第16話 リーダーの素質
Psychicsの本部には一瞬、静寂が生まれた。その中で、下山が崩れ落ちていく音だけが響いた。
ドサッと、重量感のある音だった。
「下山!!」神崎が声をあげた。
突如起こった出来事に、本部のホール内はどよめき立つ。
「庄堂、おまえ。」紀央署長がまさかという顔をして庄堂を見つめた。
「ち・・違う。俺じゃない。」Psychicsで最強と言われる男は、力の無い声で返す。
突然、庄堂の後ろに人が現れた。加賀だった。
加賀が瞬時に庄堂の腕を掴むと、庄堂の体に電流が流れる。Psychics最強の男は、いとも簡単に膝をつき、取り押さえられる。加賀はただ悲しい目をしている。
Psychics最強の男が裏切者だった。
庄堂が下山を殺した。
ホール内のどよめきはさらに大きくなってゆき、もはやパニック寸前だった。
「うるせえ!!!」
この事態にいち早く前に出てそう叫んだのは、20代前半にも見えるとにかく若い、金髪の男。第二班の班長、蓮杖銀(れんじょう ぎん)だった。
そのあまりにもの気迫にホール内は再び静まり返る。気が付けば、他の班長達も前に出ていた。
そして、少し落ち着きを取り戻した庄堂は蓮杖に対して言った。
「俺の念動力は、人を切る能力は持っていない。」
しかし紀央署長は天を仰いで言う。
「やられた。こうなってしまった以上、もはや誰の記憶も辿れない。庄堂を犯人として疑うしかなくなるんだ。」
それを聞いた庄堂は、しばらく考えた末に冷静に言った。
「分かりました。俺を牢屋に入れてください。」
それを聞いて、加賀と蓮杖、そして紀央署長はうつむいた。もはや彼らも、誰を疑えばいいのか分からなくなっていた。
加賀が庄堂を立たせ、連行する。紀央署長と蓮杖もそれに続いた。
「後のみんなは、各班でミーティングをしましょう。私たちの今すべきことは、班員を信じて、班員に信じてもらうことだと思います。事務班は私がやります。」神崎が他の班長に提案した。みんな、神崎に賛成した。
(下山・・・あなたは、自分が殺される覚悟で仲間の潔白を示そうとした。あなたは常に仲間を欲していた。もうとっくに信頼しているってゆうのに、仲間に信じてもらおうと、仲間と仲良くなろうと必死だった。待っててね。必ず敵はとるから。)
神崎は動かない下山の方に目をやって、事務班のところへと向かった。
「神崎さん、大丈夫?」声をかけたのは、事務班の東條だ。
「大丈夫、私は犯人を・・下山を殺した奴を絶対に許さない!」
神崎は前をにらみながら言った。
庄堂は加賀に腕を掴まれたまま、紀央署長と蓮杖と地下にある監獄まで向かっていた。加賀は電流を流すとき、手加減してくれていたのだろう。問題なく歩けるようになっている。
「加賀、銀、すまない。パニックを防いでくれて助かった。」庄堂は言った。実際、あの時加賀が瞬時に庄堂を取り押さえなかったら、他の誰かが全力で庄堂に襲いかかって来ていただろう。もしかしたら、それが犯人の描いていたシナリオだったのかもしれない。
「ああ、礼には及ばん。それにしても犯人は頭も切れるらしい。自らのピンチを利用して、下山を殺し。自分の正体をばらさずに俺たちの最高戦力を奪いやがった。」加賀が舌打ち交じりにいった。
「でも、どうすんすか。これじゃ相手の思うつぼっすよ。もう真犯人が分かるまで庄堂さん出てこれねーじゃないっすか。」蓮杖が言った。
「まだ庄堂が犯人ではないという確証もない。それを証明するには、裏切り者をあぶりだすしか方法は無い。加賀、蓮杖、後で班長全員を呼べ。」紀央署長は表情を変えずにそう言ったが、その目の奥には怒りがこみあげていた。加賀と蓮杖は返事をする。そして、庄堂に手錠をかけ、牢屋に入れたあとで「しばらく待ってろ。」と加賀が言って3人は去って行った。
1人残された庄堂は、「なにしてんだ俺は。」とぼそっと呟いた。
下山は、体中を刃物のようなもので切り裂かれていた。それも、真正面から。つまりは、庄堂のいた方向からだった。
またしても会議室には、各班での対応を終えた班長達が集まっていた。
「今回の件、お前たちはどう思う。」そう切り出したのは紀央署長だ。
「冷静に考えて、可能性があるのは2つっすね。これまでの能力を一部、つまり切り裂くという能力を隠していた庄堂さんの犯行。もう一つは、自分は一切動かずに相手を切れる裏切り者。」
第二班の班長、蓮杖が言った。この男は庄堂を慕っていた。しかし、それでも私情ははさまない冷静な判断だ。
「あのー。だったら、瞬間移動能力者には犯行が不可能ですよね?現時点で能力の持ってないとされるものが怪しいのでは?って、私も含めてなんですけど・・・」
第六班の班長、河志木が言った。
「なるほど、確かに俺たちの目の前で起きたあの現象は瞬間移動では不可能だな。」加賀が言う。
「では、事務の者が犯人の可能性が高いですか。」神崎が言った。すると、今まで全くと言っていいほど発言をしなかった男が手をあげる。
「それが犯人の狙いだったりして。」不気味ににやけながら、そう言ったどこか暗い雰囲気を醸し出す男は、第五班班長の霧島ガクだった。第九班の霧島ショウの兄でもある。
「あーもー!キリがないわ!そもそも科学で証明できないのが超能力なんだから、どんな能力もあり得るのよ。」ずっと話を聞いていた森崎が言った。
すると、しばらく考えていた紀央署長が口を開いた。
「第十班神崎、名残の能力は確かなんだな。今回の一連の事件について、なにか聞き出せないのか。」
「先ほども報告したように、名残は多くを語りません。ただ、彼にはこの先に何が待っているのか、すでに分かっているんでしょう。現在、犀川が話を聞きだしています。ですが、やはり彼には未来を伝える気もそれを悪用する気も感じられませんね。」神崎は答える。
署長は厳しい顔をし、「そうか。」とだけ言った。
「犯人の特定については、第二班に任せる。蓮杖、たのめるか?」紀央署長が聞く。
「もちろんっす」と答える蓮杖。続いて署長は次々と各班に指示を出した。
「続いて填島の捜索は第四班を中心に七班・八班・九班に頼む。加賀・仙道・錦・森崎、頼んだぞ。」そういうと、指名されたそれぞれの班長が返事をする。
「これまで通りの能力者の取り締まりは、第六班を中心に十一班から十四班までに任せた。河志木・大森・志津丘・平、よろしく頼む。そして、霧島、第五班はテロや凶悪犯罪に対応してくれ。最後に第三班、小八木。お前は庄堂の代わりにPsychics全体を守れ。」
紀央署長がそう言って見たのは第三班の班長、小八木未来(こやぎ みく)。年齢は20代後半で、美人で背が高く、スタイルもいい女性だった。しかし、その態度はきつく。Psychics内でも恐れられている存在だ。
「へえ、最強の女ってわけだ。悪くないじゃん。」と、少し笑いを浮かべながら言った。
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