第14話 填島の行方
犀川が名残と話している頃、Psychicsの本部では緊急班長会議が行われていた。議題は名残のことではなく、填島の捜索についてだ。大きな長方形の形になった机の周りに、第一班から第十四班までの班長が座っている。そして、その一番上座にいるのは紀央署長だ。
「現在の状況は先ほど伝えたとおりだ。填島の部屋には確かに何者かと争った跡が残っていた。だが、何者かがこの本部に侵入した形跡はない。間違いなく能力者だろう。」
紀央署長は真剣な表情でそう言った。
「しかし署長、この本部の場所については、住所すら一部の者しか知りません。やはり、内部から情報が漏れたのでしょうか。」
そう問いかけるのは、第一班班長の庄堂だった。
「ああ、その可能性は高いな。ともあれ、我々は千里眼がなくなった以上。填島がどこにいるのかすらわからない。今、この国に登録されている透視能力者に捜索を依頼しているが、填島程の広範囲を一瞬で見る能力者はそうそういないし、そのうえ透視はただでさえ登録人数が少ない。」紀央署長が言う。
「敵の目的は何なんでしょう?我々の目を奪うことなのか、填島を利用することなのか、はたまたその両方か。」今度は加賀が言った。
「奪うのが目的なら、その場で殺してる。おそらくは利用するためだろう。つまり、まだ填島は生きている可能性が高い。」
庄堂は冷静に分析した。
「填島の捜索は引き続き手がかりを探す。内部の裏切り者もあぶりだす。填島の穴は、とりあえずは事務の方に頼んで情報解析のグループを作り、町の監視カメラや報告、ネットのうわさで怪しいものがあれば報告してもらうシステムの強化を図る。裏切り者をあぶりだす方法は、やはり記憶をたどるしかないだろう。下山に記憶を見てもらう。少し忙しくなるぞ。下山。」
紀央署長がそう言うと、部屋の隅でぼーっと立っていた下山が小さく返事をした。
「待ってください、もし下山が裏切り者だった場合は、逆に記憶を改善されてしまうのでは?」
一人の班長が言った。
「僕は、裏切り者なんかじゃない!それに、記憶を変えたら相手の意識が飛ぶけど、見るだけなら意識は飛ばないよ!」
珍しく下山が声を荒げる。
「・・・・・・・今回は下山を信じよう。ただし、一人でも倒れたら記憶を変えたこととみなし、お前を裏切り者とする。」
紀央署長は考えた末に最終決議を下した。
暗い、血生臭い部屋で、填島は目を覚ました。
見覚えの無い部屋だ。見ると填島は電気式でない、普通の手錠をかけられ、椅子に縛られていた。
(ああ、思い出した。確か黒服の男たちが急に襲ってきて・・・)
だんだんと記憶がよみがえってくる填島。すると、部屋の扉が開き、ライトを持った男が数人入ってきた。
填島はまぶしさに目をつむる。男は故意に填島に向けてライトを当てていた。
「やあ、目が覚めたかい。」
一人の男が言った。だがライトがまぶしくて顔は見えない。聞き覚えのない声だった。
「なんだよ、これ。めんどくせーシチュエーションだな。」
填島はだるそうに笑いながら答えた。
「まあそういうなよ。滅多にない経験だ、楽しめ。」
男は填島の前に座り答えた。そしてこう続ける。
「お前は素晴らしい能力を持っている。ちょっと、俺らに力を貸して欲しいんだよ。」
「力貸してくれって頼む態度じゃねえよな。どう見ても。」
填島はへらへらと笑う。
「悪いね、俺は昔から悪ガキだったんだ。勝手に取っていったもんを借りたっつってな。そして、壊して返すんだよ。」
男の眼鏡がきらりと光った。
「昔は悪かった自慢は寒いだけだぜ。」
「ああ、今も悪い男だよ俺は。」
すると、男は別の男に合図を出した。その大きな男は填島に向かって手を伸ばす。その手は填島の頭にズボッと入った。しかし、血は出ていない。男が手を抜いた後も、一切血は出なかった。
「おお、気持ちわりー事すんなよ、でっけえの。」
填島はそこまで言った時、異変に気付いた。自分の知らない記憶があるのだ。会ったことのない男。行ったことのない場所。これは、作られた記憶じゃない、誰かの記憶だ。そこまで気づいた填島は、男たちに言った。
「人様の記憶を勝手に盗むなよ。俺に返されてもしゃーねーぞ。」
填島は少し怖い顔をした。
「その記憶に映ってる男、名前を名残という。そいつの場所を探してほしいんだ。」
眼鏡の男は、優しい口調で言った。おそらく、笑っていた。
「断るって言ったら?拷問でもするか?」
填島も笑いながら答える。
「やだなあ。俺は拷問は嫌いなんだ。それに、もう分かったからいいよ。」
眼鏡の男が言った。填島の顔から笑いが消えた。
「どういうことだ。」
「俺もね、透視能力を持ってるんだ。でも、千里眼じゃない。俺は相手の心を読み取れるのさ。」
男はようやく填島から顔が見える位置まで動いた。男の目は、填島をじっと見つめる男の目は、すでに填島の見えすぎる目が見た、アパートの中で犀川たちと話をする名残の様子を見ていた。
「・・・てめえ。」
填島がその男をにらむ。
男は紙にさらさらとメモを記し、後ろにいた男たちに渡した。そして男たちはすぐに出て行った。
「お前といるといろんなものが見えて面白いよ。もう少し楽しもうぜ。俺の名前は川上だ。よろしく。」
川上と名乗った男はにやりと笑いながら言った。
「・・・くそが」
填島には、すでに笑う余裕は無かった。
「さーて、Psychicsの本部は今どうなってるんだろうな?」
川上はそう言って填島の目を覗き込んだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
填島の叫びが暗い部屋に轟いた。
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