第7.5話 番外編 それぞれの日常
【第十班 その1】
犀川が第十班に入隊して一週間が経過した。
朝、犀川の部屋に目覚ましの音が鳴り響く。それを反射的に止めた犀川は、その後再び眠りについてしまった。
少し間が空いて、寝室の外からドタドタと足音が近づいてくる。そして寝室のドアが勢いよく開いた。
「おい犀川!!いつまで寝てるんだ!朝ごはんできたぞ!」
フリフリ付きのピンクのエプロンを着た立花だった。
「うーん、今日はいい・・・」犀川は寝ぼけながら立花に言った。
「何を言っている!もうあんたの分も作っちゃったんだから食べなさい!ほら起きろ!」と犀川の布団をはがす立花。
そうして無理やり起こされた犀川は、顔を洗い、着替えた後、リビングのテーブルに座る。テーブルの上には、朝ごはんが並べられている。立花が着席し、2人そろったところで、「いただきます」と小さくいって食べ始める2人。
犀川が味噌汁をすすったところで、ある違和感に気付いた。
「・・・・・・・出汁、変えたな?」犀川は立花に言った。
「ああ、よくわかったな、うまいか?」立花が聞く。
「・・・うまい。」犀川は少し溜めたあとに言った。
立花はただ満足げにほほ笑むのだった。
【第十班 その2】
夜、一日の仕事を終えた犀川は、自分の部屋に帰った。
「あー、疲れた。先にシャワー済ませよう。」
そう言って、Yシャツのボタンをはずし、ズボンのベルトを外しながら脱衣場のドアを開けようとしたその時、勝手に脱衣場のドアが開く。
そして現れたのは、火照った顔をして腰にタオルを巻いた立花だった。
「おお、お帰り。風呂沸かしといたぞ。」
「お、サンキュー。・・・じゃねえよ!お前!風呂くらいは自分の部屋で入れよ!」犀川は怒鳴った。
「いやー、部屋の風呂が壊れてな。ちょっと借りたんだ。」立花はそう言いながらリビングの方に出ていく。
「おま、その姿でリビングに出・・・!!?」そう言いながら、立花をおいかけた犀川は、ずり下がったズボンで足がもつれ、立花に向かって倒れていく。
バタバタ!と大きな音がした。
それを聞いていたのが、たまたま外の廊下にいた神崎だ。
「うるさいわねー。何してんのかしら。ちょっと注意してやろう。」
と言いながら、犀川の部屋を勢いよく空ける。
「ちょっと!!外にまで音が響いてるわよ!近所迷惑もかんが・・・・」
神崎が見たのは、腰にタオルを巻き、火照った顔でうつぶせに倒れた立花と、その上に乗るはだけた姿の犀川だった。
「あ・・いや・・・これはちが・・・」犀川は神崎の姿を見て慌てた。
「・・・・・・・・・・」
神崎は何も言わずにドアを閉めた。
【第十班 その3】
今日は第十班は久しぶりのオフだった。
とはいえ、犀川は特にやることがない。趣味もなければ家にはテレビもまだ買えていない。
「ひーまだなー。やっぱり金溜めてPC買ってまたゲームしようかなー。」
犀川は布団の上に寝ころびながら天井を見つめていた。
「今日はオフだけど、トレーニングするか。せっかくこれまで継続してるし。」
と、立ち上がろうとした瞬間、声が聞こえた。
「やめとけ犀川、オフの日は体を休めるためにあるんだ。休むのも仕事のうちだぞ」犀川が声のした方をみると、立花がリビングでお茶をのんでいた。
「また勝手に入ってきたのかよ・・・」
「特にやることもなくて暇だったもんでな。それより、お前は最近疲労がたまっているんだろう?」立花が言う。
「んー、まあ確かにそうだな。肩とか腰とかバキバキになってるし。」
「だったら、ストレッチ方法を俺が教えてやるよ。とりあえず、そこに座って股を開け。」
その時、外の廊下では、丁度神崎が立花の部屋のインターホンを鳴らしていた。
「あれ、留守かしら。せっかく第十班で懇親会でもしようと思ったのに。」
神崎は酒とつまみが入ったスーパーの袋を少し持ち上げて言った。
その時、隣の犀川の部屋から立花の声がした。
「なんだ、あいつらも暇だったのね。もう遊んでるんだ。」
と、少し笑いながら犀川の部屋に入ろうとした、その時。
「・・・・・・・たまっているんだろう・・・・・・・・」
という立花の声に手が止まった。
「え、いや・・・まさかね・・・ははは。この間のは私の誤解だったし・・・・」神崎は笑って自分の予想を否定した。しかし、少し部屋の会話を聞くことにした。
「・・・・・・バキバキになってる・・・・」
「・・・俺が教えてやる・・・・股を開け・・・」
神崎は持っていたスーパーの袋を落とした。
一方で部屋の中では・・・
「こうか?」
「そうそう、じゃあ、行くぞ」
その時、立花の表情が鬼に変わった。立花は犀川の後ろにのしかかり、いきなり体重をかけた。
「いいっでええ!!おま・・・いきなり・・・・そんな・・いででで!」
犀川は悶絶する。
「もっと力を抜け!だんだん慣れてくる!」
「く・・・もう・・無理だって・・・・!!」
「おら、もっと体重かけるぞ!」
「ああああああああああああ!!!!」
という犀川のストレッチが行われた。
それを外で聞いていた神崎は、
「そんな・・・うそよ・・・・いやあああああああああ!!」
と言い、走って逃げていった。
【第九班】
第九班の竜田は、近所のスーパーで買い物かごを持ちながらぶつぶつ言っていた。
「ったく、なんで俺が班長のおつかいに行かなきゃなんねーんだよー。」
不満そうにそういった竜田は、メモを確認する。
「えーっと、あれとこれと・・ん?・・・豆乳・・?なんで豆乳なんか・・・」と言って竜田ははっとする。
「まさか・・・!いや、だがあの情報はたしか・・・」
竜田は悩んだ。真実を伝えるべきかどうか。
そして、買い物をすませ、デスクに戻ってきた竜田は重い表情で森崎に近づいていく。
「おお、竜田悪いな。駄賃やるからそれで許してくれ。」そう言って森崎は買い物袋を受け取った。
「森崎さん・・・今から言うことをよく聞いてください。これはある情報屋から仕入れた極秘情報なんですが・・・」竜田は深刻な表情をしていた。
「な、なんだ・・・?」森崎もその真剣な表情に威圧され、姿勢を正した。
「・・・・実は、豆乳には・・・胸を大きくする効果があるというのは、まったくなんの科学的根拠がないらしいです!!!」
しばらくの沈黙がデスクを包む。
そして、森崎はゆっくりと小銭を握りしめ、思い切り竜田の顔面を殴る。
隣の十班のデスクには、騒がしい声が聞こえてくる。
「・・・今日も騒がしいわね。」
神崎はそう言って、「はあー、平和だなあー!」と大きく伸びをしながら言った。
【下山恋】
下山恋はPsychicsの中で唯一、記憶を操作できる能力を持っている。
町で能力者が暴れたり、一般人に能力の存在を知られたときに、その記憶を消さなければならない。
それができる唯一の能力者だからこそ、Psychicsで一番忙しい男と言われているのだ。その下山は基本的に仮眠室で睡眠をとっている。現在も静かに眠っている最中だ。
今はある夢を見ているようだ。
<・・・・あ、ステーキだぁ・・・・!!!わーい。いっただきまーーーーーー>
「ちょっと、下山!!起きて!!!!」
「・・・んが?・・・・森崎さん。」
下山を起こしに来たのは、森崎だった。
「うちらが追ってた犯人が、一般人の前で能力使っちゃって。頼むわ!!」
そう言って森崎は下山の腕を掴み、現場へと飛んだ。
下山はいつもと同じような表情で現場に入った。しかし、内心は怒っている。
(あと、少しで・・・ステーキだったのに!!)
それでも顔に出ないのが下山である。
下山は言われた通りにひとりずづ記憶を変えていく。
そして、記憶を変えた人たちが目を覚まし始めた。記憶を変えられ、意識を失った人たちはそれぞれ、道の端のベンチやカフェなど、様々な場所に移動される。
「・・・あれ、なんか、すごくステーキが食べたくなってきたわ。」
「腹減ってないのに、ステーキのことしか考えられない!!!」
「ステーキステーキステーキステーキステーキステーキステーキ・・・・・・」
この日、この町のスーパーからステーキ肉が消えたのである。
【紀央署長】
紀央署長、このPsychicsという組織のトップに当たる存在だ。
しかし、その能力や経歴は謎に包まれている。
今日もいつものように、署長室のデスクに座り、険しい顔で何かを考えていた。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・暇だ・・暇すぎる。いや、やることがないわけではないが、別に今やる必要がない仕事ばかり。こんな時は、そう、外に出て犯人を捕まえたい。署長になってから一回も現場に出てないな。当たり前だが。うーん・・・出たい、現場に出たい。)
そのとき、填島の声で放送が入った。
『J地区にて瞬間移動能力を使った窃盗事件発生、犯人は現在付近を逃走中・・・』
放送を聞いた瞬間、紀央署長は立ち上がる。
(きた!!!よし、ここは俺が・・・・)
『・・・あ、J地区の犯人はたまたま近くにいた第二班によって取り押さえられました。』
「・・・・・」紀央署長は静かに座った。
すると、また放送が流れた。
『今度はE地区にて能力者数名による強盗事件が発生、犯人は現在銀行に立てこもっている模様・・・』
紀央署長は再び立ち上がった。
(なんという凶悪犯罪だ!これはとても我が隊員たちで解決できる事件では・・・・)
『・・・あ、E地区での事件はたまたまその銀行にいた第一班が犯人を殲滅しました。』
紀央署長は静かに着席する。
すると、今度は突然警報が鳴り響いた。
『緊急事態発生!海外の能力者テログループが、この本部に航空機で向かってくる模様!・・・」
紀央署長は立ち上がる。
(何ということだ!!!!!とうとう国と国の能力者の戦争が勃発するというのか!!!!これは絶対に俺が出ねばなるまい!!!無駄な犠牲は必要ない、俺一人でじゅうぶ・・・・)
『あ、たまたまビーチでオフを満喫していた第三班が航空機ごと海に沈めました。』
紀央署長は静かに座った。
(・・・・優秀な部下を持ったものだな。)
紀央署長の目には涙が浮かんでいた。
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