出かけしちゃうの?」」
双子はスカートを端を握りしめたままつぶらな瞳に涙を貯めてアーデを見上げている。二人ともグッジョブだ!!。汚れの無い二人の眼差しに見つめられてはアーデも逆らえまい。出来る弟と妹を持ってお兄ちゃんはうれしいよ!!さすがのアーデも二人にはタジタジだ。まあ、僕もアーデと同じく二人の純真な眼差しには逆らえないのだが。
「あーん、このアーデ姉様が可愛い二人を置いてお出かけなんてしませんわ。だから泣かないでね」
アーデは僕を追うのを諦めて双子の相手をするようだ。その場に座り込み双子の頭を撫でている。せめてもの武士の情けだ。アーデがお爺様譲りのだらしない笑顔を浮かべて居るのは見なかった事にして上げよう。許せ妹よ兄は手段を選ばない非情な男なのだ。アーデを振り切った後僕は足早に城へと向かう。どこからか幼い二人に頼るのは情けないとか聞こえる気がするが気にしない。
城へ向かう道すがら改めて魔法について考えてみる。魔法は基本的には術者が呪文を唱え体内や空間に漂う魔力を集めて様々な現象を起こす。発生する現象は術者が如何に正確に起こしたい現象をイメージ出来るかがカギとなる。イメージが強固になれば呪文の短縮や無詠唱で魔法を使うことも可能だ。例外として魔法陣や魔法具などもあるがそれも魔石の魔力を利用しており魔法陣に刻まれている文字が詠唱の代わりをしている。魔法陣は使用者がなんのイメージを持たなくても現象を発現できる。そうなるとイメージはどこから来るのだろう。
考え事をしている間に城にたどり着いた。城に入り禁書室に到着すると先に先生が来ていた。
「先生こんにちは。お待たせしてしまいましたか?」
「いやいや、わしも先程来たところじゃ」
先生は古代魔法陣と現代の魔法陣を見比べていたようだ。
「先生どうですか?」
「うむ、お主の言っておったこんぴゅーたと言う道具の事は良くわからんが、確かに同じ魔法の魔法陣を比べると違いが良くわかるの。現代の魔法陣は簡略化されているため逆に読み解くのが大変になっているようじゃの。ただ古代魔法を読み解くにはお主の前世にある科学知識が必須というのも厳しいの。この世界しかしらぬ我らには無理にゃ相談じゃからの」
「そうですね。この
「うむ、空気の中にある水を集めて居ったとはな。お主に魔力を使わない実験を見せて貰うまで知らにゃんだからの。それまでは魔力のみで無から有を生み出すと考えられていたからの」
「無から有を生み出す魔法も有るみたいですね。土などは無から生み出すしか無いと思いますが水くらいなら周りから集める方が効率いいからでしょうね」
「確かにの。高度な魔法になるほど無から生み出さねば成らぬ魔法も多いにゃ」
「火なんかも無から有を生み出しているんでしょうね。熱は作り出せるでしょうが炎はなんらか燃える物が必要になりますからね。それは無から有を生み出していると思います」
「しかし、誰でもが使える生活魔法でさえこれだけ奥が深いとはのぉ」
そう
つまり現代の魔法では水と認識していれば良いだけなのだが古代では水をどうやって作り出すかを理解していなければならない。これはコンパイラとアセンブラの関係に近い。現代魔法言語はコンパイラの様に特別な知識を要せず人に分かりやすく書かれて居る。逆に古代魔法言語はアセンブラの様に直接操作する対象により具体的な指示を与えているため、何をどのようにすれば目的の現象が起こるか理解していなければならない。
「しかし、先日の版画と言い科学と言う物の知識は興味深い。お主の前世はすごいの。お主のお陰で魔法研究が随分加速しそうじゃ」
「僕の前世は魔法がありませんでしたからね。科学を追究するしか無かったのだと思います」
「にゃるほどの、魔法のある世界では逆に科学が育たぬのも道理なのかもにゃ」
「でも古代文明は凄いですね。古代魔法陣はその時代に科学も魔法も両方あったって証拠ですからね」
「そうじゃの。先人達は多くの知識を持って居った様じゃの。何が原因かわからんがそれが失われたのは残念で仕方がにゃいの」
「そうですね。失われた物は大きいですね。でも簡単に成ってしまったからこそ忘れ去られてしまったのかも知れませんね」
前世のコンピュータでも同じ様な事があった。初期のコンピュータは処理速度や容量など様々な制限があった。その為コンピュータを熟知している専門家しか扱えなかったが時代が進み性能が向上するとコンピュータの知識がない誰でもがコンピュータを使えるようになった。
「魔法に限っても失われた物は多いからの。
「魔法陣の研究が進めば失われた魔法も取り戻せるかもしれませんね」
「うむ、その可能性は大いにあるぞ。じゃがそれには魔法知識だけではなく科学の深い知識も必要じゃの」
「だた一つ疑問があって現代魔法は簡略化されているのでどこかでより具体的な古代魔法に翻訳しなければならないはずなんです。それがどこでされているのかが見当も付かなくて」
「にゃに、それにゃらば答えは簡単じゃ。メニューじゃよ。古代にはメニューはなく一部の才能あるものにしか魔法は使えなかったと言うのが解って居る。いつからかはわからんがメニューが使えるようになって以来、魔法は万民の物となったのじゃ」
「なるほど、ということは魔法が簡単に使える様になったのが逆に魔法の発展を妨げる結果になったんですね」
「確かにその側面は否定出来んにゃ。じゃが何事にも一長一短はあるものよ。しかしメニューによって誰もが魔法を使えるようににゃった功績はとても大きいものじゃ」
「たしかにその通りですね」
そうなるとメニューが現代魔法言語を古代言語に翻訳するコンパイラと考えればいいのだろうか・・・でも違う気がするな。上手く言えないが何か違和感がある。
「魔法回路というのも興味深いの。今までは魔法言語と魔法回路の二つを一つの物として考えておったからの。わけて考えると解りやすいの。それに魔力の逆流を防ぐだいおーどや魔力を一時的に蓄積するこんでんさそれに魔力の増幅を行うとらんじすたなどと言った役割があるのは面白いの」
「前世のコンピュータでの話になりますが、それらが基礎になる部品ですね。それぞれ他にも役割もあるのですがそれらを組み合わせていくことで様々な事が出来る様になったりします。基礎的なものだと足し算をする回路なんかがありますね」
「なんと、道具が算術を行うのか興味深いの。しかし思考する道具とは不思議じゃ。そのこんぴゅーたと言う道具も一度見てみたい物じゃのう」
「申し訳ありません。流石に前世に取りに行くと言うわけにはいかないので」
「いや、気にするでにゃい。わしが詮無いことを言ってしもうたにゃ。忘れてくれ」
「あれ?そういえば古代魔法回路にあるトランジスタやコンデンサは現代魔法回路ではICやLSIに相当する物が書かれて居るけどICとかはどうやって実現してるんだ?」
「む、あいしーとにゃ?」
「ああ、ICやLSIというのは別名で集積回路とも言います。先程言って居たトランジスタとかを一纏めに一つの部品としてより複雑な事を出来る様にした部品なんです。」
「ほうほう」
「部品を集めた分だけ複雑になるものなんですが現代魔法陣にはそのその要素が見つからないのでおかしいなと」
「それもさっきの話と同じでメニューが行って居るのじゃにゃいかの」
「ああ、なるほど。それなら辻褄が合いますね」
確かに先生が言うとおりだと仮定すれば辻褄はあうな。メニューって魔法言語コンパイラだけじゃなく魔法回路シミュレーターも兼ねてるって事か。さらにメニューにはスキルやステータスと言った魔法に以外の要素も含まれている。さしずめ魔法OS《オペレーティング・システム》と言った感じか。
見えている部分は少しでもバックグランドで色々と仕事をしているって事だったんだな。正直に言って今まではショボイ見た目であまり役立たないものだと判断していた。はっきり言ってメニューの事をしょぼい必要ない物って侮っていた。凄いなメニュー見直したよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます