第15話 動き出す”反逆者”

 京都の嵐山からローカル鉄道で少し移動した静かな町、嵯峨野。そこにある、古いアパートの一室に犀川と立花、名残が身を潜めていた。

「どっからか、嫌な視線がありましたね。」と名残が言う。おそらくは填島の千里眼を通して見た川上の視線の事を言っているのだろう。

「え、まさか、敵にばれたのか?」立花が聞いた。

「おそらくはそうでしょう。ばれたと言っても、僕たちの会話は最初っから筒抜けですよ。」

名残は表情を崩さずに言った。

「なんだと!それじゃあまた移動しないと!」犀川は急いで立ち上がると、名残はまあまあとなだめた。

「大丈夫です。場所が分かった言うても、ここにはあんたら2人がおる。相手方もあんたらの強さを知っとるから無理やり攻め込むようなことはしてこんと思います。僕が余計なことを喋らん限りはね。会話が筒抜けなんも、恐ろしく耳のいい能力者がいるだけで、こっちがどこに居るんかさえさっきまでは知らんかったんや。」

名残は説明した。

「じゃあ、俺たちがここにいる限りは大丈夫なんだな?」犀川は念を押した。

「ええ、相手方はね、まだ準備中なんよ。兵力を集めとる。それをわざわざ減らす真似は、相手もしたくないやろしな。」名残はお茶をすすりながら言う。



どこかにある暗い部屋の中。その中に、向かい合って椅子に座る男たちがいた。捉えられ、能力を利用されている填島と、相手の心を読み取る能力の持ち主、川上だ。填島はぐったりした様子で川上をにらみつけ、対して川上は鼻歌交じりに填島の目の奥深くを見つめている。

「いやー、だいぶPsychicsの内部を知ることが出来て来たよ。」川上は上機嫌で言う。

「さっきの男達は、名残を殺しに行ったんじゃないのか?」

填島は川上をにらむのをやめ、床を見ながら言った。

「残念ながら、お前の仲間に先を越されてたようだったからな、ここで戦闘になるのは避けたいんだよ。いざとなったらお前らは一瞬で全滅するんだが、まだ利用価値がある。」

川上は意味ありげに言う。はったりをかましているようには見えない。

「もう十分俺で遊べただろ?そろそろ返してくれよ。」

填島は期待を込めずに言った。

「そろそろ楽にしてやりたいんだけどね、生憎ボスの言うことを聞かなくちゃならない。」

川上は言う。ここで、填島があることに気づいた。目が慣れ、この部屋がだんだんと見えるようになってきた。そこには一つの死体があることには気づいていたが、その死体を見たとき、填島の表情が変わる。

「あー、気づいちゃったか」川上はにやりと笑って言う。

「お前ら、いつからだ。俺はそんなの。」

填島が言う。それに対し川上は、黙って笑うだけだった。



場所はまたしても京都のアパートに戻る。その中では、相変わらず犀川が名残に対し数々の質問をしていた。立花も聞いてはいたが、理解することを諦めてしまったらしい。

「お前がさっき言った、相手が人数を集めているっていうのは、まだ相手の組織はできて間もないということか?」犀川が聞いた。

「犀川さん、さっきあのお嬢さんに言いましたけど、あんたらがいるから大丈夫言うのは、相手方がせめてこうへんってだけで、もし戦争になったらあんたらは間違いなく全滅するんや。僕に余計なことを喋らせんようにせなあかんよ。」名残はやはり無表情で言った。

「お、おお。そうか。悪かった。ありがとうな。」犀川が礼をいう。

「感謝されることじゃない。僕は僕の都合でしか未来を選ばんよ。今のこのシナリオは僕にとって一番都合がいい。それだけの話や。僕の人生で犯した間違いは、目先の金に目がくらんで噂を立ててしまったことと、この能力を望んでしまったことだけや。」名残は言う。そして、こう続けた。

「無知の知って言葉あるやろ。あれはな、罪なことや。自分が無知やって知っとるんなら、知れることは知らなあかん。知る努力もせんと、自分は無知やって認めとる。ただのバカや。無知の無知は幸せや、自分が無知やと知らんと、すべてを知った気でおる。そういう奴は、自分の知らんことを知るたびに絶望したり、感動しよる。愛すべきバカや。”知らない””分からない”ことが幸せやってことを知っとる分、無知の無知の方が”知っとる”。対して僕は、未知の知とでも言うとこか。これは紛れもない”罰”や。未知を知りたいと願った、僕に対する罰や。無知が幸せやって事を知らん奴、分かろうとしない奴はどうしようもないバカや。結局、一番偉いんは知の無知や。自分が知ってることを知らん。だから知ろうと努力する。そういう奴が一番偉いんや。犀川さん、君は今未知に興味を持ちすぎてる。君は知の無知でええんや。」名残はそう言って、犀川と立花を交互に見た。

犀川は、少し自分を落ち着かせた。確かに、少し未来に興味を持ちすぎていた。

無知の知=バカの立花はというと、もうパンク寸前だった。

「じゃ、そろそろ僕は寝ますね。犀川さん、最後まで話に付き合ってもろてありがとうございます。僕は、君なら”知”にたどり着けると信じてますよ。」

そう言って名残は座布団を枕にして、犀川たちとは反対を向いて寝ころんだ。

犀川は、名残が最後に言った言葉を理解できなかった。



Psychicsの本部では、犀川と立花を抜いた全員が集まっていた。

下山と紀央署長が前に出る。

「これから、下山にここにいる全員の記憶を調べてもらう。我々の中に潜んでいる可能性がある裏切り者をあぶりだすためだ。少しでも怪しい動きをしたものは他の全隊員によって取り押さえる。」紀央署長が言う。

「下山、よろしく頼む。」そう言われると下山は、緊張した面持ちで返事をした。

「じゃあ、第一班から順に前に出てきてください。」下山が言うと、庄堂が前に出てくる。

そして、下山が庄堂の頭に手を当てた瞬間。



その一瞬だった。



下山の体から、勢いよく血が噴き出した、

下山自身もなにが起きたのか理解できずに、目を見開き、ただただ庄堂を見つめていた。


そして下山はゆっくりと、絶望的な表情で、その場に崩れ落ちていった。

庄堂はその様子をただ見つめるだけだった。

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