第6話 第十班
4人は本当の本部であろう場所のドアの前まで飛んできた。と言っても、本部がどこにあるかわからなかった犀川は、立花に腕を捕まれていた。そして、加賀は神崎に腕を捕まれていた。
「加賀さんは、能力者じゃないのか?」
犀川がこっそり立花に尋ねる。犀川はすでにスーツに着替えていた。
「いや、加賀さんも能力者だよ。瞬間移動じゃないだけだ。」
立花も小さな声で返した。
「なに二人でひそひそ話してんの?きも」
神崎はさらに遠ざかっていく。
「ほら、入るぞ。」
加賀はそう言って、扉をあけた。
その部屋は大きく、そして寂しかった。正面には一人分のデスクがおいてあり、そこにだれかが座っていた。それは、犀川の合否を決めるとき、モニターに映っていた男だった。
「犀川進君。ようこそ、警視庁公安第零課 特殊能力者執行対策本部、通称Psychicsへ。私は署長の紀央(きおう)だ。」
紀央と名乗った男は、そういうと犀川をじっと見つめていた。署長と言うにはあまりにも若い風貌で、おそらくは30代前半といったところだろう。
「あ、はい!犀川進です!よろしくお願いします!!」
犀川は深々と頭を下げる。
「・・・神崎君、犀川君はしばらく十班で面倒を見てもらう。後で彼に敬礼の仕方を教えてやれ。その他諸々も説明しておくように。」
紀央がそう言うと神崎は大きく返事をし、敬礼した。
そうして4人は部屋を後にする。部屋から出た後、加賀は「報告も済んだことだし、俺は自分の班に戻るぞ。」と言って、去って行った。
「じゃ、細かい規則やルールの説明は以上のとおりよ。後であなたが住むことになる部屋にも案内するわ。」
署長の部屋を出た後、ミーティングルームのようなところで、犀川は説明を受けていた。
「次に、班について説明しましょうか。私たちは基本的に班で動くわ。班は、一班から十四班まであって、班長の意向によって人数はばらばら。基本的には3~5人で動くところが多いけど、班長1人しかいないところもあれば、20人以上いる班もあるの。」
「そんなに不公平でいいのか?」
「別にいいんじゃない?あんたみたいに、自分から入りたいって言う奴は珍しいけど、人数が欲しかったら班長には勧誘の権限が与えられる。自分が統率しやすい数をそれぞれ班に入れられるわ。」
「ふうん。」
犀川は珍しそうに話を聞く。
「次に武器の話をしましょう。基本的に、私たちが持つのはスタンバトンや電機銃だけ。でも、能力者によるテロ行為などの凶悪犯罪が起こった時、実弾銃の装備が許可されるの。」
「警官なら、拳銃は持つんじゃないのか?」
犀川は単純な疑問を投げかける。
「まあ、危ない人間に危ないものを持たせるなってことでしょう。理由は明確にされていないわ。」
神崎は機嫌が悪そうに言った。
「でも、唯一普段から装備が許可されてる人もいるわ。」
「え、だれ?」
「第一班から六班の班長よ。彼らは格段に強いの。強大な能力を持っていたり、能力を完璧に使いこなしているのよ。」
「ちなみに、加賀さんは第四班の班長だぞ。」
後ろの方で話を聞いていた立花が口をはさんだ。
「え、あのおっさんそんなにすごい人だったの?」
犀川は驚きを隠せなかった。
「まあ、あの人は拳銃なんか持たないけどな。」
立花は笑う。
犀川は意味が分からなかった。
「ま、説明はこれぐらいでいいかな。じゃあ中を案内するから、ついてきて」
そう言うと、神崎は部屋を出る。犀川も慌ててついていく。続いて立花も後ろについて来た。
しばらく歩くと、大きく十と書かれた扉の前に来た。
「ここが私たち十班のデスクよ。あなたの机はそれ、パソコンも自由に使っていいわ。」
簡単に説明を終えると、神崎はすぐに次に行こうとしていた。
「え、もう次に行くの?」
犀川は少し疲れていた。
「当り前よ。まだまだ案内しなきゃいけないところが山ほどあるんだから。さ、いくわよ。」
神崎はそう言って速足で歩く。
「急いでんなら飛べばいいのに。」
「それじゃ案内にならないでしょ!」
この後、食堂・事務室・娯楽室などとにかく様々な場所に案内され、そして最後にようやく案内されたのが、犀川の部屋だった。
「ここがあなたの部屋。別にここに住まなきゃダメってわけじゃないから、引越ししたかったら勝手にして頂戴。案内はこれでおしまい、明日の朝はみんなの前で紹介されるから、心の準備でもしときなさい。」
「はあー、やっと終わった。長かったあ」
犀川は汗だくだった。
「あんた、ちゃんとトレーニングしときなさいよ。」
神崎は厳しい。
「おい犀川、実は俺の部屋はこの隣なんだ。間違っても勝手に飛んでこないでくれよな。」
立花がさわやかな笑顔で言った。
「神崎さん、部屋を代えてくれないか?」
犀川は真顔で言う。
「部屋はここしか残ってないわ。」
神崎も真顔で答えた。すると犀川は絶望的な表情に変わった。
(くそ、絶対引越ししてやる)
そう心に誓う犀川だった。
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