第22話 初めての戦闘
佐神 悠人Side
昨日の瓜狩りに続いて今日も森に出かける。2回目の森となる今回は少し遠出する予定だ。
「昨日の瓜はやっぱり美味かったなぁ」
俺は昨日収穫した瓜の味を思い出して呟いた。昨日の夕食にもデザートとして出たのだがもっと食いたかった。全部売らずにいくつか確保しておくべきだった。俺達が収穫してきた瓜は皆にも評判が良かった。今日は別クラスのパーティが収穫に向かう予定だったのだが1パーティから2パーティに変更された程だ。群生地はかなり広く、まだまだ実も沢山なっていたので取り尽くす心配はないだろう。昨日の夕食には使われなかった様だが俺達と同様に他パーティもキノコや木の実など色々な植物を収穫していたので今後の夕食は豪華になりそうだ。食事が良くなるのは育ち盛り食い盛りの俺達には嬉しい限りだ。
「おし、今日は肉の確保だ頑張るぞ!!」
「悠人張り切るのは良いが今日はゴブリン狙いだぞ?」
「なんだよ利久。せっかく人が気合い入れてるのに水指すなよ。ゴブリンだって食ってみれば意外といけるかもしれねえじゃん」
「あんだけ先生達が口を揃えて不味いって言ってたのに、お前は相変わらずチャレンジャーだな」
「俺達の年頃は味より量なんだよ!!」
「たしかに、それは言えるけど俺は出来れば美味しい方がいいなぁ。いっそ今日はオーク狙いで言ってみるか」
「おう、それもいいな!!あの脂ののった豚トロ最高だもんな」
「悠人よだれ出てるぞ・・・」
「おう、すまん豚トロの味思い出しちまった」
「やめろ、そんなの事言われたら俺まで思い出して食いたくなるだろ」
「おい、そこの馬鹿二人そろそろ行かないと置いて行かれるぞ」
靖の注意にしたがって俺達は昨日と同じ教官と合流する。
教官と合流した俺達は昨日と同じ様に斥候として利久が少し先行していき残り3人は少し遅れて利久に着いていく。今日は誰もカゴを背負っていないので身軽だ。俺達の後ろには教官が付き全員の監督をしている。
教官から事前にゴブリンの居そうなポイントを聞いているのでそこへ向かう。ゴブリンを見つけて倒すのが今日の課題だ。最低でも一匹は狩らないと成績にはならないためゴブリンを捜索しながら歩いて行く。ただゴブリンは単独で動くことは少ないので何匹かまとめて相手にする可能性が高い。
周りを警戒しながら進んでいくと利久が突然立ち止まり腕をあげてグーを出した。
「ん?利久こんなとこでじゃんけんか?」
パコーンと後ろからいい音がした。後頭部を殴られたのだ。振り返ると靖が居た。
「シッ、静かにしろ。アレは『動くな』のハンドサインだろ。ハンドサインもおぼえてないのかよ」
小声だがめっちゃ怒られてしまった。同時に頭を押さえつけられてその場にしゃがまされた。そういえばそう言うのいっぱい覚えさせられたな。忘れてたわ。俺は空気の読める子なので文句を言いたいのを我慢する。今はしゃべっちゃいけないタイミングだ。目だけで靖に抗議を送り利久の方をみると『しゃがめ』のサインを出していた。さっきは突然だったから解んなかっただけで今はサインの意味が解るぞ。俺だってちゃんと覚えてるんだ。俺はやれば出来る子なんだ。
この先に5匹の敵がいると利久からサインが送られてくる。教官から一端下がるように指示がされ先程から少し離れた場所で集まる。
「ここなら良いだろう。しかし大きな声は出すなよ。志藤報告を」
「はい、前方にゴブリンが5匹いました。何かを食べていた様ですのでしばらくは動かないと思います。他に魔物の姿はありませんでした」
「ゴブリンの種類は?」
「棍棒を持ったノーマルばかりだと思います。少なくともゴブリンメイジは居ませんでした」
「ふむ、やれない数ではないが初戦としてはキツい数ではあるな。お前達次第だがどうする?念の為に言って置くが用心して撤退するのも立派な戦略だ。恥じゃないからな」
「数が多いって言ってもゴブリンだし楽勝っしょ。俺がダーって突っ込んで全部倒しちゃうかも」
「おい利久おれの分も残しとけよ。俺だってダーってやってガーとかやりたいし」
「おう、解ってるって」
まあ、利久の言う通り所詮ゴブリンだしな。俺の罠を使うまでもないだろう。
「おまえら・・・命がかかってるんだぞもっとまじめにやれ。それにダーとか言っても意味解んないからな」
俺と利久は通じ合ってるのになんで靖は解らないのか。
「靖は心配性だなぁ。俺達なら楽勝だって。なあ利久」
「おう、明石もそう思うよな」
「油断は駄目」
「お、おうそうだな」
ビックリした初めて明石が意見を言うのを見たかも。まさか俺達の話を否定してくるとは思わなかった。
「とりあえず最初は俺が遠距離から狙撃する。それで数を減らすから残ったやつを利久がこっちに・・・」
靖が地面に柄を書きながら作戦を立てていく。みんなも意見を出し合って大体の方針が決まった。
最後に靖が黙って聞いていた教官に作戦を確認する。
「この作戦でいいですかね?」
「まあ、問題無いだろう。ただ志藤はあまり突っ込み過ぎないようにな。他の二人は何かあった場合に志藤のフォローをしっかりな。それから俺は手は出さないから当てにしないように。全員が訓練通りの力を出せれば勝てるはずだ落ち着いていけ」
「解ってるって出過ぎたりしないよ。それに全部倒してしまっても構わんのだろう?」
あ、利久のヤツその台詞言いたかっただけだろう・・・クソッ俺も言いたかった。
「馬鹿ふざけていると命を落とすぞ気を引き締めていけ」
はは利久のヤツ怒られてやんのザマア
俺達は静かにゴブリンが見える位置まで移動して配置に就いた。俺も気付かれない様に身を伏せてゴブリンの様子を窺う。利久が報告した通りゴブリンはまだ食事中だ。数も5匹で間違い無い。あらためて周辺を確認するが近くに他の魔物の姿は見えない。隣には明石が俺と同じ様に伏せてゴブリン達を見ている。俺達二人の少し先に木の陰に隠れている利久の姿が見える。靖は俺達と違う方向から狙撃するために離れた場所で潜んでいるはずだ。俺達の位置からは靖の姿は見えない。
戦闘開始は靖の狙撃が合図になっている。俺達は配置に就いたまま攻撃開始を静かに待つ。合図を待ってる時間がやけに長く感じる。これが初めての戦いだけに少し緊張しているのだろう。他の二人を見ると俺と同じ様に緊張している。明石に至っては緊張しすぎて少し手が震えている。とりあえず明石の肩を軽く叩いてやる。大丈夫だと親指を立ててキメ顔をすると明石がぎこちなく笑った。すこしは落ち着けたみたいで明石の手の震えが収まった。
パン
射撃音が響くとゴブリンの一匹の頭が弾け飛んで倒れた。一発目は上手く命中した。靖の狙撃の腕は良いみたいだ。他の4匹のゴブリン達は突然仲間が倒れた事に驚き一瞬だけ動きが止まったが、すぐに立ち直りキョロキョロと辺りを見回している。今の所は靖は見つかっていない。靖がゴブリンに発見されるまでは俺達は待機して狙撃で可能な限り数を減らす予定だ。
パン
2発目の射撃音が響く次も命中した様だが頭ではなく腕だった。腕に擦った程度では大したダメージには成っていないようでゴブリンは普通に動いて居る。そして早くもゴブリン達に靖の居場所が見つかってしまった。一匹のゴブリンが靖の居る方向を指している。その後すぐに靖がいる方向に4匹のゴブリンが移動を始めた。腕を打たれたゴブリンはかなり怒っているようで一番先頭を走り靖に向かって行く。
ダダダダダ
利久が飛び出してゴブリンに向かって銃を乱射した。残念ながら一発も当たっていない。まだ、ゴブリンとは距離があるためこれは仕方ない。
「おらーゴブリン共こっちだ!!」
大きな声を上げてゴブリンを挑発する。ゴブリン達は「gugyaaa」と叫びながら利久の方に方向を変えて向かって来る。利久は俺達の方に後退しつつゴブリンを挑発している。
「はははは、雑魚共こっちだ。かかってこい!!」
ゴブリンは怒り狂ったように4匹とも利久に向かって行く。上手く挑発に乗ってくれたようだ。言葉が解るとは思えないが馬鹿にされていると言うのが伝わるのかもしれない。
ダダダダダ
一発ゴブリンの足に弾が擦ったようだがダメージはあまり無さそうだ。走るスピードを落とす事無く利久へと向かっている。そういえば講義でも手や足では効果は少ないと言って居たな。
バン
靖も狙撃を続けて居るが動く相手を狙撃するのは難しいのか全く当たっていない。
「汚物は消毒だぁあああ」
利久のヤツは一発当てた事でテンションが上がっているのか銃を乱射しながら叫んでいる。格好付けているつもりなんだろうが利久よ、それはどう聞いても悪役やられキャラの台詞だ。
ダダダダダ・・・カチャカチャ・・・
「あ、あれ?」
案の定利久のヤツ調子に乗って弾を撃ち尽くしてしまったらしい。予備のマガジンを取り出し交換しようとしているが慌てているために上手くマガジンを挿入出来ない。予定ではもう少しゴブリンを引きつけてから俺達が出る予定だったがそうも言って居られない。このままでは利久が危ない。
「明石行くぞ!!」
俺は明石に声をかけると同時に飛び出す。
ダダダダダダ
俺は飛び出して利久を援護するように連射モードでゴブリンを撃つ。くそっ、俺も弾をゴブリンに当てられねえ。まだゴブリンとの距離が遠いか。少しでも利久に近づく為に走りながらゴブリンを撃つ。
バン
後ろから銃声がした。同時にこちらに向かってきたゴブリンの一匹が頭から血を流し倒れる。明石がやったらしい。さすが首席この距離からでも一発で当てるのか。
バン バン
明石はさらに続けて撃っているが流石に連続では当てられないようだ。俺が褒めたのが悪かったのかもしれない。
「うあああ。痛えええ」
利久が大きな悲鳴を上げた。悲鳴の上がった方向を見ると利久の腕に矢が刺さっている。矢を受けた痛みで銃もマガジンも落としてしまっている。改めてゴブリンの方を見ると一匹が立ち止まって弓を構えている。次の矢を構えて利久をさらに射ようと弓を引いている。俺は慌ててそいつに向かって銃を乱射するが遠すぎて当たらない。
「利久早くこっちへ。銃は放っておけ」
俺の叫びを聞いて利久は腕を押さえながらもこちらに走り出した。俺も弾を撃ち尽くしてしまいマガジンを交換する。俺も焦って利久と同じ様に中々上手くマガジンが入らない。
ヤバイ弓を持ったゴブリンが今にも矢を放とうとしている。
バン
弓を持ったゴブリンが倒れた。弓を撃つために停まっていたのが仇となったようで靖の狙撃が命中した。残りは後2匹になったが利久とゴブリンの距離がかなり近づいている。俺も何とかマガジンを交換し終わり利久をカバーするためにゴブリンに向けて発砲する。
ダダダダダ
なんとか一発が命中しゴブリンの足を撃ち抜いた。足を打ち抜いたゴブリンが勢いよく転んだので残り一匹と成った。しかし残ったゴブリンと利久との距離があまり無い。運の悪いことに利久の身体が射線を遮り俺達からゴブリンが狙えなくなっている。利久が拳銃を抜きゴブリンに向かって連射する。痛みと焦りのためか距離はそれ程ないのに当たらない。一発がゴブリンの腹に命中したが一瞬怯んだだけで利久へ向かうのを止めない。拳銃の弾も打ち尽くしてしまった。
「gugyaaa」
怒りを露わに奇声をあげゴブリンは利久に近づき棍棒を振り上げる。このままでは利久が危ない力の強いゴブリンに棍棒で殴られれば只ではすまない。だが俺達の位置からでは何もする事が出来ない。靖の位置からも木々が邪魔で狙撃が出来ない様だ。先程から狙撃の銃声が聞こえない。
バン
次の瞬間ゴブリンの頭が吹き飛んだ。利久の近くで教官が銃を構えて立っていた。
「志藤大丈夫か?他の者は怪我は無いか?」
利久に声を掛けながら教官は転んで置き上がろうとしていたゴブリンにも発砲しトドメを指した。
「た、助かったのか?」
「ああ。もう大丈夫だ。みんな良くやった。志藤の怪我の手当をする。他の者は周囲を警戒。気を抜くなよ」
「「はい」」
いつの間にか靖も俺達の所に戻っていた。教官に指示されたとおり3人で周囲を警戒する。
訳の分からないまま戦闘が終わってしまった。あれだけ有利な状況だったにも関わらず俺達のパーティでは3匹しか倒せなかった。
「よし応急手当は終わったぞ。あとはゴブリンの死体を回収して学校に戻るぞ」
教官が利久の手当を終えてそう言った。
利久の腕を見ると包帯が巻かれ止血はされているが矢は途中で切断されているものの腕に刺さったままだった。
「矢は抜かないのですか?」
「ああ、ここで矢を無理に抜くと大量に出血してしまうからな。ちゃんと道具のある学校で治療するのが良いんだ」
俺が心配になって質問すると教官がそう説明してくれた。
俺達は指示に従ってゴブリンの死体を回収し帰路についた。ゴブリンの肉は食用には向かなが利用用途があり買い取っては貰える。流石に怪我をしている利久にゴブリンの死体を担がせる訳にはいかないので3人で分担して持つ事にした。教官は念の為に利久に付き添っている。
戦闘をしていた時間はそんなに長く無かったが滅茶苦茶疲れた。訓練と実戦ではこうも違うと言うのを実感させられてしまった。
なんとか基地に戻った俺達はまず医療室に向かった。医療室に入ると20代後半の女医の先生が待機していた。ショートヘアでかなりの美人だ。まあ俺達から見るとおばさんなんだけどな。
「先生、この生徒がゴブリンの矢を受けてしまって治療をお願いします」
教官が先生に声を掛ける。先生は何故か満面の笑顔で利久の傷を診断する。
「あら、これはかなり深く刺さっているわね。手術が必要よ。準備をお願い」
先生はすぐに看護師に指示をたした。
「では後はよろしくお願いします」
俺達は利久を先生に預けてゴブリンの死体を引き取って貰いに向かう。
ゴブリンは食用にならない為に引き取り価格が滅茶苦茶安かった。怪我人まで出してゴブリンを仕留めたのに骨折り損だった。やはりオークを狙わないと駄目みたいだ。
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