第7話 ”普通じゃない”仲間たち

翌朝、Psychics内で朝礼が開かれた。

前に立つ紀央署長の横にいるのは、犀川だ。

目の前には、Psychicsのメンバーたちがおそらく班順に並んでいる。その中には加賀もいた。

「本日付で第十班に配属されました、犀川進です。よろしくお願いします!」

今回はしっかりと敬礼をする犀川。

こうして、犀川は正式にPsychicsのメンバーとなった。

朝礼が終わった後、各々自分の仕事場に返っていった。

「ふん、まあまあ元気のいい挨拶だったわね。新人っぽくてよかったんじゃない?」

神崎がそっけなく言う。

「あ、ああ、そうか?ありがとう。」

犀川が答える。何となく褒められているような気がした。おそらくツンデレというやつか。

「私は班長よ!敬語をつかいなさい!」

「そうだぞ犀川、いくら神崎さんがまだ子供だからって、一応俺たちの上司だ。」

「あんたが言うな!一応って何よ!ぶっとばすわよ!」

神崎が怒鳴る。犀川はなんか全然怖くなくなってきていた。

その時、後ろから男が声をかけてきた。

「おーい新人!俺は九班の竜田(たつた)だ。よろしくな」

そう言って満面の笑みで握手を求めてきた。この竜田という男もまだ若そうに見えた。神崎と同じか少し上くらいだろうか。赤茶色の髪にピアス、どう見ても警察官には見えない。

「あ、よろしく。」

犀川は少しビビったが笑って握手に応じる。竜田は続けた

「穂波ちゃんの班かー、うらやましいなー。穂波ちゃんはツンデレだから、癒されるんだよねー。うちの班長はただ厳しいっていうか、なんていうか・・そう、若さが足りな―――

「たーつーたーくーん。そんなに見たいなら私のデレも見せてあげようか?」

いきなり後ろから現れたのは、30代前半とみられる女性だった。竜田はすっかり固まってしまい、もはや半泣きになっている。

「やあ、私は第九班の班長、森崎(もりさき)だ。十班とは合同任務にあたることも多いから、挨拶しとこうと思ってな。」

急に優しい顔に変わって、犀川に挨拶をした。大人の雰囲気を醸し出していて、頼れる上司という印象だった。その後ろにもう一人立っていた。犀川と同じくらいの年齢で、しかし犀川よりもおとなしそうな、どこかぼーっとしている男。犀川と目が合ったあと、「霧島ショウ(きりしま)・・よろしく・・」とつぶやいた。

「え、あ、よろしく」

「ああ、気にしなくていいよ。彼は少しはずかしがりやだが、実力は確かだ。」

森崎がフォローを入れた。そして、

「まあこんな感じで変なのが多いけど、仲良くしてやってくれ。」とまとめた。その後、森崎は竜田を引きずって出て行った。霧島もその後についていく。

「あのー。」

続いて声をかけてきたのは、これもまた犀川とくらいの年齢の男。優しい美少年という感じの顔だちだった。それに気づいた神崎は、犀川にその男を紹介する。

「犀川、彼は事務担当の東條くん。事務の担当ではあるけど、彼も能力者よ。」

そして、その男はニコニコしながら自己紹介した。

「東條一(とうじょう はじめ)です。わー、あなたが犀川さんですね?会えて光栄だなあ。」

犀川にはなぜこの男がこんなにも嬉しそうなのか、理解できなかった。

それに立花が説明する。

「彼はとても頭がいい、だから事務担当なんだが、今回お前の知能試験が過去最高点だったことで入隊する前からお前のファンだったんだ。」

「やだなあ、立花さん。頭の良さはもう負けてます。事務になったのは頑張ってもこの建物の中くらいまでしか飛べない中途半端な能力のせいですよ。」

東條は頭がいいと言われたことだけを否定した。

「え、俺過去最高点だったの?」犀川は丸い目をしている。

「あれ、言ってなかった?」神崎が返す。

「うん、てかあのテストそんなに難しかったか?体力テストがなかったら余裕で満点採れたぜ?」

犀川のこの一言に、神崎がひじ打ちをくらわす。

「いってえ、なにすんだよ!」

「なんかムカついたから」神崎は無表情で返答した。ふと犀川が東條を見ると、さらに眼を輝かせてこちらを見ていた。

この東條という男は、見た目よりずっと子供っぽかった。

「あと二人ほど、紹介しときたい人がいるからついてきなさい。」

神崎は犀川に言うと。無線室と書かれた部屋に案内した。中に入ると、多くのモニターなどの機材がある机に、誰かが脚をあげてだらしなく椅子に座っている。

「紹介するわ、彼は填島さんといって、私たちのサポートに回ってくれる人よ。」

「彼も能力者なのか?」

犀川は尋ねた。

「ええ、それも希少種よ。」

神崎は少し笑って答えた。そして、椅子に座っている者がしゃべりながら振り向いた。

「填島祐吾(まきしま ゆうご)だ。」

歳は30歳くらいで、やる気のなさそうな男だった。振り向いたと思ったら一回転して元の体制に戻ってしまった。

「填島さんは透視能力、千里眼の持ち主だ。お前が逃げた時も、填島さんに逃げた位置を教えてもらったんだ。」

立花が説明する。

「それですぐに追いつかれたのか。」

犀川は納得した。

第十班の三人が次に向かったのは、仮眠室だった。

「あと一人の紹介したい奴って、朝っぱらからこんなところでサボってるやつなのか?」

「逆よ、私たちの中で最も忙しく、最も重要な役割を担ってるの。だから、彼はここでしか睡眠がとれないのよ。」

神崎はそう言って、部屋のドアを開ける。中には、地下鉄のホームで神崎たちと一緒にいた下山という大男が寝ていた。

「起こしちゃまずいわね。彼は下山恋(さがやま こい)。主に知ってはいけないことを知ってしまった一般人の記憶を消したり変えたりする作業を担当しているわ。」

神崎は少し小さな声で言った。

「それがこの人の能力か。怖いな。」

犀川は少しビビる。

「すぐに慣れるわ。ま、今のところ紹介すべき人はこのくらいね。じゃ、仕事に戻りましょ。」



こうして犀川のPsychicsとしての仕事が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る