第21話 初めての冒険?

佐神 悠人Side


 俺たちは何とか銃の仮免許を取ることが出来た。本当に夜明けまでかかってしまった。部屋に戻ったら俺も利久も背中がみみずバレで腫れ上がっていた。ただ、不思議なことに一晩寝たら綺麗に傷が治っていた。今日の授業も終わり今は寮でそれぞれ休憩中だ。


「ふふふふふ」


 部屋の隅から変な笑い声が聞こえる。声の方向を見ると明石が膝を抱えて座っていた。肩を震わせて笑っているようだ。他の二人も気が付いたようで明石を見ている。


「おい、明石どうしたんだ」

「とうとう気が狂っちまったか?」

「ああ、無理もないな今日の授業は中々ヘビーだったからな」


 利久と靖が好きなことを言っている。


「ふふふふふ、あはははははは」


 うつ向いて笑っていた明石が顔を上げ高笑いを始めた。


「これはあかん。ほんまもんや」

「しっ利久見ちゃいけません」

「お前ら何ベタなネタやってるんだよ。それどころじゃないだろ」


 靖が俺と利久の頭をパーンと叩いてツッコミを入れる。俺はツッコミキャラじゃないのに。

「おい明石しっかりしろ大丈夫か?」

「いや、佐神君僕は別におかしくなんか成ってないよ」

「いや、変な高笑いしてたじゃないか」

「ああ、それはやっぱり僕の時代がキターて感じで嬉しかったからだよ。ふふふ」


 駄目だ。明石のヤツ笑いが止まらなくなってるようだ。ちょっとキモいな。


「いや、それはお前だけじゃないだろ」

「それはどうだけどさ。今では僕が一番強いし」

「俺達だって体力だけならお前の次くらいには強くなってるぜ」

「確かにな。悠人だけじゃなく俺や靖も結構強くなってるもんな」

「俺達同じ中学生なのにあのヤンキー達よりも強くなってるもんな!!」

「悠人・・・それは余り自慢にならないぞ。あの先生の話からすると俺達野球部だったのに元々ヤンキーより体力無かったって事だぞ」

「靖おまえはまた余計な事を・・・」

「悠人でもよ結果的に練習サボってたのが良かったんじゃん」

「おお流石だ利久良い事言った!!」

「それは良い事か?」


 せっかく利久が良い事行ったのに靖が水をさす。俺がむっとしてると利久が話題をかえた。


「まあ、いいじゃん。それよりさ今日のあの先生ヤバかったな」

利久の言葉を靖が受ける。

「ああ、奥田だろ。自衛官の先生もヤバイって思ったけどあの奥田はさらに行っちゃってるよな」

「教室で拳銃撃っちゃうんだもんな。あれは本当にヤバイ」

「しかも何の表情も変えずにゴブリン撃ってたよな」

「血ドバドバ出てたよな」

「でも、なんかよー俺グロ見ても意外と平気だったんだよな」

「ああ、利久もかよ俺もそうだ」

「利久も靖も平気だったのか。実は俺も同じだ。それにオークの肉の話されてみんな吐いてたけど意味わかんないよな。あんなに美味い肉なんだからオークだろうと別に良いじゃ無いか牛や豚と何が違うんだよな」

「まあ、俺も平気だったけど吐いたヤツの気持ち位は解ってやれよ」

「靖、悠人には何を言っても無駄だ。こいつは何時も食欲に忠実だからな」

「美味いものは美味いでいいじゃんか。な、明石もそう思うだろ?」

「へへへへ」


 駄目だ、靖と利久が賛成してくれなかったから明石に同意を求めたのに、まだ別の世界から戻ってなかった。もうしばらくそっとして置いてやろう。あれは母ちゃんが見ちゃいけませんって言うヤツだ。


「そういえばお前ら選択科目どうするんだよ」

「選択科目って何のことだよ靖」

「またかよ悠人。お前本当に授業とか人の話を聞いてないよな」

「おう、細かい事を気にしないのが俺の良いとこだって母ちゃんが言ってたしな」

「それ褒められてないだろ」

「ただの嫌みだろうな・・・逆効果だったみたいだけど」

「何言ってんだ男は細かい事気にしちゃいけねえんだ」

「選択科目は細かいことじゃねーよ」

「あー、その話だったな。で、それはなんの事なんだよ」

「何度も選択科目の希望考えとけって言われただろう」

「んー覚えてない」

「悠人に聞いた俺が馬鹿だった」

「おう、靖も俺や利久よりはマシだけど馬鹿だもんな!!」

「う、悠人と同じレベルの馬鹿って否定したいのに出来ない」

「そんな下らない話は良いんだよ。選択科目を決めなきゃいけないんだよ。選択科目は丁度4つだし俺達は4人だから被らない様にした方が良いだろう。だから聞いておきたかったんだよ」

「んーみんな同じでも良いんじゃ無い?同じならノートとか写さして貰えるし」

「俺達は4人でパーティ組むんだから4人とも別の受ける方がいいんだよ。被らない為に聞いたんだからな」

「んーそうなのか?」

「その辺を悠人に理解させるのには夜が明けてしまいそうだからな。とにかく選択科目ってのはな斥候、トラッパー、スナイパー、ボマーの四つがあるんだよ。んで俺はスナイパーに行くつもりだからお前らは他の選んで欲しいんだよ」

「僕ボマー」


 いつの間にか別の世界から帰ってきていた明石がぼそっと呟いた。


「俺先頭が良いから斥候な」

「あ、利久ずりー」

「こんなのは早い物勝ちでいいんだよ」

「ちっ、しゃーねーなんじゃ俺トラッパーでいいや」

「お、意外とあっさり決まったな」

「所で靖よ。まさか違うとは思うんだけどトラッパーってラッパ吹くのか?」

「ちげええよ」

「そか・・・俺ラップとか歌えないんだけど大丈夫かな?」

「それも違えよ。トラッパーは罠のエキスパートだよ。罠張ったり解除したりするんだよ」

「は・は・は・は、嫌だな靖君冗談に決まってるじゃないか」

「どう聞いてもマジボケじゃないか。しかしどこからそんな発想出てくるんだよ。ラップを歌いながら冒険する冒険者とかありえないだろう」


 そっかー罠を使う人だったのか。なんか響きが格好いいから安請け合いしたけど。罠か・・・。なんか面倒そうだな。でも今更知らなかったから変更してとか言い出せないよなぁ。



 選択科目の授業が始まって二週間がたった。教室が並ぶ廊下には毎朝成績表が貼られている。見事に実技や各科目の点数に加えてご丁寧に各科目毎の順位まで付けられている。個人単位はもちろんパーティ単位の成績まで張り出されているのだ。自分の成績どころか他人の具体的な成績まで解る様になっているのだ。


「やばっ、また明石が1位かよ。しかも全部満点だよ。」

「利久も2位安定になったな」

 俺と利久が成績表の前で成績表を見ていると靖があとから来た。

「おー俺達のパーティ今回もなんとか1位だったぞ」

「靖この裏切り者~実技だけならともかくなんで勉強まで2位なんだよ。裏切り者~」

「何言ってるんだよ。お前らあんだけ教えてやったのに真ん中位が精一杯じゃないか。まあ実技の方は辛うじて3位4位争いを二人でしてるからマシだけどな」

「この世の中に漢字があるのがいけないんだー」

「悠人少しは漢字覚えろよ・・・」

「靖だって中学居たときは俺達含めて3馬鹿トリオだったじゃないか」

「お前らと一緒にすんな。俺はお前らよりマシだったよ」

「そういえば明石は?」

 俺と靖の言い争いを軽くスルーして利久が明石を探す。俺には解ってるぜ現実逃避だな。

「あ、先に教室に行ったぞ」

「まあ、アイツは成績見る必要ないもんな」

「でもよーこういう成績張り出すとか順位付けるのってプライバシーの侵害とか人間は平等とか言う理由で順位を付けるのは廃止されたんじゃなかったっけ」

「たしかに悠人の言うとおりだよな。小学校とか中学じゃあ運動会でも順位なかったもんな」

「この島での常識は本土とは違うからな。今更だろ」

 いつも通り俺と利久の会話にトドメを指す靖・・・。

「そろそろ時間だし教室に行こうぜ」

 利久の言う通りそろそろ授業が始まるので3人で教室に向かった。



 教室に入ると明石はやはり先に席に座って本を読んでいた。俺達も席に着くと利久が話しかけてきた。

「しかし今日は楽しみだな」

「ああ、今までは寮と学校だけだったもんな」

「行けるのは学校の近くの森だけらしいけどな」

靖も話しに乗っかってくる。明石は横で話を聞いているのか聞いていないのか解らない状態だ。いつもの事なので誰も気にしないけどな。

「それでも初めての外出だからな」

 迷彩服を着た自衛官が10人教室に入ってきた。そのうちの一人は実技を担当している教官だ。それ以外は今日初めて見る人ばかりだ。

「あー今日は前から言っていた通り森に入る。各パーティ毎に別れて行くので各自担当者の指示に従ってくれ。まず明石パーティは装備を持って彼について行ってくれ」


 明石パーティと言うのは俺達4人組の事だ。最初は靖がパーティリーダーと言って居たのだが成績順で全て決まるので必然的に俺達は明石パーティになってしまった。

俺達は指示された人の所に行く。


「「よろしくお願いします」」

 俺達は声を揃えて担当教官に挨拶する。

「ああ、よろしく早速だがこっちに来てくれ」

 教室から廊下に出ると背負いカゴが所狭しと積み上げられていた。

「えっと、志藤以外は各自カゴを背負ってくれ」

 指示された通り利久以外の俺達三人はカゴを背負う。今日は外に出るためフル装備だ。小銃も持っているのでカゴを背負うと結構邪魔だ。

「よし良いな。では付いてきてくれ」


 なんか状況がイマイチ飲み込めないが黙って教官に付いていく。そのまま教官も何も言わずに校門に向かって行く。校門には守衛が付いていおり外出の手続きを行う。普段は絶対に通して貰えないが今回は授業の一環なので何事も無く通過できた。後ろを振り返ると他のパーティも俺達と同じ様にカゴを背負って校門を抜けていく。向かう方向はパーティ毎にバラバラだ。


「では、ここから森に入る。学校に近いので比較的安全ではあるが気を抜かないように。志藤は少し先行して索敵警戒してくれ。やり方は授業で習っているな?」

「はい、大丈夫です」

「他の者も警戒は怠らないように。では行こうか」

(やべっ、なんか緊張してきた)


 散々先生達が外は危ないって言ってたしな。この前見せられた脱走した生徒の姿も思い出しちまった。ちょっとビビりながらキョロキョロと辺りを見回す。とりあえず見える範囲にヤバそうな物はいないな。



 俺達はそのまま森の中に入っていく。利久だけカゴを背負わなかったのは斥候だからか。なんか狡い。俺も斥候やれば良かった。俺達は森の中を進んでいく。森の中で周りは鬱蒼としているのだが俺達が今歩いているところは木の枝などが払われており道になっている。地面も踏みならされている様でしっかりしているので歩き安い。もっと枝をかき分け道なき道を進んで行くと思っていたのでなんか拍子抜けだ。30分ほど森を歩いて行くと一気に視界が開けた。背の低い草が生えた群生地の様だ。範囲はかなり広いようだ。


「よし、一端ここで停まれ。志藤、周辺の安全確認」

「はい」


 群生地に入る少し手前で止められた。利久は周囲を回り安全を確認している。俺達はその間小休止みたいだ。


「周囲に魔物の影は見当たりません」

「よし、みんなここに荷物を降ろして集まれ」

 指示されたとおり荷物を下ろして教官の周りに集まる。

「志藤は引き続き周辺警戒だが他の3人はコレを集めてくれ」

 そう言って教官は手の平にある物を俺達に見せる。手の平に有ったのはウリの様に見える。ただし、毒々しい赤色をしており如何にも毒がありそうに見える。

「これは?」

 自分でも珍しいと思うが俺が教官に質問する。

「野生のウリだ。この島にしかない品種らしい」

「何かに使うんですか?」

「もちろん食うんだ」

「食えるんですか?」

 教官はナイフで持っていたウリを4つに割って俺達に渡してくれる。外はどくどくしい赤だったが中はメロンの様な緑色をしていた。甘い香りが周りに立ちこめる。

「まあ、食ってみろ。あ、種は取れよ」

 俺達4人は疑いながらもメロンと同じ様に真ん中にある種を取って一口食べる。

「うまっ」

「何これ。マスクメロンより甘いよな」

「ちょっとマンゴにも似ているかも」

「俺両方とも食ったことないや・・・」

「「悠人・・・」」

「だから二人ともその目で見るのはやめろって」」

 俺達は口々に感想を言いながらもあっという間に平らげてしまった。正直もう少し食べたい。

「どうだ美味いだろ。お前達は成績最優秀だからな。一番良い収穫物が割り当てられたんだぞ。今日はこの実をカゴをいっぱいに持ち帰るのがお前達の任務だ」

「教官採るのは良いんですがもっと食べたいです」

「うーん、食べるのは構わないんだが食べ過ぎると腹壊すからな。そうだな一人1個だけなら許可しよう」

「「やった」」

「よし、それじゃあ全員作業にかかれ。志藤は食ったら警戒に戻るように」

「「はい」」


 俺達は指示に従って実を集めていく。真剣に実を集めていると見張りをしていた利久が声を掛けて来た。

「なんか平和だなー」

 やけに気の抜けた声だったので一応注意しておく。

「しっかり見張っとけよ」

「だけどよーせっかく森に入ったのに兎一匹出てこないし」

「まあ、確かにそうだな。俺も戦う気まんまんだったんだけどな」

「新米冒険者だと薬草取りとかが物語でも定番じゃないか」

 靖が俺達の会話を聞いてそんな事を行ってきた。

「「確かに」」

 今の言葉は妙に説得力有るな。薬草じゃなくてウリだけどな。

「おら、お前達無駄口叩いてないでしっかり仕事しろよ」

 教官から注意が飛んできた。利久のせいで怒られてしまったじゃないか。


 その後もカゴいっぱいになるまで3時間程作業を続けた。


「よーし、みんなカゴ一杯に集まったな。学校に戻るぞ」

 それから俺達はカゴを担いで帰路に就いた。帰りも利久だけはカゴを担いでいない。やっぱり利久は狡いな。

「でもよー、冒険者って革鎧着て剣と魔法で戦うってイメージなのに全然違ったな」

「迷彩服にアサルトライフルだもんな」

「まあ、銃があるのに剣とか無いだろ」

「それはそうなんだけどな。挙げ句に今日は農作業って感じだったからな」


 学校に戻りカゴいっぱいの瓜は学校で買い取って貰える。冒険者となった後は冒険者ギルドで買い取りを行ってくれるそうだ。驚いた事に瓜はカゴ一つで50㎏もあった。そんなに疲れていないし担いで帰るときもそれ程重いと思ってなかった。


 他の二人も同じ様な感じだったらしい。さらに驚く事に瓜は1㎏800円で買い取って貰えた。3人で150㎏有ったので12万円の売り上げだ。これをパーティーで均等に分けるので一人3万円の稼ぎになった。半日で3万の稼ぎと考えるとかなりおいしい。中学生の稼ぎとしては破格なのは間違い無い。


 他のパーティも大体同じくらいの時間で戻ってきていた。悪くても1万くらいの稼ぎにはなっていたようだ。狙う獲物等によっても変わるだろうが一日で2万稼げるなら十分だ。冒険者はやっぱり儲かる仕事の様だ。この金は卒業時にまとめて貰えるそうだ。まあ、今貰っても使う場所も無いしな。精々購買で雑誌や菓子それに文房具を買うくらいなので毎月貰える給料でも余るくらいだ。


 でもやっぱり利久は狡いと思う。





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