第16話 旅立ち

バル(矢島 昌治)Side


 騎士団の応接室で僕ら3人は話を続けている。


「はー、なるほどね。それで私が見つかっちゃたわけか。ハイエルフの気配はきちんと消していたはずなんだけどハイエルフ同士だとごまかせないからね」

「ディオ姉様意外と凄い?」

「意外ってのは失礼でしょ」

「だって、普段の言動見ていると・・・痛っ」

 ディオ姉様にほっぺを引っ張られてしまった・・・。


「二人とも仲良しね。まあ、そういう事なら予定より少し早いけどバル君を案内してあげるわ」

「有難うございます。でも予定って?」

「ああ、バル君はハイエルフの子孫であると同時に転生者でしょ?」

「なぜ、それを・・・」

ディオ姉様はもちろん知っているが僕が転生者であることをロッテ姉は知らないはずだ。

「君が産まれる前から知ってたわよ。ハイエルフの長老様にお告げがあったのよ。ハイエルフの末裔に異世界の知識を持つ物が産まれるってね」

「末裔?」

「そうよ。まあ下界にいるハイエルフの子孫って貴方たちだけだからね。すぐに解ったわ。私はその子を見極めるために来たのよ」

「はあ」

自分の事を言われているのは解るがイマイチピンと来ない。

「そう、善なる者なら導き悪なる者なら抹殺するためにね」

「抹殺!!」

「はは、安心しなさい。バル君は良い子なのは解ってるから」


「ではやはり道しるべと言うのは?」

 ディオ姉様がロッテ姉に確認をとる。

「ええ、私の事で間違い無いわ。もう少しのんびり出来ると思ってたんだけどね。そこだけが残念」

「では僕はどうすればいいんですか?」

「それは私と一緒に旅に出て貰うわ」

「旅ですか?」

「バルちゃんが行くなら私も!!」

 ディオ姉様が旅に食いついてきた。エサはどうも僕っぽいけど。

「ディオーネ様はまだ駄目ですよ。あと100年もあれば覚醒出来ると思いますよ」

「覚醒って?」

「ディオーネ様はまだハイエルフの蕾の様なものですからね。純粋なハイエルフは生まれ持つっていますが通常のエルフでも才に恵まれれば神格化出来るのです。花が開くには養分や時間も必要ですからね」

 つまりディオ姉様はハイダークエルフになれる可能性があるらしい。

「ディオ姉様には大切なお仕事もありますしね」

「むー」

 僕が仕事の話を振るとディオ姉様が膨れてしまった。

「とりあえず私の方の準備もありますから一週間後に旅に出ることにしましょう。バル君もそれに合わせて準備して置いて下さいね」

「はい、でも目的地とか期間は?」

「んー、今は目的地は内緒よ。期間はバル君次第だけど数年になるかな?」

「え、そんなに長い期間は無理ですよ」

「これは決定事項だから、ご家族には私からお話して置くわ。あ、それと私の正体やこの話は内密にね。さてそうと決まれば早速取りかからないとね」


 そう言ってロッテ姉は部屋を出て行ってしまった。ディオ姉様と僕は取り残されてしまった。

「姉様・・・これはどういう事なんでしょうか・・・」

「んー、私も良くわからない。まあご先祖様のご指示は果たせるみたいだしいいんじゃない?」

 なんかノリが軽いけどいいのだろうか・・・


 翌日からディオ姉様が人が変わったように仕事を熱心にするようになった。ハイエルフになると言う目標が出来た為に気合いが入ったようだ。アーデ達に甘々なのはそのままなのだが前みたいにダラダラ引きずる事は無くなった。剣の稽古も付けてもらったのだが領地で訓練したときより明らかに技の切れがあった。その姿は僕が見ても格好いい。最初は駄目な叔母だと思っていたがやれば出来る子だったようだ。


 格好いいディア姉様を見て双子がかなり食いついた。特にクリスが憧れたようで

「おばちゃまに弟子入りしゅるー」

と言って聞かなかった。


 ディオ姉様が「領地に戻らないといけないから大きくなったらね」と言うと「いっしょにいくー」と駄々をこねる始末だった。そしてディオ姉様は軍の再編成のために領地に戻っていった。


 僕は旅の支度のため忙しくしている中皇帝陛下から呼び出しを受けた。マークが居るので陛下には何度もお会いしたことはあるが正式に謁見室でお会いするのは初めてだ。もっと緊張するかと思ったが陛下は玉座に座られておりマークが隣に立っていた。反対側にはお爺様が立っており、少し離れた所には鎧で身を固めた父様もいる。

見知った顔ばかりなので逆に安心感すらある。その他には先生とロッテ姉がいるだけだ。普通はもう少し近衛の騎士くらいはいるのだけど。


 玉座の前に跪き臣下の例を取る。

「表をあげよ」

「はっ」

「バル久しぶりだな」

「はいご無沙汰しております」

 久しぶりと言っても陛下に最後にお会いしたのは三ヶ月ほど前だからそれ程でも無い気がする。帝国貴族でも一生に1回くらいしか陛下とお会いしない事もあるからな。子供の僕がこれほど頻繁にお会いしてる方が珍しいとは思う。

「良い顔つきになってきたな。マークもしっかりせんと親友に置いて行かれるぞ」

「父上何もバルの前で言わなくても・・・」

 マークが小さな声で抗議してる。

「はは、まあ自分なりに頑張れば良い」

 陛下はマークの頭をグリグリ撫でた後こちらに向き直り僕に話しかけてくる。


「此度の件はここにいる全員が承知している。何が待って居るかは我らも知らぬが長期に渡るらしいからな。この旅はお主を大きく成長させてくれるのは間違いないであろう。それでお主に餞別を持たせようと思ってな」

 陛下がお爺様の方を見る。


「はっ、しかし孫にこのような物本当によろしいのでしょうか」

ピローに乗せた剣をお爺様が持っている。

「宰相もリーンも親子揃ってクドいな」

「しかしこれは国宝と言っても良いような物です。皇子がお使いに成られるならまだしも、臣下の子供にあたえるのは」

「世が決めたことだ。それにバルは産まれた時から知っているからな。世にとってもマークと同じ子供の様な物だ。ましてやハイエルフと共に旅に出るのだ。我が帝国にとっても大事であろう。ならばそれに相応しい物を持たねばな」

「はっ勿体なきお言葉」

 お爺様は陛下に説得されたようで持っていたピローを陛下の前に差し出す。陛下はその剣を手にとり僕の前に差し出す。

「餞別だ受け取れ」

「は、有難き幸せ」

 僕は礼に乗っ取り差し出された剣を両手で受け取る。受け取ったのは細身のショートソードだった。思ったよりも軽い。柄の部分には精巧な細工が施されており柄頭には小さな水晶がはめ込まれている。鞘はシンプルだがしっかりとした作りの様だ。良い剣の様には見えるが国宝と言われる程すごい剣には見えない。

「抜いてみよ」

「はっ」

 陛下に促されるままに剣を鞘から抜く。刀身が白銀の美しい両刃の剣だ。さらに剣の中央に何か文字が刻まれている。文字は古代魔法文字だ。そして文字の根元の方にもさらに小さな水晶がはめ込まれている。

「その剣は昔エルフ族から献上されたものらしい。特別な力があるらしいが今までその力を引き出せた物はいない。ハイエルフと共に旅をするならもしかすると力を引き出せるやも知れぬぞ。まあ、それは無理だったとしてもただの剣としても優秀なので旅の助けには成るだろう」


 謁見室を辞した後マークや先生の元に赴き出立の挨拶をした。


 慌ただしく一週間が過ぎあっという間に旅立ちの朝になった。屋敷の前に家族全員が揃い見送ってくれる。僕は真新しい革鎧に身を包んでいる。これは父様が新調してくれた地竜アースドラゴンの皮を使った革鎧でかなり丈夫な物だ。左手には固定式のバックラーが付いている。もちろん育ち盛りの僕に合わせて成長に合わせてサイズが変えられるようになっている。

 腰には先日陛下から頂いた剣を帯剣している。腰の後ろには短剣も身に着けている。この短剣はお爺様に頂いたもので劣化防止の魔法が掛けられた魔法具だ。そして短剣の鞘には我が家の紋章が刻まれている。


 出発の時が近づき一人一人にハグしていく。お爺様、父様と無言でハグを交わす。父様から身体を離すと頭をクシャクシャにするように撫でられた。続けて母様にもハグをする。母様は懐からペンダントを取り出し僕に掛けてくれる。そして服の中に入れる様にする。まだ、母様の体温が感じられる。

「これはお守りよ。肌身離さず身に着けておくのよ」

「はい」

「気をつけて行ってくるのよ」

母様にもう一度強くハグされる。続いてアーデにもハグをする。

「兄様これ」

 そう言ってアーデはハンカチを差し出してくる。デフォルメされたシルヴィの顔が刺繍してある。少しゆがんでいるがアーデのお手製の様だ。

「ありがとう」

「ここ私もお手伝いしたの~」

「ぼくもここお手伝いしたー」

 この刺繍は3人の合作だったらしい。

「二人ともありがとう」

 双子も一緒にハグする。

「では行ってきます」

「無事に帰ってくるんだぞ」

「はい」

 最後に父様の声に応えて馬にまたがる。

「では」

「いってらっしゃい」

「いってらっしゃいませ」

「「いってらっちゃーい」」

 母様の声にあわせてアーデ達三人も声を掛けてくれる。その声を背に屋敷を出るとロッテ姉が馬に乗って待って居た。家族との別れの挨拶の間待って居てくれたようだ。

「お待たせしました」

「さあ、行きましょう」

 別れの挨拶にしょげてた様に見えたのかロッテ姉が明るく声を掛けてくれる。ロッテ姉は近衛の鎧ではなく如何にも森の民と言った感じの薄緑のチェニックだ。目的地は精霊の森なのだがいくら魔物が少ないとはいえ鎧を着ていなくて大丈夫なんだろうか。森の最初の村までは帝都から街道が通っているのでこのまま馬に乗っていく予定だ。騎竜でも良かったのだが森の途中からは徒歩になり乗り捨てる事になるため買い取って貰いやすい馬に乗って行くとこになった。


 精霊の森は侯爵領にあるのだが今回はヴァンブルクには向かわない。途中以前と同じ宿屋で一泊しそのままエルフの村に向かう。街道はいつもの様に安全で何事もなく旅は順調に進んでいる。森に入ってからも街道は何事もなかった。街道沿いの森も豊かで葉が生い茂っている。森の浅い部分から少し入ったあたりから大人数人でも手が届きそうにない巨木が見られるようになってくる。前回叔父上と視察に行った村とは離れている場所なので木々の生態も若干違うようだ。前回は木の上に村が出来上がっている感じだったのだがこの場所の木は家が建つほどの巨木ではない。


 街道を順調に進み日が傾き掛けた頃突然ロッテ姉が馬を止めた。僕もそれに合わせて馬を止めてロッテ姉に馬を並べる。

「ロッテ姉どうしたの?」

「しっ、何かいる」

 ロッテ姉の言葉に僕も周囲の気配を探るが何も見つけられなかった。姉様も気配は感じているようだが正確な場所までは解って居ないようだ。


「ほう、我らの気配を感じられるとは何物だ」

 木の陰から感心したようにダークエルフの男性が現れた。その声に呼応するように街道の前に5人後ろにも5人のダークエルフが現れた。全員鎧を着て武装している。


「バル君おちついて」

 焦って剣を手を掛けようとした僕をロッテ姉が止める。

「私はロッティ・リングスタット旅の者だ」

「ベルセリアに何用だ」

 ベルセリアとはこの先にある村の名前だ。

「ベルセリアには特に用は無い。森の先に用がある」

「ん?この先にだと。人族の子を連れてか。ベルセリアの先は妖精族の聖域だ。おいそれとは通すわけにはいかない」

 男の言葉に険悪な雰囲気が増しダークエルフ達が剣に手を掛ける。


「待て、我々は争うつもりは無い。聖域だと言うのはそなた達より十分解って居る。この子は人族だが精霊の血も持っている。聖域に入る資格はある」

「なんだと、その子は何者だ」

「僕はバルドゥーイン・フォン・レルヒェンフェルトと言います」

「何?では侯爵様の血縁の方か」

「はい、侯爵は僕の祖父です」

 それを聞いた途端全員が跪き頭を垂れる。

「これは知らぬ事とは言え失礼いたしました。我らはベルセリアを守る自警団の者です」

「いえ、気にしないで下さい。お役目ご苦労様です」

「さすが侯爵家の嫡孫ね。では通ってもいいかしら」

「はい、もちろんです。ですが長老の所までご案内させていただきたいのですが」

「あら、どうして?」

「カルロッテ様のお身内を素通りさせてしまったとあっては我々が叱られてしまいますので」

「カルロッテ様?」

「僕のお婆様です」

「ああ、ディオーナ様のお母様ね」

「はい、カルロッテ様はベルセリアのご出身ですので」


 その後僕らと話していた隊長格の人に案内されてベルセリアに向かう事になった。

ベルセリアは美しい湖の中央に浮かぶ島にあった。島全体が集落になっていた。その集落は村と言うより町と言う方が良いくらいの大きさだった。丁度ギリシャの島みたいな感じ小高い丘の斜面に家が建ち並んでいる。島の中央に少し大きな屋敷がありそこに長老の家がある。


 先程の自警団の一人が予め知らせに走ってくれたようで屋敷に着くと男性が出迎えて暮れた。

「長老お連れいたしました」

「おお、ようお出でなさった。そなたがバルドゥーインかカルや皆は元気かの」

「はい。初めまして皆元気にしております。失礼ですが?」

「おお、すまんすまん。わしはビャルネと申す。カルの父じゃ。義理とは言えお主の曾じじになるかの」

カルお姉ちゃんの父上だったのか見た目は40才くらいにしか見えない。カルお姉ちゃんのお兄さんと言われても素直に信じただろう。


「まあ、立ち話もなんじゃ。さあ屋敷の中へ。そちらのお嬢さんもどうぞ」

僕らは即されるままに屋敷の中に入った。



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