第18話 悪い知らせ

 場所は再び京都のアパートに。

犀川は名残に言われた通り、質問ではなく雑談から始めることにした。立花もその会話を聞いている。

「名残、お前は趣味とかないのか?ずっと俺と話してるだけじゃつまらないだろ。」犀川は聞く。

「趣味ですか。今は無いですね。能力に目覚める前は、競馬とかたまに行くんが楽しみやったし本とか読むんも好きやったけど、ギャンブルでもなんでも、チート使ったらいきなり面白くなくなるもんなんや。本のオチもすぐわかってまう。結果が分かってしまったら。なんも面白くなくなったわ。」

名残は淡々と答えた。

「ああ、だから最初に出て来たのが競馬と宝くじだったんだな。それが原因で都市伝説と化した。」立花は珍しく会話に混ざっている。

「ええ、今思えば僕の人生最大のミスですわ。あそこで近隣の住民に噂されて、都市伝説と化す。それがなかったら、ずっと平和に過ごせたんやろな。目先の金に目がくらんで、アホやったなあ。」

名残は珍しく悔しそうな表情をする。名残の表情が変わったのを、犀川は初めて見た。

「まあでも、たらればを言うとってもしゃあないんです。未来は変えることができても、過去は変えれん。だからこそ後悔せん過去にするために、慎重に未来を選ばなあかん。」名残は続けた。

「あ、そういえば・・・」と、犀川が話そうとした瞬間に、名残はそれを止めた。

「犀川さん、その質問はやめた方がええ。」

犀川にはそれがなぜかは分からなかったが、とりあえず聞くのをやめた。

その時、部屋の中に突然神崎が飛んできた。

「おお、神崎さん。遅かったな。填島さんはどうだった?」立花が聞く。

神崎はただうつむいて、淡々と報告した。

「填島さんは、まだ居場所が掴めないわ。でも・・・・下山が殺されたわ。」

犀川と立花は驚いて声も出なかった。

「内部の裏切り者をあぶりだす為、下山が全員の記憶を見ていくことになったのよ。そしたら、一番最初の庄堂さんを調べてる最中、突然切り刻まれたわ。」

「だれに・・?まさか、庄堂さんが?」犀川は聞く。

「分からない。本当に一瞬で何が起こったか分からないの。庄堂さんは否定したけど、隊員がパニックにならないように自ら監獄に入ったわ。」

神崎は何かを堪えるように言った。

「そんな・・・」立花が頭を抱えた。

「犀川、聞き込みは順調?」神崎が犀川に聞く。

「うーん、とりあえず会話してはいるけど。ちょっと整理しないとな。」犀川も疲れ気味だった。

「じゃあ、とりあえず私と交代しましょう。犀川は一旦本部に戻って、報告書をまとめてくれるかしら。」神崎は言った。



それから犀川は本部に戻った。デスクのコンピューターで名残との会話をまとめる。

「こんな雑談に近いような回答、報告する意味あんのかなー。怒られるかも。」

犀川は心配する。犀川のメモに記された質問に対する名残の回答は、どれも質問とはほとんど関係のない内容ばかりだった。

その時、デスクの扉が開く。

「あれ、犀川さん!!戻って来てたんですね。」入ってきたのは東條だった。

「ああ、東條か。さっき戻ってきたんだ。聞いたよ、下山が殺されたんだってな。」犀川は重い表情で言う。

「はい・・・本当に一瞬の出来事でした・・・」いつもにこにこしている東條だが、この時ばかりはそんな余裕は無かったらしい。

「あ、今コーヒー急いで持ってきますね!」と言って、東條は慌てて部屋を出ていった。

「・・・下山。お前は犯人を見たのか・・・・?裏切り者って誰なんだよ。」

犀川はぼそっと呟く。

その時、犀川は部屋の外が騒がしいことに気がついた。様子を見にドアを開けてみると、第九班の部屋の前で森崎と竜田、霧島が何やら慌てていた。

「どうしたんですか?」と犀川は聞いてみる。

「犀川君!填島さんが・・・」森崎は涙を浮かべていた。

「・・・とにかく、填島さんの部屋へ急ぐぞ。犀川!お前も来い!」

いつもとは明らかに違う雰囲気で竜田は言った。そして、第九班の3人は消えていった。犀川もそれに続いた。



填島の部屋の入口の前には、第九班の他にも、第二班、七班、八班もいた。

犀川は恐る恐る填島の部屋を覗く。

その中には、填島の姿があった。

椅子に拘束され、手錠をかけられ、そして目にはボールペンが突き刺さった状態で、ぐったりした填島の死体があった。

「・・・ひどい。」森崎が口にする。

「おい、そこをどけ!」そう言いながら走ってきたのは、紀央署長だった。

そして、変わり果てた填島の姿を見て立ち止まる。

「填島・・・」そう言いながらゆっくりと近づいていく。

そして、目に突き刺さったボールペンを抜く、紀央署長はそれを握りしめた。

「填島を医務室へ運んでやれ。ここには誰も近づけるな。填島の死体が見つかった。とだけ報告しろ。これ以上の混乱は避けたい。」そう指示した後、ゆっくりと部屋をでて、歩いて行った。

その表情は、悲しくも見え、怒りの感情にも見えた。

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