第6話 任命
奥田 健一side
南大新島2日目
朝6時から叩き起こされ訓練が始まった。基礎体力作りと言って基地内を何周も走らされた・・・。その後さらに戦闘訓練として格闘技や銃器の扱いまで教えられた。半日の訓練だったが皆運動なんて殆どしたことが無い人間ばかりだ。本来は三ヶ月はみっちりと基礎訓練を行う物らしいが今の日本の状況がそれを許さない。島を調査するためにも魔物から自分の身を守れる程度の戦闘能力を付けなければならない。逃げ出したいが元の場所に帰った所で飢え死にを待つだけだ。皆疲れすぎてて昼食を摂る事もままならない状況だ。そんな状態でも午後はそれぞれの調査研究を行う。ブラック企業もなんのそのと言う状況だがそんな事を言ってられる余裕はない。なんとかスケジュールを熟し夜は泥の様に眠った。今は俺達が過労死するか日本人が飢え死にするかの競争になっている。どちらが早いのだろう・・・。
南大新島3日目
今日も朝6時から訓練が開始される。しかし今朝は不思議な事が起こった。昨日の疲れが残っていないのだ。目覚めもスッキリしており筋肉痛さえない。普段なら激しい運動した翌日は筋肉痛で大変なのだが。それは俺だけではなく他の皆も同じ状況だった。ほぼ昨日と同じメニューを熟したはずなのに疲れはそれほどではない。この島の自然のおかげだろうか。各自の研究も予想外に捗っている。何故か俺の部屋に他の研究者が集まり色々な相談を持ちかけられる。
南大新島4日目
今日行われた訓練では自衛隊員と遜色ないほどの体力が付いていた。初日から同じ様な訓練をおこなっているのに以前の感覚だと軽い散歩をした程度の疲労しかない。皆も同じだ。教官や医師もこんな事は聞いた事もないし有り得ないと言っているが事実だ。原因は分からなくとも事実なので仕方がない。
「解剖すれば何か解るかも」
と俺達と一緒に来た千藤先生が言って居たな・・・。解剖学の研究者とはいえ人を解剖とかサラッと言える怖い人だ。せっかく美人なのにマッドなのが残念だ。でも美人だからこそマッドなのだろうか。そう言う業界の人には需要は高いのかも。もちろん俺にはそう言う趣味はないので理解出来ないが。
そして午後はいつも通り研究の時間なのだが俺は今第三会議室にいる。他と比べると小さめの会議室だが余りにも俺に訪問者が多いため専用の執務室として割り当てられた。とりあえずコーヒーでも入れようと立ち上がると扉をノックする音が聞こえた。
コンコン
「どうぞー」
「奥田さん、今回は自信作ですよ!!」
そう言って満面の笑顔で部屋に入ってきたのは動物解剖学の遠藤准教授だ。
「え、また持って来たんですかぁ。昨日のは酷かったじゃないですか~もう勘弁して欲しいんですけど」
「いや~、まあ前回はゴブリンだったので臭いし見るからに筋張ってましたからね。とても自分では食べる勇気を持てなかったんですが今回はちゃんと自分で試食しましたから大丈夫です」
「あんた、試食もしないで俺に食べさせたのか!!あれ滅茶苦茶不味かったぞ臭いも中々消えなくて大変だったんだからな」
「動物実験もしましたし毒性が無いも確認済みでしたよ。それにもう終わった事ですから忘れましょうよ」
「あんたが言うな」
「まあまあ、今度は本当に大丈夫ですよ!!是非食べて下さい!!」
そう言って小皿をさしだしてきた。凄く気乗りはしないのでいやいや皿の中身を確認する。そこには脂ののった如何にも美味そうな肉が乗せられていた。香ばしい食欲をそそる香りもしている。地震後まともな肉なんて食えてなかったので思わず手で摘まんで口に入れてみる。塩こしょうをして焼いただけの簡単な料理の様だが舌の上で脂が溶けていきかなり美味い。むしろ絶品と言って良い。
「美味い・・・豚トロ?」
「うんうん、豚トロにそっくりでしょ」
確かに豚トロそっくりの味だった。しかしそっくりと言う事はそういうことなのだろう。
「で、これは何の肉なんですか?」
「これはオークの肉ですよ。豚だと希少部位ですがオークは沢山の部位でこれが取れます」
「遠藤さんこれは行けそうですね。ただオークはゴブリンよりもかなり強いですからね。色々問題も多そうです」
「ええ、でもそこをクリア出来ればオークも繁殖力は高いのでかなり有望ですよ」
「家畜化出来れば肉の安定供給も出来そうですね」
この遠藤さんは別に悪食趣味があるわけではない。これも政府から依頼されている立派な仕事だ。最初は魔物とは言え人型のものを食べると言うのは抵抗あったが何度も魔物の肉を試食させられているので麻痺してしまった。人間追い詰められると何でも出来るものらしい。
「でも、なんでゴブリンとかオークなんです?他にもこの島で見つかった新種の猪とか兎とか居たじゃ無いですか」
「もちろんそれらの肉も確認しましたよ。肉質は既知の動物と殆どかわりませんでした。でもそいつらも魔物と同じく強くて凶暴なんですよね」
たった数日だが東大新島について様々な発見があった。事前調査でも有望と言われていたが動植物はもとより石油や鉱物など資源が手付かずのままにある事が解った。石油は地上に湧き出している場所まであり埋蔵量も把握出来ないほど豊富らしい。鉱物資源も採掘すら要らず、すぐに見つかったそうだ。既に開発の準備に取りかかってるらしくこのまま上手く行けば早々に自給問題も解決出来そうだ。
「ああ、そうだそれともう一つ見て貰いたい物が」
そう言って遠藤さんはポケットからゴロゴロと濁った水晶の様なものを取り出した。形も大きさも色も不揃いだが共通するのは角がなく透き通るまでは行かないが透明っぽい。
「これは?なんか河原を探せば見つかりそうな感じの石ですね」
「これらの石は全部この島に生息する動物や魔物の体内から出て来たものなんですよ」
「体内から?胆石みたいなものですか?」
「いえ、胆石ならもっと小さいです。それに心臓の近くから出て来ました」
「へえ、そんな所に石って出来るものなんですね」
「いえ、こんな石が出来るなんて聞いた事もないですよ。それにコレは病気ではありません。この石が出る種類は決まっています。逆に決まった種類からは例外なくこの石が出てくるのです」
「ほう」
「ゴブリンやオークなんかの魔物からは必ず出ますし、先程言っていたこの島固有の動物からも出てくるんですよ。しかも鉱物学者の先生に分析をお願いしたところ全部同じ物質ではあるらしいのですが未知の物質という事も解って居ます」
「という事はこの島の魔物から出てくる未知の石ってことですか」
「はい、その通りです」
「魔石か・・・」
「ああ、魔物から出てくる石だから魔石ですか。いいですね。その名前いただきます」
あ、また名前を決めてしまった・・・
「そうすると逆に魔石が出てくる動物も魔物って事になるかな」
「魔石が出てくる物は凶暴で力も強くさらには異常な生命力があるというのも共通しています。魔物の判定は魔石の有無で決めるのが解りやすくて良いかもしれませんね」
「でもそんなに安易な分類方法で良いんですか?」
「まだ、分析途中でハッキリした事は言えないのですが通常の兎とこの島の兎を比べると身体構造や遺伝子的な差異はあまり無いんですよね。逆に言うとそんなに強い力や生命力があるのはおかしいんです。相違点は魔石の有無だけなんですよ」
「魔石になんらかの秘密があるって事か」
「そう考えるのが自然ですね。何故魔石を持っているのか。魔石があると何故強くなるのかとか魔石については謎ばかりですけどね」
「魔石の研究が必要ですね」
「そうですね」
コンコン
また、来客のようだ。
「はい、どうぞー」
ドアが開き男性が顔を覗かせる。
「あ、先客がいましたか。少し時間を置いて改めますね」
「いや、北野さん。私の話は終わったので丁度よかったですよ。では奥田さん私はもどりますね」
「そうですか、ではよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
遠藤さんと入れ替わる様に金属学者の北野さんが入ってくると小さなケースを取り出した。
「奥田さんこれを見て下さい」
そのケースには薄くカラフルな板状の金属が5枚はいっていた。ただの金属の板の様に見えるが何に使うものだろう。
「これは何ですか?」
「こんな凄いもの見て解りませんか?」
かなり興奮してるようだが俺にはさっぱり解らない。
「はあ、綺麗だとは思いますが、ただの金属の板にしか見えないですが・・・」
「何を言ってるんですかこれは全部この島で見つかった未知の金属ですよ!!やっと精製したサンプルが出来たんです」
「未知の金属が5種類もですか?」
「そうです。しかも合金などではなく、それぞれ単一の元素ですよ」
「それは凄い発見ですね」
「ええ、ええ、抽出出来ただけで性質も有用性の研究もこれからですがかなり期待出来ると思いますよ」
並べられたサンプルの見た目は青く輝く銀・黒く光る鉄・金・赤い銀だった。
「これらはみんな鉄より固い金属なんです。さらに鉄と比べて青が非常に軽く、黒はとても重いです」
「へえ、そうなんですね。でも4番目のは普通の金の様にみえますが」
「いえ、これ単体だとわかりにくいですが金とは色合いが異なります。それに金より遙かに固いです」
見た目と性質を聞いているとなんか思い当たる節があるな。
「やっぱり奥田さんには心当たりがありそうですね」
ああ、考えが顔に出てしまっていたらしい。
「そうですね。見た目とそれぞれの性質からするとミスリル・アダマンタイト・オリハルコン・ヒヒイロカネと言う感じがしますね」
「ほうほう、さすがですね。伝説の金属ですか。その名前でいきますか」
「いや、皆さんにも何度も申し上げていますが私の知識はあくまで架空の物語の知識ですから、鵜呑みにされるのはよした方が・・・」
「今更何を言っているんですか、そんな事は私を含めて皆承知していますよ。その架空の話が現実と一致していて参考になるんですからね」
「そうなんですが自分ではどうも納得いかなくて」
「間違ってても誰も恨みませんよ。本来こう言う未知の物質の研究は手探りで失敗の方が多い物ですからね。参考になる情報があるだけでとても有難いんですから。これらの金属について他に何か情報はありますか?」
「はあ、そうですね。ではダメ元で言わせてもらえばこれらの金属は物語の中では魔法金属とされている事が多いです」
「ほう、魔法ですか・・・その発想は無かったな」
「魔法と密接な関係を持っていたりしますので須藤さんの協力を仰がれるといいかも知れません」
「ふむふむ、そうですね。良い情報を有難うございました。早速須藤さんに相談してみます」
そう言い残すと北野さんは足早に出て行った。初日の須藤さんを皮切りに俺の所にみんなが意見を求めて来るようになった。皆は俺と違って国内でも指折りの優秀な学者のはずなのに俺の所にこうして入れ替わり立ち替わり俺の所にやってくる。俺は単にファンタジー・オタクだったら誰もが知ってるような話をしているだけなのだ。何度も言うが想像の産物、架空の物語の話なのに参考になったとか勉強になったとか感謝までされてしまう。本当に訳がわからん。
なんか酷く疲れる… とりあえず、さっきから飲みたいと思っていたコーヒーを入れようとインスタントコーヒーの蓋を取る。
コンコン
また続けて来客か・・・と思っていると返事をする間もなくガチャリと扉が開かれると女性自衛官が入って来た。そのままドアを閉めて俺の前まで来ると直立して敬礼をしてくる。
「失礼します!! 荒木 美々三等陸尉です。ただ今より南大新島基地 探査部研究室 室長補佐として着任いたします」
そう言って女性自衛官は元気よく挨拶してきた。見た目は20代前半だろうか小柄だがかなりの美人だ。若い割に化粧が濃いめの気もするが気の所為だろう。突然の出来事に理解が追いつかずインスタントコーヒーの瓶を持ったまま立ちすくむ。すると目にも止まらない素早い動きで彼女は俺の手からコーヒーを奪い話しかけてくる。
「あ、コーヒーですか。丁度私も飲みたかったんですよ~ついでに室長の分もお入れしますね~」
「室長?」
「えっ、奥田室長ですよね?~」
「俺は奥田で間違い無いけど室長ってなんだ?」
「あっれぇ、聞いてませんかぁ?~」
「何が?」
「本日付を持って~正式に南大新島基地 研究室が創設されて奥田さんがその室長に任命されました~」
「いや、聞いてないよ!!研究室とかさえ初耳だよ」
「あ、そうだ~これ室長の辞令です~」
そう言って一枚の紙を差し出してきた。そこには「奥田 健一を南大新島基地 探査部研究室 室長に任ずる」と書かれている。ご丁寧に首相のサインまで入ってる。
「なんで俺が」
「え~だって~、奥田さんの知識やアドバイスは頼りになるって、みなさん研究者の代表は奥田さんしか居ないって満場一致で決まりましたからぁ~」
「そんな話聞いてねぇ」
「もう決まったことですし諦めてお仕事してくださいね~それに私みたいな超美人の補佐まで付いたんですよ~お気軽になんでも命令してくださいね~」
「えっ?」
唐突に美人から何でも命令して下さいと言われたので思わず色々夢想してしまった。おらワクワクすっぞ。
「あ、何でもと言いましたがセクハラは却下ですよ。そういうのがあれば遠慮無く訴えますからね。万一の場合は実力行使もありえますので注意して下さいね~」
そう言って腰にさしている拳銃を指さす。
で、ですよね~。もうすぐ魔法使いなんだ妄想くらいは許して欲しい…怖すぎて言えないけど。速攻釘を刺されてしまったけど、また考えが顔に出てしまっていたんだろうか。基地内にいると忘れがちだけど、この島は危険地帯なんだよなぁ。みんな常に武装している。俺達ですら拳銃を渡されている位だからな。まあ重いから持ち歩いておらずオフィス机の引き出しに入れっぱなしだが…。
しかし、ここには偉い学者がいっぱい居るのに何故俺みたいな妄想の中の住人が代表になるんだよ。
どうしてこうなった…涙
同日 深夜
俺は今パソコンの前で絶望している。今日も慌ただしい一日だったが漸く自室に戻って来ることが出来た。また、色々な物を命名したり、そのせいで変な役職を任されたりしたがそんな事はどうでも良い。今日からインターネット接続が可能になったのだ。ファイヤーウォールがどうとかで情報発信が出来ない事やアクセス制限や検閲とかもあるとか説明されたが良くわからない。まあ、見られるサイトが限られるって事みたいだが元々海外サイトは無理なのだからそれほど影響はないと思っていた。国内サイトだけでも調べ物が少しは楽になるし途中までだったアニメの続きが見られるのも確認したので仕事には影響ない。しかし俺も健全な男の子だ経験はないけど興味は人一倍あるんだ。ネットと言えばお子様閲覧禁止の動画とかみたいじゃ無いか!!いや見なければならいんだ。なのに毎月会費を払っているお気に入りのサイトはもちろんエロ関係のサイトが全く表示されないんだよ。明日陸将に直談判にいくか。彼も男だ。誠意を持ってお願いしてくれれば理解してくれるはずだ。
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