第7話 島の暮らし
奥田 健一side
南大新島5日目
午前の訓練を軽くこなして昼食も美味かった。メニューがオークの生姜焼き定食だったことは今更気にしない。美味いは正義だ。どのみち今後の日本では食肉については魔物に頼らざる得ないのだ。早く慣れておくにこしたことはない。
ただ島に来てから毎日朝6時から22時まで訓練と研究をずっと続けて居る。肉体的にも精神的にも過酷な状況なのに皆は異様に元気だ。決められた休憩時間はあるのだが取れたためしはなく1日16時間労働で1日の休みもない。
ブラック企業も裸足で逃げ出す様な過酷な労働環境なのに脱落者一人もいないのが不思議だ。まだ数日ってところだし日本の存亡がかかっているというプレッシャーがあるから皆がんばれているのだろうか。このままだと遠くない時期にみんな潰れちゃうかもな。もちろん俺も例外ではないが。
今いるこの部屋は正式に第三会議室ではなく探査研究室のオフィスになることが決まった。まあ、同じ場所だけどな。その為午前中に置いてあった会議用の机や椅子は運びだされオフィスに良く有る机などの家具や書棚などが運び込まれていた。がらりと会議室が普通のオフィスみたいになっている。ご丁寧に俺の机には奥田室長と書いたネームプレートまで置いてある。その向かいには荒木3尉が座って居る。まあ、ここまでは想定内だ。大した事ではない。しかし想定外の事もあった。
「なんで須藤さんここにいるんですか?」
「え、え、今日からここで仕事するようにって言われたんですけど。ダ、ダメだったんですか?」
「いや、ダメとかはではないんですよ。そう言う指示があったのならもちろん構いません。ただ俺が何も聞いてなかったので驚いただけです」
「はいはい~政府からの指示書ですぅ」
そう言って荒木3尉が紙を渡してくる。
「なんで俺の辞令と言い今回と言い、いつも事後なの?」
「そうですね~本来は事前に来るんですけどね~。今は非常時ですから実行速度優先で事務処理は後回しっぽいので~」
「そんないい加減で大丈夫なの?」
「さあ~」
「・・・」
「気にしたら負けですよ~気楽にいきましょ~」
日本の命運がこの基地にかかってるらしいのにこれで良いのかよ。まあ、言ってもしょうが無いので言わないが・・・
「で、ここで潰れてるこの人は?」
さらにその横で机に突っ伏して動かない中年男性がいる。俺達と同じ様な学者の様だが40代くらいに見える。俺達は30前後が殆どなので珍しい。
「今日から配属になった言語学の田中教授です~午前の訓練で潰れたみたいです~それもさっきの指示書に書いてますよ~」
たしかに書いてあるな。研究者の第二陣として昨日他の学者達と一緒に来たらしい。
「年齢43才って書いてあるけど訓練は大丈夫なのか?」
「室長はじめ第一陣がみんな元気なんで40過ぎでも大丈夫じゃね?って成ったみたいですよ~」
「なんて適当な・・・それに言語学って何で?」
「さあ、ゴブリン語とか魔物の翻訳とかですかねぇ~」
「いや、無理だろ・・・グギャとか言ってるだけだし人間に聞き分けられるとは思えないが」
「それじゃあオーク語?」
「ゴブリンと変わらんだろ」
ボン!!
そんな会話していると爆発音らしき大きな音が外から響いた。
「な、なんだ?」
驚いて窓の外を見回すと基地の外で煙が上がっているのが見えた。
「あー、多分地雷の爆発音ですね~今日から基地周辺に設置されたんですよ~それに早速魔物が引っかかったんじゃないですかね~」
「え、地雷って条約で禁止されてたんじゃ?」
「禁止されているのは対人地雷だけですよ~地雷はコスパ高いですからね~ゴブリンでも反応するようにしてるので人にも反応しちゃうでしょうけどぉ~」
「全然ダメじゃねーか」
「大丈夫ですよ~キケン!!地雷地帯って目立つ大きな看板がいっぱい立ってますから~魔物しか引っかからないと思いますよぉ~一応室長もお出かけの時は注意してくださいね~」
確かに外を見るとあちこちに赤字で書かれた看板が立てられているのが見えた。
「それに条約とか今更じゃないですか~、条約結んだ外国なんて何処にもないんですから~」
「そ、それはそうかもしれないがそれを自衛官が言っちゃダメだろう」
「えーでもネット掲示板とかでも条約とか無視して良いって流れですよ~」
「ネット掲示板の意見に従うとかもっとダメだろう・・・」
「え?ネット掲示板は人類の英知の結晶じゃないですか!!ネット掲示板には世界の真理があるのです。ネット掲示板は絶対ですよ!!」
「どんだけネット掲示板持ち上げるの!?何処ぞのバカなJKかよ」
「え、え、そ、そ」
「なにキョドってんだよ。JKってのは女子高生の略だよ」
「いや、そこじゃ・・・あ、いえ。いくら私が若くて可愛いからって女子高生な訳ないじゃないですか~あはははは。いやだな~もう~」
ダメだこの子・・・見た目は良いのに話すと残念感が半端ない・・・
なんか急に挙動不審になってたけど残念な子なら仕方ないか。あまり気にしないでおこう。しかし自衛官なのに掲示板信者か・・・大学の教え子にもたまにいたな。ネット掲示板は嘘情報も凄く多いのに盲信している子。経験的にこういう子には何を言ってもダメなんだよな。教育者の端くれとしては掲示板に限った事ではないが、どんな情報でも鵜呑みにしないで多角的に見る習慣を身につけて欲しい。
「あ、ネットで思い出しました~エッチなサイト見るのもセクハラですよ~勤務外だったので今回だけは特別に見逃してあげますけど次はないですからね~もう検索とかしちゃだめですよ~」
「な、なんで知ってる・・・」
「検閲のレポート私の所にも回ってきますから~」
「俺のプライバシーは無いのか・・・」
「非常時ですから~」
「・・・」
なんなんだろう彼女は優秀なのかダメなのか掴み所がない。それに須藤さんからも冷たい視線が送られてきている気がする・・・
田中教授はあれだけ大きな爆発音もあったのにピクリとも動かない。ちゃんと生きてるか心配になってきた。
「もうすぐ15;00《ひとごーまるまる》ですね~おやつの準備をしなければ。今日はプリンがあるのです~」
そういって今日設置された冷蔵庫に向かう荒木3尉。だが冷蔵庫の前で立ち止まり何か思い出すように考え込む。
「んー今日15;00《ひとごーまるまる》に何かあったような~」
ドドドンっと連続した爆発音が響く。先程とは違い遠くで鳴っているようだ。
「あ~そうでしたそうでした~」
一人納得し何事も無かった様に冷蔵庫からプリンを取り出し席に戻り満面の笑顔でプリンの蓋を開ける。俺や須藤さんはその姿を追いかける様にじっと見ている。その視線に気がつきプリンを抱える様に隠す。
「このプリンは私のです~上げませんからね。欲しいなら自分で買ってきて下さいね!!」
「いや、プリンの事じゃねーよ!!。この連続してる爆発音はなんなんだよ!!」
「あれ~言ってませんでしたっけ? 空自のクラスター爆弾の音ですよ~」
「聞いてねーよ地雷よりよっぽどヤベーじゃねぇか」
「あー言ってませんでしたか。てへぺろ」
「てへぺろって・・・それで済ますしていいのかよ。今更だけどそれも条約で禁止されてなかったっけ?」
「そうですね~クラスター爆弾は公式には全部破棄されてましたしね~」
「なんでそんなもん使ってるんだよ」
「んっと、石油とか地下資源が見つかったじゃないですか~それで油田開発のためらしいですよ。周辺の安全確保には面制圧が必要ですからね~クラスター爆弾はコスパも良いし何より手っ取り早いですからね~」
「そんな物使ったら環境破壊とか問題にならないのか?」
「非常時ですし~」
「全部それで片付けるのか・・・なんか頭痛くなってきた・・・」
「あら~大変ですね~。医務室でお薬もらってきましょうか~?」
「いらねーよ。なんかもう色々諦めたわ・・・。しかしよく次から次へとそんな危ない物が出てくるな」
「地雷もクラスター爆弾もローテクですからね~。その気になればいくらでも作れるみたいですよ~」
「そうなのかよ」
「他にも輸入してた武器や弾薬なんかの製造も急ピッチで始まってるらしいですよ~」
「そんな事可能なのか?」
「コピー製品の生産やコピー元の本物より優れた物を作るのは日本のお家芸ですからね~」
「いや、それもあるが特許とかライセンスとか良いのかよ」
「国内の特許ならば兎も角も海外製品は訴える人も居ませんし今更ですよね~」
「・・・」
「あ~この辺の話は機密事項なので外では内緒ですよ~」
「機密事項そんなにぺらぺら話していいのかよ!!」
「ん~、でもこの部署自体が最重要機密ですし問題ないと思いますよ~」
「俺達はそんなヤバイ物と同列なのかよ・・・」
「いやいやご謙遜を~この研究室のがヤバイって事ですよ~」
「・・・」
「んーやっぱこのプリンは絶品です~」
「失礼しまーす。いやー爆撃派手ですね。ついでに鉱山候補地もお願いして正解でした。この分だと思ったよりも早く採掘が始められそうですよ」
何かトンデモない発言をしながら北野さんが部屋に入ってきて須藤さんの方に向かう。
(そっちも爆撃してたのか・・・)
まあ、今日は俺に用があるわけでは無いみたいだ。色々あったが気を取り直して自分の作業にもどろう。作業に集中していれば余計な物を見なくて済む。
「須藤さん、例の結果はどうですか?」
「うーん、魔法陣の上に一晩ミスリル置いてみましたが反応ないですね。真ん中は五芒星より六芒星のほうが良かったのかしら」
「やっぱり反応ないですか。それから頼まれてた物です。コレで良いですか?」
そう言って北野さんは5円玉の様に真ん中に穴が空いた銀色の丸い金属片を取り出した。銀色だから見た目は50円玉の方が近いか。その穴には糸が通されているようだ。
「ええ、完璧です。早速試して見ましょう」
須藤さんが何か文字が書かれた紙を取り出し、その上に北野さんから受け取った金属片をぶら下げた。二人がじっとそれを見つめている。
「何もおきませんね・・・」
「いえ、まだです。今集中していますのでもう少しお待ち下さい」
須藤さんはそう言うとじっと金属片の揺れが収まるのを待って居るようだ。二人はだまってそれを見ている。俺も気になってその光景を眺めている。3尉は二つ目のプリンに夢中な様だ。
「こっくりさん、こっくりさん・・・・」
(おい、こっくりさんかよ!!しかもダウジングとか混じっててやり方違うくないか!?)
ツッコミの声は何とか抑えられた。曲がりなりにも専門家二人が真剣に取り組んでいるんだ。口出しはすまい。
「反応ありませんね」
「そうですね~私も魔術の専門家と言われてますけど魔力とか解らないですからね」
・・・俺は何も見ていない。絶対に関わらないぞ!!さあ仕事だ仕事。
「「奥田室長」」
二人に呼ばれてる気がするが俺は何も見てない。何も聞こえない。データの更新とか大変だな。俺はカチャカチャとキーボードを叩く事に集中する。
トントンと北野さんに肩を叩かれ無理矢理振り向かされてしまった。
「奥田室長無視しないで下さいよ!!」
「あ、すいません集中してたもので・・・何でしょうか」
「昨日言われたように魔法と新金属の関連性をしらべてたのですけど。肝心の魔法とか魔力が解らなくて行き詰まってるんです。相談に乗って貰えませんか?」
「はあ、といわれても私も魔法は良くわからないですが」
「何かヒントでもありませんかね」
「と言われましてもー」
「ファンタジーではどう言う使われ方をしているとかありませんか?」
「そうですね~ミスリルなんかで武器を作って魔法を炎の魔法を付加するとかでしょうか」
「おお、火炎剣ですか格好いいですね!!」
須藤さんが食いついてきた。
「武器ですか・・・。ミスリル今の所他の新金属よりは多く取れているのですがこの丸い金属片を作るので精一杯ですので、小さなナイフを作るのも厳しいです」
北野さんがそう答える。あの穴の空いた金属片ミスリルだったのか・・・なんか勿体なく感じるな。
「あとは魔法を使うゴブリン・メイジとか使って実験するとかはどうですか?」
「あーそれは私も魔法研究するために生きたゴブリン・メイジの捕獲をお願いしてるのですけど、普通のゴブリンなら捕獲出来ても魔法を使って来るゴブリンの生け捕りは至難みたいなんですよね。そもそも希少な様で出会う事さえままならないとか」
「うーん、そうなると厳しいですね。魔法使いとかどこかに居れば良いんですけどね」
「そういえば室長は魔法使えないのですか?」
「え、なんで俺が?」
「いえ、男性は経験がないまま30才になると魔法が使えるようになるって聞いた事があるので」
「いやいや、俺は魔法つかえませんよ!!確かに経験ないですけど!!第一まだ28才ですからね!!。年齢で言えば北野さんの方が可能性有るんじゃ無いですか?」
「すいません・・・確かに私は30才は越えてますが妻も子も居ますのでお役に立てないです」
「それだと、あと二年待たないとダメですかー」
「いやいや、俺だって2年以内に大人の階段を上る可能性だってあるじゃないか!!」
「「「それはナイ」」」
「な、なんで3人で声揃えて全否定?荒木3尉までいつの間にか参加してるし!!もうプリン食べ終わったからか・・・」
「はい、美味しかったです~」
3尉は満面の笑顔で報告してくれたが、その報告はいらない。
「俺なんでこんな公開処刑受けてるの。そもそも魔法使いなんてタダの都市伝説ですからね。未経験で30才になっても魔法は使えませんからね!!」
「え~ネット掲示板では30才童貞になれば魔法使えるのは定説ですよ~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます